ななしのよる 12
後ろを見ることはできなかった。
ただ逃げるように、ひたすら走った。
子犬がついて来ていることは気配でわかったけれど、気遣ってあげられるほどの余裕はなかった。
恐怖は僕の足を休ませることなく、どうしようもない孤独感は、僕の体を凍えさせた。
人のたくさんいる所に行きたかった。
それは本能的なものなんだろうか。
何も考えることなく走っていたのだけれど、僕の体は知らず知らずのうちに、大きな通り、明かりが強くなっていく方角、人がにぎわっていそうな場所を探して、求めていた。
そうしていつの間にか、僕は露店の立ち並ぶ雑然とした通りを歩いていた。
はずむ息を整えていると、どこからか旋律に乗せて、誰かの歌声が聞こえてきた。
そのとたん心臓がズキンと跳ね、次に胸が絞めつけられた。
――あの、石のついた機械からだ・・・・
歌声は、店の前に並べられている、見たこともない不思議な機械から流れていた。
ここにも僕の場所はなかった。
僕は急いで走り出す。
苦痛と悲しみで心が押し潰されてしまう前に、ここから離れなければ。
こんな思いをするのなら、いっそ耳を切り落としてしまいたかった。
僕はもう、一生歌を聴くことはないだろう。




