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勇者が世界を滅ぼす日  作者: みくりや
第四部 誰がために……
82/202

激戦! グランディオル劇場 その3

あらすじ


演劇の乱戦の演技に紛れ込んだ紅蓮の魔女。狙いはアシュイン。挑発するが……



(行くなよ?)



 シルフィが止める。

 紅蓮の魔女の誘いに乗る必要はないと。たしかに第二王女派もいるこの優待席を離れるべきではない。ただ演劇を荒らされたくはない。


 紅蓮の魔女は弱い攻撃を繰り返しながら、まだこちらをじっと見ている。

 どうするべきか、考えあぐねていると――



 シュッバ‼!!



 まだ続く乱戦の演技の中、舞台袖から見たこともない魔法の飛来。

これに驚いた魔女は、バスターソードで攻撃を受けるが――



 ――ギュボッ!!



 不快な音をさせて魔法はそれを消滅させた。



 ――そして次の瞬間、魔女は袖へと一瞬で消える。




 魔法の出た元へ向かったようだ。

 ……今の攻撃は誰?



(あれは反魔核による攻撃……つまりアミなのだわ)

(え⁉ ……いつの間に教えていたのか)

(あの様子だと使いこなしているのだわ。あの紅蓮の魔女の驚いた顔!! 傑作なのだわ!!)



 シルフィはいやらしい顔をして、指をさして笑っている。

 笑いすぎだろう。



(……しかし、アミは大丈夫だろうか)

(単純な魔力差でいえば、瞬殺されるのだわ)

(……いかないと!!)

(あほ!! 護衛に集中するのだわ。それに忘れたのだわ?)

(なにを?)

(あいつはレズなのだわ。アミみたいな可愛い子の命はとられないはずのだわ)

(う、うーん。それは安心して良いの?)

(ケケケ……いざとなったら秘策も授けてあるのだわ。だから信じてあげるのだわ)



 シルフィがそういうならそうなのだろう。

 アミだってこの劇を成功させたい強い気持ちを持っている。ずっと鍛錬をしてきたのも知っている。であるならそれを信じて任せる。



 そして劇が進む中、ロゼルタは劇から視線を劇から外さずにエルに話しかける。



「……やってくれましたわね。お姉さま」

「……え?」

「何も言わずに追放とは、酷いのでは?」

「……」


 やはりかなり確執があるようだ。ボクが王国を去った後にロゼルタは追放されていた。エルランティーヌ女王の手によって。ただロゼルタが話している相手はベアトリーチェだ。まともに受け答えは出来なそうだ。



「それにあの方(・・・)の追放……」



 そういってボクに視線をちらりと向ける。ただあの追放は前国王、女王それから勇者パーティーの企てだったはずだ。

 どこかで情報がねじれて伝わって、誤解している可能性がある。



「……え?……え、ええぇ」



 へ、へたくそだ……『ええ』しか言っていない。


たしかに経緯を含む内容だから、答えられないのはわかるけれども、もう少しごまかしようはあるだろう。



「それについては私がお答えします!!」



 さすがに見かねたベアトリーチェを扮したエル。

 先ほど受けた毒は時間稼ぎだけの弱いものだった。薬も飲んだので、もうほとんど不調はない。激しく動かない限りは大丈夫だろう。



「あなたは?」

「エルランティーヌ女王陛下付の護衛騎士です!!」



 胸に手を置き、カッと足をそろえなおす。

 エルが扮するベアトリーチェは中々様になっている。彼女は謀り事よりこうした演技の才があるようだ。



「どういうことかしら?」

「あの当時の本物の勇者の追放は前国王、女王によるものです」

「……え?」



 ロゼルタは目を丸くして驚いている。エルのせいだとおもっていたのだろうか。だとするならやはり彼女への情報は意図的に捻じ曲げられている。彼女も思い当たるところがあるようで、苦々しい顔をしている。



