7話目 そして今年のクリスマスは……
めでたく最終回!!
間に合いました!!(^O^)/
ほんの小さなスペースだけど、デパートの地下1階に「21日までの限定」で一甫堂が出店できた。
そのきっかけとなった……彩ちゃんのSNSにUPしてもらった想い出の“クリスマス上生菓子”も毎年ブラッシュアップを重ね、今ではこの時期一番売れる商品となっている。
ここでも置けば飛ぶように売れるので、お昼過ぎにセールスの井田くん(あーちゃんのカレシなんだけど、それは内緒のお話)が“まろやか音”の納品ついでにわざわざ湯の町から追加分を持って来てくれたのだが、それも残り少ない……
英パパはずっと本社開発室に出張中だけど……そこで和菓子を作る訳にはいかないし……この状況にがっかりするだろうなあ……
接客しながらこんな事を考えていると
「冴子姉さーん!!」と遠くから呼ぶ声がする……
ポニーテールを揺らせながら駆け寄って来るその子のブレザーのデザインには見覚えがあって……
「ご無沙汰してます! 冴子姉さん!」
「ひょっとして……あやりちゃん?」
「ハイ! 母も来ています!」
「嬉し~い!! でもどうして?」
「そりゃ、我が家は全員“冴茶ソ”のファンで……私は“とーかつ”のSNSをフォーローしてますもん!」
「ああ!加奈ママの……ありがとう!! 感激!!」
「今日は和菓子と……あと、内緒で……あかりちゃんと孝太くんが見たいなって!!」
「綾里!ダメよ!無理を言っては!!」
私にニコニコと一礼してくださった日高敦子さんは相変らずお美しい!!
そう!キャリアウーマンとして母として……
私の憧れの人だ!!
「敦子さん! ご無沙汰しています」
「ふふ、ようやく会えましたね。上川統括ももちろん素敵な方だけど……やっぱりあなたに逢いたくて……何故だかわかる? 上川統括があなたの事を話す時は……『“愚妹”が……』と仰りつつ、とっても嬉しそうにお話になるの!! だからたまには弊社にも立ち寄っていただけないかなって!あなたに書いていただいた色紙は今でもちゃんと食堂に飾ってあるのよ!」
「そんな! 私などが気安く役員の方をお訪する訳にはいきませんよ!」
「もう! 変な気を遣わないでくださいな! その事であなたにお会いできない方がよほど悲しい!!」
ああ、やっぱり可愛い方だなあ……と見とれながらも、いい機会だと、私も聞きたかった事を訊ねてみる。
「御社では初の女性取締役とお聞きしましたが、だからこそお受けになられたんですか?」
「そうね……それは確かに……少なからずあります。でも主人と綾里の理解と応援が無ければ絶対に受けなかっただろうと言うのも事実です。私は結婚してからは総務、人事畑で……会社の中から世の中を見る事が多かった。 私は恵まれていて家族からとても助けてもらっているけれど、社会で活躍する女性は少なからず……その仕事が常勤だろうがパートだろうが関係なく……外での仕事を終えた後も孤軍奮闘で、家事をこなし育児もなさってらっしゃいます。 そんな中で……自分が関わっている範囲だけでも女性に優しい社会づくりに貢献したいと言う思いがありました。」
ああやっぱり!!
私が思っていた通りだ!!
「そのお言葉をお聞きできて私はとても嬉しいです!! だって敦子さんとあやりちゃん、それにご主人は私の憧れの存在でらっしゃるから!!」
「ええ! そんな!! どうしましょう! 私は家族を褒められると臆面も無く喜んでしまうから……でも、綾里がこんな風に伸びやかに育ったのは冴子さんのお陰なんですよ! ねっ! 綾里!」
「はい! 冴子姉さんはあの時……公園のベンチで不貞腐れていた私を一人の人間としてして認め、とても素敵なアドバイスを下さいました。だから私は……あの頃から“冴ちゃソ”のファンなんです!!」
「ええ~!! 私、確かあの時……タバコ咥えてウン●座りして見せなかった??!! かなり恥ずかしいんだけど……」
「ハイ!気合入ってました!」
「コラッ!! 綾里」とたしなめながら敦子さんは言葉を継いだ。
「あの時……冴子さんが帰ってから、綾里からその話を聞いて、私、泣きましたのよ」
「えっ?!」
「あなたはこんなにも綾里に心を砕いて下さったのに、ご自身は……こんな事を申し上げるのは失礼なのですが……命の火が消えてしまうんじゃないかと思えてしまったの!! 若くて元気なはずなのに……だから焼肉をご一緒した時にお節介を言ってしまったのだけど……」
確かにそうだ!!
