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勇者が世界を滅ぼす日  作者: みくりや
第五部 鎮魂歌
93/202

脅迫

あらすじ


シルフィに再会できたが、彼女は変わり果てていた。そんな彼女に発起し、契約白紙化の方法を模索することになった。



 城内を歩いて、彼女の元へ向かう。

 ボクをみた貴族や騎士は、怖がって近づかない。

 捕まえて手柄を上げてやろうというやつもいた。でも剣で切裂こうが、槍で突き刺そうが無視した。

 彼女と会う前に城内の人間に手を出したくない。



 彼女の部屋の前にくると、扉の横に立っていた男女の護衛兵が、いきなり剣を抜く。すでに情報は伝達され、ボクの事がわかっているようだ。



「ここは通さない」

「首を獲れば昇進よ」



 この場でくだらない事を言われて邪魔されると、殺したくなる。ボクはいまふつふつと湧き上がる自分への怒りと、悲しみでどうにかなりそうなのだ。



通してくれる(・・・・・・)?」



 そう言ってにこりと微笑む。

 今は面倒ごとより目的を最優先したいから、殺気を飛ばすだけにしておく。

 二人には明確な未来が見えたはずだ。



 ――臓物をぶちまける自分を。



「……ひっ!!」

「……あ……あ……」



 女の方はだらしなくお漏らしをしている。男は涎を垂らして惚けている。

 やはり王国騎士団は一年も経っているのに成長していない。シルフィは本当に絶望して騎士団長の真似事をしていただけのようだ。

 それから目の前の扉は一向に開く気配がないので、無理やり開けた。

 鍵がかかっていたが、ばきんっと中の仕掛けごと捻じ切る。



「……っ!!」



 部屋の主人からは恐怖の声が上がる。

 開けて中に入ると、待機していた女騎士四名が襲い掛かって来た。けれどボクはそれを受け流すこともしない。



「楽しい?」

「なんで!! 斬ったのに!! 血が出ているのになぜ平気なのだ!!」

「いや痛いよ。でも安心して。やり返さないから」



 部屋の奥でロゼは怯えていた。女騎士たちは完全に意思を失い、外にいた騎士と同じように漏らしている。



「お久しぶり。ロゼ」

「え、えぇ……ひさしぶりです。アシュイン」



 彼女と懐かしんでいる暇はない。それに操り人形とはいえ、今の王国を壊した一人でもある。その責務は果たしてもらう。



「キミの血をもらいに来た」

「……こ、殺す気ですか?」

「いや。一年前の予定通り、禁書書庫を見させてもらおうと思ってね」

「……国家転覆の容疑者に許可は出せません!」



 別にこれはお願いではない。命令でもない。ただの強制だ。立場を悪くするこの役目をエルにやらせたくないから彼女にお願いするのだ。

 否定して押し問答する時間がもったいない。彼女の頭を少し小突き、気を失わせる。そして抱きかかえて図書室へと向かった。


 歩いて向かっているが、後ろから別の騎士が数名、じりじりと着いてくる。先ほどの様子をみていたのか、ボクに斬りかかれないでいる。もちろんか待っている暇はない。





 図書室に着き、奥の禁書書庫へ通じる部屋に入る。

 魔法陣の部屋で、彼女の指先を少し切る。一滴垂らすと魔法陣が輝き、ボクたちを包み込んでいった――




 またここへやってくることができた。

 あの頃の様子を思い出して、喪失感が沸き上がる。アイリスを追い続けて焦っていたけれど、今よりは余裕があった。きっとシルフィがいてくれたからだ。

 ボクの中の彼女が、こんなにも大きくなっていることあらためて気づかされた。


 感慨にふけりながら、禁書書庫の中央にある水晶に手を触れる。

 以前シルフィが教えてくれた、書物の検索ができる優れた魔道具だ。まずはシルフィについて調べる。



「精霊、精霊の契約」



 ヴゥウン!