「あの追放にはさらに裏があるのです……」



 ボクは前国王と女王に勅命とだけ、それもユリアの口からきいただけで詳細を知らない。だからその話には興味があった。



「……まず勇者パーティーという『仕組み』を説明します」



 王国がいう勇者パーティーとは、本来武勲を立てた冒険者パーティーへ勇者の称号を与え、傷害補償給付するためのものだった。

 王国民から集めた税を使用するため、魔王討伐という大義名分のもとに給付をしていたのだ。

 その為、冒険には当然でない。


 そこへ洗礼の儀で本当の勇者の才能があるボクが現れてしまう。体裁上、騎士団訓練兵見習いとして配属された。でも『仕組み』に邪魔だったために『女王に近づいたという』理由をつけて追放した。


 やがて一部の貴族や国民からは『仕組み』に反発が起きた。大義名分は偽りだろうと。

 そこで再度呼ばれたのがボクだ。


そして魔王討伐を命ぜられる。途中で死ぬか、敗北で帰還することが前提だった。

 計画通りであるなら、試みた実績が国民に知れ渡り『仕組み』は継続できた。

――しかしボクは討伐に成功してしまう。



 ……ほんとうにくだらない理由で倒してしまった。



これにより大義名分を失った『仕組み』は崩壊。前国王や女王は退役者、それに与する貴族という大きい後ろ盾を失い、それに与するロゼルタ女王派も求心力を失った。

 すでに追放され、『勇者の福音』の揺り返しが発動していたため、王国は崩壊寸前にまで陥る。


 そして福音の事を知ったエルは決意し、強制王位継承(クーデター)を起こすのだった。これに貴族たちはこぞって賛同し、他派閥の多くがエルランティーヌ派へと寝返ったそうだ。


