ななしのよる 1
顔を上げると、星が散らばっていた。
まばらに消えたり光ったりしながら、そこにあった。
さびしげに明滅を繰り返す星の空に、うつろな月が浮かんでいる。
月の光は周りの闇をまきこんで渦を作っているようだった。
星もその渦にのまれてしまいそうに、ぐるぐると回っている。
深い藍色の空がいくつもの渦を巻いて、僕の頭の上をただよっていた。
どこかで見たことがあった。
記憶の隅にある、誰かの絵。
あの絵の夜空に似ている。
その暗色の螺旋をさらに黒く塗りつぶされた尖塔が、槍のように、いくつもいくつも突き刺さっていた。
それに気づき、僕は目を落とし、辺りにめぐらせた。
街灯に照らされた影が人の形となって、僕の前を通り過ぎていく。
たくさんの人達が路を行き交っていた。
複雑に入り組んだ路に、僕は突っ立っていた。
周りの建物の窓からにじむ光や、道々に並んでいる街灯の明かりにあてられて、僕の足元に、僕と同じような姿をした薄暗い人が何人かできていた。
その影を、誰かの靴が踏んで去っていく。
影は交じり合うが、誰も僕を見ていない。
その時、僕は初めて、自分がいることに気づいた。