キール登場
「ここは、鬼人谷と言うそうよ」
我達は次の街に向かって歩いていると、ミレがそう教えてくれた
「おかしな人がいるのか?」
「それは奇人でしょ。鬼よ、鬼」
ノロイはワザとぼけたのだろう
「なんで、鬼人谷って呼ばれてるの?」
ライカが脱線した話を戻す
「昔、ここを通る人が食われたり、勝負を挑まれたりしたらしいわ。今はオーガの仕業じゃないかって言われてるのよ」
「へぇ、オーガ見てみたい!」
アクアは戦いたいのか、トライデントを構えた
「ぐぎゃあぁぁ!」
崖の上から、ものすごい大声をあげてオーガが落ちてきた
「何!何!」
アクアはとっさに逃げることができず、つぶされた
「大丈夫か?アクア」
「大丈夫よ」
そう言っていつもの半分くらいの厚さになったアクアがオーガの下から這い出てきた
「まさか、こんな形で攻撃されるとは思わなかったわ」
アクアは大きく息を吸うと、厚さが元に戻った。単純な体だ
「さあ、勝負ね!」
アクアは倒れているオーガに声を掛ける
「死んでるんじゃないか?」
仰向けになっているオーガを見ると、胸に大きく切られた傷が見えた
「わりぃ、わりぃ」
すると、崖の上から飛び降りてくる物が居た
「まさか、下に人が居るとは思わなかったわ」
「気を付けてよね!」
アクアは人ではないが、まあいいだろう
「オーガを倒したのはお主か?」
「そうだ、俺はキールって言う侍だ」
そう言ってキールは腰に差した刀を見せてくれた
「オーガを倒せるってことは、Aランク以上の冒険者ね!」
「俺は冒険者じゃなくて、侍だが?」
「よく分からないけど、勝負よ!」
アクアは戦えれば誰でもいいらしい
「あ?勝負してもいいが、女でも手加減はしないぞ?」
キールから殺気が漏れるが、アクアが死ぬとは思えない
「いいわよ、さあ、かかってらっしゃい!」
アクアはトライデントを構える。キールは刀を抜かずに構える
先に動いたのはアクアだった。待てない性格なのだろう
「たああ!」
アクアはトライデントで突く
キールは半歩右へ進んで避けると、刀を抜いてアクアの胴体を斬った
アクアは勢いのまま上半身がずれて地面に落ちる
「大したことないな」
キールはそう言って刀の血を払うと、鞘にしまう
「お前たちもやるのか?」
すでにアクアに興味は無いのか、次の挑戦を受けるようだ
「まだ終わってないぞ?」
「あ?もう死んだだろ?」
そう言っている間に、アクアは上半身で下半身を掴むと、くっつけた
「ふぅ、あぶないあぶない」
「あぶないどころじゃないだろ! 人間じゃないな!」
キールはギョッとした顔をして離れる
「私は人魚よ!」
「人魚だと? 人間と変わらない見た目なんだな?」
切っても死なないアクアを見て、人魚だと言う事は信じたようだ
「呪いのアイテムよ!」
そう言ってネックレスを持ち上げて、チャラリと鳴らす
「死なないのかどうか、試してやる!」
キールはそう言うと、アクアを縦に真っ二つにする
「ちょっと、服は再生しないんだから止めてよね!」
「気にするな、どうせ着られなくなる」
キールは目にもとまらぬ斬撃で、どんどんアクアは細かくなっていく
すでに100個くらいにバラバラになったようだ
「これでも再生できるか?」
すると、心臓っぽいものが先に再生し、それを中心に肉片が集まっていく
「あっ、人魚に戻れたわ!」
見ると、細切れになったおかげでネックレスが外れたようだ
「そういう外し方もあるんだな」
ノロイは感心したように言うが、それができる人間は居ない
「・・・本当に人魚だったのか」
キールは再び刀の血を払うと、仕舞った
「もういいのか?」
「殺せそうにないのでな」
アクアも、人魚に戻ったせいで呼吸ができなくて口をパクパクしている
もう一度アクアにネックレスをかけて人間にした
「服を着なさい!」
ミレが予備の服をアクアに着せる
「今更だが、お前たち、何の用だ?」
そう言われるが、我達はただ谷を通っていただけだ
「次の街に行きたいだけだが?」
ノロイが答えた
「なら、一緒に行こう」
よくわからないが、一緒に行くことになった