この時、第二王女も同等の罪で処断される予定だった。

ただ異世界召喚術には二人の血で十分であった事、それと実際の事実を知らなかったことを考慮されて、辺境伯にすることで貴族の憤りを抑えたのだ。



「以上が事のあらましです」

「……そんな……ではお姉さまが、わたくしを助けたとでも言うのですか⁉」

「どう思ってもらっても結構。ですがわたくしは貴方を愛していたのは変わりません……」

「……え?」



 そういうと、扮していたかつらを落とし、結んでいた髪を下す。



「え⁉ お姉さまが二人‼」

「エル……いまここでそれは不味い」

「大丈夫ですわ。 観客はもう演劇に夢中で見ておりませんよ?」

「そ、そうだけど!」



 ロゼルタは察して、顔を引きつらせている。



「……な、なるほど。いれかわっていたのですね」

「さっきトラブルがあってね。そこは許してあげて」



 ボクは入れ替わって謀っていたことに対して慌てて弁解する。



「いいですわよ。 ですが……先ほどの話……ほんとうですの?」

「その通りだよ……ロゼ」

「!!!!!!!!!!」



 やはり彼女も『勇者の福音』で記憶があいまいになっていたのだろうか、国を去るときには彼女との関りも希薄になっていたが、ここまで影響があったとは思わなかった。



「……やはり、あの方(・・・)だったのですね……やっと……やっと会えましたわ!!」

「……名前は思い出せない?」

「……はい……これだけお慕いしているのにぃ!!」

「それは『勇者の福音』所為だよ……ロゼは悪くない」

「……やっぱり優しいんですのね」

「……ボクはアシュインっていうんだ。……また覚えてくれたらいいよ」



 そういってあの時と同じように、頭に手を乗せてぽんぽんと撫でる。



「あっ……ああっ……」



 それで呼び起こす記憶に涙がポロポロと零れ落ちていた。頬に零れ落ちた涙をぬぐうように、手を当てる。



「……また会えてうれしいよ……ロゼ」

「はい……アシュイン……わたくしもです……此度の企ては、アシュインに再び会うこと、お姉様から奪うことを目標にしていたのです」



 そこまで思っていてくれたのはうれしい。一回だけ、それも短い間だったのに。そのころは小さかったはずだから、自分の気持ちにも気がついていなかったのかもしれない。

 ただ会えない時間が想いを大きくしたのだろう。



「はいはい!! いい雰囲気はそこまでですわ!!」

「な……せっかく懐かしんでいましたのに!!」



 それに割って入るエル。

すこし懐かしいような重苦しいような空気が一転、明るい口調が場を落ちつかせる。

そろそろ劇も終盤を迎えるから、第二王女派やその後ろ盾である教会、ヴェスタル共和国の動きを把握しておきたい。



「教会はどうでるかわかりますか? ロゼ」

「……ま、まだ協力するとは言ってないですわ!!」



 確かに言っていないけれど、もうエルと対立する理由がないと思う。公式の立場としてもいま躍進しているエルに対抗するためにはそれなりの強い理由が必要だ。

 それがもう消えている。



「してくれないの?」

「……アシュインは……それでいいんですの?」



 エルの味方をするボクに少し悲しそうに、まだ納得がいかない気持ちを訴える。



「王国と和解しているよ。だから公演も実現した」

「……そう……この公演の仕掛け人はアシュインでしたのね」



 この演劇にはアミたちの努力の結晶だ。だから何もしていないボクが仕掛け人なんて言われると、逆に恥ずかしくなるので、否定しておく。



「……いや、ボクは魔王領側に立って王国と……女王と交渉しただけだよ」

「!! ……魔王領⁉ だから悪魔族の演劇なのですわね」

「すごい演劇の質だろ? 気に入った?」

「……ええ、政がなければもう一度初めから見たいぐらいですわ……」



 思った以上に気に入ってくれているようだ。駆け引きのせいで、集中して見られなかったことを悔やんでいる。



「……それなら魔王領でもう一度やるから、招待するよ」

「ほんとうですか!! ぜひ行きたいです!! ……わかりました……協力しましょう!!」

「ふふ……さすがアーシュですわ!!」



 エルとロゼは握手して協力の約束をする。

 お互いもう大人に近い年齢になって、なかなか素直になれなかったこともあっただろう。ましてや政が絡んでいたのだ。さらには辺境へ飛ばされ、会うこともままならなかった。

 会えなかった時間を確かめるように、抱き合う。

 姉妹はこうあってほしいという光景が目の前にあった。






 それからロゼは教会について、ぽつりぽつりと思い出すように教えてくれる。ただ後ろには第二女王派や、使用人、護衛が控えている。

 あまり教会について話していると、危ないかもしれない。



(そっち側からロゼを警戒してもらっていい?)

(ケケケ。わかっているのだわ。でもすこし人使いが荒いのだわ!!)

(ご、ごめん……あとでちゃんとお返しするから)

(絶対なのだわ? ぜーったいのだわ!!)





「……後ろ盾ほしさに飛びつきました。するとわたくしを祭り上げるため、この場を整えてくださいました」

「衰退していたから取れると思ったんだろうね」

「ですから教会の人間は多く入り込んでいるはずです」


「それからアシュインを……『勇者の福音』の恩恵を欲しがっていましたわ」

「……そうか」



 これは……ヴェスタル共和国の軍部も動いているだろうから、失敗したら……ロゼは……。



麻痺(パラライズ)

「なっ⁉ ……んだと……」



 シルフィが使用人を麻痺させる。

 やはりこちらからは気がつきにくい位置取りをしていた。それに暗器だ。この女は相当な手練れだろう。魔力はあまり持っていなそうだが、体捌きはかなり洗練されている。



「ケケケ……おいたはダメなのだわ?」

「ありがとシルフィ」

「ミネア⁉」

「その使用人は、どこかと通じているのだわ。牢屋にいれとくのだわ」



 すぐさま、王国軍の騎士に連れていかれた。やはり他勢力が入り込んでいて危険な状態だ。

 しかしロゼを抑えた今、教会は脅威にはなりえないだろう。クリスティアーネの手紙にあった様子では、あのまま教会を掌握するつもりだろう。

そういうところは抜け目なくとても優秀な彼女。あれだけ色々してくれているのだから信用しないわけにはいかない。



 あとは演劇が無事に終わることを祈ろう。

 乱戦が落ち着き、クライマックスへ――



「あたしの命を、みんなの為に捧げる……だから……」



――ここで魔道具が発動して、後ろの荒野にオアシスが……。



……発動しない?

