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勇者が世界を滅ぼす日  作者: みくりや
第一部 魔王代理
8/202

ベルゼブブの憂鬱

前回までのあらすじ


アカシ村から魔王城へもどってきたアシュイン。今日からミルも魔王城で暮らすことになった。



 ゲートで魔王城へと戻ると使用人たちが出迎えてくれた。


 今お城では小間使いのゴーレムや使用人の悪魔が働いている。

 以前はかなり寂れていた魔王城。悪魔の意識改革も兼ねて、一番初めに環境維持を積極的に行うよう命令した。

 彼らの待遇改善もできるからだ。


 おかげで人間のお城より清潔に保たれているし、周辺まで手入れが行き届いている。

 まだ少人数だけれど、誇りをもって出迎えてくれるメイド姿の侍女や、モーニングを着た執事。彼らを見たミルは、お姫様になったかのようだと、はしゃいで中へ入って行った。



「ミルは物怖じしない性格だね」

「ふふ……まるでわたしたちの子供みたいじゃない?」

「ははは……」



 そんな冗談も、きっと彼女の願望なのかもしれない。

 ミルが使用人達と楽しそうに話しているのを、ほほえましく眺めているアイリス。その母性を思わせるような楚々に思わず見惚れた。







 執務室にもどると、ルシファーを呼ぶ。

 魔王領の運用、統制はほぼ彼に任せている。アイリスとボクはあくまで代表という冠だ。大きな方針が必要な時や判断に困ったときだけ指示する。

 普段は状態の把握ばかりしている。



「いつもありがとう。明日はベルゼブブの話を聞きに行きたい」

「伝えておくよ。それからベルフェゴールが器具を考えてくれて収穫効率が上がっているよ。食料確保は順調。農作物の病気がすこし気になっているってさ」



 食料問題はすぐに片がつきそうだ。優秀すぎる腹心あってこその進行速度。ルシファーは無理をしていないだろうか。



「ありがとう。ルシファーは何かない?いそがしいでしょ」

「ううん。楽しいよ?それにキミも面白いし」

「面白い?」

「ふふ……ボクはキミが描く物語に期待しているのさ。じゃあまたねっ」



 すこしキザったらしい言葉を残して去っていくルシファー。でも今の言葉は女性らしく、そしてすごく艶っぽくて少し見とれてしまった。



 ……ってボクは何を考えていたんだ。




 ギュリリリリリリリリ!!



「いたい!」

「アーシュ? よからぬことを考えたでしょ?」

「え~! アーシュ浮気⁉」



「ははは。何をおっしゃいますかお二人さん。ボクはノンケですよ」

「あ~そゆこと」

「アーシュってニブチンなんだ。か~わい!」



 ……子供にかわいいって言われた。

 いや、ボクだってまだ15歳だ。子供とさほど変わりない。むしろミルのほうが色々と物分かりが良すぎて、大人だ。

 ミルを子ども扱いするのはやめよう。








 予定通り次の日は、C地区を拠点にしているベルゼブブを訪ねた。

 人間から『蠅王』と呼ばれ、畏怖されているベルゼブブ。

 でもいまの彼を見て、誰もそうは思わないだろう。それほど彼はとても温厚で、恰幅の良い普通の男性。

 すこし話をするのに不自由しているようだ。



「んもっもっも」

「やぁベルゼブブ。調子はどう?」

「んもっ~」



 何を言っているかわからないかもしれないが、ボクもよくわかってない。でも感覚を適当に読み取っている。こういうのは感性で何とかなるものだ。



「ほうほう。そうか農作物の病気の原因を知りたいんだな」

「何言ってるの? 彼は『わたしたちが夫婦みたいで羨ましい』って言ったのよ」



 ……ぜんぜんちがった。



 このままでは会話ができないので、アイリスに通訳をしてもらう。話を聞くと、彼は作物についてではなく住人との関係に悩んでいた。



「ベルゼブブ様は本当にやさしい方ですわ」

「そうです! ベルゼブブ様はとてもやさしい方です!」



 慕ってはいるけれど、少しよそよそしい村人たち。彼が求めているのはもっと気さくな関係。


 ベルゼブブは、んもぉ~っと大きいため息をついている。

 すごく寂しそうだ。



 ボクも王国では友達と呼べる人間が誰もいなかった。いや仲良くなったつもりだったけれど、全員に騙されていたのだ。

 この件ではあまり役に立てそうにない。


 ここは物怖じしないミルに頼ってみることにした。



「ミル。ベルゼブブが、村のみんなと今よりもっと仲良くなるにはどうしたらいい?」

「美味しいものをみんなで食べる!」



 ほとんど悩みもせずに回答をだしたミル。彼女の明るく物怖じしない性格に説得力があった。



「へ? そんな簡単なこと?」

「うん。美味しいものを一緒に食べて、『美味しい』って言いあうの。それで大体仲良くなれるよ」

「……そうなのか」



 それでも裏切られたら、どうすればよいのだろうか。そんな考えが彼女たちに伝わってしまったのか、さらに提案してくれる。



「……うん、じゃあわたしたちもいっしょに食べよ!」

「いいね! じゃあバーベキューがいい!」



 ミル発案で村全員のバーベキュー大会をすることになった。

 調理器具や食材を揃えるのは大変だけど、準備も一緒にやる事が大事だとミルは言う。



「よーし! やってやろう!」

「「おー!」」

「んもー!」


 良い機会だから手の空いている幹部も誘った。

 これなら交流のへたなボクでも、少しは親密になれるだろうか。




 ボクは焚火台と網を設置しながら周囲を見渡す。

 火起こしの炭は男たち、食材の調理は女たちが担当して準備している。みんな楽しそうだ。


 役割を割り振ったらボクのやる事なんて何もなくなった。仕方ないので、準備しているみんなの様子を見て回る。



「アーシュは休んでいてね」

「そうそう、主役だからね!」

「アーシュすき~」

「ずるい!!」



 ……のけものにされてしまった。

 





