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勇者が世界を滅ぼす日  作者: みくりや
第四部 誰がために……
81/202

激戦! グランディオル劇場 その2

あらすじ


いよいよエルランティーヌ女王が入場



 会場の扉が開くと、大歓声が聞こえてきた。

 会場の構造上、吹き抜けになっているので遠くの大歓声は、わずかに通路まで届いていた。しかし開けてみると、ものすごい熱気と歓声にすこし驚いてしまった。



「女王陛下はあの中央中段のお席になります。はじめはご挨拶があるのでこちらの袖でお待ちください」



 びっしりとつまった観客の中で、中央中段だけぽっかりと広いスペースが開いている。まさに王族専用の空間である。

 そして入場してきた扉の対面側の一階席には学園の子供たちとベルフェゴールがいるのが見えた。こちらを見て手を振っている。

 さすがに警護中に集中を切らすわけにはいかないので、微笑むだけにしておく。


 そして二階席には王国の貴族たちがいるのが見える。今回は他国の人間は招待していないはずだが、文化がちがう貴族服を着ている者が混じっている。



(シルフィ、二階席の貴族ちがう国の貴族がまじっている)

(ああ……あれは第二王女派の手引きによるものらしいのだわ)

(じゃああのあたりに第二王女は来ているの?)

(たぶんそうなのだわ。警備隊の一部を回したのだわ)



 これだけ人がいる中で相手が暴れていないのに強制的に退場させれば、王国民への体裁が良くない。

おそらくそれも第二王女派の狙いだろう。


 そう考えて、ふと第二王女とはロゼルタの事だと思いだした。

 エルやレイラと会う直前に、病弱で部屋から出してもらえない子がいた。それがいやで抜け出してきていたのだ。

 そのころボクは王城の騎士団宿舎に見習い訓練兵として所属していた。

 一人で鍛錬していた時に出会った。


 あの子が王位奪還計画(クーデター)に賛同するようには思えなかったが、月日が人を変えたのだろうか。



……そうなら少し悲しいな……ロゼ。



 ボクがその考えにふけっていると、いよいよ開演の時間がやって来た。

 会場内はまだがやがやざわざわと話声が聞こえている。公演は基本的に魔道具による拡声が行われるので、舞台に立てば声は自然と後ろの席まで届く。

 司会進行が少し高くなっている円形の舞台の端に立つ。



「皆さま。本日はお忙しい中、御集りいただきありがとうございます。今日の初公演にご尽力いただきましたエルランティーヌ女王にご挨拶いただきます」



 そう会場内に司会の声が響くと、どっとまるで地面が揺れたような歓声に会場が湧く。エルランティーヌ女王への国民の支持は高い。



「うぉおお女王様!!」

「エルランティーヌ人形もっているよ!!」



 エルの出番なので、シルフィを肩から降ろす。

 シルフィはアイリスとレイラ、それから軍の指揮を担当してもらっている。そしてボクはエルランティーヌ女王の担当だ。舞台前までエスコートする。

 護衛が舞台まで上がるわけにはいかないので、ここからは司会にまかせた。

 司会の男性がエルの手を取り、エスコートして舞台の中央へと経たせると彼はさっと離れる。









 中央に立つエル。すっと息を吸う。すると突然の静寂。

 これだけの人間がいるのに、物音ひとつしなくなった。それだけの威厳がエルランティーヌにあるのだ。



「王国民の皆の者。この最高の舞台に集まってくれた事、感謝いたします……っ」



 ……エルの様子がおかしい。わずかだが調子が悪いように思う。



「演劇の終わりに、王国に関わる重大な発表がございますので、そのままお残りください……っ……それでは王国が推す最高の演劇をお楽しみください」



 それから部隊の端までくると、ボクがまた引き受ける。



「エル?大丈夫か?」

「いえ……先ほど何かされたかもしれません。……急に身体が重くなって……」

「わかった、そのまま扉まで頑張れる?」

「……ええ……」



(シルフィ、作戦変更エルの調子がおかしいからこのまま控室へ連れていく)

(わかったのだわ。それからベアトリーチェが見つかって控室で待機させているのだわ、交代で観覧に参加させるのだわ)

(わかった、この場はよろしく)

(それからこれ飲ませるのだわ)

(ああ……ありがと)



