カタストロフの依頼
あらすじ
アイマ領主城のやってきた。領主のカタストロフとは意気投合する。そして実はエルランティーヌ派だったことがわかり、けしかけるように仕向ける。
カタストロフとの話は夜まで続いた。
王国の在り方や愚痴が大半だった。短い期間だったけれど、エルランティーヌ女王の治世が一番活気に満ち溢れていたそうだ。
周辺諸国からも交易が多少あって、王都からの人の往来も多かった。人が来れば物も入って来る。そして税収も増える。
だが今に至っては、人は疎ら。周辺諸国とは断絶状態。さらに王国に支援の申請をしても役人がふんぞり返って何もしない。
特に王国軍はひどかった。
王国軍は何も防衛だけが仕事ではない。警戒や警備、それから災害対応も仕事の内にはいっている。
北部の高山で大規模な雪崩があった時には大勢の死者を助けられたのに、すべて見捨てられて数百人規模の死者が出たそうだ。
ここに来てシルフィの仕出かした人災がさらに増えた。もちろんそれを責めるつもりはない。事の発端はボクなのだから、その罪もまとめて引き受ける予定だ。
「そこで一つ頼みたい」
「……内容次第かな?」
「……私はエルランティーヌ派であるが、ロゼルタ派にも情報が漏れる可能性はある」
そう言った途端に、クリスティアーネがカタストロフの近くにヌルリと迫り、にらみを利かせる。
「……ぐぇへへ……し、死霊になりたいのぉ?」
「……うわぁああ⁉」
「や、止めてくださいぃいい!!」
……ボクは知っている。
こいつはこの依頼をこなせば、秘密を担保すると言っているのだ。だんだんとカタストロフの性格が見えてきた。
「お、おいアシュイン‼ わかっているだろ⁉ この娘止めてくれぇ‼」
「あっ⁉」
すでにカタストロフの霊魂が半分出ていた。護衛騎士が必死に止めようとしている。これ以上出ると戻れなくなって生きる屍になってしまう。
「クリスティアーネ‼ 止まって! 止まって!」
「……ぐぇへぇ?」
「逆だから! 依頼をこなせば、秘密を守るって言っているんだよ」
「ほ、ほんとぉ?」
大混乱の末、何とかカタストロフの霊魂を身体に戻すことができた。これは彼が回りくどい性格なだけではなく、立場の問題もあった。でもクリスティアーネの前でそれをすると霊魂が離脱することになる。
一度抜けかけて、エネルギーを大幅に消耗した彼は、消耗して気怠そうに長椅子にもたれかかっている。これ以上はすこし可哀そうなので話を進める。流れから依頼はなんとなくわかっていたのだ。
「雪山の……ご遺体の捜索ということでしょ?」
「ふふ……お前は本当に察しがいいなぁ」
カタストロフが提示したのは雪崩後の遺体捜索。
行方不明になっている家族は諦めきれずに、毎日お願いしに来るそうだ。この領の騎士は警護だけで精一杯でとてもじゃないがそんなことはできない。
おまけに高山でもアイマ領北部の麓は一年中雪が降る特殊な気候だ。このままでは一生捜索などできない。
「なんとか国を動かせないか?」
「ボクがやれば……一週間以内にはおわると思うよ」
「はっ⁉ ……そんなことができるのか?」
目を丸くして驚いている。
それに国を動かすということは、シルフィを今すぐ動かさなければならない。説得もなにも今の彼女にボクの言葉は届かない。
であるならボクがやってしまった方が早い。
「今は目立ちたくないから、王国軍がやったことにしておいてくれるか?」
「構わないが……いいのか?」
「ああ……」
王位継承の儀の準備はまだまだかかる、時間的にもかなり余裕があるし、期日が近づいてくれば召還命令が下る。
このままこの依頼を始めてしまって問題ないだろう。
次の日には領の騎士団から十名ほど借り受けて現地へやって来た。
彼らは主に棺への詰め込みと、遺族の為に並べていく。ここであれば気候のおかげで掘り起こしたとしても一週間以上遺体がもつ。並べて最後のお別れをする会場の設営も彼らに任せる。
「アシュイン様、我々は発掘作業をやらなくて良いのですか?」
「うん。 一緒に拭きとんじゃったら死んじゃうでしょ」
話しかけてきた騎士団班長の男性は、おずおずと手伝いを申し出るが断った。
雪崩後の場所をみると既に凍っており、アイスバーンとなっていた。堅い雪質なので、人力で掘り起こしていたら一体見つけるのにも数週間かかってしまう。
ご遺体が埋まっている場所は、魔力の残滓を辿る。この方法だとおそらく二割は取りこぼす可能性があった。
クリスティアーネが手伝ってくれるというので、死霊を辿ることができる。その方法であれば全員みつけることができるだろう。
「寒くない?」
「うぇへへ……へ、平気……あのあたりに……え、えーと……二十七体埋まっているよぉ」