あの時の私は……あかりの後を追うことばかり考えていて……
そんな私を敦子さんは焼肉に誘って……「どんな理由付けでもいいから、一緒に人生を歩いて行けるパートナーを探して!」って、仰ってくださった。
あの時は、そんな事はとても考えられなくて、“見えないあかり”に向かって「『一緒に人生を歩いて行けるパートナーを探して』って言われたよ…もうあかりは居ないのにね…」って嘆いたんだ!!
蘇った記憶が涙を押し上げる。
「ああ、こんな子を産みたい!!」と“あかり”に重ね合わせて見てしまった綾里ちゃんは優しい女の子に成長して今も満面の笑顔で私を見ている。
そして私はあかりを身籠り、この世界に呼び戻す事ができた!!
愛する英パパのおかげで……
「はい!クリスマス和菓子ございますよ! 今お持ちしました!」
えっ??!! この声って!!
声のする方へ振り替えると作務衣を着た凛々しい英パパが接客してる!!
「ええ!!どうして??!!」
思わず声が出てしまった私に素早くウィンクして接客を続ける英パパって!!……
「素敵ですよね!! 私、さっきからずっと見ちゃいました!!」
頬を染めた綾里ちゃんに先に言われてしまった!!
「綾里!! お客様が来てらっしゃるなら私達に教えてくれなきゃ!!」と敦子さん。
「だって!! 冴子姉さんを気遣ってササッ!とブースに入るお姿がとっても素敵なんだもん!!」
こんな事を言われて私がデレデレにならない訳が無い!!
私だって敦子さんに負けず劣らず身内が褒められると臆面もなく喜んでしまうのだ!!
「あの、ご紹介いたします! 夫の前橋英です! 私の最愛の人です!!」
「初めまして、日高敦子と申します。こちらは娘の綾里です」
「お名前は家内と“上川の”姉夫婦から聞いております。 あやりちゃんの事も家内から聞いたことがあるよ」
「ありがとうございます! 私も“英パパ”の顔、“とーかつのSNS”で拝見したことがあります! でも写真で見るよりずっと素敵!!」
胸の辺りで手を組んでるあやりちゃんに英パパは、僅かにはにかんだ笑顔で「ありがとう!」と声を掛ける。
いわゆる“キラースマイル”と言うヤツで……英パパは『あーちゃん達』の時代から無意識にやってしまっているので……私はほんのほんの少しだけ妬いてしまう。
だって!ホラっ!! あやりちゃんの目が♡になった!!
で、おめめ♡のあやりちゃんの代わりに敦子さんが応えてくれた。
「本当に素敵な方ですね。ご主人!」
「はい!! うふふふ!そうなんですよ~!! で、こちらが家族でーす!!」
私はスマホを立ち上げて、今朝ほど加奈ママから届いたビデオメッセを再生した。
『ほらほら! この向こうには冴ママが居るよ~二人ともいい子にしてるかな?』と加奈ママが話を振ると
『は~い!!』と孝太とあかりが手を振ってくれる。
「あ~!!“とーかつ”がエプロンしてるっ!!レアだあ!! あかりちゃんも孝太くんもとっても可愛い!!!」
「ふふ! “統括”もちゃんと家事してますよ! さっき“お母さん”がおっしゃったみたいにね!! 因みに統括の作るビーフシチューは絶品!! 時間を掛けて大量に作るから私もお手伝いするけど家族全員が好きで見る間に減っちゃうの!!」
敦子さんは私達の会話を目を細めて聞いていたが「私達も和菓子を選ばせていただきましょう」とクリスマスシリーズを始め色々と買っていただいた。
英パパが敦子さんに手渡す時に
「“クリスマスシリーズ”は家内が作る方が見事です!! それを恩ある方にお見せできないのが本当に残念です」と言ってくれて……
敦子さんは感極まって私の手を取って下さった。
「冴子さん! あなたは本当に素敵なパートナーと一緒になられて素晴らしい家族をお持ちになったのね。とてもとても!! 嬉しく思います!!」
その優しいお言葉に私は泣けてしまって……
「私はあやりちゃんにお会いして、『こんな子供を産みたい』と願いました。だから今のお言葉はとても嬉しいです」とお返事するのが精一杯だった。
なので、「改めて積もるお話をしましよう」と焼肉デートのお約束をさせていただいた。
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デパートへの出店が無事終わり、本社での片付け作業も一段落して会社を出た。
賢パパと加奈ママ御用達のビストロでディナー!
