プロローグ 『退屈凌ぎの物語』
初投稿になります。
「あれ?」
貴方が『そこ』に入った瞬間、声が聞こえた。
「あれれ?」
その声は中性的な美声で、変声期を迎えていないの少年の声のように思える。
貴方は、そんな事を考えながら、声の主を探していた。
すると…
「やっぱり!お客さんじゃないか!」
という声と共に、目の前に唐突に人影が現れた。本当に、何もないところから、唐突に。
「いやぁ、久しぶりだなぁ!ここにお客さんが来るのは。…何百年ぶりだろう?」
どうやら、声の主は彼のようだ。
彼は、色の抜け落ちたような白髪に帽子を被っており、青と赤の綺麗なオッドアイが印象的な少年だった。ジャージに短パン、背の高さも140を少し下回るくらいで、少年より子供という代名詞の方が似合う、幼い印象の子だった。
「ああ、ごめんね。ほったらかしちゃって」
遠い目をしていたその子供は、首を振って貴方の方へと向き直り、
「軽く自己紹介をしよう。…僕の名前はメキア。メキア・マナノア。メキアでいいよ」
そう言って、その子供…メキアはニコリと笑みを浮かべた。
「さて、挨拶もこの辺にして、本題といこうか」
貴方は、メキアの言う『本題』の意味が分からず、頭を傾げた。
それを見たメキアはイタズラっぽい表情を浮かべて、
「隠さなくていいよ。ここまで来たって事は、僕に何か聞きたいこと、欲しい物、叶えて欲しい願い事があるんだろう?」
そんな事は知らない。と、貴方は首を横に振る。
「えぇ⁉︎じゃあ何のためにここに来たのさ⁉︎そもそもキミ、そんなに強そうじゃないし、どうやってここに辿り着いたんだい?」
どうやってここに来たのかは分からない。と、貴方はメキアに伝えた。
メキアはそれを聞いて疲れた様な表情をして、
「何万年も生きてると、不思議な人間も見れるものだな…」
ぶつぶつと一人で考えだした。
どうやらメキアには他人を放っておく癖がある様だ。貴方は不満を顔に出してメキアを見つめた。
「あぁ、ごめん。なんでもないよ。…それより、何か願い事は無いかい?キミの願いを一つだけ叶えてあげるよ」
謝罪からの流れる様な話題転換。貴方は、子供のすることだと見逃す事にした。
ともかく、貴方は、今の自分の願いは何か、と考え始めた。不思議なことに、メキアが願いを叶えてくれる。と言うことを疑う気は起こらなかった。
かと言って、この子供に現実的な願いを言うのも少し違う。…そういえばさっきこの子は何百年ぶりに人にあったと言っていた。そんなに長い年数、こんな子供が過ごすには辛すぎることだろう。
そう思うと、貴方は、メキアに自分の願いを告げた。
「決まったかい?…うんうん。なるほど」
貴方の願いを聞いて、何度か頷くメキア。暫くそれを眺めていたが、
「──ふふ。アハハ、アハハハハッ。ゴホ。ゲフ。アーッハハハ!」
メキアは盛大に吹き出し、むせ、腹を抱えながら倒れ込んでいた。
「この、この僕に、この僕にそんな、願い事を、する、なんてぇ!」
そんなにおかしな事を言っただろうか、と貴方は笑い転げるメキアを見て思った。
「この僕に、『退屈凌ぎのために面白い話をしろ』だってぇ!」
貴方は、暫くメキアが落ち着くのを待ち、話を進めた。
「こんなに面白い人間は初めてだよ。本当にいいんだねぇ?」
貴方はこくりと頷いた。
「いやぁ、本当に面白い子だよ。『面白い話』だったよね?良いよ。実は最近ちょうど良い話を知ったんだ」
どうやら話してくれる様だ。貴方は、座って話を聞く姿勢になりながら、メキアの話に期待を募らせる。
「じゃあ、いくよ。ある日、ある日、ある所に…」
そして、物語が始まった。
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