魔王、酔っ払いにからまれる
酒場の2階から宿になっているようで、カウンターにいる恰幅のいいおばさんに話しかける。
「おばちゃ~ん、2人部屋空いてる?」
「あいよ、隣の可愛い子は彼女かね?」
「いんや、妹」
「嘘つくんじゃないよ!似ているところを探す方が難しいじゃないか」
「てへ、ばれた?」
もともと隠すつもりも無さそうに見えるが。
「で、一緒に泊まるのかい?1泊は大銅貨3枚だよ」
この世界の通貨は、小銅貨は10枚で中銅貨、中銅貨は10枚で大銅貨、大銅貨10枚で小銀貨、小銀貨10枚で大銀貨、大銀貨10枚で小金貨、小金貨10枚で大金貨だ。
「我は一人部屋を所望する」
「あ?んな金ねーよ。もっかいダンスするか?」
「うっ、今日は一緒の部屋で我慢してやる」
そもそも、我は命令に逆らえぬから、「一緒に泊まれ」と命令されれば逆らえぬ。
「あいよ。風呂に入りたかったら、お湯を沸かしとくからあとで取りに来ておくれ。」
我はノロイと2階へ上がると、2人部屋に入る。一応、布団が2つあるので、男同士で一緒に寝るという最悪の状況は避けれそうだ。
「じゃあ、マオ。命令だ、お湯をとってこい」
「ぐ、いつか覚えていろ!」
我は1階につくと、厨房へお湯を取りに行く。お湯をもらって2階へ向かう途中、酔っ払いから尻をなでられる。
「何をする!死ね!」
我は魔力を込めようとするが、まったく魔力を込めることができない。
「おいおい、可愛い顔して怖いこと言うなよ。ほら、お酌してくれれば小遣いやるからよ」
魔力が込められなければ、人間のただの少女と同じような力しかなく、酔っ払いに肩を抱かれても、嫌でも抵抗できない。
「や、やめろ!我は男だ!」
「ああ?酔っぱらってても男女の違いくらいわからぁ、ほれ」
酔っ払いは小さな我の胸を掴む。我は頭に血が上ってその男の腕に噛みついた。
「痛え!何しやがる!」
「お前こそ何をする!」
我と酔っ払いが睨みあっていると、なかなか戻ってこない我の心配でもしたのか、ノロイが下りてきた。
「マオ、遅いと思ったら何をやってるんだよ」
「こやつが我の尻と胸を触ったのだ!」
「あ?何してくれてんだ酔っ払い」
ノロイが腕の包帯を取ると、魔方陣のような刺青が彫ってあった。その手で酔っ払いの髪の毛を1本抜くと、ポケットから小さな藁人形を取り出した。
その人形に酔っ払いの髪の毛を入れると、人形の手を掴む。
「いてて、何だこれ!」
酔っ払いは逃げ出すが、痛みは逃れようが無いようだ。
「悪かった、金をやるからやめてくれ!」
「じゃあ、有り金全部置いて帰れや」
ノロイは男の懐から金の入った袋を抜き取ると、呪術を解除したようだ。
「いくぞ、マオ。今度から、最低限の自衛ができるように制限を緩めてやるよ」
「あ、ありがとう……」
むぅ、我は体の弱体化と共に、精神も弱くなってきている気がするぞ。