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勇者が世界を滅ぼす日  作者: みくりや
第四部 誰がために……
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二人のシルエット



 今はお城へと戻る馬車。王都から距離はないので、ゲートコストを考えて馬車にした。

 いまは時間もあるのでのんびり話をしながら帰る。

 ふと思い出した聖剣の話をしてみる。



「ガランが持っていましたが、重くて誰も使えませんので宝物庫で保管しておりますよ」

「何故かボク以外の人では重くて持ち上げられないんだ」



 まるで意思があるようで、ボク以外の人間に使ってほしくなさそうだ。騎士団長でも一人で持ち上げることができなかったと言う。



「……うへ……あ、あたし、見れば……わかるかもぉ」

「もどったらお願いしようかな」

「……う、うん! うへへ……」



 たしかに意思、魂、霊のようなものが宿っているとするならクリスティアーネが専門だろう。

 少しだけ得意げなのが可愛らしい。



「なんでいま聖剣の話なのだわ?」

「いや実は魔女の里で祠を見つけたんだ」

「祠?」



 祠の様子を話しても、二人とも知らないようだった。魔女の里にそんなものがあるとは思ってもみなかったそうだ。

 あの文字も気になるし、聖剣と関係があるのかも知りたい。



「王城の図書室に聖剣の資料が残っているはずです。戻りましたら手配しましょう」



 やがて王都が見えてきた。このまま入るわけにはいかないので、王都から王城へは手配してあった馬車で移動する。









「ひ、姫様~」

「女王……じゃなかったベアトリーチェと呼びなさいな」



 お城へ戻ると、執事や侍女、ベアトリーチェが待ち構えていた。女王がで歩きすぎだ。隣町の視察とは言え、護衛もつけずに変装してのお忍びだ。

 ボクと魔女二人がいれば連れ去られることはないだろうけど、心配なものは心配だろう。


 部屋に通され待っていると、宝物庫と図書室に行く準備ができたそうだ。聖剣に関する記述は禁忌ではないので、禁書書庫ではなくて手前の図書室へ向かう。



「さきに聖剣に関する資料、祠に関する資料を集めさせておきました」

「す、すごいね。ありがとう!!」



 レイラがお城に戻ったせいか、使用人たちの動きがまるで違う。先ぶれがあれば先回りしてやってくれていた。

 いくつかの選別された資料からボクたちも読んでいると、シルフィが何か見つけたようだ。



「これをみるのだわ」



『聖剣伝説』

 聖剣は神剣と呼ばれるものの一つ。神の力が宿り、認められたものだけが使用することができる。

 意思が宿っており、触れることで意思が魔力を認知し選別される。認められないものは、重く振るうことができない。


『神剣』

 元々一つの剣を六つの力に分けた。

 すべてが揃えば概念をも斬れると言う神の剣になる。

 神明の祠に納めることで成す。




「神剣という言葉は、やっぱりあの祠に書いてあったことを指しているようだ」

「祠に聖剣を持っていけば何か起こるかもしれないのだわ」

「……うぇへぇ……」

「どうしたの?クリスティアーネ」

「……げひひ……な、なんでもないよぉ」

「?」



 クリスティアーネにしては珍しくはないけど、若干いつもと違う慌てぶりだ。ボクに付き合わせてずっと馬車を出してくれたり薬をつくったりと、いろいろやってくれるから、つい甘えすぎていたのかもしれない。

