閑話 スカラディア教会 その2
すこしグロい表現がございます。ご注意ください。
それから先行して手紙を送った。
トールマンから聞いた第二王女の王位奪取計画について。演劇はみんな頑張っていたし、そんなことが起きれば台無しだ。
今から送れば当日には間に合うだろう。
アミちゃんやミルちゃんは、特にあたしのことを気にかけてくれた。あんなに美味しいものを食べさせてくれるなんて、うれしくて泣いちゃった。
だから、あたしはあたしの意思で阻止したい。
閉架書庫を調べ終わった事を伝え外に出る。
図書室で少し考え事をしていると、トールマンは血相を変えてやってきた。
三日後に教皇への謁見が許可されたそうだ。
ただし教皇派ばかりの席になるだろうと注意してくれる。
トールマンは同席を許されなかったことから、おそらく王位奪取計画を手伝うように依頼されるだろうと。
「くれぐれもお気を付けください。実力行使の可能性も否定できません」
「……うぇへ……あ、ありがと」
あたしは枢機卿派に用意してもらった部屋で寝泊まりすることになった。ただ敵もいる中でねるのはいささか不用心なので、死霊を見張りに立てる。
ここは過去に大勢が亡くなった場所でもあるから、死霊に事欠かない。
そして謁見の予定日。丁度公演日だ。
うまくいけば少しだけ見ることができるかもしれない。手紙は届いているだろうか。
教皇派の神官の案内で、大聖堂までやって来た。謁見はここで行われる。
目の前には天井まである大きな扉。重々しく神官が二人係で開けている。
中へ入ると、ステンドグラスの大きな窓に様々な模様が描かれている窓が飛び込む。その優しい光に和む余裕のない程、目の前には神官たちがずらりと並んで緊張感が走っていた。
神官に中央の通路を歩くように促される。
中央奥の神の像が見えた。以前来た時と変わりない様子だ。
やはり教皇派は変わっていた。以前の教皇とは知り合い程度にはなれた。残念ながら友達にはなれなかったけれど。
でもこの教皇派もう初めから意見がぶつかっているのだから、友達になるのは無理だ。
目の前には教皇の衣装を着た太った男。それから教皇派の大司教が左右に二人。そしてここにはふさわしくないフードローブに包んだ女の子が一人。
あとは後ろに並んでいる神官たちがいる。
「よ~うこそ我がスカラディア教会へ。深淵の死霊魔女殿?」
「……ぐひ……あ、あなたが今の代の教皇?……うへへ」
あたしが軽口で話しかけると、ざわざわと不穏なざわめきがたつ。
「い、いかにも……。先代をご存知なのですか?」
「……な、何代か、わ、忘れた。……た、たしかモノリスちゃん」
「おぉおおぉ……四代前のお名前だ……」
「そ、そうですか……して何用で教会本部へ?
「ん……し、しらべものだよぉ」
「いくらひぃおじい様と仲がよろしくても、勝手に調べられるのは困りますな」
「……ご、ごめんね?」
はじめに謝っておく。
「……ぐっ。ちょ、調子狂うな……」
「……うへぇへ」
あたしはにたりと笑うと、周囲の神官、司教らがぞぞっと寒気が走ったような仕草をして怖がった。枢機卿派の人は怖がらなかったのに、こちらでは不評だ。
「では、せっかくお越しくださったのですから、我々の頼みも聞いてくれますよね?」
「……ぐひひ……い、嫌だよ」
「な、なぜ⁉」
「……うへへ……グ、グランディオル王国を……のの、乗っ取るんでしょ? だ、第二王女を使って」
「な⁉ なぜそれを!!」
すると周囲がさらに騒めく。そして緊張が走る。
「……それを知られて返すわけがない。 ここで監禁させてもらう!! 魔女様!」
ここにはふさわしくないフードローブの女の子。あたしより少し下くらいの容姿だ。その可愛さとは裏腹に、物静かで冷たいブルーの目はこちらをじっと見据えていた。
「きもちわるいわ……。 胡蝶の氷魔女が殺してあげる……」
そう言うと、舞うように美しく間を詰めてくる。獲物は剣。
あたしは杖も何も使わないので、切りかかられたら面倒だ。
でも真っ向からの戦闘なんて、魔女にしては直情的すぎる。
聞いていた紅蓮の魔女のような戦い方だ。
むしろ模倣しているのかもしれない。
早い。そして周囲を凍らせるほどの冷気。
戦う準備をしているのか、間を一定に詰めた後は冷気を振りまいている。
「……アブソリュート・ゼロ……」
――突然上級魔法を打ち込んでくる。
「うぇへへ……アア、アブソリュート・ゼロ」
――同じ魔法で相殺。
「……っち」
たやすく相殺したのが気に喰わなかったようで、その冷静な顔が歪んでいる。
「……お、お友達に……な、なって……?」
「……なるわけがないでしょ……だってあなたきもちわるいもの」
戦いの最中でも、同じ魔女なら少しは目があると思って話しかけてみる。しかしけんもほろろであった。
――そして彼女は走り続ける。
「……アブソリュートゼロ・バイン!!」
上位魔法の付与はできるようで、彼女の本命は白兵戦。
白兵戦は苦手。だって痛いし。
シルフィだったら喜んで戦っただろうけど、あたしはやらない。
だからさっき言った。ごめんねって
「……うえぇへへへ……オーダーモノリス」
唱えると、あたしの知り合いだった四代前の『教皇モノリス』の死霊を形成した。彼の愛着のあるこの場でしか使えない。
教皇派が元教皇に命を奪われるなんて、あたしにしては気が利いている。
ただ形成には霊が足りなかった。だいぶ前だから仕方がないのだ。
だから初めに謝った。
