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勇者が世界を滅ぼす日  作者: みくりや
第四部 誰がために……
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紅蓮の魔女



 自由に出歩くことは止められた。

 やはり仲間たちと会うことは許可をだせないと言われてしまった。食事をとるときに会えるかと思っていたのに、わざわざ時間をずらされてしまう。

 いい加減恋しくなってしまうボクはまだ子供なのだろうか。



 お世話してくれた魔女の見習いの子三人も、講義を受けているから用が無ければ会うこともない。


 本気でやることがなくなってしまった。

 仕方がないので、お休みであるけれど鍾乳洞へ向かっていき、探索をしてみる。


 鍾乳洞の内部は分かれ道が一つもないので迷うことはない。



 ないはずなのだが……



 なぜか大樹のある広場までたどり着かず、木々を避けた小さい広場にでた。木々は上空まで筒抜けで光が差し込んでいる。

 中央には小さくて、木で作られたような祠がある。


 見たことのない形状の屋根、高い技術で掘り込まれた紋様の木の柱、そして祠の前には真っ赤な格子の木があって、なにかを祀っているようだ。


 その赤い格子をくぐり、祠の前までくると石碑に何か書かれているのがわかる。



『神々の力の安息の地 神剣と共に』




 どういう意味だろうか。


 神剣とは。


 そういえばボクが使っていた聖剣はどうなったのだろうか。王国を追い出されたときに、ガランに置いて行けといわれて渡したままだ。

 彼は危ない物と言っていたが、あれは人間にとっては安全なはず。


 いやボクが振れば人間もなますのように斬れるが、他の者は持つだけでも苦労する代物。

 かなりの魔力を通さないと、ただのこん棒に近い。


 あれが神剣なわけがない。



 ここにまた来られるかわからないので、ゲートの魔法陣を作っておいた。魔法陣があって場所の情報を認知していれば、また来ることができるはずだ。



 周囲を調べてもこれ以上は何もなかったので、来た道を戻る。すると戻っているはずなのに、大樹の広場へとたどり着いた。


 一本道のはずがこれだけおかしな道になるということは、里と広場の境界の歪の所為だと思う。

 ボクは歪のはざまに迷い込んでしまったようだ。



 大樹の目の前まできたが、いまはオババも誰もいない。今日は休みと言われたが、魔力を注いでも問題ないだろう。

 できれば前倒しにして早く帰りたいのだから。




 のんびりと魔力を注いで、考え事をしていると女性の声が聞こえてきた。


「おいババァ!里に男をいれただろぉ!」

「あぁ……白銀の伝手で、負傷者の中に爺が一人いるぞ」

「あん?爺なんぞどうだって良い。若い男を入れたはずだ!我の鼻はごまかせんぞ!」

「ほぉ……気になるのかぇ?」

「あぁ気になるね!あたしの可愛い子猫ちゃんたちを毒牙に掛ける不届きものだからね!!」

「まったく……つきあってられないねぇ」

「おいババア!!その男を出せ!!今すぐ干物にしてオークの餌にしてくれる!」



 明らかにボクの事を指しているようだ。さすがに干物にもオークの餌にもなりたくはない。

 魔力を注ぎながら、ずっと様子を聞いていることにした。



「そんなに若い男がほしいのかい?いやらしいねぇ」

「そそそそそそ、そぉんなわけないだろう!」



 ここからでは、女性がどんな容姿なのかみえないけれど、かなり気性が荒い。それに男性に免疫もなさそうだ。



「ん……魔力を注いでいる奴がいるぞ?」

「ちっ……あんのバカが……」



 まずい。注いでいるのが、そしているのがばれたようだ。

 隠れようにも隠れる場所がない……ここは観念するしかない。



「おい……そこのブタ」



 いきなり辛辣だ。

 ボクはちょっとむっとして知らんぷりすることにした。いくらなんでも初対面のひとにそれはないだろう。



「おい、紅蓮の。彼にはあたしの肩代わりをしてもらっているのさ。邪魔するんじゃないよ」

