造物主への叛逆
あらすじ
無事公演演説を成功させたアシュインたち。しかし王国の王城へ戻るとクリスティアーネが虚血症で命の危機になった。そしてアシュインが命を分け与えたがその所為で……
ボクはいま土下座中だ。
そう、みんなの前で土下座をしている。
事の発端は、クリスティアーネに命を千切って分け与えたことだ。
ナナが去ってクリスティアーネの無事を確認した後、浴室に入っていた。お湯は使用人に頼まないとないので、浴槽に入っているだけだ。それでもそこら中にまき散らすよりはましだという苦肉の策だった。
しかし今回は吐血の量が酷くて、浴室中に血をぶちまけていた。そして浴室は閉めきりではないので、見回りに来た使用人に発見されてしまったのだ。大きな悲鳴があがり、城中は大混乱だった。
「……ご、ごめんなさい……」
「「……」」
それを見て以来、シルフィは青ざめてお腹にくっついたまま離れなくなった。アイリスも服の裾を掴んだまま放してくれない。
くっつかれるのはやぶさかではないが、無言なのは少し怖い。
二人にくっつかれたままの土下座は中途半端なものになってしまった。
……これはもっと何か別のお詫びしないと。
「……アーシュ、もう大丈夫なのね?」
「ああぁ。騒がせたね、エル」
「本当ですわ! のちほどの会議には出席なさってくださいね?」
「うん……」
そう言ってエルたちは退出していった。
二人からもよくわからない圧を感じて、申し訳ない気分になる。
この後の会議には、ルシェも来てくれるそうだ。今後の魔王領の方針にも大きく影響するだろうと。
その時にもまた怒られそうだけれど。
それからクリスティアーネは、虚血性障害だったようだ。
まだ起き上がることはできないが、命の危機は去った。脳にも障害はなさそうだという。子供たちや演劇関係者は今日で戻るが、ボクたちは会議もあるからクリスティアーネが動かしてよい状態になるまで、ここで宿泊することになっている。
「アーシュ、ごめんね? そんなに体調悪かったのに……」
「いや、ナナの話は楽しかったよ。気がまぎれた」
「そお?」
「なんの話をしていたの?」
「……以前アイリスにも言われていた、寿命の話」
「そう……眷属?」
首を横に振る。
眷属は結局不可能だ。アイリスの魔蔵が破裂してしまう。今はもう勇者であったことを隠す必要もない。
「魔王城でもボクとナナは普通の人間だろ? アミは魔女になるけど」
「ふ、普通……?」
普通には程遠いが、人間には変わりないだろう。
「そうそう……あたしたちだけおじいちゃんとおばあちゃんになるねって話していたの」
「アーシュが寿命で死ねば、あちも自動的に死ぬから気にしていないのだわ」
「そ、そうだけど……老いって死より恐ろしい物だって聞くし……それに……」
「それに?」
「感覚の違いが怖いんだ」
「……どういうこと?」
そうこの前からずっと感じている。
何千年と生きることがわかっている種族にとって、数年なんて一瞬という感覚。そしてボクらにとっては数年は数年。
その感覚の違いで話がずれたり、価値感が大きく違うことが怖いのだ。
「……他に方法は知らないわ……」
「ナナに関しては出来るのだわ?」
「え⁉」
「……そんな都合よくできる物なの?」
「……すぐにはむりなのだ。ただ打診があって、あちは上位魔女になるのだわ」
「すごいじゃないか!!」
「……ふふん! どうだ!! あちを崇めたあっばばばばばば」
まじめな話をしていても尊大不遜な彼女の態度には、どうしてもほっぺクローをしたくなる。
「……それで?」
「ナナを特訓すれば魔女になれる素質はあるのだわ。それであちが不老長寿薬を精製してあげればいいのだわ」
「ほ、ほんと……⁉ あ……でも……」
「ん?」
「アーシュがそうなれる方法が見つかったらでいいかな……ふたりで老人になって死んでいくのも悪くないと思っているから」
それも悪くないけれど、今からそんな達観して生きるほどボクは大人でもない。
しかしあの時言っていた冗談は、ナナにとっては本気だったようだ。
「いや、ナナはそのまま進めたほうがいい」
このままいくとシルフィの長い命が、ボクと心中することになってしまう。それは避けたい。
いよいよ必死に探すときが来ているのかもしれない。
……でも仮にあったとしても、きっと躊躇するだろう。最悪なスキル『勇者の血』があるのだから。
『勇者の血』は世界を滅ぼしてしまうスキルだ。
なぜこんなものがあるのか分からないが、こんな終末因子を抱えたまま、長生きしても世界の為にならない。
……むしろいつか世界がボクを討伐しに来るだろう。
いっそボクなんかいなくなった方がよいと、はじめは思っていた。本当はアイリスにも殺されても良いと思っていた。
その直後に一目ぼれして、今はみっともなく生きているけれど。
(陰気な思考が駄々洩れなのだわ……)
(なっ⁉ ……漏れていた?)
