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勇者が世界を滅ぼす日  作者: みくりや
第四部 誰がために……
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魔女の伝承

あらすじ


 レイラを助けるために命を千切って渡した反動で、一晩中激痛に苦しんだアシュイン。体中の汁を汚くまき散らしてしまう。まったく動けないので魔女っ子三人組にお風呂に入れてもらうことになった。



 うう……泣きたい。


 あの後、恥ずかしい事に魔女見習いを呼ばれてしまい。ミーシャ率いる女の子3人のお世話になってしまった。


 汚物も散らかっていて酷い有様だった。にもかかわらず何故か嬉しそうに、きゃーきゃーと騒ぎながら片付けてくれる。

 身体を拭いてもらってから、担架に乗せられてお風呂へと運ばれていった。ひどい臭いや汚物はとれたけれど、まだ不潔だからさわってほしくはない。

 でも身体が動かないから、彼女たちにまかせるしかなかった。




 お風呂はとても広い大浴場だ。

 大理石で敷き詰められていて、とても教会の施設とは思えないほどの豪華だ。それからここは魔女しかつかわないから、当然男女は分かれていない。つまり女性だけが使う風呂だ。

 事情を知らない誰かにみつかったら騒ぎになりそう。



「うふふ……アシュイン様、遠慮なさらずに」

「わ~すごい身体……素敵~」

「これ触っていい?」



 なすが儘に洗われる。拒否しても抵抗できないから諦めた。

 好奇心旺盛な女の子たちにいいように扱われるのは、くすぐったくて変な気分になる。いっそごりごりと雑にされた方が楽だ。


 お湯につかると身体が少しずつ温まってきて、感覚も戻って来た。手を握り、足を動かして不具合がないか確かめる。



「ありがとう……さっぱりしたよ……も、もう十分だけど……」



 洗い終わったのにべたべたと触るのを止めようとしない。 ボクが視線を向けると恥ずかしそうにするから、一応恥じらいはある。けれどそれより普段触れない男の身体への好奇心が勝っているようだ。



「みんな可愛いから、お付き合いしている男の子いるだろう?」


「かわっ……そ、それはそうですが……だって……ねぇ?」

「貴族の子はみんな青白くてひょろひょろだから、比べ物にならない」

「こんなに逞しい身体の男の子はいないもん」


「「「ねー」」」



 ……仲がよろしいようで。



「そ、それにぃ……」

「……うん……ごくり」


「ど、どこ見ているの?」



 これはボクの貞操の危機なのではないだろうか。

 いくらなんでも好きでもない子共に手を出す趣味はない。もしそんなことすればアイリスやシルフィたちに嫌われてしまう。



「大人です……」

「大人だったね……」

「デカかった!」



 最後の子!