「ふん……あたしが話してやってるんだ。男の分際で生意気だぞ!」



 なるほど。

 彼女は男嫌いのようだ。さっきの口ぶりだと同性愛者ということだろうか。

 となればボクを嫌うのも頷ける。うなずけるが、納得はできない。

 ボクを嫌うのは構わないけれど、男そのものを卑下されるいわれはないからだ。



「……こんにちは。はじめまして」



 ボクはその感情を抑えて、とにかく平静を装う。オババはこちらの味方になってくれているようだから、今はこの高慢ちきな女性をおいはらえればそれでいい。


 振り向くと、そこには朱色髪が異彩を放つ艶美な女性が立っていた。女性は身長が高くて、凛々しく鋭い目つきをこちらに向けている。

 この人が『紅蓮の魔女(パドマ・ウィッチ)』だということは一目でわかった。

 じっとこちらをみて値踏みをしているのがわかる。隠すつもりもないようだ。



「……男は……魔女以外がこの里にいるだけでも腐りそうなのに、あんたうちの可愛い子猫ちゃんにお手をつけたね?」

「え?……えーと」



 名乗らせてもくれない。

 それから可愛い子猫ちゃんとは誰の事だろう。シルフィたちの事をいっているなら反論しようもないけれど……。



「さっきあの子たちがあんたの噂をしていたわ」

「ボクの?」

「かわいいくて逞しい男の子が来ているってね」



 子猫ちゃんとはミーシャたちの事をいっているようだ。彼女たちには汚れたお世話をしてもらっただけで、そんな関係でもないし、そもそも手を出すような年齢じゃないだろう。


「あ、あのごか――」

「この汚らわしいブタがっ!思い当たる事があるようだな!いまあたしがこの場で三枚におろしてくれるわ!」



 弁解すらさせてくれない。上位魔女の癖に落ち着きがない魔女だ。彼女はその背中に担いでいたバスターソードを構える。


そして――


「インフェルノ、アブソリュートゼロ、バイン」


「やばい!?」



 キーーーーーーーン!



 ゆっくりと振り下ろされたバスターソード。



 炎の上級魔法と、氷の上級魔法を融合させてさらにバスターソードに付与する荒業を無詠唱でやってのけた。軽く振り下ろされた剣でも、反魔核に匹敵する次元を超える技だ。

 ボクはさすがに腕を持っていかれるとおもってブレイブウォールで防ぐ。



「ばか!やりすぎだよ!」

「こいつ……これを防ぐなんて何者?」



 まずい。

 さすがに上位魔女だけあって、魔力を超越したスキルを使ってくる。ただそれを防いであしらってしまうと、ボクの正体を勘繰りだしてしまう。そうなればいずれ勇者の変異体である事がばれてしまう。

 これほどのスキルを使う魔女ならば、封印も簡単にやってのけるだろう、ボクはそれだけは嫌だ。

 多少傷ついても、やられたふりをしてこの場をしのぐほうが良いだろうか。



 いや……ここに来るときに、強引でも押し通すとシルフィにもみんなとも約束したんだ。

 ここは引いてはダメだ。



「……いきなりこんな事をするなんてひどいじゃないですか」



 そういってボクは、少しだけ殺気をこの魔女へと放つ。オババには行かないように気を付けてはいる。



「……ぐっ!……おい!オババ……このバケモノはなんだ!」

「バケモノなんて……ひどいですよ」

「あたしゃ、知らないよ」



 オババは諦めたかのように、そっぽを向いている。目こぼしするということか。厚意に甘えて、この女にすこしお灸をすえてやろう。



「ボクはただの男ですよ?」

「男であることも、その力もすべてにおいてバケモノだ。貴様は」

「男でもだめなんですか?」

「ああぁ。男である時点で汚物だ!バケモノめ!」



 さすがに偏見が過ぎる。

 生まれや性別、親や血縁なんてだれも選べない。


 その運命の中で生きなければいけない。


 ハーフであったり、太ったおじさんだったり、種族がちがったり、生まれつき目がこわかったりするだけで、存在を否定するなんてあってはならない。



「……それ以上息をはくな」

「……ぅ」



「やめな!」



……ゴッ!