 すると三冊ほど文献が表示された。ちょっと多いが、見落とさずに目を通そう。

 棚から本を持ってきて読む。




『人間に宿る精霊に関する研究』


 精霊の宿り先は、現世にあるものすべてが該当する。それは人間も例外ではない。ただし人間に宿るのはある条件下のみ起こりうる。

 清い場所、芳醇な魔力地場である森林や泉であること。純粋な死体である事である。

 また死体は精霊自身が修復可能な範囲である事が必要である。もし死体が修復不可能な場合は宿ってもすぐに肉体と共に死んでしまう。

 以上の事から、人間に精霊が宿るのは稀である。

 宿った人間の精霊は実態があり、両特性をもった生命体へと進化する。






 『両特性をもった生命体へと進化』という記述が気になった。この禁書書庫に蔵書されるものの中に特に『進化』という言葉は重要な基準になっているようだ。

 そして禁書として扱われているということは、人工的にやろうとしたものがいたはず。その成果物がシルフィなのかもしれない。

 シルフィは純粋な精霊ではなくなっている。ここに何か手掛かりがありそうだ。







『魔石に宿る精霊に関する研究』

 魔物から排出される魔石に精霊が宿る場合がある。通常、精霊は物に宿る精神体で実体はないが、魔石に宿った場合は例外である。

 魔力を外部から吸収し、満たすと実体化し意思を持って活動する。その為外部魔力が一定量保たれる場所においては、ほぼ永久機関を実現する。

 これを利用して代々守るべき遺跡、墓に利用するものがいた。彼らは造物主と呼ばれ、魔女や精霊より上位の存在である。伝承する場合にも利用されている。

 ただし現在多くの魔力地場は、結界により封印されている。






 ボクが出会ったシャムも魔石に宿る精霊だった。永久機関であるなら、もしかしたらまた会えるかもしれない。

 それより『造物主』という単語が出てきた。神剣の祠は造物主が関わっているということだ。なんとなくその字面を見ると、神のような存在に感じる。でもこの記され方だとどちらかというとそういう種族という印象だ。

 これについても気に留めておこう。







『悪魔および精霊の契約に関する考察』


 魂を繋ぐ儀式。効果は種族間で異なる。

 主に体液交換による契約が一般的。愛という感情を利用し、魂を繋ぐ行為である。魂に作用させるため、契約者の片方、または両方が悪魔、精霊、魔女など上位の生命体でなければ成立しない。

 また魂を繋ぐため、基本的に解除は出来ない。ただしき―― 片方に裏切りがあったともう片方が認識した場合に、契約の不履行が発生する。そして反故にした相手を死に至らしめる。

