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勇者が世界を滅ぼす日  作者: みくりや
第四部 誰がために……
63/202

分岐点



 まったく馬車に揺られることもなく、寛ぐことができた。

 しばらくのんびりしていると、大森林の入口に着いた。



「……うぇへへ……とうちゃく」

「んあ?ついたのだわ?」



 そう言うと涎を垂らして寝ていたシルフィは起き上がって、瓶をクリスティアーネに投げつける。魔力回復剤だ。

 ボクの腿がシルフィの涎まみれだ。でもよくある事なので布でぬぐう。シルフィの頬の涎も拭ってあげる。



「……い、いいのぉ?」

「あーよきよき。楽できたのだわ」

「……うぇへへ」



 文句を言いあいながらも二人はとても仲の良い気がする。千年以上の付き合いだから気心がしているのだろう。



「ふふ……お二人は仲良しですね」

「んなっ!?そんなわけがないのだわ!」

「……うひ……な、仲がいいのにぃ……」


 そんな二人の関係をみていると、親友何て一人もいないボクはとても羨ましく感じる。




 馬車の外に出ると目の前には大森林が広がっていた。

 広大でこれを人海戦術で探索するのは不可能。

 だからシルフィとクリスティアーネの合同の広域魔法を使って探すことになる。



「……じゅ、準備、いいよぉ」

「ケケケ、じゃあやるのだわ」


「「エクス・サーチ」」


 そう唱えると、二人を中心に魔法陣が広がる。一瞬、空間が揺れ魔法陣が一気に広がっていく。そのまま魔法陣は森の中へと消えていった。


 『エクス・サーチ』は魔法に組み込んだ種族の魔力を探知できる。大森林に人間がいるなんて滅多にないので、外れることはほぼないだろう。


 かなり魔力を消費するようで、薬を飲んでいなかったらクリスティアーネは枯渇していただろう。



「……うへ……つつ、疲れた」

「おーこれを飲んで休め」

「……うぇへへ……やさしぃ」

「ふんっ!」


 シルフィは可愛らしいくそっぽを向いている。

 そんな様子を見ながらしばらく待っていると、魔法に反応があった。



「……うへぇ……い、いたかもぉ」

「うむ……みつけたのだわ。ただ大分弱っているのだわ」

「……うひ……た、たぶん1日で……し、死ぬ?……しんだら……」

「ク、クリスティアーネ?」

「おい、アーシュの知り合いなんだから、死霊にするななのだわ」

「……うへ……ば、ばれてた」

「ひぃぃいい」



 そういうことするから、ベアトリーチェもといエルが怯えるんだ。できればレイラの死霊を使うのはやめてほしい。


 それより移動手段が問題だ。エルの速度に合わせていたらレイラの命が持たない。



「あちは自前で行くのだわ」

「クリスティアーネは大丈夫?」

「……こ、ここ……し、死霊いっぱいだから……へ、平気だよぉ」

「な、何の話ですの?」

「ボクがエルを抱えて走るって話だよ」

「え?ええぇ?」



 シルフィは杖をだして、それに魔力を通して乗っていくようだ。クリスティアーネも死霊の木偶をつくって乗る。

 エルの意見は聞く気はないので、すぐさまお姫様抱っこする。



「あ……ゆ、夢がかな――


「さて行くのだわ!アーシュはあちの速度に合わせてほしいのだわ」

「……うへへ」

「おお!」

「ひっ!」



 そうしてシルフィを先頭にして走り出した。シルフィとクリスティアーネしか位置がわからないから、案内してもらう。

 シルフィはかなり高速で飛んでいる。少なくとも死霊馬車よりは早い。それにしっかりとクリスティアーネもついていってる。



「ひぃいいいやぁああ!」



 ちょっと早すぎたようで、エルはすごい顔になっていた。でもこれ以上緩めたら、置いていかれてしまうから聞かなかったことにする。


 進んでいく最中に何体かの魔物と遭遇したけれど、この三人ならば退けるのは簡単だ。

 二人は魔法で撃ち落としていたけれど、ボクは蹴りつけて退かす程度にしている。魔王討伐以来、ほとんど魔物を狩っていない。殺す気になれないのだ。



「あれなのだわ!」



 シルフィが指差している先を見ると、二人の男女が崖の下の河原の側にいるのがわかる。

 おそらくレイラとエルダートだ。

 ここから見ると、レイラは負傷して意識がなさそうだ。エルダートも負傷して膝をついている。

 目の前に大物のグリフォンからレイラを守りながら戦っている。

 すぐさま割りいって、首を狙う。



 シュパッ!



