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勇者が世界を滅ぼす日  作者: みくりや
第四部 誰がために……
80/202

激戦! グランディオル劇場 その1

あらすじ


 いよいよ演劇の公演日。様々な勢力が不穏な動きを見せている。



 先ほど忙しそうに手配をしていたエルダートが再び部屋を訪ねてきた。

 エルランティーヌ女王宛に、魔女の署名がある急ぎ手紙が届いていた。署名はクリスティアーネとなっていたので、届けたそうだ。



「クリスティアーネから?」

「師匠……あけてみせてよ!! エル」

「……なにかしら?」









 偉大なるエルランティーヌ女王陛下


 陛下、いかがお過ごしですか?クリスティアーネです。

 私は今、ヴェスタル共和国のスカラディア教会本部にきています。


 枢機卿の協力を得て、事情を聞き出すことに成功したのでお知らせします。

 スカラディア教会内部は現在、教皇派と枢機卿派に分裂しています。そして枢機卿派は純粋に宗教を重んじる派閥ですが、教皇派は謀り事を主眼としています。


 そしてヴェスタル共和国の貴族、軍部、教会の教皇派は、衰退したグランディオル王国を乗っ取る計画を企てております。

 第二王女を担ぎ上げた王位奪還計画(クーデター)が彼らの目論見の様です。


 ・先の王位継承時の不作為を暴き、女王を失墜させる企て。

 ・そして王宮魔導師の暗殺。もしくは奪取。

 ・場が整ったあとの女王陛下の殺害。


 以上に警戒されたし。


クリスティアーネ


追伸

 手紙が届くころは公演間近でしょうか? 楽しみにしていたので、見ることができなくて残念です。







「なんてこと……」

「師匠……手紙だと饒舌なのね」

「同じことを思ったけど、今はそこじゃないだろう」

「ケケケ……ん?二枚目は?」



 手紙はもう一枚あったが、わけのわからない文字で書かれている。一枚目で手紙は完結しているから、不要なはずだ。



「ちょっと貸すのだわ!!」



 シルフィが慌てて奪い取る。シルフィにはこのワームがのたうっているような文字が読めるようだ。



「なんて書いてあるの?」

「い、いやこれはあち宛なのだわ。これは預かるのだわ」

「まぁシルフィちゃんがそういうのなら……」



 そそくさと空間書庫へしまい込んでしまった。たぶんクリスティアーネがヴェスタル共和国へと行った理由がこれだ。目的もしっかり果たせたのだろう。



「……エル。不作為って異世界召喚術のことだろ?」

「……え、えぇ」



 エルはばつが悪そうに答えるけれど、ボクはこれについて何も思うところはない。実の親を殺すと言う禁忌だって、エルと同じ立場ならきっと同じことをしただろう。



「王国民に知れ渡ったら不味いんじゃないの?」

「そ、そうです……今思えば失策でした」

「第二王女の支持者は?」

「それなりにいますが、ずっと辺境領にいましたからわかりません」



 いい案が浮かばず、エルもレイラも黙ってしまう。おそらく場を整える人間が劇場に入り込んでいるだろう。それを今から選別することなんて不可能だ。



「ねぇ?あたしに考えがあるのだけど」

「アイリス?」

「もし不利になったら、わたしがまとめるわ」

「……いいのですか?」

「ええぇ。もちろん!」



 アイリスは何か秘策があるようだ。たしかに自分の役目がなくて落ち込んでいたといって、今回魔王領代表として参加するのだ。

 ボクはアイリスを信じているけれど、それでもすべてを任せることはしてこなかった。手詰まり感のある今、彼女に託してみるのも悪くないと思う。



「わたくしはもちろん。助かりますわ!」

「ケケケ~! 面白いことになりそうなのだわ」

「……へ、平和的にやってよね」



 アイリスは魔力や容姿、所作にいたるまで魅力的だ。きっと人間、悪魔問わずにそのカリスマを発揮するだろう。ボクがその一人なのだ。

 これから悪魔の社会的地位を確保するためには、彼女のような存在が確実に必要になる。だから思いっきりやってもらいたい。

 もし失敗したらボクがしりぬぐいをすればいいだけだ。








 話しているうちに進行係が呼びに来た。

いよいよエルランティーヌ女王の入場だ。


