第二話 『邂逅 「ミラク・ムスカリ」』
「やっぱどう頑張っても読めねえよな...」
先ほどから場面は代わり、最初の道をまっすぐ進んだ先で見つけた、大きめの公園にソウトは来ていた。理由は単純。その中で街のマップのようなものを見つけたからだ。
それに飛びついたはいいものを、この世界の字が読めないのを失念していた。
しかし、目標へとたどり着くための現状唯一の手がかりであるそれを、なかなか諦めることができず、なんとか読めないかと、小一時間マップとのにらめっこをしていた。
まあ結果は、奮闘むなしくこちらの大敗北に終わったのだが。
さすがの疲労感に、陰鬱な面持ちでそこらにあったベンチへと腰掛ける。
ひとまず休憩をして、それからまた冒険者ギルド...協会...どんな名前かは知らないが、冒険者を支援する団体か何かの施設を探そう。そんなことを考えながら、大きめのため息を吐くソウトに...
「やあやあ少年、そんなに肩を落としまくってどうした?あんまり眉間にシワ寄せてると老けるぜ?オレみたいにな!」
隣から唐突に声をかけてくる影があった。
驚いて顔を上げると、ソウトの隣には推定50歳ほどの渋い中年男性が座っていた。顎には青髭が生えているが、あまり不潔な印象を与えないなかなか整った顔立ち。そしてその右手の部分には、義手...?のようなものが腕の代わりについていた。
もちろん、全く知らない人間だ。
「急になんだよ。ベンチの隣に座ってきて、肩組みながら人生相談させるようなおっさんとの思い出育んだ記憶なんかねえぞ」
「べんち...てのが何かは知らないが、その言い方はひどいぜ少年。そっちから隣に座ってきたってのによぉ!」
「な...はぁ?」
警戒するに越したことはない、と棘のある返答を相手へとしたが、それへの返答も予想外のものだった。
「ちょっと待て!...俺がおっさんに気づかずに隣に座っちまってたってことか?」
「おう!急に隣に座ってきたから、オレこと応援してくれてる子だと思ったが...残念ながらいたのは女の子じゃなく、うなだれてる少年だったのさ。オレのウキウキを返してほしいね」
どうやらそういうことらしい。
人間気分が下がっていると視野が狭くなるものである。今回はいくら何でもだが。
「悪かったよ、おっさん」
「なあに、話しかけたのは俺だからな」
これは反省だ。失態をしたらすぐ謝る、これが世界におけるモテるコツである。異世界でのハーレムというのも、まだ終わった夢ではないはずである。
「それで?少年はなんかあったのかい?」
教訓を自分へと刻み付けていたソウトに、男は再びそう問いかけてきた。結構お節介焼きな性格のようだ。
「...実はこの街に来たのが初めてなんだ。だからあそこの地図を見てたんだが...生憎俺は字が読めなくてな。どうしようかと悩んでいるってわけ」
地図を指差しながら、事の経緯を男に話す。
「異世界転移したから文字がわからなくて困っている」なんて言ってもヤバいやつ認定されて終了なので、言葉を選んで慎重にだ。
...男にはなしていて思ったが、コレ、この男に道案内でも頼めば解決するんじゃなかろうか。まだ名前も知らないが、かなりフレンドリーに接してくれているし、悪い人間には見えない。
そうと決まれば早速相談。善は急げだ。
「なあ、ちょっとお願いが…」
「良かったらオレが教えてやろうか?地図」
「......!いいのか⁉︎」
まさかの向こうから誘ってくれるとは。ソウトの中での男の信用度がグーンと上がった。
「当たり前だろ?未来ある若者を助けるのがオレ達おっさんの役目だぜ!」
「うぉぉぉ...!聖人かよ!マジありがとう!」
「そこまで言われると照れるもんだな...まあ悪い気はしないな。よし!ならさっさと行こうぜ少年!時間はまっちゃくれねえ!」
そう言って勢いよく立ち上がる男に、ソウトも同じく跳ねるように立ち上がり、地図の方へと歩き出した。
「そういえば、アンタの名前聞いてなかったよな。聞いてもいいか?」
「少年よ。そういう時は自分から名乗るものだぜ」
「なんかやましいことでもあんのかよ...。俺の名前はキシバナソウトだ。よろしく」
「変わった名前だな。まあいい、オレはミラクだ。ミラク・ムスカリ。よろしくな」
「よし、ムスカリさん!案内たのんだぜ!」
異世界に来てから、初めて名前を知った人物ができたことに興奮を抱きながら、一歩ずつ。