 また相手が死去した場合でも契約は保持される。




 『最後の一文』と『解除できない』という部分。そこまで強固なのに、魔女の口付けだけでここまで簡単に解除されてしまった。

 それによくよく考えたら、アイリスの契約をクリスティアーネは改変している。除去も可能だといっていた。魔臓が存在する悪魔だからだ。

 しかしその記述がない。

 見落としているのか、情報が古いのか。




 気になってその書籍を読み直す。文字が途中で切れてインクが滲んでいるところがあった。

文章の中頃の『ただしき……』のところでインクを指でぐしゃりと潰したようになっている。

 記述した人間がそれを記すことを思い直したということだ。

 禁書書庫に納められる書物にすら表記出来ないものがこれにはある。



……ただしき? 正しき? いや……『ただし、き~~』が文脈に合致する。





 これ以上はこの本からも分からない。

 直接的に堪えを見つけることはできなかったが、重要な手がかりをいくつか見つけた。造物主もこの問題に関係がありそうだ。

 さらに造物主に関する書物を検索してみる。



『禁忌の書』

 この書の閲覧権限がありません。


『神の怒り』

 この書の閲覧権限がありません。



 ……もしかしてこれだろうか。

 『ただし、禁忌の書~~』であるならしっくりくる。記そうとして思いとどまるような内容は、禁忌の書という表題に相応しい。

 ただ二冊とも見ることができない。はじめの項に閲覧権限がないと書いてあるだけで、以降は何も書かれていない。

 少しお借りして、心当たりにあたるしかないだろう。






「うぅ……う……」




 随分と時間が経っていたようで、ロゼが目を覚ます。少し戸惑っているが周囲をみて禁書書庫に来てしまったことに気がついた。



「気がついたようだね」

「……ア、アシュイン……無理やり連れてくるなんて……さすがは犯罪者ね」



 睨みつけてくるロゼ。しばらく見つめ合う。

 ロゼルタは少し大人になった。ただ心は子供のままだ。少しだけ殺気を送り、彼女にお願いをする。



「あれから何があったか、教えてくれる?」



 ――彼女はびくりと、青ざめる。

 女騎士たちと違いすぐに漏らさないあたりは、彼女の方が精神的に強いのだろう。



「うっ……い、いいでしょう」



 ボクへの恐怖心で、簡単に語りだす。

 ロゼルタはボクの転覆容疑を真に受けているから、そのまま感じたことを話してくれるだろう。変に気を使われないほうが、事実を知ることができる。



 締約会議でボクの立場は低いものだった。表舞台に立つのはアイリスに任せたからだ。それにもかかわらず、アイリスやシルフィたちに重要視されている邪魔な存在であった。

 だからか、魔王領を手玉に取って王国も謀ろうとしていると思われていた。

 ロゼルタ姫を推したことを文官たちは喜んでいた。ただ宰相はボクが良からぬ事を企てていると睨んでいたそうだ。

 だからあんな条件を出した。案の定、一番大事な場面でボクは謀って姿をくらませた。



「ロゼ……いやロゼルタ姫はそれをどうお思いですか?」

「懐かしさで貴方にほだされてしまいましたが、やはり謀っていたのですね」



 完全に宰相の思惑通りに、すでに思考回路も彼に服従してしまっている。彼女の境遇は不憫であるけれど、今はシルフィや魔王領のみんなだけで手一杯。



 ……優柔不断はもうやめだ。



 最優先に考えるならば、彼女は今の考えのままで利用するべきだ。

 正すことをしないで先を促す。




 シルフィ騎士団長代理は最後まで抵抗して、ボクが期日までに戻り約束を果たすと明言していた。しかし戻らなかったため、賭けていた騎士団長に正式に就任させられてしまう。

 この時点でエルダートは既に切られていた。



 シルフィ騎士団長はあれ以来、あの変な口調はしなくなった。王国騎士団は彼女のおかげで統率は以前より取れるようになっていたが、個々の能力は何も変わらなかった。

 それどころか上の指示に従順に従っていたシルフィは、結果を出していないのにその地位に居座る老害と化した。


 そんな怠惰な日常を送るシルフィに正確な判断が出来るわけがなく、王国軍はすぐに帝国軍の侵攻に大敗し、大量の戦死者を出してしまう。



 立場を追われたシルフィは魔王領へ助けを求めるが、断られてしまった。

 宰相に迫られたシルフィは、アイリスやベリアルに無断で魔王軍の遠征警備にあたっていた部隊を使った。

 帝国の侵攻を食い止めることに成功したが、気を良くした宰相はさらに帝国へ攻め込む指示を出したのだ。


 シルフィは命令に従い、魔王軍の部隊をつかって帝国領へ侵攻した。帝国も黙っているわけがなく、召喚勇者を使って防衛線をはる。

 結果、魔王軍の侵攻部隊は全滅。


 これにより魔王領は激怒し、締約は破棄することとなった。シルフィは魔王領に居場所がなくなってしまったそうだ。


 ただ王国軍としては帝国の侵攻が魔王領へ分散したため、攻め入る勢力が減ってわずかな利を得たのだった。

 この功績で首の皮一枚つながり、それからは王国に骨をうずめる覚悟で騎士団長の仕事に邁進していると言う。



「あのシルフィ騎士団長は浅はかで使えません」



 ……ふざけるなよ。



 確かに今のシルフィは浅はかで、自分の立場を守るだけのひどい有様だ。すでに何万人と命を無駄にしただろう。

 でもここでただふんぞり返って愚痴を言うだけの人間に言う権利などない。

 怒りを感じながらも、さらに先を促す。




 一方魔王領は、シルフィの独断で悪魔を大幅に減らしてしまった。

 帝国軍の侵攻は、その距離も相まってすべて防衛している。それ以来被害を拡大させてはいないが、トムブ村とライズ村の小さな交易すら禁止された。

 間者も入り込めない鉄壁の要塞と化しているそうだ。彼らが安全なのは良いが、ロゼルタの方にはそれ以上の情報が無い。



 そして今まで話に出てきて来なかった教会について。

 彼らはグランディオル王国を完全に撤退した。一時はロゼルタ派と手を組み、覇権を牛耳るつもりでいた教会とヴェスタル共和国。しかし宰相の治世となると、状態が良くない。

 殺戮を繰り返す治世の国とその派閥に加担するのは憚られたのだ。


 だが農業が盛んな国境沿いのアイマ領に攻め入られ、奪取されてしまった。共和国の軍事力はかなり低いはずだったが、それすら勝てない今のシルフィ率いる王国軍は相当弱い。

 共和国も内部支配の方針は止め、正面からの侵攻でほしい物だけ掻っ攫うつもりなのだ。



 そんなグランディオル王国内も、エルが全く動こうとしないそうだ。あの時以来、完全に地位を失った女王。

 重要な地位にいる貴族は、すべてロゼルタ派で塗り替えられた。レイラも王宮魔導師の任を解かれ、現在行方不明。

 ボクのせいでエルはかなり悪い立場になってしまったようだ。



「ですから今やわたくしがこの国のトップなのです!」



 今の地位に満足している彼女。

 このままいくとロゼルタ姫は……。




「……おそらくキミは、ここを出たら拘束されて宰相に結婚を迫られるだろう」








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― 新着の感想 ―
[良い点]  まったりと読み続けていたら、突然、熱湯をかけられたような展開に!  続きが気になります。  
[一言] これ収拾ついてもシルフィの処分はなぁなぁですませられないレベルのような感じですね。アシュインが庇っても庇いきれない。ロゼルタも立場不味いなぁ。実質宰相が動かしてるけど責任はトップが取るものだ…
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