 これ以上この話題を話していたら、この子達に襲われてしまうかもしれない。少しわざとらしいけれど、話題を変えてシルフィたちの様子を聞いてみる。



「白銀様と深淵様は、あたしたちの訓練を見てくれているんだよ」

「そう……大丈夫そうならいいんだ。二人はどう?」



「すばらしいです!」

「うん!すごい!」

「死霊魔女様は怒られてた!」



 ちょいちょい最後の子は落としてくる。

 クリスティアーネは無くした本のことがばれたのだろう。怒られている様子が容易に想像できる。



「医務室の二人と女騎士はどう?」


「……まだ起きられません」

「ご飯は食べたよ」

「女騎士はクズ」



 おい……。



 レイラとエルダートは命の危機を脱したようだ。

 生命を削った甲斐があった。あのまま放置して死なせていたらボクは一生後悔していただろう。そんな後悔の人生なんて惰性だ。

 だったら短くなっても命を賭ける意味はあっただろう。



 三人とゆっくりお湯につかり、他愛もない話をして過ごす。ミーシャがのぼせたので逆にボクが抱きかかえて出ることになった。



「今度はアシュイン様が着させてください……」

「いや……それは二人に頼もうよ」



 そして自分の服を着ようとして気がついた。

 あれだけ派手に汚してしまったから、洗濯中だ。その代わりに用意してくれていたのは魔女の服。つまり女性の用の服だ。



「それしかありません……魔女の里ですから」

「一人で着られるぅ?着せてあげようか?」

「きっと似合うよ?にひひ」



 最後の子がものすごくニヤニヤしている。悪い顔だ。

 よく女の子の様だと馬鹿にされて、いじめられた嫌な記憶がよみがえる。それが嫌で悔しいから身体だけは鍛えてきたのだ。

 さすがに全裸で歩き回るわけにもいかずに、ローブと靴だけ借りた。



「わぁ……素敵ぃ……」

「かわいい!!」

「……おねぇ様~」



 ……いや、おにぃ様だけど。



 魔女のローブはボクに合わせた大き目のものだけど、やはり施された装飾が女性用なのか、顔とあいまって女性に見えてしまうようだ。

 このままずっとはいられないから、シルフィが持っている服を取りに行ってもらうことにした。







 それから朝食を摂った後、三人の案内で鍾乳洞へ向かう。

 やはりシルフィたちとは会うことができないように、時間をずらされていた。


 鍾乳洞は通路がひんやりしていて、入口の淵には外との気温差で水滴が滴っている。奥へ進むとさらに気温がさがり寒くなった。

 鍾乳洞の通路の角度や階段を下りた回数を考えると、これは湖の底より低い位置まで下っているような感覚だ。

 通路の上部に泉があるなら外気の影響を受けずに、水で冷やされてひんやりしているのも頷ける。


 やがて上り調子になって鍾乳洞の出口にたどり着くと、一気に明るい場所へと着いた。



 すごく広い空間に大きい木がそびえたっている。雲の先まで突き抜けて、てっぺんが見えないのは森側からみた時と同じだ。


 大樹の周辺は、結界の外部にあたる。

 周囲の岩山、木々や天候が行く手を阻むため、魔女の里を経由しないとここへは来ることができない。つまり魔女の里が守り人も兼ねている。そうやって魔女は何千年何万年とここを守って来たそうだ。



「来たね、アシュイン。お前たちは講義へおもどり」


「はーい」

「がんばって」

「死ぬなよ?」



 最後の子の冗談にはもう慣れた。でもその言葉はあながち嘘ではない。魔力を渡すと言ってもどれだけ搾り取られることか。

 三人の魔女が去っていくと、いよいよ魔力を大樹に注ぐ。



「そこへ座りな。そして手をあてて。ゆっくり注いでいくんだ」



 ボクはオババに言われた通りに、手をあてて魔力を注いでいく。



「さて、そのまま注ぎながら聞きな」

「はい……」



 魔女の里に残る伝承には、勇者の『変異体』が現れた時の対処方法が受け継がれている。魔女全員に渡される魔女の教典(バイブル)にもその方法が記されていた。

 前回『変異体』が発現したのは約一億二千万年前。

 当時研究した魔女が、その魔法を開発した。シルフィとクリスティアーネがボクに使った合成魔法がそれだ。

 初期段階であるなら魔法で対処可能。発動拡大期になれば魔法の有効範囲を越えて全世界にまで及ぶため、抑えきれなくなる。



 勇者の福音についても伝承が残っている。

 『勇者の福音』の有効範囲は本来であれば、同じグループ、パーティー程度。度合いもすくなく、少し強くなる程度のバフだという。

 広大な範囲でまるごと強い影響を与えるのは変異体ならではだ。

 そして『勇者の福音』をもつ『変異体』が顕在した時代には、生き物の進化がおきる。



 すでに異常な成長をした者が何人かいる。

 たとえばミルやアミ、マニが顕著だ。でも彼女たちは努力の結果だ。あまりスキルを肯定したくはない。

 逆をいえばこんなスキルは努力を邪魔するものだ。消すことができないかオババに聞いてみる。



「できんよ……いやなのかい?」

「努力の侮辱だよ。こんなスキル」

「そうかそうか……」



 オババは満足そうに頷いている。そしてボクの頭を撫でている。すこし子ども扱いをされたようで落ち着かなかった。

 そうしている間もずっと魔力を送り続けている。どれほどの量が必要なのだろうか。



「参考になりました。ありがとう」

「いい子だ……それにしてもまだ余裕があるのかい?」



 まだそれほど送っていない。オババはそれに目を丸くして驚いている。

 まだまだ余裕があるが五日分まとめて送ることは止められた。あまりに一気に送ると、逆に大樹は許容量を超えて朽ちてしまうそうだ。



「はぁ~まさに『変異体』だ。魔女の封印以外は封じ込める方法はないねぇ」

「……そうならないように気を付けます」



 今日の魔力補充は終了。

 そして明日は休んで良いそうだ。無茶をした後だから、ボクの身体の様子を診る。

 ただお休みにされても、あまりやることがない。シルフィとクリスティアーネに会えないことが、やはり一番の苦痛だ。




 ――大樹を見上げて、その寂寥感(せきりょうかん)にため息をついた。





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