魔王、襲撃にあう
「で、何%の力を解放すれば酔っ払い程度を追い払えるんだ?」
「100%だな」
「嘘つけ!お前最強の魔王だろうが!」
「……50%」
「それも嘘だな。な、正直に言おうぜ?」
ノロイは窓に腰掛けると、水をコクリと一口飲んで喉を潤した。
我はやりたくないが、両手の指をツンツンしながら、上目遣いに頼んでみる。
「……せめて、10%で頼む」
「10%か。じゃあ、試しに10%解放だ」
ノロイはそういうと、我の頭に右手を載せて魔方陣を発動する。
「よし、解放完了だ」
「ふはははは、バカめ、我の力が10%もあればこんな呪いなぞ吹き飛ばせるわ!これで世界征服再開だ!」
我は全身に魔力を込めて呪術具の呪いを吹き飛ばす!……はずだった。
「だと思ったよ。やっぱり解放はなしな」
魔方陣は見せかけで、まったく力が解放されていない。我はノロイの足に縋りつくと、お願いをする。
「頼む!1%、1%でいいから解放してくれ!酔っ払いにすら勝てないなんて耐えられぬ!」
「で、1%でどれだけの力になるんだ?」
「そうだな、オーガを指一本で倒せるくらいか?」
我はほっぺたに指をつけ、自分の実力を思い出しながら正直に答える。
「あほか!オーガっていったら魔物の中でも上位じゃねーか!却下だ却下」
我はがくりと四つん這いになる。我はもう、ただの村人として生活するしか無いのか……。
「しゃーねーな、もう。0.1%だ。何かあったらまた考えてやるよ」
「おぉ……、ありがとう、本当に、ありがとう」
我は感激して涙を流す。人前で泣くなど、生まれて初めてかもしれぬ。
「それはそうと、もう一回お湯を取ってこい」
「わかった、我に任せよ!」
我の実力の0.1%のと言えば、ゴブリンジェネラルくらいか?まあ、酔っ払い程度には勝てるだろう。
酒場に戻ると、先ほどのやり取りを見ていたせいか、もう絡まれることは無かった。
お湯を持って部屋に戻る。上半身の服を脱いだノロイはタオルをお湯につけると、体を拭きはじめた。
「包帯は取らぬのか?」
「ああ、これを取るわけにはいかねぇな、今は」
「そうか。じゃあ、我もお湯をもらおう」
ノロイを見習い、胸の布を取ると、タオルで拭く。すると、ノロイが吹いた。
「おまっ、美少女の体でそういうことするか!?俺にやらせろ!」
ノロイは我からタオルを奪い取ると、全身を拭いてくれた。おぉ、なんか支配者の頃に戻った気分だ。あのときは、絶世の美女サキュバスや、美女ドラゴニュートが拭いてくれたものだ。
「うむ、苦しゅうないぞ」
ノロイは、ハァハァ言って拭いているので、正直気持ち悪いが、こいつの好きにさせるか。
「ふう、綺麗になった」
ノロイはまるでお気に入りの人形を丁寧に拭けた様な、すがすがしい顔をしている。実際、我は人形だけどな。
その夜。心配しているような事は起こらず、ノロイはぐっすりと寝ている。我も寝ていたが、何かの気配を感じて目が覚めた。
「おい、ここの部屋か?美少女が居るっていうのは」
「ああ、変な術を使うやつがいるが、ハゲのお前なら大丈夫だろ」
一人は聞いたことのない声だな。もう一人は我に絡んだ酔っ払いだな。
ギィと静かに扉を開け、2人の男が入ってきた。我は寝たふりを続ける。
「よく寝てるな、よし、さらえ!」
ハゲが麻の袋を出すと、我にかぶせようとする。そこで我は、右手でハゲの顔面を掴んだ。
「いてててて、痛え!」
「何してるんだよ、ハゲ、そいつはただの少女だぞ!」
仲間にもハゲって呼ばれているのかこいつ。それに、我はもうただの少女じゃないがな。
我はそのままギリギリと右手に力を入れると、ハゲは泡を吹いて気絶した。
「やべ、じゃあな!」
酔っ払いは慌てて逃げ出そうとする。
「ちょっと待てや」
さすがに騒ぎに気付いて起きたノロイが、人形を操る。酔っ払いの人形、まだ持っていたのか。
ノロイは人形の首を徐々に捻っていく。
「いだだだだ!許してくれ!」
「やだね」
ノロイはそのまま捻っていくと、120度くらい捻ったあたりで酔っ払いは気絶した。
「マオ、そのハゲは金を持っているか?」
ノロイは酔っ払いの方の懐をあさるが、何もなかったようだ。我はハゲの懐を探ると、金の入った袋を見つけた。
「あったぞ!」
我は袋をノロイに投げ渡す。
その後、ロープでぐるぐる巻きにして廊下に放り出しておいた。そのうちだれかが片付けるだろう。
我はあくびをすると、再び寝た。