その場にいた500名ほどの神官の内、約半数の250人ほどの霊を無理やり引き抜いて、混ぜ捏ねて、何とか形成できたようだ。
これで出来なかったら恥ずかしかった。
「……ヴヴ……我はなぜ?」
「……げぇひひ……も、モノリスちゃん……ああ、あたしクリスティアーネ。お、覚えているぅ?」
「……ヴヴ……おぉ……な、なつ……なつかしい魔女の娘……ヴヴ……」
どうも維持がおぼつかないようだ。
「……時間なさそうだから……あれ殺って?」
そういって魔女を指差す。
「ひっ⁉」
指をさすと怯える魔女。これぐらいで怯えるとは、先ほどの冷静さがまるでなくなっている。
モノリスを呼ぶほどでもなかったけれど、いい感じに所縁のある倒し方をしたかった。
モノリスは教皇でありながら、就任前は鬼神と呼ばれていた筋肉だるま。肉弾戦をやらせたら上位魔法ごときは摘ままれて捨てられる。
「……い、いや……こ、こないで」
「ひぃいい!! 深淵の祟りだぁ!!」
「にげろぉお!!」
いきなり神官の半数の魂が吸い上げられ、とびきりの死霊を呼び出されたのだ。恐怖しないほうがおかしい。神官たちは逃げ惑う。
それに紛れて大司教や教皇まで逃げようとした。
「……げぇひひ……のの、乗っ取る……ね?」
「ひぃいいい!!」
「うあぁあああ!!」
…………
…………
「ヴヴォ……ハイ、ウケタマワリマシタ。ハイ、ウケタマワリマシタ。ジョウオウバンザイ、クリスティアーネカワイイ」
一度死霊を抜いて、周囲の死霊と混ぜて戻す。
すると、知能はおちるが生きる屍の出来上がり。
でも活きが良いから、一か月ぐらいは行動できるはずだ。
あっちは終わったかと視線を戻すと、氷魔女は足と手が千切れていた。
少し話はできそうか、確認してみる。
「……げひひ……つ、つめたい顔が……暖かくなった……ね?」
「……や、やめ……お、おねがい……み、見逃し……て」
か細い声で懇願した。
でもまだ可愛い顔をしているから見逃さない。
必死に命乞いをしたら考えよう。
「……い、痛いの? ……い、痛いのとってあげようか?……うへへ」
「……ほ、ほんと?」
「……お、お友達に……な、なってくれたら……」
「な、なる!! なりますからお願いします!!」
「……ほほほ、ほんとぉお!……うへぇへ……う、うれしい‼ ……も、もうモノリスいいよぉ」
「ヴヴヴヴヴヴ……」
そう言うと、死霊の核であるモノリスが消えたので、生贄につかった神官の死霊は霧散した。
「……バカめ……だれが気持ち悪いおまえなんかと友達になるか……アブソりゅーろ・……れろ?」
そう氷魔女が魔法を唱えようとしたが、それ完成しない。
顔が、目がまだ死んでなかったもん。さすがに気がつく。
だからあらかじめ死霊に脳みそを咀嚼させていた。
だから――
「……ごめん……ね?」
そうあたしが言うと、彼女の目玉がぎゅるんぐりゅるんと回り、その勢いでぼてりと落ちる。
両目が空洞になりそこからぴちゃぴちゃと液体が漏れ出した。
両目の空洞からは沢山の蟲の死霊だ。
彼らの生命は儚い。だから餌を食べたら満足して霧散してしまう。
「……うぇへへ……じゃ、じゃ教皇?トールマンの命令を聞いてね?」
「……カシコマリマシタ」
あたしはトールマンを呼ぶと、ドアの向こう側に控えていたようで、いそいそと入って来た。
「す、すごい……これは大丈夫なのでしょうか?」
「……うぇへへ、し、死んでいる……よ?」
「なっ⁉」
「きょ、教皇と大司教は生きる屍になっているから……い、一か月で後釜きめるといいよぉ……そ、その辺で腐るから」
「ひぃいいいい……」
「ま、魔女もいたけれど、そっちは貰っていくね?」
「か、構いませんが……どうするのです?」
「え?……き、きれいにくりぬけたから……な、中身は実験に。そ、外は可愛いから剥製にしようかなぁ?……うぅひひひ」
「深淵の死霊魔女といわれる所以がわかりますな……」
トールマンもさすがにこれには、引きまくっていた。でも魔女なのだからそれぐらいは当たり前にする……とおもう。
ひとまず教会側の企みはこれで留まるだろう。あとはトールマンに任せる。
ただ王位奪取計画の方はすでに進行してしまっている。軍部と国を止めるなら現地へ行って妨害するしかない。
「そっちは何とかするよぉ……あ、ありがと」
「……は、はいぃっ!」
あまりに怖がっているから、最後はちゃんとお礼を言おうとおもって笑顔で挨拶をしたら、怖がっているときと変わらない反応だった。
「あの……魔女様はお友達を欲しがっていましたよね……?」
「……うひ……」
「で、では……お、お友達に!!」
「!……うぇへへ!……ほ、ほんとぉ?」
「ええぇ! 教会一同みな貴方を尊敬しております!!」
そういって枢機卿派の神官たちは、片足の膝を立てて座り、胸に手をあてて讃えてくれる。教会流の敬礼しているのがわかるけれど、これはお友達とは違う気がする。
「……は、はずかしぃし……い、いくね」
「……はいっ! また是非お越しください!!」
十分な収穫があった。それに教会はもう正統派が覇権を握るだろうから、脅威になる事も少ないだろう。
王位奪取計画を止めることはできるだろうか。あたしが間に合わなくてもきっとアーシュが何とかしてくれる。きっと大丈夫。
あたしはアーシュに会えることを楽しみにしながら、ゲートを使った。
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