 もしかして、それはアミの担当だったのかもしれない。袖の脇に控えていた人たちが焦っているのが見える。役者たちは演技を止めるわけにはいかないので、そのままの体制で留まっている。

 これは……少し手助けが必要なようだ。



(いいと思う?)

(あちは良いと思うのだわ。やはりアミは魔女の対応をして動けないのだわ)



 舞台の上の静寂……。

 そろそろ間が限界だ。よし――



「グゥッ!!……――」



――目の前で発動しないように、闘気への変換を我慢する。

そしてそれは舞台の中央へと舞い降りる。



……ここだ!!



「――ブレイブウォール!!」



ドゥゥウウウン!!



 それが中央へ舞い降りると、ミルに当たりブレイブウォールが発動した。

 ミルを中心とした光の柱が立ち上がる。



 ……ミルは……いやマーニィはその美しさと黒髪、そして光の柱との濃淡が神々しさすら垣間見えた。


 そして――



 ズァパァアアアンッ!!



 元々仕掛けていた魔道具が、ブレイブウォールの範囲内に入ると、自動的に発動する。それが相乗的に広がり、会場中を優しい光は包み込んだ。



「……す、すごい……まるで女神」

「……あぁ……涙が止まらない……」



 本当に女神のように美しく、恐れ多い雰囲気を感じていた。それに耐え切れず観客たちはほろほろと涙していた。同じように優待席の皆も見惚れて涙している。



 ……これはやりすぎたかもしれない。



 このタイミングでレイラはマインドブレイクの魔法を強めている。ブレイブウォールの変異発動に加えて、ここに来てからレイラにずっと魔力を吸われている。



「アーシュ……す、すごいね、魔力」

「……そろそろ魔力が限界かもしれないな」







 そして光がキラキラと霧散していった。



――舞台の向こう側には今まで何もなく、荒野に一本の川が流れているだけだった。そこがまるでオアシスのように、木々が生い茂り、湖ができていた。

まるで天国ともいわんばかりの美しい光景に観客は目を奪われた。



「……天国だ……あの子はきっと天の使い……天使に違いない!!」

「きっとそうだ! あのまごうことなき幸せの光! 絶対にそうだ!!」

「ああ! マーニィちゃんが!!」



 力尽きて倒れる。もちろん演技だが。

 そこへ乱戦をしていた、他種族の者が集まる。



「ここに新しく国を作ろうじゃないか!! いつかきっと悪魔も獣人も人間も手を取り合っていける場所を作って見せる!!」



オロバスが拳を振り上げた。



「「「うぉおおおおおお!」」」


 ――それと同時に観客から大歓声が上がる。

 はじめにエルが入場した時より大きくて、腹に響くような大きな声が町中に響いた。


 それはまさに成功の証だ。

 全王国民ではないが、すべての都市から参加者がいるのだから効果は十分。しばらくすれば浸透していくだろう。マニや悪魔たちが人間の町を楽しく歩くことができる日が楽しみだ。

 役者が手を振りながら袖へはけていっても、ずっと歓声と拍手が鳴り響いていた。



「ご観覧ありがとうございました。これで演劇は終了です。この後、エルランティーヌ女王陛下、ロゼルタ元第二王女から、王国に関する重大な発表がございます。今しばらくお待ちください」



 いくつか予定通りに行かないところもあったが、無事演劇は終えることができた。

 彼女たちもしっかり結果が出せたことに満足しただろうか。



 そして、いよいよ公演も大詰めだ。





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