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勇者が世界を滅ぼす日  作者: みくりや
第四部 誰がために……
79/202

閑話 第二王女の謀り事 その2

あらすじ


王都から北東のアイマ領へ飛ばされてしまったロゼルタ第二王女。思惑は錯綜する。



 北東のアイマ領はド田舎でした。

 隠居でもしていろといわんばかりに、のどかでやることがありません。

 王族の称号は剥奪され、侯爵としての爵位を賜りました。そんなものはただの飾り。わたくしも飾り。

 こんな領を治めろと言われましても、何もやることが無いのです。

 あれからしばらくたつのに、いら立ちが治まりません。



「お・ね・え・さ・ま・めぇ~~~!!」



 ダンダンッ!!



 そういって床を蹴りつけました。



「お身体の弱い姫様にとっては、これも選択の一つなのかもしれません」

「何をつまらないことを言っているの? ミネア」



 わたくしは身体が弱いなんてずっと言われてきましたが、こちらに来てからは健康そのもの。むしろじっとしていない暴れ馬のように毎日女王を罵っております。



「よほど耐えかねていらっしゃるのですね」

「そうよ!! 殺してやりたいぐらいですわ!!」



 こんな細くて長い人生なんてわたくしは絶対に嫌。

 だったら国家転覆でも何でも狙って、死刑になった方がマシだわ。



 わたくしが癇癪を起して暴れていると、ミネアは急に顔色を変えこちらに向かって真剣なまなざしを向けます。



「姫様……実はこのまま墓場まで持っていこうと思っていた情報がございます」

「……え?」



 驚きました。

 前国王と女王が崩御なされた日、いったい何があったのか。ミネアは全てを知っていました。

 ぽつりぽつりと苦しそうに顔を顰めながら話してくれます。



 事の発端はあの勇者パーティーにありました。

 あの勇者ケインはわたくしの勘の通り、やはり偽物だったのです。

本物の勇者であるあの方(・・・)を、お姉様(・・・)が追放してしまったのです。

 なんと原因は、あの時見た女魔導師とお姉様、そしてあの方(・・・)との痴情の縺れ。



 ……なんとも浅ましい!!



 わたくしが追放される前に見た、違和感の理由がやっとわかりました。


 そして本物の勇者様はあるスキルを持っていた。それが『勇者の福音』。

 所属する国やパーティーに目に見える祝福をもたらすそうですが、もし裏切った場合に『揺り返し』という現象が起きるそうです。

 それが最近、王国を苦しめている飢饉や不幸、軍事力衰退なのだとか。


 あまりにも突拍子もない規模のスキルに驚きました。一国丸ごと影響を及ぼすほどのバフスキルなんて、まさに神の領域に達していると言わざるを得ません。


 本物の勇者との復縁は難しいと踏んだ女王は、自分の痴態を隠すために異世界召喚術を敢行することになりました。

 あの時お姉様の後ろにずらりと並んでいた勇者たちです。

 しかし召喚するには王族の血(ロイヤルブラッド)が必須。つまりお父様とお母様を……自らの両親を生贄に捧げたのです。



 ……なんという外道!!



