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勇者が世界を滅ぼす日  作者: みくりや
第五部 鎮魂歌
91/202

守り人

あらすじ


動けなくなっていたアシュインは王国騎士に川へ捨てられしまった。そのままカラド海へ流され、ついたのは小島だった。そこで祠を発見し、聖剣に『流麗』を宿した。そして……



 優し日差しが舞い込んできて、気持ちよく目が覚める。

 ここは本当に空気が奇麗だ。


 まだ寝ていたい気持ちはあったけれど、早く帰らなければならない。

 穴倉から外にでてさっそく船作りだ。


 沢山ある木のうち太いものを切り刻む。組み立て式の船を作る技術はさすがにないので、力技で削り出す。(かい)も同じ方法で作る。

 簡単な作りではあるけれど、浮けばあとはどうとでもなる。

 大まかな方向だけは分かったけれど、王国からここまでどれほどの距離があるのかが分からない。泳いで渡るという選択肢はできれば避けたい。

 結界の範囲を超えることができれば、あとはゲートを使う予定だ。



 作った船は、強度の限界まで薄く削り出しているから軽い。着水させてみたが、意外としっかり浮いている。

 これならよほど時化(しけ)でない限りは大丈夫だろう。



 さっそく(かい)で漕いで出航だ。

 島には念のためゲート魔法の魔法陣を施しておく。もし出られなかった場合に戻ってきて作戦を練り直さなければならない。




 二つの(かい)を両脇の窪みにはめ込み、漕ぎ始める。

 船を軽くするためにかなり細く流線形に削り出したおかげで、よく波を切って走ってくれる。

 天気が良くて波も穏やかだから、快適な航行だ。調子に乗って漕いだからかなりの速度が出ている。

 日をまたげば、流されて方向感覚を失う。できるだけ日が沈むまでにゲートを使いたい。




……


……


……




 三時間ほど漕いだが、結界の外に出た感じがしない。


 やはり通常の結界ではない。

 魔女の里やドワーフの里にあった封印結界だ。あれと同じものであれば出口を探さなければ、絶対に外には出られない。もしくは結界の魔道具を破壊するかだ。


 そして気がついた。

 ここにボクが流れ着いたということは、入ることを許可した人物がいるはずだ。その人物と交渉するほうが早い。

 ゲートを使って島に戻ることにした。結界内の移動は問題ないようだ。




 この島に来た時に調べた魔力のある場所へ向かうと、鍾乳洞を発見した。外周を調べた時には潮が満ちていたせいで入れなかったようだ。


 ここに住み着いている生物がいるはず。

 ごつごつした岩場の一部が削り出されて、人工的な加工がされた道になっている。それなりに高い知能を持った生物がいるということだ。


 ゆっくりと歩いていくと、少し登りの階段状になっている。

 数段上がっていくと、かなり広い鍾乳洞の部屋になっていた。木の椅子や机、藁の寝床など生活感はある。

 暗がりに何か生き物がいるようだ。



「話、出来る?」

「……っ」



 話しかけると、ほんの少し声を上げる。それは女の子のような声だ。



「……驚かせてごめんね」

「……大丈夫」



 大きく人懐こそうな目はこちらをじっと見ている。

 暗くてよく見えなかったが、この子は獣人だ。



「ここに住んでいるの?」

「……住んでいる。お前、結界に引っかかっていた」



 結界に大きな魔力の物が、波に揺られて何度もぶつかっていた。そんな状態をずっと放置しておけば、いずれ結界が壊れてしまう。本当にボクは迷惑なやつだ。



「帰らなきゃいけないから、結界を一時的に開けてくれる?」

「……話をしてくれたら」

「対価が必要なのか」



 すると近づいてきて、ボクの匂いを嗅いでいる。これでどんな人物か推し量っているのかもしれない。



「……オレ、シャム。 ここの守り人」

「ボクはアシュインっていうんだ」



 この子は見た目が獣人の精霊だった。そして女の子のように可愛らしいが男の子。獣人系は野性的なものを想像していたが、いまだ可愛い子しか見ていない。




