1話目 亡くなった恋人は……
第1話目は、『昼間はDVDざんまい、夜はフーゾクのお仕事』が日課だった頃の冴ちゃんのお話です。
映画のDVDが終わって、元のテレビ画面に戻るとクリスマスケーキのCMが流れていた。
ザワッ!と嫌な予感がする。
“樹”の時みたいに……
ホント!こういう時は仕事に行きたくないんだけど、“かき入れ時”だしなあ……
ちょうど天気予報が流れ、今夜はしこたま冷えるらしい。
「ホワイトクリスマスなんて要らねえよ!」と愚痴りながらいつものキャップを被り、冷たい鉄のドアを開けた。
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「なんちゅうカッコしてんだあ!」
ポマードでテラテラしている頭を大袈裟に抱えて見せるマネージャーに
「うっせえなぁ!! 来てやっただけでありがたいと思ってくれ!!」言い返すと
「どういう事だ!!」と聞いてくるので
私は頭の中の“カレンダー”は無視して嘘の理由を述べてやる。
「やんごとなき公休日が間近なんだよ!! お客に迷惑を掛けない保証は出来かねるからやっぱ帰るよ!」
「まあ待て待て待て!! クリスマスの“インペリアルスイート”! ステイで行ってみたくねえか? お前にピッタリだろ?!」
「私のこのカッコじゃ、真逆だろ?! そんなキラキラしたのは結衣ちゃんとかに振ればいいだろ!」
「みんなご指名満載でさ! 『ステイ』程にはカラダが空かねえんだよ! まさにこういう時こそ!後輩のフォローをしてやるのが主任たるお前の役目ってもんだ!」
「その主任ってホント何なの?!勝手に名刺作ってさ!! 『どうしても!!』って言うんなら着替えなきゃだから、一旦、家に帰るよ!」
「んなこと言ってそのままバックレるつもりだろ!! 奥のクローゼットに“よそ行き”が一式あるから、着替えて行ってくれ!! 頼む!!」
コイツがここまで必死に頼むのは絶対裏があるに違い無いが……ギャラ+2万で手を打った。
マネージャーに「ムシュー●のニオイがプンプンしててクレームになっても知らねえぞ!」
と釘を刺すと
ホッとした顔のマネージャーから「バカなやつだなあ! 無臭だから“ムシュ●ダ”って言うんだろ」と軽口を叩かれた。
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エレベーターを最上階で降り、教えられた部屋のチャイムを鳴らすとドアが開けられた。
まだ若いがそこそこの身なりの子で……
『ホテル予約した後、彼女に振られて……キャンセルするのは立場無くなるから、オンナ買ったんだ』と言うのも頷けた。
まあ、“ボンボンの噓付き”とはこんなものなのだろう……さっさとホテルの予約をキャンセルしてあげた方がバカップルの為にはなるだろうに……
とにかく私は、着心地の良くない“他人の服”を早く脱ぎたかったので、さっさとシャワーを浴び、緩くバスローブを纏って男の前に座ってやったが……意外と無反応だ!
振られたカノジョに義理立てする事もなかろうに……
こう言う“溜める”タイプの男はいざ、どうでもいいオンナを抱くと多かれ少なかれ暴力的になる!!
マネージャーが私の寄越したのはやはりその辺りが理由か……
男がシャワーを浴びている間、私は隠しカメラをいくつか忍ばせてバッグの中のレコーダーへwi-fiで飛ばした。
見つかりさえしなければ2、3日は録画し続けるだろう。後は緊急用のコンパクトスマホを……
と、その瞬間、男のスマホが鳴り、通知バーのメッセージが見えてしまった。
そこには……
『アノ子が言いたかった言葉を代わりに贈ります。メリークリスマス』
と表示されていた。
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シャンパンのボトルを2本も開けたから、二人の“空気”はそこそこ解れていた。
何度も言うが私は『行き当たりばったり』だ!!
そしてこういう時には決まって!!
この悪い癖が出てしまう。
「どんな気持ちなんだろうね。京香さんも……お母様も……」
「京香が亡くなって……体がドンドン冷たくなっているのに……オレが握っていた手だけはほのかに温かかったんだ……オレにとって、それは宝物だったんだ!! なのに!!! そんなオレに!!オンナをあてがう……」
言い掛けて遼平さんは私に頭を下げる
「ごめん!!」
「全然!! それが私の仕事だから。それよっか! 今でも京香さんの事、愛してる?」
「もちろん!!」
その言葉が私の心のズシリと乗っかった。
恋とか愛とか優しさとか……そんなものは分からない“人間モドキ”の私だけど……臆面も無く涙を流している彼を見ていると“感情”が渦巻いて涙を押し上げる。
「イヴに、こんな二人がシャンパンの前で何やってるんだろうね」と呟くと、遼平さんは笑いながらハラハラと涙を落とした。
私はバスローブの袖でそれを拭ってやりながら、彼の顔をゆっくりと胸に抱いてやった。
「思うんだけどさ……京香さんはきっと!生身のオンナの体を借りてあなたを抱きしめたかったんだよ! こんな風に……」
そして私は精一杯心を傾けて彼を抱き、抱かれ、歓喜の声を上げた。
私はただの器……
だけどこう言う時には
一所懸命にお仕事をする。
おしまい
後に……『英さんには話してない』とのコメント付きで加奈姉さんに話をしたのがこのお話です。
クリスマス特別編 ザ★クリスマス ①
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