 シルフィから薬品を受け取り、そのままレイラとアイリスの横を通り過ぎる。二人には目で合図を送っておく。他の人間にエルの不調を悟られたくない。



 扉を開け、そのまま歩みを進める。閉じたと同時に、エルを抱き上げる。



「ごめんエル、急ぐよ」

「……はぁ……はぁ……う、うれしい……アーシュ」



 頬を染めているが、いまは時間がない。

 おそらく毒だ。走りながら、先ほどの瓶を飲ませる。



「……これは……?」

「シルフィの薬。ちょっと中身までは分からないが、エルの状態を把握していたから、それを飲んで休んでいれば大丈夫だよ」

「いえ……でも観覧……しないと……不審がられて」

「いや、ベアトリーチェが見つかったってさ。控室にいるから観覧は彼女に任せよう」

「……まぁ……あの先ほどの……短い間に……」

「……シルフィさまさまだよ」



 エルダートには申し訳ないが、本当にシルフィが軍を仕切っていなかったらここまで手際よくないはず。



「やはりあの司会か……相当な手練れかもしれない」

「はぁ……はぁ……わかりません……」



 話しているうちに控室に着いた。扉の脇には騎士団の騎士がたっているので、開けてもらう。

 中にいたベアトリーチェはすぐに気がついて、駆け寄って来た。



「あっ⁉ 姫様! それにアシュイン殿も!」

「やあベアトリーチェ、災難だったね」

「そうなのですよ!! きいてください!!」



 長話が始まりそうだったから、止めてエルを休ませる。

 ベアトリーチェはすでにエルの格好をしているから、すぐに出られそうだ。



「エルはすこし安静にさせておきたい。公演後の発表までには調子を戻してもらわないと」

「はい! 私では途中で忘れてしまいます!!」



 元気よく悲しいことを言わないでほしい。今までも演説は本人がしていたのだろう。話さなくて良い場面で彼女が徒用されていたに違いない。

 ただエルを一人でこの場には残していけない。



「エルはベアトリーチェになろうか?それで観覧席の端で休んでいるのはどうだろうか」

「ええ、さすがに護衛なしは怖いですから」



 ボクは控室のドアの前に立って、着替え扮装が終わるのを待つ。暗殺の治療や回避の話をしていたはずなのに、うしろではキャッキャと楽しそうに着替えている。



「ふふ……アーシュなら見られてもいいのに」

「姫様……いくら何でもはしたないですよ!!」

「二人ともそろそろ良いの?」



 すこしいら立ってしまったが、いくらなんでも緊張感がなさすぎるだろう。むしろこの状況下を楽しんでいるフシすらある。

 準備ができたので、再び会場へ。

 もう劇が始まってしまうので、二人を抱えて走る。短い距離だし誰も見てないので、この際体裁は無視だ。



「あはは……なんだかたのしいっ」

「こんなに早く走れるのですね!」



 会場のつき再び扉が開くと、また歓声が上がる。

 どうやらまだ演劇は始まっていなかったようだ。大きな歓声の中、観覧席へと向かう。


 階段を上り、少しせり出している専用の観覧席へたどり着く。

 そこには――



「あらお姉さま。ご機嫌麗しゅう」

「なっ⁉」



 なんとロゼルタ第二王女が座っていた。エルに扮したベアトリーチェが対応できるわけがなく、大げさなリアクションをしてしまっている。


 ロゼルタはボクのほうをチラリと見て、すこし目を潤ませている。

 その瞳はまるで昔お城であった純粋な彼女と同じものだった。だが立場からこれ以上の接触は諦めて、視線をボクから外す。



「エルランティーヌ女王様……御席へどうぞ」



 ボクは咄嗟に席に促し、自然にふるまうようにと目で訴える。

 ベアトリーチェはだいぶエルランティーヌがへたくそだった。こんなことで今まで役に立っていたのだろうか。



「ふふ……ありがと……ロゼルタ、お久しぶりね」



 そう言ってなんとか席に着くことに成功した。このままでは何時ぼろが出てもおかしくない。すぐ横に護衛として立って、援護が必要だろう。



(なにこれ?)

(あの司会……第二王女派の手のものらしいのだわ。

(するとあの毒は時間稼ぎ?)

(そうなのだわ。その隙に演劇の終わりの時間に第二王女も発言があることを宣言されてしまったのだわ)

(それで元でもあるが王族扱いとしてここに?)