最初に挨拶だけをして、演劇が終わったらアイリスとの宣言になる。入場から退場、公演中ですら気を抜けない。


 進行係は学園の生徒の一人だ。顔も魔力も覚えているから、おそらく大丈夫であろう。

彼とエルダートが先頭に立ち、中央にレイラ、エル、アイリス、周囲に騎士団、そして最後尾にボクとシルフィだ。



 ゆっくりとした歩みで、周囲の騎士団と共に進む。

 控室から優待席までは、専用通路なので一般客との接触もない。



 警備をする上で、押さえておきたい情報は相手の狙い。


まずヴェントル帝国側はエルの命と、アイリスの奪取。ひと時も離れなければアイリスを奪われることはないだろう。

 しかしエルの命の場合は、爆発する魔道具や、遠距離からの魔法射撃、それから毒物。白兵戦を望んでくるなら、簡単で助かるがそこまで馬鹿ではないはず。


 次にヴェスタル共和国の狙いは第二王女の王位奪還計画(クーデター)。ただ政治体制から考えて、軍部や国が出てこないとは限らない。とするなら、第二王女に支持が集まらなかった場合は、エルランティーヌ女王が暗殺される可能性もある。


 そして不気味なのが魔女だ。

 これまで動きがない。この機会は見送るならそれでよいが、出てきたらすべてをぶっ潰される可能性すらある。



 なんにせよ実力行使をしてくる敵は多い。

 しばらく専用通路を歩くと、近くを流れる川に影みえた。



 パシュッ!!  パシュッ!!



「なにっ⁉」

「川に敵。魔法で処理したから、回収させてね」

「あ、ああぁ……」



 この通路から茂みをはさんだ先に川があったから、見落としがあったのかもしれない。エルダートはまだ気がついていなかったようだ。



(あれじゃダメなのだわ。変えたほうが良いのだわ?)

(わかった)



 ボクは少し先頭に近づき、エルダートに合図を送る。陣形を変えて、周囲は王国軍にエルのすぐ近くにボクたちがつく。

 そして腕に抱いていたシルフィはよじ登って、肩車する。完璧な陣形だ。



「ふふっ。シルフィかわいいっ」

「アーシュはお父さんみたいね?」

「お母さんはわたくしかしら?」

「なっ⁉」

「の、のんきだね」



 まぁ怖がられるよりはましだ。それに今のところ強い人間がくる気配はなさそうだ。そう思っていたが、シルフィがなにか難しい顔をしている。



「おいアーシュ!! でかいのが二つ来るのだわ」



 シルフィの魔力感知に引っかかったのか、遠方から大きい魔力の塊が飛んできている。



「こりゃ大きいね!! ブレイブウォール!!」



ドゥウウウン!!




「……おわっ!! なんだ? この光の壁は⁉」

「ボクのスキルだ! でかいのが来るから劇場ごと防御したよ」

「そんな、しれっとすごい事いうな!! びっくりしたぞ!!」

「ケケケ。いいから厳戒態勢ひけ!! 強いのが二人くるのだわ!」

「うむ。了解だ! 王国軍警備隊は厳戒態勢!!」

「「「了解しました(サーレ)!!」」」



ギィイイイン!!  ギィイイイン!!



 ――飛んできた魔力の塊がブレイブウォールに当たり霧散する。



 そこに現れた二人の男女がいた。



「……これを防がれるとは思わなかったよ」

「殺していいかしら?いいわよね?」



 男の方は尊大不遜だけど話ができそうだ。女の方はすこし様子がおかしい。何かの薬物でもやられているような異常な目つきだ。

 こういうやつの場合は、偶発的なことが起きる可能性がある。ボクとシルフィは警戒を強め、さらに深く観察する。



「お前たち何者だ⁉」



 静かに鋭い眼光を彼らにぶつけるエルダート。

 彼ならいくら強い相手でも、鋭く狡猾に対応できる。



「あら?あなたたちは……ヒビキにモミジ?」

「エルしっているの?」

「元召喚勇者ですわ。ですが帝国へ亡命したことを把握しております」

「つまり、ヴェントル帝国の刺客(せっかく)だ」



 いきなり白兵戦の構えに来ているのはすこし軽率だと思うが、その方がこちらは助かる。煽って目的を聞き出すのが良いとは思うが……。

 この二人の魔力はかなり高い。全盛期のアイリスと同じぐらいあるのではないだろうか。だとすると、ここにいるメンバーでは分が悪い。



「察しが早いようで助かるよ。俺は倉橋 響(くらはし ひびき)。英雄となる男だ」

飯島 紅葉(いいじま もみじ)