まずは以前私が設置した“まろやか音”を味わおうとグラスの水に口を付けると
「ん?」だった。
「お!冴ちゃんにはやっぱりわかるんだね!」
「英パパ、何かした?」
「冴ちゃん! 今からしばらくは二人きりだし……昔みたいに“パパ”抜きで呼んでもらえる? ちょっと真面目な話もしたいし……」
「はい! 英……さん」
そう返事をしながらも、私の心に不安の雲が湧き起こる。
英さんに嫌われたのかなあ……それとも「“脛が傷だらけ”の私は表に出るな!!」って言われてちゃうのかな……「英さんに限ってそんな事は無い!!」と思う一方で不安がどんどん大きくなり私は泣きそうになる。
「賢兄との間ではずっと話してるんだけど……」
「……はい」
「両和システムを一甫堂へ吸収合併しようって賢兄が言ってくれてさ! 会社の規模からすると真逆なんだけど……『オレは一甫堂の人達のお陰で本当の意味で生まれ変わる事ができたから!!一甫堂の名前こそ残したい!!』って言ってくれて……泣きそうになった。一甫堂の店主は本来は箭内さんだ! 亡くなったばあちゃんもそう考えていたから……大昔は加奈姉をお嫁に貰うつもりだったらしい……」
私は黙って深く頷いた。
「まだまだずっと先の話だけど……もし、オヤジの血を引く孝太が一甫堂を継いでくれたら、ばあちゃんも喜ぶと思うんだ!」
「そんな事、当然じゃない! それに孝太だって私達の子供よ!」
「そうじゃないんだ!……上手く言えないんだけど……オレ!冴ちゃんにお礼を言いたいんだ!! 心から」
「私、そんな事……」
「冴ちゃんは色んな才能を持っているけど……和菓子の造形においてもオレやオヤジのはるか上を行っている! それは間違いない!!オレはそれで踏ん切りが付いた!」
「でも!! 和菓子は飾りじゃなく、いただくものよ!! 私には英さんの様な繊細な味わいは出せない!!」
「そこだよ!冴ちゃん!! おかげでオレは自分の中の価値を見出す事ができ、それを今、『プロ用“まろやか音”』の開発に反映させてる!! ここのお店に置いているのはその試作機!! これはオレと賢兄からのクリスマスプレゼント!! かつて賢兄と加奈姉へのクリスマスプレゼントとして、このお店に“まろやか音”を設置させた冴ちゃんに倣ってね」
そう言って……いつかの様にとびきりの笑顔を見せてくれた英さんに私は今度こそボタボタ泣いてしまった。
「でもね、冴ちゃん!」英さんは私の涙をハンカチで抑えながら諭してくれる。
「冴ちゃんは何でも抱え込み過ぎ!! オレもついついそれをやってしまって社長や統括から怒られるんだけどさ! 冴ちゃんは春から夜間で高校にも通うんだろ! 一甫堂も商いが拡がるし会社もドンドン大きくなるんだから……もっと、あーちゃんとか井田に仕事を任せて育てなきゃダメだよ」
私はグズグズ泣きながら
「うん、分かった」と頷いた。
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何年か前に加奈姉と賢兄がイヴを過ごし……もっと昔には、私があかりを想って枕を濡らし……初めて英さんと温め合ったベッドには、加奈姉お手製の可愛いクリスマスプレゼントが施されていた。
「崩すのもったいないよね」と言いながらも二人じゃれ合いながらベッドに潜り込む。
こうして、“初めての”二人だけのクリスマスパーティは始まった。
おしまい
。。。。
イラストです。
今年の冴ちゃん
いつものことながら走り書きでスミマセン<m(__)m>
本編は『こんな故郷の片隅で 終点とその後』
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