(そういう言事なのだわ……)

(やられたね……)

(すまんのだわ……あちも司会に混ざっているのは想定外だったのだわ)

(ボクもだよ……)



 観覧席のスペースは左側に第二王女派の人間とロゼルタが、右側にボクたちがいる。彼女たちもここにいるということは、演劇の公演中には特に何もする気はないようだ。

 それだけが救いだろう。



「おまたせしました! それでは公演の始まりです!」



 エルが席に着いたことを確認すると、さっそく進行がはじまる。

ベアトリーチェに扮しているエルは観客からは影になって見えない壁側にある椅子で休ませた。

 近くの席にはレイラ、アイリスも座っている。



「……大丈夫だった?」

「ああ、問題ないよ」



 そういってアイリスとレイラを安心させる。レイラはこれから大規模魔法を行使しなければならないし、アイリスも出番が待っている。

 余計な心配を増やすことはないだろう。








 ――そして劇は始まった。



マーニィのいじめられている展開に、のめり込んだ観客は「ゆるせねぇ」なんて声をあげて、敵役を罵っている。


 王国側でも見世物小屋はあるけれど、これほど高い練度の役者はいない。

 この作り込みはアミやナナの世界の演劇の品質まで、引き上げられているからといってもいい。

 彼女たちの世界は技術だけではなく文化もとても洗練されていた。その高い基準で作り込んだのだ。

 ボクたちの世界の人間が、驚かないわけがない。のめり込まないはずがない。


「マーニィちゃんがんばれ!! まけるなぁ!!」



 そんな声が聞こえてくると、ボクは彼女たちの頑張りが形になった喜びと、その努力に胸が締め付けられるほど、心をつかまれた。

 ボクはまだ十五歳だが、いろいろなことがあって老けたのかもしれない。涙腺が緩くなって、すこし目が潤んでしまっている。

 このままでは警備に支障がでそうだ。


 そうおもって、周囲の警戒を強めた。



 ロゼルタに視線を向けると、彼女もこの世界にない演劇に感動していた。手に持っていたスカーフを、くしゃくしゃになっているのも気がつかずにぎゅっと握りしめている。

 造詣が深くないボクでも見入ってしまうほどの内容だ。

 少し年下で感受性の強い彼女であるなら、感銘を受けない事はないだろう。



 そして人間、悪魔、獣人の三勢力が戦う場面になると、それに白熱する観客。広い舞台をめいっぱい利用して、ド派手な戦闘をしている。


 ナナ、シャルロッテ、ミミのそれぞれ得意な戦い、それからそれに与する役割の役者も混ざって混戦を演じる。


 こうしている間にもレイラは後ろで魔法を行使し続けている。



「レイラ……魔力足りる?」

「……き、キツイわ」

「すこしボクから解放するよ」

「あ……ありがとアーシュ……んっ」



 そういって彼女の背中に手を置き、魔力を送る。送りすぎると、またおかしなことになりそうなので注意した。

 割と燃費の悪い魔法の様だ。結構魔力が吸い取られる。


 その白熱の場面も終盤でオロバスが登場すると、戦いの音も大きくなっていく。



 ドウゥウウウン!!   ガァアアン!!



「このオロバス!! 一人も殺さずにこの戦争を収めて見せる!! うぉぉぉお!!」



 このセリフも事前練習でみた時より、さらに迫真になっている。



「オロバス~!! やっつけちゃえ!!」

「オロバスかっけぇ!! 最高だぜ!!」

「うぉおおお魔法がこっちまで飛んできて、すんげぇ迫力!!」



 しかし飛んでくる光や魔法の量が多くなっている。これは……。


 観客席と舞台の間には戦闘シーンで魔道具によるシールドが張ってある。流れ弾に当たっても大丈夫なようになっているが、効果時間が短いことと、オロバスクラスの魔力が当たれば砕ける。


 よくみると、混戦の中の一人に見覚えがあった。


(あれ紅蓮の魔女じゃないか?)

(ケケケ。とうとう魔女もおでましなのだわ!!)



 あの特徴的な朱色の髪に鋭くあららしい眼光。そして周囲の人間を食いちぎらんばかりの鋭い歯。忘れられない。

 あれはやはり紅蓮の魔女だ。

 目的が何なのかわからないが、混戦の演技に参加している。わざと流れ弾のように見せかけて観客のほうへと軽く魔法を撃っている。

 それに気がついたオロバスが何発か防いでいるが、防ぎ切れていない。ほかのやつは混戦で気がついていない。


 誰かをあぶりだそうとしている?



――ギロリと目が合う。




「みぃいつけた!!」




 そうか――彼女の狙いはボクだ。

しかしこの場で、魔女と戦闘なんてしたら演劇をめちゃくちゃにされてしまう。ここは場所を移したい……。


 すると親指を立てて、演劇場の裏手の広い場所を指した。

 誘っているのだろう。



 この場を壊されないためには、行かなければならないようだ。





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