(……やっぱり、そう思っていたか。だから自分の命を粗末に扱うのだわ。まったく反省していないのだわ!!)
(……す、すみません)
念話ですら怒られて、土下座してしまう情けなさ。
シルフィに、みんなに何度も怒られてやっと、目が覚めた……。
……やはり、みんなに話そう。
「……みんな、大事な話があるんだ」
「ん? もちろんここじゃダメなの?」
「漏れるとまずいからシルフィ、お願いして良いかな?」
「ほい」
そう言ってシルフィが手を振ると、周囲の景色が一気に亜空間書庫へと変わる。多少人数が増えても、シルフィが認識して許可すれば問題なく入れるそうだ。
「わわっ⁉ なにこれ?」
「わたしも知らないわ」
「あたしも~」
「ケケケ。魔女の持つ亜空間の書庫なのだわ。外に情報が漏れることもないのだわ」
「シルフィちゃんすごい!! 魔女ってこんなこともできるんだね」
「ナナも魔女になればできるのだわ」
「わ~あたしも早くなりたい!!」
初めての書庫に、みんな興味津々だった。
しばらくは見ているだけなので、その間に気持ちを整える。
「いいかな? ……ボクについての話」
「……いつか話してくれるまで待っていたわ」
「……ごめんね、アイリス……言い出せなくて」
アイリスにはボクが何か抱えていることを分かっていたようだ。問い詰めもせずに、ずっと待っていてくれたようだ。
「ケケケ……世話の焼ける子なのだわ」
「……情けないやつでごめん」
「自分の事を悪く言っちゃダメだよ? みんなアーシュのことが好きなんだから」
「ありがとミル」
『勇者の福音』『勇者の血』ついてわかっていることを説明する。自分自身もシルフィに頼った知識しかないが。
「シルフィとクリスティアーネは知っていたの?」
「魔女は予備知識を持っていたのだわ」
「……そう」
『勇者の血』がある事で、自分の為に生きるということに躊躇している。スキルの事が気になって下がってしまう。本当にダメな奴の典型だ。
「アーシュが自分の命を粗末にし、寿命を延ばす話題に消極的な理由がこれなのだわ」
「……なんでアーシュばっかりそんな災厄を……」
「それはあちが説明するのだわ」
クリスティアーネが調べてきた情報だ。
ボクという勇者は、勇者の中でも異例中の異例。変異体と呼ばれているそうだ。
彼女はその前例を探しに教会本部へと足を運んだ。そして見つけたのが、吟遊詩人の詩と資料。
詩の中では『神の実』と例えられていた『勇者の血』。これは神の怒りで、造物主の愛だという。
世界に存在する生物が神の領域に触れた時に終末がやって来るという警告。
そしてボクの生き方によって、烙印が出るか否か。烙印があれば可能性が生まれる。
つまり造物主の間引きの手段として、『勇者の血』の持ち主が発生すると言う。
……ボクは造物主の木偶か……!!
「アーシュ……」
「造物主のご都合で振り回されたらたまらないな」
「アーシュ……無茶したら、やだ……」
「いや、気が変わったよ……」
「お?」
「造物主なんて、ぶっ潰してやる!!」
「ふふふ……そのほうがカッコいいわよ。アーシュ」
「ケケケ。やっとなのだわ!!」
「ぶっころ~‼」
「やっつけるぞぉ!!」
お人好しでいるのはこれでおしまいだ。
造物主のご都合何て知った事ではない。造物主の物語なんて絶対に従ってやらない。
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