「……あんた。それ以上荒らすなら、連れてきた娘と爺を殺すよ」

「なっ!?」



 軽く杖で小突かれただけだから、痛くはないが熱を覚まさせられた。


 ボクは甘かった。オババからすればこの目の前の偏見女も、仲間であることには変わりない。いざとなったらレイラたちを人質に取るつもりだったと言うことだ。

 事前にその対抗手段をシルフィやクリスティアーネに取らせないために会うことを禁止していたのだ。


 やられた……。


 まさにたぬきババア(・・・・・・)だ。妖怪め。


 この老婆が死ぬ間際なんて絶対に嘘だ。

 小突いた時に気がついたが、衰弱しているように見せかけているのはブラフだ。

 それも超高度な技術を駆使しているから、ボクはおろかあの天才であるシルフィすら騙されている。


 ボクがここで暴れることは簡単だ。おそらくオババやこの紅蓮の魔女(パドマ・ウィッチ)を殺せるだろう。

 だがその瞬間にレイラやエルダートは殺される。

 そしてこの老婆のことだ。ほかの上位魔女もすでに連絡をつけているだろう。


 今になってシルフィやクリスティアーネが会わないほうが良いといってた理由に気がついた。


 紅蓮の魔女(パドマ・ウィッチ)の首を絞めあげていた手を離し、殺気を止める。



「……げほっ!げほっ!」


「ふん……かしこいね」

「やられました……」

「……わかいねぇ。大事な物を守りたかったら、根こそぎなんて考え棄てな」

「……勉強になります」


「……このっ……げほっ!……ふ、封印してやるわ!」

「やめな!」


「……紅蓮の魔女様。ごめんなさい……ボクはすぐ里を立ち去るから許してください」


 そういってボクは頭を下げる。

 もうこれ以上里にはいたくないし、彼女もそれで満足だろう。そうでもしないと彼女は止まりそうにない。



「ふん……オババに免じて、今は引き下がってやるよ……だがいつか消し炭にしてやろう」



 やはり彼女は納得がいってない。魔女が敵に回るとなると少し厄介だ。



「おい……対価分の魔力までまだ達していないだろう?」

「さっきも実は暇だったので注いでいました」

「……おい……まさに底なしだな……」



 五日間の予定だったが、わずか二日目で退場だ。

 でも対価である魔力は十分なほど注ぎ切っている。オババがいうには数年は注がなくても持つほど満ちたという。



 紅蓮の魔女とは完全に敵対してしまったし、今後は魔女の全てが敵対することになる可能性がある。

 その時、シルフィとクリスティアーネはどういう判断をするのだろうか。





「えー!?もう帰っちゃうの!?」

「やだーアシュイン様~!」

「紅蓮の魔女様と喧嘩した?」



 最後の子!鋭すぎるでしょ。

 肯定も否定もせずに、軽く挨拶をして去ることにした。見送りには来ていなかったが、オババと紅蓮の魔女の拒否する圧が里中に張り詰めていた。まるで厄介払いされたようだ。







 魔女の里を出たところにある泉につくと、圧が消えて、一息つく。



「アーシュ!大丈夫だったのだわ?」

「ははは……オババは一枚も二枚も上手だったよ……」

「……うへぇ……そそ、そうだと思った……だから……い、いたずらしてきた」

「……何したの?」

「しょ、食材の……ツ、ツボに死霊……ま、混ぜておいた」

「だ、大丈夫なのそれ?」

「み、三日は……口から声が聞こえるだけ」

「ひぃいい……」


 エルはここに来てから悲鳴しかあげていない。一緒に旅したいなんてついてきたが最後。酷い思いでになってしまった気がする。



「うげ……今度行ったときに怒られるのだわ?」

「い、一緒に……」

「嫌なのだわ」

「……ははは。ありがとクリスティアーネ。オババに一本取られたから、ちょっと気分がいい」



「……ケケケ」

「……うへへえ」

「あはは!」



 これは傑作だ。

 ボクたちはみることのできない魔女の里の様子を予想して、笑いあった。

 里は最悪だった。でも目的はしっかりと果たせたし、最後には笑っていられたなら、ボクの旅としては上出来だ。



読んでいただき、ありがとうございます!

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[一言] 頭悪そうなタイトルに変わってる!
2020/08/14 21:17 退会済み
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