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『声しか知らない今日の子と、誰にも言えない今日の事』

作者: そっとしておいてよ。


「ごめん、全部忘れよ。」


僕は今日という日を忘れなければならなかった


コーヒーとタバコを持ってベランダに顔を出す


喫煙者のモーニングルーティンの幕開けだった


もう冬になりゆく季節の変わり目ってやつで


吐く煙が一層白く解き放たれていた


今日の予想最高気温は21度


天気は晴れ


「ふぅ」


これからワンダーランドに行くわけでも無いのに気分が良い


「ただ吉祥寺に行くだけなのにな」


ボサボサの長髪をダッカールで止め鏡越しの自分に目をやりながら身だしなみを整える


最近のお気に入りのカーディガンを羽織って小田急線へ乗り込む


小田急線から中央線へ


いつになく早く着いた吉祥寺に君がいた


それはもう感動だった


上京して念願の吉祥寺だったうえに初対面の君が隣ときたもんだ


前々から交流があった君とは会う機会がなく今日が初めての出会い


傍から見たらカップル


そう思われていたら面白い


カップルなんてもんじゃない初対面なんだって言ってやりたい


声しか知らなかった君がここにいる


感動だった


「声しか知らない子」


何気ないただの井の頭公園が


僕とその子の会話や雰囲気でワンダーランドにいるかのような気分に陥っていた


歌も上手かった


例えるならそうkojikoji


日も暮れてモスコミュールを半分ずつ


酔った僕に寄り添う君が僕の肩に身を任せて電車に揺られている


僕は京王線に揺られながら眠りについて


起きたら君と手を繋ぎ


ベッドでキスを交わしていた


ベッドが揺れて軋んで


その子の顔に声に体に


僕は興奮を抑えられなかった


外は寒いはずなのに


安いホテルの壁なのに


僕とその子は熱く火照っていた


...今夜だけは隣にいさせてよ


「タバコ吸わないの?」


ベッドの上で裸の君が可愛い顔して僕を見る


タバコを咥えて火をつけて


もう会えないだろう君との今日のことを思い出の1ページに綴るように脳裏に刻んだ


酷く切なく辛い


「じゃあ出よっか」


「うん、楽しかった」


手を繋ぐ僕と君は別れ際に抱き合い


2人口を揃えてこう言った


「バイバイ」


別れて数時間後


家までの帰り道につく僕は


1通の君からのメッセージが着ていることに気づいた


心の中で喜びながら携帯を開く


「ごめん、全部忘れよ。誰にも言えない今日の事」


僕は呆然とした



良ければ @poet_me1h0

こちら私の作品を投稿しているInstagram(インスタグラム)です。


あなたの心に刺さるような短編小説を!

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