 隅っこでお茶を飲んでいると隣にすわる女性。ベリアルだ。



「アシュイン。ふふ……ありがとね」

「ベリアル。楽しんでる?」

「ええ! とっても!」



 腕に寄り掛かって、ボクを見つめる。ものすごく距離が近い。

 それに彼女のウェーブのかかった青紫の髪が触れると、良い匂いがしてその毒牙にかかってしまいそうだ。



「それと……ベルゼブブのことよ」

「ん?」


「あの見た目でね。いつも一人だったの」

「そう……でも今は彼も楽しそうだ」



 ボクはベルゼブブを見て、すこし微笑むと釣られたように彼女は顔をよせる。



「ふふふ……本当にいい男」

「ちょ――



ズドウゥウウウウウウン!!



 爪先から繰り出された超圧縮魔弾は、ボクとベリアルの間を抜けて後方で大爆発を起こす。



「……ふふふふ。アーシュ?」

「あら残念。邪魔者がきちゃった。またねアーシュ!」



 ひゅっ、と素早く避けて去っていくベリアル。彼女は思ったより仲間想いなのだ。

 それがわかっただけでもよかった。愛称で呼んでくれたし、仲良くやっていけそうだ。




 ……それからアイリスは思った以上に嫉妬深いのか。








 

 ベルゼブブの方へ視線を移すと、村の子供たちと一緒に仲良くジャガイモを剥いている。



「んもっんもっんも~~♪」

「ブブちゃん上手~」

「んもっ」

「わたしも? うれし~」

「ブブちゃん切るのも一緒にやろ~」

「んも~~~♪」



 ……ボクより交流が上手じゃないか。



 心配は杞憂だった。

 きっかけさえあれば、ボクと違って彼はすぐに人気者だ。ミルはそれが分かっていて、バーベキュー大会を開いたのだろう。

 ほんとうに凄い。





 準備が整ったので、大会の挨拶をすることになった。



「集まってくれてありがとう! ボクは魔王代理のアシュイン。みんなが楽しくなる領にするよ! よろしくね!」


「いいぇ~~い!」

「魔王様代理最高!!」

「アシュインすき~」

「んもっんもっんも~~~~♪」


「かんぱ~い!」

「「かんぱ~い!」」



 乾杯の音頭の後は、みんなは自由に飲み食いしている。

 ボクもアイリスやミルと一緒に食べていると、オロバスがやって来た。



「はっは~キミは!! 最高だな!! ムンッ!!」



 目の前でポージングしている筋骨隆々の男はオロバス。とにかく暑っ苦しい正義の英雄だ。

 腕の力こぶに子供たちがぶら下がっている。



「楽しんでいるね!」


「オロバスかっけ~!」

「おじちゃんだっこ~!」

「おじちゃんではない!! 正義の味方オロバスだ!!」

「わ~」



 男の子に特に人気だ。子供たちとじゃれ合っている姿は、まるで世話焼きの休日お父さんだ。

 でも彼のように暑っ苦しくなってほしくはない。





 お腹いっぱいになってくると、雑談やお遊びをしている者もいる。



 今回の本題はベルゼブブのための交流会だ。

 彼の様子をちょくちょく見ているが、本当に心配はいらないようだ。つねに子供たちや、打ち解けた村人と一緒に楽しんでいた。


 そして何かに気がついたようで、立ち上がって座っている一人の女の子のもとへ歩いていく。



「んもっんも?」

「あたしの足。人間にやられちゃったの……」

「んも~」



 一凛の花を差し出す。


 そして彼女の頭にやさしく付けてあげる。ピンク色の花があの子に良く似合う。



「ふふ……ありがと……これは?」

「んももっ」

「ほんと? ……ありがと……すごくうれしい」



 ベルゼブブは「可愛くてよく似合ってる」とでも言っているのだろうか、女の子はとてもうれしそうだ。



「ブブ様……だいすき!」

「んも~も~♪」



 すっかり打ち解けて、胡坐をかいて座ったブブの膝にあの子が座ってお話している。

 本当にボクとちがっていい男だ。



 ……羨ましい。



 そう感じているとアイリスが寄りかかって来る。まるでボクの心のうちを見透かしているようだ。


 そうだ……。ボクにも慕ってくれる、絶世の悪魔がいるんだ。



 アイリスが手を握ってくれると、ふと気がついたことがある。

 王国では子供のころからずっと感じていた不安の正体は、孤独感であったということに。




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[良い点] 素晴らしい。作者自身含めこれぞなろう!(何の捻りもないテンプレオブテンプレ)て感じの世界を堪能させていただきました! 流し読みでも10話もたずギブアップしてしまいましたがこれからも頑張っ…
[一言] ぶぶ様の言葉、なんとなくじゃ通じてなかった笑。 フィーリングじゃなくてちゃんと最初から通訳してもらいましょう笑。 みんな団らんとしていて、前回とは大違いでした。 落差が良いですね。 今回はほ…
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