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空を飛ぶモノ

 『蛇は蠍に』。それがこのモンスターの名前らしい……いや、名前なのか?

 まあ、どうせ蠍と呼ぶのだが。


「わっくん! アレに当たらないようにねッ!」

「ああっ、わかってるッ!」


 黒い尾の先端にはドリルのようなものがついていた。

 ……針と呼ぶにはあまりにも太すぎるな。


 大地を蹴って、尾の攻撃を躱し、振りかざされたハサミを剣で弾いて!


「いくぞッ! 『ハートブレイク』ッ!! ……って、え?」

「めちゃくちゃ効いてるっ!? あっ、でもこっちは全然ダメかもっ!」


 『ハートブレイク』を当てた脚が砕け散り、HPが5分の1ほど減る。

 その一方で日和のビットによるビームは全くと言っていいほど効いていない。


「物理攻撃が弱点か……いや、そういうわけでもなさそうなッ!」


 剣で蠍の足を斬りつけるも、ダメージ量は芳しくない。防御力の高いモンスター相応の値といった感じで……いや、たまにダメージ量がグンと上がり、蠍の外骨格につく傷が白く深いものになっているな。

 ……これは。


「『ハートブレイク』ッ! ……はっ! わっくんっ! クリティカルかもっ!」

「ああッ!」


 ビットを剣の形に戻した日和が『ハートブレイク』を放つとHPが大幅に減る。

 クリティカル攻撃が弱点だということでほぼ間違いないだろう。


「とりあえず攻撃回数を多くして、クリティカルが発生するまで斬りまくるッ!」

「あははっ、『ハートブレイク』のリキャストが溜まるまで待つとかじゃないんだっ! 攻め攻めでいいねっ!」


 たしかにヒヨリの言うことも一理ある……が、離れると何をしてくるかわからないので。

 オレは攻撃を続ける方が得策だと判断した。


「よっしゃッ! 残り半分……うおッ!!」

「ひゃっ!!」


 が、HPが半分になったタイミングで蠍がハサミを天に掲げ、半身を浮かせる。


 何か来ると感じたオレたちは流石に攻撃の手を止め、距離を取る。

 その直後、蠍はハサミと半身を地面に叩きつける!


「……ちゃんと用意されてたな。距離を離す技」


 衝撃によって飛んでくる小石を躱して日和を見る。

 彼女も無事に避けられたようで、HPは減っていない……やっぱり流石だな。


「あっはは、そうだね……って、わわっ!?」

「うおッ!?」


 工事現場のような激しい音を聞き蠍の方へと向き直す……なんだアレ!?

 尾が伸びて、ドリルのような針が実際に回転しだして……地面を掘り出した!?


「これ、下から攻撃してくるやつだよっ!」

「ああ、だろうなッ! でも構うもんか! もう一回突っ込むぞッ!」

「うんッ!」


 オレたちは再び蠍へと突っ込む。

 ハサミさえ気をつけていれば、後は……!」


「はあああぁぁぁッ!! 『ハートブレイク』ッ!」

「てりゃあああぁぁッ! 『ハートブレイク』ッ!」

「『トリニティ・バースト』ッ!」

「『グラビティ・ダウン』ッ!!」


 ハサミによる攻撃を避け、一斉に『ハートブレイク』を当てる。

 二本の脚が壊れ、更に隙を晒したところに追撃をぶちかましていく。


「……はっ! そっちだよわっくんッ!」

「……ああッ! 任せろ!!」


 土を掘り進むドリルの音が大きくなる。

 まだだ! まだ攻撃を続けろッ!


「……くるよッ!」

「……ッ!!」


 ドリルが出てくる寸前、オレは蠍の身体を駆け上がった。

 すると、地面から出てきたドリルは己の身体を貫いて……!

 残り6分の1あったHPゲージを自ら0にした!

 ……クリティカルが出ない場合でもこうやってダメージを与える方法があったんだな。


「わっくん凄ーいっ! ……でも、普通に避けてもよかったんじゃない?」

「日和に良いところ見せたくてさ」


 ようするにカッコつけってやつだ。


「やーんっ! もうっ、わっくんたらぁ! ヒヨリはわっくんがだーいすきなのに、もっともぉーっと好きになっちゃうよぉ!」


 頬を両手で押さえてブンブン首を振ってる日和……幸せそうでなによりだし、オレも嬉しい。


「……けど、まだ終わりじゃないよな。あまりにも呆気なさすぎる」

「呆気なかったのはわっくんが『ハートブレイク』の達人だからっていうのもあるだろうけど……そうだね」


 日和の方に向かっていた視線を蠍へと戻す。

 ……こんなので終わるわけないよな?


「……ッ! やっぱり来るか!」

「……っ!」


 真っ黒な蠍の身体を真っ二つにするように白い光が漏れる。

 その光の中から一対の翼が現れて。

 蠍の身体から脱皮するように白く巨大なわしが現れたッ!


「蛇、蠍ときて……鷲!?」

「飛ぶタイプはやっかいだね……だけど二人なら倒せるよッ!」

「もちろんッ!」


 『蠍は鷲に』。それがヤツの名前らしい……まあコイツも鷲と呼ぶのだが。


「……あっ、でもわっくんっ! 今度はヒヨリに活躍させてよっ! ヒヨリも良いところ見せたいっ!」

「たしかにこういう場面ではビームが効くだろうな。オレも魔法で支援するけど、頼んだぜッ!」

「うんッ!」


「ワッワッワッアッワッワッワッ! ピュイーーーーーーッ!!!」

「いくよぉーッ!! 『一斉発射』ッ!」

「『その明るさは生命の輝き、その熱気は生命の証明ッ! 我が手中にて収束し、解き放たんッ! ──炎熱波ファイアウェーヴ』ッ!!」


 一鳴きした後に翼をはためかせ宙へ飛び立つ鷲……に容赦なくビームと魔法をぶつける。

 ダメージ量は4分の1程度……さっきより脆くないか? いや、あの蠍は防御力高めに設定されていたのだろうが。


「……うわっ!」

「わっくんッ!」


 なんて考えていたら鷲の羽ばたきで生じた複数の風刃がオレを切り裂かんとしていて。

 辛うじて直撃は免れたが、一発もらっちまった。

 ……HPが半分以上減ってる!?


