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ななしのよる 19
――いやだ。この子犬と離れたくない。
「この子は列車なんかに乗らないよ!」
僕は何かからかばうように子犬を抱き上げた。
女の人は目を細めて僕を見ている。
その表情が何を表すものなのか、今の僕にはまだわからなかった。
「それは君が決められることではないのよ」
そう言うと女の人は僕達から顔を隠すように、線路の続く向こうへと視線をそらした。
「あそこに見える橋、あるでしょう?」
ここより遠くに見える橋は、川を交叉し、かろうじて闇にその姿を浮かび上がらせていた。
「列車はあの橋を渡って行くのよ。
この街の向こう、夜の向こうにある、その先へ。
きっとその向こうには、明るい世界が待っている。
ここからは見えないけれど、朝日の昇る光が満ちあふれていて、その子を迎えてくれる」
女の人は、ゆっくりと立ち上がった。
その言葉は自分に言い聞かせるためのもののようにも聞こえ、その背中は聖者を信奉する敬虔な信徒の祈りにも見えた。
「だから、その子をいかせてあげてね」




