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勇者が世界を滅ぼす日  作者: みくりや
第四部 誰がために……
69/202

間者



 レイラたちは検診と薬を飲んで休む時間になったので、医務室から追い出された。

 来賓室へ戻り、いよいよやる事がなくなって、お喋りをしていると、ベアトリーチェが再びやって来た。


 とおもったらベアトリーチェに扮したエルだった。



「……エルだろ」

「あ、バレちゃいましたわ」



 ここにいる魔女二人とボクは、もう一目でエルかどうか見分けがつく。前科があるから初めから疑ってる。



「ケケケ。ひどいお転婆女王なのだわ」

「……うぇへへ……エ、エルちゃん暇?」

「ひ、暇ではありませんが、これから劇場の視察でもいかがかと」

「いいね!」


 魔王領としての視察は先日すでに済んでいるという。

 ただボクはふらふらと出歩いている所為か、その機会を逃している。



 ……これでは魔王代理失格だな。



 そんなボクの為に、ルシェが手をまわしてくれていた。帰る前に必ず視察をしてもらうようにと、言われたそうだ。

 仕事とはいえちゃんと手をまわしてくれているやさしさに、すこしジンときている。

 帰ったら思う存分褒めよう。



「ではまいりましょう!!」

「いやベアトリーチェでいくの?」

「ええ。だからベアトリーチェとお呼びください」



 会場がある町は王都からやや魔王領寄りのカスターヌ町。

 それほど距離はないが、エル、もといベアトリーチェがいるのでクリスティアーネの馬車で行くことになった。



「ふふ……楽しいですわね!」

「たまにはのんびりもいいよね」

「レイラも来たがっていましたわよ」

「まだ動けないだろう……」

「うぇへへ……じ、滋養剤、渡した」

「ケケケ。それなら数日で回復するのだわ」


 あんなに衰弱していたのに、それほどクリスティアーネの滋養剤は強力なのだろう。ただ成分は聞きたくない。


 そしてカスターヌ町が見えてきた。

 門番をしている民兵に詰め寄っている二人の男がいる。



「教えてくれよ!! なにか覚えてないかっ!?」

「いえ……ですから……」



 二人の顔に見覚えがあるというエルが話しかける。

 少し変わった衣装を着ているが……召喚者か。



「何していらっしゃるの?」

「ベアトリーチェ……演技、演技ぃ!!」

「あ」

「こほんっ!! なにをしているのですか!!」



 エルは演技に向いていない。言い直したエルに対して訝し気な顔を向けている。



「ベ、ベアトリーチェ様? 仲間がまたいなくなったんだ……」

「それで俺たち探しているんだよ」



 二人はやはり召喚者。

 天谷 翔(アマヤ カケル)鈴木 拓真(スズキ タクマ)とベアトリーチェから紹介を受ける。

 当然ボクたちも所属や名前を隠した。

 偽名はボクはディアボロ、シルフィはシル、クリスティアーネはシタイ……。


シタイって死体のことだろう……。二人も怖がっている。





 アミとナナは魔王領にいるし、四人はボクが殺している。それから半数は帝国へと流れたと聞いている。

 王国で残っている召喚者は十名だという。アミに聞いていた総勢が三十名程度だから、三分の一になってしまったと言うことだ。


 アミやナナのことについて彼らに言うと、ややこしいことになりそうだからここは黙っておくことにした。



「もう十人しかいなかったのに、これ以上へるのか……」

「ベアトリーチェ様。何とかなりませんか?」

「う~ん。確認してまたご連絡いたします」

「うちの方でも聞いておくよ。ベアトリーチェ様はこれから大事な用事があるから、別の機会に……」

「あ、はい!よろしくお願いします」



 二人は深々とお辞儀をして去っていく。

 このままでは劇場を見る時間も無くなってしまうし……。


(……間者かもしれぬのだわ)

(やっぱりそう思う?)

(演劇について調査していたのだわ?)