 お父様とお母様に与していたわたくしも、今後の治世には邪魔になるから追放した、ということでした。


 これが今回の騒動のあらましです。





「ありがとう……話してくれて」

「その方をお慕いしていたのですね」

「……ええ。……ですが……ですが名前も思い出せないのです!!……うぁぁああ!」



 わたくしは自分のふがいなさと、どうしようもない運命に泣き崩れました。もう取り返しのつかないことをしてしまいました。

 わたくしにあるのは……無知の罪。

 もっと正確に情勢を把握していれば、こんなことには……。





 ――そしてわたくしは決心した。



「隣国にパイプはないかしら? 帝国と敵対している国がいいわ」

「え……?」

「ですから、敵対している国と手を組むと言っているのです」

「なっ⁉ 本気の様ですね……かしこまりました」



 ミネアもわかってくれたようです。

わたくしはもう揺るぎません。必ずお姉さま……いえ、エルランティーヌから王国を奪い返して見せます。







 すこしすると、隣国の調査と資料をもって数名の使用人と魔導師がやってきた。彼らが情勢などを説明してくれるそうです。


 グランディオル王国の隣国という意味では、四つありました。

ただし北側に位置する国は高山という巨大な山脈が連なっているため、敵対どころか一切交流がないと言う。

また南西も海が広がっているため、船での交易は行われているが、敵対もしておらず深い関係でもない。

となると、残ったのは『ヴェントル帝国』と『ヴィスタル共和国』。




ヴェントル帝国は軍事国家であり軍部を中心とした発展を遂げている国。ただグランディオル王国と比べれば規模はかなり小さいようです。

近年王国の衰退に付け込み、境界線際を侵攻しています。占領された砦もいくつかあったときいております。

王国とのもめ事が多く、交渉失敗すればすぐさま大きな戦争に発展しかねない事態になる緊張状態です。

政の経験が浅いわたくしが関わって、都合通り動いてくれるか難しいところです。




 一方ヴィスタル共和国はその名の通り君主制ではなく、政治を行う国、軍部、そして教会がそれぞれの権力によって国が動いているという。

 教会は世界中に根をはる強力な集団。もし協力関係を得られれば、多くの融通が利くようになるでしょう。


 ……後ろ盾を得るのであれば、ヴィスタル共和国の教会がよさそうですわね。



 さっそく打診するように指示いたしました。

 幸いこのアイマ領とヴィスタル共和国は隣り合わせです。やり取りにあまり時間を要しないのも利点と言えましょう。


 こちらの事情を一部公開してでも、取り次ぐようにお願いした。

 するとすぐに釣れました。彼らとしても王国の今の状況を見て、食糧問題解決の足掛かりにしたいそうです。






「よ~うこそ、わがスカラディア教会本部へ。 御足労ありがとうございます。アイマ候、いやロゼルタグランディオル王国元第二王女」



 わたくしの尊厳をつつく様に、尊大な以前の立場をくっつけて呼ぶのは、牽制だろうか。



「謁見賜り恐悦至極。ご機嫌麗しゅう教皇。ロゼルタ・アイマで結構。以後お見知りおきを」


 教皇や、司教たちはやや怪訝な顔をしているが、無視する。

 形式的な挨拶を終えると本題に入る。



「……先ぶれにあったあの話は本当でございますか?」

「ええ……現エルランティーヌ女王は悪魔のような女です」

「我が教会でも、王国が『福音の勇者』を追放したという情報は得ておりました。しかし……その代替に前国王と女王の血を?……狂気ですな……それに」



 悩むような、わたくしを品定めするようないやらしい目つきを向けてきます。この古ダヌキは、狡猾で利益ばかりを追う生臭い男だと聞き及んでおります。

 今や単なる小娘であるわたくしでは、太刀打ちできません。

 ですからなるべくボロをださず、情報も出さずに協力だけを得たい。



「それに?」

「わが教会も王国には煮え湯を飲まされて来ました……いいでしょう……貴方に協力させていただきましょう」

「ありがとうございます」



 ふぅっと心の中で安堵していると、虚を突かれました。



「ところでアイマ候? 貴方はその『福音の勇者』を懇意にしているそうですな」

「……っ⁉」



 やられました……。完全に反応した顔をしてしまいました。

 しかし、懇意と呼べるものだったのでしょうか。お慕いしていることはもはや否定しませんが、気軽に会える立場ではなく、むしろあれ以来会えていません。どこからの情報でしょう。



「ええぇ……それがなにか?」

「もし……我々の協力を得て事がうまく運びましたら、福音の勇者をお貸しいただきたい。なぁに、一時的でよいのです」



 わたくしがお願いしたところで教会にいってくれるとは、とても思えません。しかしむげに断るわけにもいきません。



「よいでしょう。ですが本人の了承を得てからですわ」

「まぁ……それについては追々良い返事が聞ければよいですよ……」



 ……これはあの方(・・・)にまつわる別の本命がありそうです。ただいまは教会の協力が得られただけでも十分。わが領では諜報すらままなりませんから。



「さて、具体的な計画ですが――


 もう少しで悪魔の芸人が演劇の公演をするために王国へやって来るそうです。たしかにそんな話もありましたが、気にも留めていませんでした。

 王国からも正式な発表があり、その初公演にはなんと女王が参加されると言うのだ。

 我が王国のことながら、外部の人間からそんな情報が聞けるとは。むしろその情報をわたくしがしらないというのはいささか間抜けな話であります。



 ……これは一体。



 その場に乱入して、女王の罪を暴く。そしてわたくしが正当な王位継承者であることを宣言。その場で女王退陣を迫るのだ。

 すなわち、王位奪還計画(クーデター)


 そのためのお膳立て、国民を説き伏せるだけの証言などすべて教会が用意してくれると言う。

 わたくしはこの流れるような段取りに、少々違和感を覚えました。

 何か重要な情報が抜けている。そう感じずにはいられません。




 領へと戻ると、しばらくやる事がありません。

 しかし情報は必要です。ですからミネアに諜報をお願いしました。



「ですが……誰が姫様のお世話を……」

「お世話は、誰でもよいではありませんか。……そこの見習い?」

「……は、はいぃい!」

「名前は?」

「ヘ、ヘンリッタどもうぢまずぅ」

「ふふ……かわいい子。この子に身の回りの世話を任せますので、ミネアは王国の情報をしらべてきてくださいな」

「……かしこまりました」



 そう……わたくしはずっと専属で身の回りの世話をしていたミネアを疑っています。思った以上にわたくしに情報が届かなくなっていたからです。

 そして内密に別口の伝手を見つけました。





 深夜……不寝番のヘンリッタを休ませ、彼らを呼び出しました。

 彼らは諜報、潜入に長けている能力を持っているようです。



「……そう、そういう事でしたの……」

「ありがとうカケル(・・・)……それにタクマ(・・・)

「ロゼルタ様……ああぁお美しい……もったいなきお言葉‼」

「ロゼルタ様……エルランティーヌ女王など目じゃない‼ こちらに来てよかったぁ!!」



「貴方たちに期待しておりますよ……」




 わたくしの謀り事はどうやらここからが始まりのようです。






 待っていてくださいまし……お姉さま……クス。






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