「ありがとう……ふっ!!」
剣を突き立てると、地面がどぉおんという大きな音を立てて爆ぜた。堅い質の雪が粉砕されてキラキラと舞う。
吹き飛んだ先には彼女が言っていた数のご遺体を発見した。
「ご遺体はお願いします」
「は、はぁ……なにこれぇすげぇ……あっ! ご遺体回収!!」
惚けていた班長は、はっと我に返り慌てて指示を出す。この要領で何回も粉砕しては回収を繰り返した。周囲の村人たちは危ないので避難してもらっているから、かなり雑に粉砕している自覚はある。
でもやはり気温が特に低いから、クリスティアーネや団員たちを長い間ここにいさせるのはあまり良くない。速度重視で掘っていく。
何度も村に大きな粉砕音が響き渡った。この音でまた雪崩がおきそうなので、ある程度回収がおわったら、長居せずに撤収する。
「さぁ今日は終わりだよ! また明日おねがいします!」
「うぇへへ……おお、おつかれさまぁ」
「お疲れ様。ごめんね。手伝わせて」
雪崩の二次被害の可能性は十分あったので、毎日領主城へ戻って泊る。寝ているうちに埋もれていたらボクでも脱出は難しいかもしれないからだ。
それから四日目の午後には周囲にもうご遺体が見つからなくなった。
クリスティアーネのおかげで、効率的に進んだということもあった。それにアイマ領騎士も張り切ってくれたおかげで、棺やお別れの式典会場の準備も順調だ。
ご遺体名簿に載っている人数はほとんど揃っている。残すところ四体分だ。
「うぇへへ……も、もう死霊ない……」
「うーん。行方不明ってことか。 ん?……この名前……」
この特徴的な名前……もしかして召喚勇者じゃないだろうか。もしそうだとするなら生きている可能性の方が高い。
行方不明者、名簿
…………
タカオ
ナオコ
スミレ
ジン
…………
…………
「よし、今日は撤収して完了したことを報告しよう」
この四名の捜索は必要ない。むしろ警戒が必要だ。
お別れの式典会場も領主城へ変更することにした。ここでさらに崩落を起こされたら最悪の事態になる。
その旨を皆に伝えて、ご遺体はクリスティアーネの亜空間書庫を利用する。数回行き来すれば問題なく今日中にお城へ運び込めるだろう。
総勢二百三十四名のご遺体を数回に分けて運び終える。最後のご遺体を運び込む頃にはすでに夜になっていた。
「急な変更で、申し訳ない」
「警戒すべきことがあったんだろう?」
召喚勇者が名簿に含まれていたことを話すと、すぐに奴らが崩落を人為的に起こした可能性に行き着いたようだ。
するとカタストロフは執事に別の部屋から書類を持ってくるように命じた。
届けられた書類はレイラが作成したと思われる『召喚勇者名簿』だった。
ボクたちが使っていた遭難者名簿と照らし合わせている。
「やはり……四名とも召喚勇者で間違いないな」
召喚勇者の多くは、自分で考えることをしない連中だった。アミやナナでさえ魔王城で色々なことをしていくうちに考えるようになったが、はじめはそうではなかった。
この四名も同じであれば指示していた人間、もしくは雇い主がいるはずだ。
「誰の差し金だと思う?」
「お前もそう思うか……うーむ」
持ってきた書類のいくつかを目を通してみる。すると人間関係の相関図と行動記録があった。それから帝国へ亡命した召喚勇者の名簿。
「ん……これみて……四名はそれぞれ恋仲と相関図に書かれている」
「ああぁそうだな」
ただしナオコとスミレという女性二人は、王城滞在中に別の男性召喚勇者と何度も夕食後の部屋に訪れている記録が残っていた。
「……それが?」
カタストロフはあれだけ鋭い洞察と政に長けているのに、男女の機微に疎い。ここまで示しても気がつかないようだ。
「……うぇへへ……う、浮気だよぉ」
「その通り! ……で、こっち」
亡命者名簿を見せると、二人は気づいたようだ。名簿の中には逢い引き相手の男たちの名前があった。
つまり女の子二人は間者の可能性が高い。
「お前……すごいな」
「……ははは」
あまり自分を卑下したくないけれど、それなりに何度も騙されてきて疑り深くなっているだけだ。
そうなると元恋人の二人の男の子が気になる。雪崩に乗じて殺された可能性が高い。
「明日、一日だけ捜索をしてみるよ」
「男は殺されているかもなぁ。 どちらにしろ、見つけたほうがよさそうだ」
召喚勇者ならば特殊な能力で生存している可能性もある。
ただ召喚されて裏切られて孤独死しているかもしれない男二人は、天涯孤独な自分の将来を見ているようで放ってはおけないだけかもしれない。
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