「この攻撃力……ヤバいな。直撃だったら終わってたかもしれねぇ」

「あ、あの範囲の技だし流石にちょっと残るとは思うけど……一撃技も持っているかもね!」


 ここにきて超高火力タイプか。DPSチェック、硬い敵を乗り越えた三連戦の最後がコレだと心が折れる人もいるかもしれないな。

 ……いや、まだ三連戦だと決まったわけじゃないが。


「……よし!」


 回復薬を飲み、腕を前に掲げる。

 オレのステータスでは強力な魔法は放てないが、やはりそこは攻撃特化型。防御力やHPは低いようでまあまあダメージは通る。

 コレなら日和の支援くらいはできていると言えるだろう。


「とっとと決めちゃおうっ! あっ、でも油断は禁物っ!」

「ああ! わかってるッ! 『満ち溢れ、ありふれているされど尊きもの。我が手中にて収束し、解き放たんッ! ──閃光波ルクシア』ッ!!」

「いっけーっ! ビットッ!!」


 飛び回る鷲に魔法とビームを当てていく。

 念の為に射撃の練習もしておいてよかったな。


「……って、コイツ、光属性が弱点か?」

「ほんとだ! だいぶ効いてるねっ!」


 日和の『一斉照射』はまだリキャスト中だったので普通のビーム攻撃だったが、それにしてはダメージ量が多い。

 もうヤツのHPは半分を切っている。


「日和のビームは?」

「無属性だよっ! でも、絶対ダメージ量じゃ負けないんだからっ!」

「ははっ、面白くなってきた!」


 今回は援護に徹しようと思ったが、どうやら日和と競えそうだ。

 MPなんて普段は使わないからMP回復薬も余っている。どんどん唱えていこう。


「とりゃああっ!! 『一斉掃射』ッ!!」

「『満ち溢れ、ありふれているされど尊きもの。我が』、我が……チッ!」


 風刃を避けながら詠唱を続けるのはオレには至難の業だ。

 やっぱり魔法の欠点はこの長い詠唱だな。一部のヤバい奴らを除き、対人戦では使われないのも頷ける。


「へへーんっ! ヒヨリの方がダメージ与えてるもんっ!」

「……日和ッ!」

「へ? わ、わっ!!」


 自慢げな顔で此方を見る日和……を掴もうと、目にも止まらぬ速さで鷲が突っ込んできた!


 辛うじて全てのビットを目の前に展開して防いでいる日和だが、その巨体に押しつぶされそうになっており、HPがぐんぐん削られていく。


「……たくッ!」


 地面を蹴って駆け出し、跳び上がる。

 鷲が羽ばたきで此方に近寄らすまいとするが……


「『トリニティ・バースト』ッ!」


 三段攻撃を正確に鷲の片翼に当て、三つの風穴を開ける。


「ピュイイイイイィィーーーッ!」

「遅いんだよッ!! 『ハートブレイク』ッ!!!」


 たまらず鳴き声を上げ、日和への攻撃をやめ……たときにはもうオレの会心の一撃が鷲の脳天を貫いていた。


 ……コイツのHPは既に0だ。


「……ま、またわっくんが活躍したああぁぁぁーーー! でもでもっ! カッコよかったよぉーーーっ!!」

「ほら、いいから回復薬でも飲んどけ。何があるかわかんねえんだから」

「えっへへ、ありがと! わっくんっ! ヒヨリ、今回は護られてばかりだねっ!」

「いやいや、お前の火力も凄え……って、またコレか!」

「……いや、今度はッ!」


 日和にフォローの言葉をかけようとして、どこから飛んできた『剣の形をした炎』が鷲を貫いて……

 それだけでなく、何かが空から降りてきた。


 翼、頭部の輪っか。真っ白な白衣。

 一目見てわかる。アレは、天使だ。

 だが、よく目を凝らすと、どこかアンドロイドのような感じがして……


「……くるか!?」

「……っ!」


 天使は、武器を構えるオレたちを一瞥して……

 宙を一回りした後右手を天に掲げた。


 手の周りに収束していく炎のエフェクト。

 ……あの『剣の形をした炎』が此方に向けられるのか!?


「……おわっ!」

「わっ!!」


 避ける準備をしていたが、放たれた炎は壁を穿ち、大穴を開ける。


「……」


 天使は何も言わず……というか何かを発する口が無いのだが、無言でその穴へと入っていった。


「……まだ続く、みたいだね」

「下層の更に下……最下層があるってことかよ」


 このゲームのダンジョンは上層、中層、下層の三段階だったはずだが……流石『未知のダンジョン』だな。まだ見ぬ要素がオレたちを待っていた。


「よぉし、まだ夕方! 冒険はまだこれからだよっ!! 行こう、わっくんっ!」

「おうっ! 行こうぜッ!」


 ボスとの三連戦で疲れが溜まっているはずだが……まだ日和とこのダンジョンを攻略できる喜びのせいか、そんなものは感じなかった。

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