‐回想‐
天井のシミの数を数える。
1・・2・・・3・・・・
その数が記憶するものの数を超えるとき、数えるのをやめる。
聞きなれない古いラブソングが耳の中をかき回し、現実であることを私の意識に叩き込む。
部屋の外からは何人かの冷たい足跡が聞こえる。
畳の硬さが薄い敷布団越しに伝わってくる。
まどろむ意識の中で体制を横に向ける。
眼前で見慣れない大きな繭のようなものがもそもそと巣を作っている。
「おはよう。」
その音に反応し繭は少し縦に伸びた後、その巣穴をこちらに向けた。
「おはようございます。寝れましたか。」
「いいや、今日も無理だった。ただ、これだけ寝なくてもここが現実なんだということはわかってきた。先に顔を洗ってくるよ。」
畳を踏みしめ、サンダルを履き、部屋のドアを開ける。
廊下を通り、角を右に曲がり、トイレに入る。
洗面台で顔を洗い、目の前の鏡に映った疲れ切った男の瞳を覗き込む。
その瞳の光は薄れていた。
そう、私は2日前ここに連れてこられた。
ここがどういう施設かも何が起こったのかもわからないまま。
しかし、今は理解している。
私はここに連れてこられた。
騙され裏切られ、
そして誘拐されてきたのだ。