 なぜか自己紹介を始めた。かなり間が抜けた刺客のようだ。

 年齢もボクたちとそう変わらない。おそらく何かしらで強くなったが、実践や政には慣れていないということだ。

 ともあれば攻撃に出ない限りボクは静観して、エルダートに情報を引き出させたほうが良いだろう。



「して、何用だ?」

「わかるだろ?察しのいい王国軍騎士団長。いや元帝国軍将軍様と言い直したほうが良いかい?」

「どちらでも構わぬ」

「……ちっ」



 エルダートは元将軍だけあって、そんな安い挑発には乗らない。こういうことはエルダートのほうが一枚も二枚も上手だ。あの時、エルを手玉に取っていたのも彼の実力だと頷ける。



「まぁ、狙いはアイリス殿か……」


 ……ピクリ


「それから……王宮魔導師か……」


 ……ピクリ


「……エルランティーヌ女王か……」


 ……


「……それとも私か……」



 ……ピクリ



「ふんっ、無駄だ。必要なもの以外は殺して奪っていくからな」

「そうか……できるものならやってみろ」

「ああぁ! やってやるさ!!  暗き闇の眷属よ!我の剣に宿いて――」



 ヒビキという男は威勢をはって詠唱を始めた。

 帝国ではこんな調子なのだろうか?ボクはゆっくりとエルダートと彼らの前に立つ。相手の狙いはエルダートが引き出してくれたから、もうこの二人には用はない。




 グジャリッ!!




――彼の腹を削ぎ落す(・・・・)



