2話目 “人間モドキ”は涙を抱く
今回は……機械のメンテナンスのアルバイトとフーゾクのお仕事を掛け持ちしている頃の冴ちゃんのお話です。
しまった!!
腕を取られて逃げようとしたらポニーテールを掴まれた!!
「嫌だってば!!」
唇を奪おうとするコイツから顔を背けたら耳を齧られた。
オトコが獣になったその瞬間、私はその向う脛を“安全靴”で思いっきり蹴飛ばし、その手を逃れた。
油断した!!
前に一度ヤッたオトコだった……
そう、酔ったコイツの先輩どものせいで、私はコイツのドーテーを喰わされた!
知っていたらこの仕事、絶対受けなかったのに!!……
初めてのオンナが私じゃあまりにも申し訳ないので、その分、“気持ち”を込めた。
ドアを開けたコイツの顔を見て、今日は普通に“仕事”ができると楽観してしまったのは私のミスだ!!
この類の子が私を呼ぶ時はどんな心情なのか考えるべきなのに!!
オゾン発生器の修理を成功させてホッ!とした気持ちを抱えたまま慌ただしくこの仕事に向かう最中の……雪をはらんだ冷たい風が後押しして、なんの準備も無く、ホテルの部屋に飛び込んでしまった!!
覚悟を決めねば!!
私は一息吸って凄んだ。
「そんなにヤりてえか!!?」
そしてジャンバーを脱ぎ捨てて床に叩きつけた。
「だったら、ホラッ!」
とニットの裾をその中身ごと掴んでゴソッ!と引き上げて顔を覆い隠す覆面にし、その下のブラのホックを外し胸を露わにしてベッドに身を投げた。
「ヤレ!! この野郎!!」
怒鳴りつけると……肌で感じるオーラが変わった。
お願い!!戻って!!
私は心の中で祈りながらも暴言を吐く。
「ヤレって言ってんだろうが!! このフニャチン野郎が!!」
良かった!! 戻った!!
“覆面”の隙間から覗き見ると
がっくりと膝を付いたこの子は涙目だ!!
「申し訳ございませんでした。オレ、帰ります。お金はお支払いします」
でも、まだだ!!
震える手でお札をテーブルの上に置き、バスローブのままズボンに足を突っ込み引き上げるこの子と私にはやらなければいけないことがある!!
「待て!! 落とし前付けねえのか??!!」
もう一度凄んでこの子の足を止め、
「まずはシャワーを浴びさせろ」
とニットやブラを脱ぎ捨て半身むき出しのままバスルームへ歩いて行く。
どうやってその“原因”を聞き出そうかと思案しながら……
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その子……洋輔を天蓋ベッドの脇のソファーにくっつくくらいに並んで座らせて事情聴取した。
洋輔が荒れた原因は……
カレが高1の頃から7年にも渡りウジウジと片想いをしている美咲という子が実はヤリマで、昨日の夜、お持ち帰りしたのかされたのか……とにかくヤッた事をわざわざ洋輔にメールで知らせたらしい。
だだでさえ“人間モドキ”の私に男の子の心情は知る由も無いが、まあ、想像はつく。
でもそんなカレの目がどこをチラ見しているかと言うと……私の胸だ。
それがオトコと言う物で……そのおかげで私はこの仕事を死ぬまで続けられそうな気がする。笑っちゃうけど。
で、バスローブから両腕を抜いて胸を露わにしてやった。
「抱かれるオンナには何らかの理由がある……私のように“お金が理由”って他にも色々とね……残念ながら今のキミにはそれ以外の理由も魅力もなさそうだ」
「私には心が無い。だからキミの欲望に応じて服も脱ぐし、サセるよ。
でもきっと、心のある人は結局、キミには心を寄せない。
それはね、キミが自分自身を嫌いで、大切な事はいつも人任せだから……
キミの話を少し聞いただけの私が、そう感じるんだ。
キミの親しい人が感じない訳は 無いよ
これ、私が間違ってるかな?」
ここまで言ってあげても洋輔が黙り込んでいるので、私も覚悟を決めた。
どんな経緯でも私が洋輔の“初めて”になってしまったからには、責任がある!!
これから先、この子には……“私には分からない類”の困難が付き纏うのだろう。
その波に呑まれても……私の様な“人間モドキ”にさせない為には……
「キミも面倒なコだね。でもキミは私には無い物を持っている」
そう言って、私は立ち上がって自分のトートバッグから銀行の封筒を取り出し、テーブルの上のお札の倍の枚数を重ね置いた。
それからフロントとお店に電話し“ALL”の契約を作り上げた。
「キミが私を買った様に私もキミを買うよ」
「……どうして?」
「キミがその手に確実に持っているもの
それはそのコの事を本当に好きだと思っている事。それは確かだと私は感じた。
私は愛もよく分からない。
なので、愛することのできる心を持っているキミをとても羨ましく思う」
「そんなの……女々しい事言ってしまうけど、苦しいだけだ……」
「そうだね……もし私がキミのように愛に苦しむ事に巡り合えたら、やっぱりそう思うのかもしれない。
でもね、それでも、そんな心を持っているキミがとてもとても羨ましいんだよ。
だから私はキミを買う」
私は両手を広げて、洋輔に向かって胸を開いた。
「こんな“人間モドキ”だけど……血は通っているから、人肌だよ」
胸に抱いた洋輔の頭を撫でながら言ってやる。
「私たち、二人とも 今は1mmも動けないけれど……キミは一所懸命そのコの事を想い続けるんだ
ストーカーになれって事じゃないよ
わかるだろ?
今のキミじゃまだまだ中途半端
とことんまで想い続けてこそ
1mm進むことができるんだよ
キミなら
それができるよ」
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一所懸命お仕事して、一晩中体温を分け合ったオトコは……どこか愛おしい。
でも、こんな気持ちもホテルを出て、朝の陽ざしを浴びながらタバコの二、三本でも吸えば煙の様に消え失せるのだろう。
だから私は洋輔に
「じゃあね」のひとことで背中を向けるとドアを閉めた。
どうせ私は“人間モドキ”
これから先も……恋の甘さに浸ることも叶わぬ恋で涙にくれる事も……ありはしないのだから。
おしまい
もう一人の当事者、洋輔くん視点のお話は
<クリスマス期間限定> クリスマスにまつわる黒いお話
https://ncode.syosetu.com/n4472hz/1/
の形のいい胸 ①、②となります。
明日書く予定の3話目は新作です(#^.^#)
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