(警備強化を考えよう……)




「実際、召喚者はどうなの?」

「アミとナナ、それからキョウスケの三人は極秘扱いになっておりますから、把握している残りの召喚者は十三名です」

「で彼らがしっている十名の内、いなくなったのは?」

「そのような報告は入っておりませんよ?」

「やはり」

「どういうことですの?」

「さっきの二人……帝国の間者だよ」

「えぇ⁉ え、衛兵むぐぐぐぐ」



 慌てて口を押える。

 こんなところで彼らを捕まえても、ことが荒立つだけで利がない。魔力の質と名前だけ覚えておけば十分だ。それにもともと彼らには王国の監視をついている。



「しーっ。ほっておこう……」

「わ、わかりました。アシュインがそう言うなら……」

「ケケケ。おまえ、間抜けすぎなのだわ」

「むーっ! そんなことはありません!!」

「まぁ……それより早く行こうよ」



 ボクも人の事をいえた義理ではないが、たしかにエルは抜けている。とくに王国では女王の権限が強いから、やはりレイラのようなしっかりした人がいないと破綻するだろう。



 劇場に行くには町の端のほうまで歩かされる。

 歩いている途中にこれから開くであろう屋台の準備が進められいる。大工職人たちが、せっせと忙しそうにしている。



 はじめは見世物小屋の為だったはず。それが人気がでているから少し規模は大きくなると聞いていた。

 だけどたどり着いたのは巨大な闘技場のような円状の建物だ。



「……え? ここ?」

「お気に召しませんか……?」

「ケケケ!おおぉきいのだわ!!」

「……うぇへ……すす、すごいぃ!」



 石造りの装飾が至る所に凝らしてあるデザイン性に富んだ建物。

 思った以上に反響があったということだ。



「平民でも入りやすいようにはしてありますわ」

「貴族はあの上の方に座るようになっているのか」

「えぇ、身分の違いによるいざこざを避ける狙いがあります」



 中を見て回ると、観客席や舞台、どれも工夫を凝らしてあるし、削り出しで装飾してある。

 作った期間を考えると、相当な人数が関わっているのだろう。



「予想以上に大事になったな。これをいちからつくったの?」

「いえいえ、さすがに期間的に無理があったので既存の建物の改築です」



 やはりもとは闘技場だった。

 確かにこれなら平民が入りにくいということはない。

 しかしこんな規模の演劇をいきなりやりだすなんてなれば、何もなくとも探りたくなるだろう。



「ええぇ! 今やオロバス様はすごく人気です!」

「すごいね。宣伝してくれたのか」

「ケケケ。一発解決の英雄は、いつの時代も人気なのだわ」



 声が届きにくいとおもったけど、それも魔道具を手配しているから大丈夫だという。本当に至れり尽くせり。


 それから勇者を使って、悪魔に関する意識改革への改変もすでに行われていて、演劇がその集大成となる。

 今や共通の敵は偏見や差別であり、それを推し進める帝国は敵だという認識だ。


 砦でエルダートとの会合があった時は戦争回避を目的としていたが、もうすでにその時は越えていた。

 ルシェが予想していた通り、すでに戦争に近い小競り合いは起きており、冷戦状態だった二国は完全に戦争状態に移行している。


 そのせいもあって、おおっぴらに帝国が悪という風潮を作り上げたと言う。

 ここまで見事に意識改革のもレイラがもともと準備していた施策のおかげだったそうだ。



「これは責任重大だ……」

「……ええぇ。ただ警護計画が追い付かないのです」

「すでに情勢が変わっているし、意識改革が進んでいるなら魔王軍も出せるかもしれない」

「ええぇ……心苦しいですが、できれば」

「ケケケ。悪魔は能力は高いが、もとは温厚で臆病なのだわ。アーシュがいるからここまでやるのだわ」

「買いかぶりすぎだよ」

「……うぇへへ……それ……ぜ、ぜったい」



 魔女の二人にそう言われるとそんな気になってくる。

 ボクはただやろうと声をかけただけだ。自分の罪滅ぼしの為に。



 しかしこれをみんなも視察したのなら、思った以上の反響に腰が引けていないか心配だ。

 でももう乗り出した船だ。止まる事はできないし、このままハーフや悪魔というだけで殺されたり奴隷にされる時代は終わらせたい。






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