表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
20/26

下層再攻略

「──それじゃ、わっくん! 行こうかっ!」

「おうっ!」


 あれから一週間。

 日和は大丈夫だと言ったものの、オレと父さんの強い勧めで医者に診てもらって。

 跡は数日残るものの命に別状はないことがわかってホッとした。

 ……テレビで見たことがある大病院の先生が機械装置ガン盛りのごっつい車で村に馳せ参じたのはちょっと怖かったが。


「ゲームっ! ゲーム〜っ! わっくんとゲーム〜っ!」

「ははっ、上機嫌だな」

「日曜にわっくんが帰っちゃったからすっごく寂しかったんだもんっ! 念の為安静にって、今日までVRも禁止されてたしっ!」

「帰っちゃったって……お前が帰っていいって言ったんだろ。学校もあるだろうからって」


 コイツが残ってくれと言ったのならオレはそうしただろう。とはいえ高校もあるし、ずっと休み続けるわけにはいかなかったが。


「ヒヨリは良いお嫁さんだから、わっくんを困らせたくなったのっ! けど、寂しいものは寂しくて〜っ!」

「そっかそっか……偉いな、日和は」

「えっへへーっ!」


 日和の頭を撫でる。アバター姿だとオレと身長が変わらないので、楽な姿勢で撫でやすい。

 あの日以来、日和に対して甘くなったような気がしないでもないが……まあ、好意を改めて自覚してしまったんだ。惚れた弱みというやつだろう。


「でもMINE送りすぎじゃねーか? 学校終わって確認したら通知がカンストしててビビったんだけど」

「えっへへ、わっくんと色々共有したくて……」

「まあ、日和がそうしたいならそれでいいと思うけど……全部には返せないかもってのは覚えておいてくれよ?」

「うんっ、わかった!」


 内容としては『綺麗な花を見かけたから写真を送ります!』とか『今日の朝ごはんはご飯とお味噌汁と卵焼きです!』とか、『お祭りの準備をしています!』とかそんな感じのもので、決して『ねえ』とか『会いたい』連打ではなかったのだが……一件一件内容があるのもそれはそれで?

 いや、考えるのはよそう。


「……よぉしっ、頑張るぞぉ!」

「気合い入ってんな」


 街外れのダンジョン入り口で『未知のダンジョン』を選択する。未だにクリア者が出ないとは大したもんだ。

 ……運営の調整ミスでは?


「そりゃそうだよっ! このダンジョンをクリアすればわっくんと同じギルドに入れるんだもんっ!」

「オレが抜けて、新しいギルドを作っても……」

「それはダメ! さっきも言ったじゃんっ!」


 ダンジョンをクリアしたら、という話は『オレが村に引っ越す』ではなく『オレと同じギルドに入る』という話に変わっていた。

 もちろん、勝手にそう決めたのではなく、セイントさんやクロスさん、それに他のメンバーとも相談して……

 このダンジョンをクリアすれば最後の空き枠を譲ることになったのだ。

 なお、その際、オレがギルドを抜けて日和と新たなギルドを立ち上げるという話をしたのだが、日和に断固反対された。

 ……『セイントクロス』がオレにとってかけがえのない居場所であることをコイツもわかってくれて、そして尊重してくれていることがありがたい。


「ふふ、そうだったな……」

「ちょっと前のヒヨリだったら大賛成だったかもだけどっ! ……いやいや、ちゃんと我慢できたかもっ!?」

「……どっちだろうな」


 ちょっと苦笑いを浮かべつつも、ダンジョンへ突入する。


「……さて、またあの蛇と戦うのか」

「一度倒せたんだもんっ! 楽勝だよっ!」

「油断はするなよ……」


 回復薬と解毒薬は下層突入時の所持数に戻っている。ここであの蛇をノーアイテムでクリアしたいところだ。


「わっくんこそ! 丸呑みされなくても大ダメージ出してよー?」

「ははっ、任せろって」


 挑発的な笑みを向ける日和に向かって胸をポンと叩く。

 この一週間、何もしなかったわけではない。

 スキルを完璧に当てる練習もしたし、多人数で挑む最新ダンジョンを攻略して『攻撃力を底上げする鎧』も手に入れたんだ。

 日和にもダメージ量で負けるつもりはないぞ!



「──わっくん! いけるよ!」

「おうッ!」

「いくよッ! 『一斉発射』ッ!」

「『ハートブレイク』ッ!!」


 蛇に対して猛攻を続ける。

 ダメージも時間も言わないのは余裕があるのをわかっているからだ。


 二人で攻撃を当てると、蛇のHPが0になり、『Dungeon Clear!』の文字が表れる。


「ふぅ、呆気なかったね……えへへっ、今回もヒヨリの方がダメージ上だよねー?」

「そうだな……って、いやいや、変わんねえだろ!」


 今回は初手のカウントを乗り越えた後に蛇の両目を潰した。

 すると、その次のカウントは二人とも無く、またその次のカウントを二人でくらったのだが……

 ダメージ量が上がっていたからか、規定のダメージ量に達するよりも先に蛇が死んでしまったのだ。


「ふっふーん、じゃあ、そういうことにしておこうかなー?」

「そういうことってなぁ……」

「あはっ、模擬戦ならいつでも受け付けてるよー? って、わっ!!」

「うわっ」


 『Dungeon Clear!』の文字が歪み、視界にノイズが走る。

 ……怒りや恐怖、パニックからそう見えていたのだと錯覚していたが、そういうわけじゃなかったんだな。


「……わっくん」

「……大丈夫、大丈夫。もうオレは日和を傷つけないから」

「えっへへ! ……うん、大丈夫、大丈夫っ!」


 不安げな表情で此方を見る日和の頭をそっと撫でる。


「……わわっ!?」

「うおっ!?」


 しばらくノイズが走った後、爆音が耳に響く。

 音の方向を見ると、蛇の身体を『剣の形をした炎』が貫いていた。

 あれは……中層でも見たやつだ!


「わ、わぁっ!?」

「なんだっ!?」


 しかし、中層の時とは違って、現れたのは階段ではなく……

 さそりだった。


 蛇の燃えかすが形を成して、真っ黒な蠍と化した!


「えっと! これが下層の真のボスってことかな!?」

「ああッ! 気合い入れていくぞッ!!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