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ななしのよる 17
そもそも列車はまだ通っているんだろうか。
今はいったい何時くらいなんだろう。
ここには季節感もないし、時間の感覚もよくわからない。
そんな疑問が僕の中で次々と現れては消える。
「あなたは、この列車に乗るの?」
一瞬の物思いから僕は引き戻された。
訊かれているはずなのに、空気のようなその声は音のない揺らぎに似ていて、不思議な感じがした。
「僕は……」
返答に言いよどんでしまい、困って顔を上げると、女の人もこちらを見ていた。
長い髪の間からのぞくその顔は、電灯の加減か、青白く見えた。
表情はやさしく、疲れていた。
「あら」
女の人は最初に発した時と同じ言葉を、今一度言った。
だけれどその声は、先ほどのものとは違って聞こえた。
「あなたは、この列車に乗るのね」
さびしげに向けられた声は、僕の隣にいる子犬へのものだった。
子犬はさっきまで椅子の下で丸くなっていたというのに、いつの間にか体を起こして、こっちを見ていた。
その口に、何か四角く切り取られた小さな紙がくわえられている。
それは一枚の切符だった。