 それだけやれば魔力も消費するし疲れるだろう。



「クリスティアーネ?つかれちゃった?」

「……うひぇ……だ、だいじょぶ……し、しんぱいうれしい」



 早めに用事を済ませて今日はもう休んだ方がよさそうだ。

 資料は厳選されていたから、すぐに読み終わる事ができた。調べてくれた使用人たちにお礼を言って、ボクたちは宝物庫へと向かった。



「ここへは王族のみしか、入れません。異例中の異例だとおもってくださいまし」

「わかったよ。無理を言ってごめんね」

「いいえ!! お役に立ててうれしいですわ!!」



 中へ入ると、さまざまな宝石や骨とう品、装飾のすごい剣や鎧まである。整理されて陳列されているのは、代々の王族の趣向なのかもしれない。

 奥へ進むと、ひと際大きく、野太い一振りがあった。



「……なつかしい……これだよ!」



 ボクがひょいっとそれを手に取ると、少しだけ刀身が光ったように感じた。鞘に納められているから、わかりづらいけどやはり光ったと思う。



「……うえぇ……やっぱり……い、意思とは語弊」

「どういうこと?」

「……記録……記憶? ……い、意思じゃないよぉ」

「ケケケ。アーシュみたいな人間に反応して勝手に反応するように組み込まれているのだわ」

「そうなのか……じゃあ祠も似たようなものかな?」



 ゲートを仕込んでおいたから見に行こうと思えばいけるけど、今は危険だ。

 結局聖剣はボクが預かることになった。使えるなら使ってほしいというエル。放っておけば、ただ埃をかぶった装飾品だからと。








 宝物庫からもどると、客室でくつろぐことにした。

 客室はやはり豪華で、あまり落ち着かない。



「二人ともお疲れ様。今日はもうのんびりしよう」

「ケケケ。お酒があるのだわ!!」

「……うぇへへ……の、のむぅ」



 これは……あの時の再来だろうか。


「……ふひ……ど、どうぞ」

「ありがと」


トクトクトク……


 気をきかせてクリスティアーネが注いでくれると、案の定シルフィもやりたがって……


「あ!それあちもやるのだわ!」


トクトクトク……



トクトクトク……


トクトクトク……


トクトクトク……



「もおうりられろ~」


結局深酒する羽目になるんだ。



「おい、ばばぁ。そろそろ酔っぱらってきたのだわ?」

「……うぇへ……あ、あたし酔わない……」

「なっ⁉ これではアーシュ()遊べないのだわ!!」

「……あ、あそぶ?」



 二人は何か言い争っているような感じだったけど、目が回って内容を理解できなかった。



「ふありおも……れんらはらめらろぉ」



「……うへぇへ……アーシュちゃん……か、かわいいぃぃい!!」



「おいクリスティアーネよ……」

「……ぐひ……」



 そう言ってシルフィは、急に真剣な面持ちになって問いかける。彼女の顔はその可愛らしさをも冷たく感じさせるほど鋭い目つきだ。



「あの時、本を隠したのだわ?」

「……うへ……ば、ばれてた」

「あほ。あれでバレないと思ってる方がおかしいのだわ」

「……た、ただの吟遊詩人の……う、詩だよぉ?」

「教会の教典にものっている詩。関連性に気づいたのだわ?」

「……ふへ……ささ、さすが……シ、シルフィ……」

「と、とにかく刻印があるか探すのだわ……」



 二人は酔っぱらってデロンとなっているアシュインの服を、いそいそと脱がし始める。

 それでもすこし後ろめたい気持ちが拭えない。



「うへ……ア、アーシュちゃんに……き、嫌われないかなぁ……」

「たぶん平気。でも嫌われてもやるのだわ。それが嫌ならあちの所為にしてもよいのだわ」

「……へ、平気……シ、シルフィと……と、とと、友達だから……うへへ」

「ふ、ふん!! わかったのだわ!!」



 素っ裸にしたアシュインの身体をまさぐり始める二人。当の本人はとても幸せそうに寝ていた。すこしくすぐったいのか、にやけている。



「うぇへぇ……いい、身体ぁ……」

「ま、まじめにやるのだわ!!」



 そう言いつつ、シルフィも顔を赤くしながらまさぐり続ける。目的は違えど、やることは変わらないのだ。



「……げひひ……や、やっぱり……た、ただの人間?」

「ある……足の裏なのだわ」

「……うぇへぇ……」



 二人は目的のものをアシュインの身体から見つけ出すことができた。できれば見つけたくなった刻印。



「あの詩にある刻印があるとなると、信憑性が高くなったのだわ……」

「……ま、前の同じ勇者の記録が必要……た、たぶんヴェスタル共和国?」



 ヴェスタル共和国は北東の小国。

 小さい国ではあるけれど、教会本部がありその権力たるや、人間の全てを牛耳っていると言われている。



「教会を相手にするのは、面倒この上ないのだわ」

「……む、昔封印されたから?」



 シルフィという天才を、ただの浮浪児にまで貶めていた封印。それは強い因縁があると言わざるを得ない。



「ふん……教会自体にそんな力はないのだわ。あんときは赤鉄の砂魔女ヘマタイトオブサンドウィッチ猛毒の魔女(ヴェノム・ウィッチ)がかわっていた所為なのだわ……」

「……よ、よくいきてた……ね?」

「はぁん‼ 赤鉄(ヘマタイト)ごときにはやられない。やつは完全に殺したのだわ。問題は猛毒(ヴェノム)……」



 上位魔女である猛毒の魔女(ヴェノム・ウィッチ)との対決。それは王国の記録にも残っていない裏舞台。暗部同士の戦い。

 不覚にも用意周到な毒で動けなくなった。猛毒の魔女(ヴェノム・ウィッチ)にも致命傷を負わせたが、その隙に教会の儀式によって封印されてしまった。

 しかも魔女の里の話ではまだ猛毒(ヴェノム)は生きている。




「……ぇぇ……あ、あれぇ?300人……ぐ、ぐらいの血が必要……もも、もったいないぃ」


「ネクロフィリアめ!! ……まぁよいのだわ」



 なにか思うところがあったクリスティアーネは、決心して言う。



「……ぐひ……あ、あたし……い、いってくる……」

「……おまえぇ」

「ふへ……ア、アーシュちゃん……す……きだから……な、なにかしたい」

「わかったのだわ……じゃあせっかくだから魔力ももらっていくといいのだわ?」

「うぃひひ……い、いいのかなぁ?」

「ケケケ……」



 魔女の宴のような始まり。

 ただその月明かりに照らされた二人の幻想的なシルエットは、彼が起きていれば心を奪われたに違いない。


 こうして魔女たちの決意は、夢のような幸せの中で形を成した。








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