 そしてボクはグランディオル王国や魔王領、ヴェクトル帝国、ヴェスタル共和国など近隣の情勢についても話をした。ただ難しい単語は分からなかったから逐一教えながらだ。



「お前、アタマいい」

「いやそんなことはないよ」

「知っていることじゃない。回転が速い。だからおもしろい」

「ははは……ありがと」



 ボクの話に満足してくれたようだ。話をしているときはちょこんとボクの膝の上に座っていた。彼は真性の精霊だけれど、しっかり実体がある。



「オレ、神の実が発現した時代にのみ生きられる。役目を終えたら寝る」



 神の実とはボクの事だろう。クリスティアーネが調べてくれた文献と一致する。シャムはその実以外の人間が来てしまった場合には排除する役目を負っていた。

 それからボクのような人間が発現していない時代には、この島は人間の認識外になるそうだ。



「祠の力を集めることを薦める」

「剣を強くする必要ないんだけど……」

「必要になる……ここに来られた奴には言っている」



 どう必要になるかは教えてくれないが、大体の位置を教えてくれる。

『北の地龍』、『東の陽炎』、『西の夜凪』、『南の流麗』、『地下の深淵』、中央の天命がそれぞれ神剣に宿るべき力。すべてを宿すと神剣としての役目を果たせる。

 ここは南にあたる場所で、昨日宿したのは『流麗』。

 他の場所でも守り人がいる。



「詳しくは他の守り人に聞け。オレ。全部言えたから眠る。……さよなら」

「もう会えないのか」

「そんな顔、しないで。最後、楽しかった。」

「……シャム」

「……あっ」



 そんな切ないことを言うシャムを抱きしめて撫でていた。何となく体温を感じることで、彼を忘れずにいられるという気がしたからだ。



「ふふ……最高の贈り物……アシュイン……お前……ほかと違う」

「……シャムをずっと……忘れたくないと思ったから」

「……あり……がと」



 ――そういって彼はふわりと消えていく。



 気がつけば膝の上には、魔石があった。

 霧散した彼の残滓なのだろう。空洞の奥には石でできた祭壇のようなものがあり、そこに魔石が置けるようになっていた。



 魔石を置き、頭を撫でるようにそれを撫でる。

 また時代が下って必要な時だけ呼び出される。そして結界を張ると言う繰り返し。何という残酷な宿命だ。

 きっとシャムも楽しい事を沢山したかったはずだ。


 でも彼に内緒で、ゲートの魔法陣を設置してある。だからまた来ることができるだろう。彼にはもう会うことは出来ないかもしれないが、出来ることがきっとある。

 またここに来ることを誓って、その場を後にした。







 浜辺に出ると、すでに結界がなくなっていた。

 時期に認識できなくなるので海路からはもう来ることはできないだろう。


 ボクは早速ゲートを使って帰ることにした。



 ヴゥン!!



 ……あれ? ゲートが発動しない⁉



 結界にさえぎられている様子はない。どちらかというと行先の魔法陣が無いような反応だ。今思い浮かべた場所はグランディオル王国だ。

 素直に魔王領にもどればいい。

 そう思って使うが……。



 ヴゥン!!



 ……やはり発動しない⁉



 王国のゲートは環境の変化で消される可能性はあった。エルの地位が落ちればすぐに対処されてしまうだろう。しかし魔王領のゲートが消されるというのは異常事態だ。

 一体何があったのだろうか。


 そこまでの変化はいきなり起こる事もない。

 つまりボクが流されていた時間は思っていたより長かったということだ。あまりに長い時間だったとしたらシルフィの魔力は大丈夫なのか、アイリスは代表としてやれているのか。

 とにかくゲートが使えないという事態は本当に問題だ。


 もう躊躇していられない。

 やはり王国も魔王領もきっと何か不味い事態に陥っているに違いない。だとすればあと一つ、おそらく誰にも目に付けられていないボクが設置したゲートの魔法陣がある。



 そこ(・・)へゲートを使うと、今度は成功したようだ。

 景色は白い光に包まれていく――







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