 それはリンゴをかじった後のようなきれいさで、手の後が彼の右わき腹に空洞ができた。



 静寂。



「ぶはっ!! い、いつの間に‼」



 口から吐き出される血液。脇腹からほとばしる血液。おそらく長く持たないだろう。



「まずい!撤退するわ!!」

「し、しかし琴子が!!」


 ヒビキという男が戸惑っている最中、モミジという女は的確に動く。殺しておくべきかどうか、躊躇した一瞬。



「きゃっ!!」

「させるかぁ!!」



女の方が、一番ちかいレイラの手をつかもうとした瞬間に、エルダートが割って入る。



「くっ、こいつでいい!! 響!! いくわよ!! ゲート!!」



 しゅんっと光に包まれ、二人とエルダートは消えた。

あの女の頭はキレるようだ。

最初のまぬけっぷりは演技であるか、能力を隠していたか。



「ゲートを使えるのか!!」

「おい、エルダートが攫われたのだわ」

「お、お父様!!」



 周囲にいた王国軍護衛隊も団長が攫われて騒めき狼狽える。

 指揮官を失ったのは、かなり痛い。それに奴らの狙いの中にエルダートも含まれていた。エルダートの立場で可能性があるとすれば、暗殺だ。

 つまりこのままほっておけば確実に殺される。



「くそっ!! 帝国の狙いにエルダートまで含まれているとは誤算だ」

「どういうことですの?」

「ケケケ。エルダートは、あの馬鹿二人から情報を引き出していたのだわ」

「さすがお父様だわ」

「レイラならわかっただろ?狙いが」

「ええ。おそらくアイリスさんの奪取、それからあたしとお父様の殺害が奴らの目的だわ」

「なっ⁉ レ、レイラ……でもわたくしの暗殺は含まれていないのですね」



ヴェントル帝国は軍力に自信を持っているけど、ヴェスタル共和国のように教会をつかった内部浸透や政治掌握は出来ない。別候補を立てるほど浸透もしていない。

 ただエルを殺しても厄介な空白地帯ができるだけだ。

 難民がヴェントル帝国へ押し寄せて、共倒れするだろう。


 つまりヴェントル帝国としては、実験体としてのアイリス。そして報復としての二人の殺害ができれば、充分と考えているのだ。

 政治的なやり取りとしてはやや乱暴であり、メンツばかり気にしていると思う。



「わかりました。これは元々発表するつもりではいたのですが、明確な宣戦布告があったのだからやりやすいでしょう」

「まさか……」



 ……さっきまでぼんやりしていたエルの顔とは打って変わって、女将さながらの冷酷で、覚悟した顔つきになった。



「ええぇ……これはあたしの判断。ヴェントル帝国への『戦争宣言』をする!!」

「だ、大丈夫なの? いまの王国軍では……」

「そのための、アイリスさんとの協力関係でしょ?」

「……レイラ……」



 はっきりいって、これは予想しうる未来だった。

 そして誰もが避けようとしていたことだったが、ここに出て打って出る選択をしたのだ。それはどれほどの覚悟があったのかわからない。



「ごめんなさい……アーシュ……それにアイリスさん……恨んでもらっていいわ……」

「いいえ? それも予想の範疇だわ」



 もうアイリスとルシェはだいぶ先まで読んで計画練っていたようだ。ふらふらとで歩いているボクが参加できていないのは寂しいが、それも自業自得と言える。

 一度アイリスに任せると言った。だからボクはそれを全力で応援するだけだ。



「アイリスが受けて立つなら、とことん付き合うまでだ」

「アーシュ!!」



 そういって、また飛びつくアイリス。



「あっ、あっ、あぶないのだわ。それより、指揮官を失った王国軍が浮足立っているのだわ」

「あっ、どうしましょう?」

「アーグリー元騎士団長は?」

「い、田舎へ帰ってしまわれました……」



 肩の上にいるシルフィを見上げると、ニンマリとにやけている。嫌な予感だ。



「ケケケ。じゃあ今日だけは、あちが指揮してやるのだわ!!」

「ほ、本当ですか⁉ お、お願いします!!」



 そういって小さな胸を張るシルフィ。ボクの方に乗ったまま指揮するつもりだ。



「おい!! 王国軍警護隊の皆の者!! たった今から貴君らはあち、『シルフィ騎士団長代理』の指揮下に入る!!」

「おおぉ……あれは白銀の精霊魔女様!!これはかつる‼」

「か、かわいいぃ……オレは絶対シルフィ団長を指示するぜ!!」



 シルフィは「かわいい、かわいい」と連呼されいささかイライラしだしている。それもまた可愛いのだけれど、そろそろやめないと雷が落ちる。



「おまえらぁ!! 整列!!」



 ズガァアアン!!



 そういって、何もない地面にサンダーストォムを打ち落とす。文字通り雷が落ちた。



「「「了解しました(サーレ)!!」」」


「王国軍警護隊の皆の者!! 再度言う!! たった今から貴君らはあち、『シルフィ騎士団長代理』の指揮下に入る!!」


「「「了解しました(サーレ)!!」」」


「これより私語厳禁!!」


「「「了解しました(サーレ)!!」」」


「任務!! エルランティーヌ女王、アイリス嬢、レイラ王宮魔導師殿の三名の死守!!」


「「「了解しました(サーレ)!!」」」


「シルフィ騎士団長代理に口答えは許さない!!」


「「「了解しました(サーレ)!!」」」


「シルフィ騎士団長代理はカッコいい!!」


「「「了解しました(サーレ)!!」」」


「シルフィ騎士団長代理は美しい!!」


「「「了解しました(サーレ)!!」」」


「シルフィ騎士団長代理はあばばばばばばば」



 明らかに横にそれているので、さすがに止めた。



「シ、シルフィ?」

「わ、わかったのだわ……まじめにやるのだわ……こほんっ。 以上、配置に付け!!」

「「「了解しました(サーレ)!!」」」



 完全にシルフィの趣味でやっている気がした。でもシルフィのおかげで浮足立った王国騎士団は、その士気を取り戻した。


 なぜかエルダートが騎士団長をしているときより、きびきびと動きが良くなっている。混乱しかけたが、なんとか入場できそうだ。

 そうして演劇会場の扉を開いた。










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