 滑らかな横一閃。



 刹那の間のあと、切り口から血が溢れ出す。



 ボクが剣で斬りつけると、グリフォンはその生命を停止した。グリフォンは明確な殺意を持って襲い掛かっていたから、斬らざるを得なかった。

 その噴き出す血を見て、ボクは胃から気持ち悪さがこみ上げる。



「……うぇ」

「アーシュ……無理するななのだわ」

「……いい、胃酸おさえる薬……うへへ」

「あ、ありがとう……」



 こみ上げて気持ち悪くなっている顔を見られてしまったようだ。ただの魔物を斬っただけでこのありさまでは、いくら強くても役に立たないな。情けない限りだ。



「ぐ……ぬしら……何者……だ?」

「レイラの知り合い。こっちはレイラの師匠だよ」

「そ、そうか……む、娘を……たの……む」

「娘!?」



 そう言うとエルダートは意識を失って倒れてしまった。怪我よりも衰弱が著しいようだ。



「レイラのご両親は亡くなっているはずですが……」

「また後で聞けばいいさ、それよりボクが癒しをかけるから、野営の準備をお願い」


「はい!」

「りょ、料理……したいぃ」

「そ、それはお城でお願いするよ」

「……う、うん!」



 エルとクリスティアーネはテーブルや休める場所、調理する場所など道具をだして準備し始める。

 ボクはシルフィの方を見て合図する。


「ケケケ、わかっているのだわ」



 当然のようにシルフィが調理担当だ。いまクリスティアーネが調理をしたら二人に止めを刺してしまう。




 レイラとエルダートを寝かせ、同時に癒しをかけていく。

 二人は着の身着のまま森へ入っていったのか、着ているものは軽装だ。小さな傷があちこちにできているし、食べるものが確保できなかったようで、痩せてしまっている。


 レイラもそうだったが、エルダートも野営はあまり得意ではないようだ。将軍の立場では自ら獲物を捌いたり調理することもないだろう。



 しばらく癒しを続けていると、荒い息は浅い物へと変わっていく。けがの治療は順調にいっているようだ。

 エルダートの傷は浅い。癒しでほぼ完治しているから、滋養剤を飲ませて食事をとれば体調もすぐよくなるだろう。


 しかしレイラはかなり衰弱してしまっている。

 癒しで傷口はほとんど癒えている。しかし衰弱が著しくて、滋養剤もうけつけていない。

 それに治療中に気がついたけれど、何かの毒を負っているようだ。



「ど、どうかしら?」

「……お、おわったよぉ」



 二人が戻って来たので、クリスティアーネに毒についてみてもらう。

 彼女が毒に詳しいかはわからないけれど、ボクよりは知識が豊富であることは確かだ。



「……うへ……ここ、これキルアルラネルって……ま、魔毒」

「薬の調合をできないかな?」

「……な、ない……魔蔵が必要……そ、それかオババが、素材はあるはず……うへ」



 即効性の毒ではないが、数日で死に至る。

 変異種の植物魔獣であるキルアルラネル。希少種であるため遭遇は稀で意図して探し出すのは困難だ。



「大樹まではここから近いんだろ?それにクリスティアーネだって用事があるだろう」

「……げひ……お、おこられたくない……そそ、それにアーシュちゃんは……や、やめるべき」



「ケケケ。あちもそう思うのだわ」

「おわったんだ?」

「うむ」



 シルフィも食事の準備が終わって様子を見に来た。


 魔女の二人はボクとオババ、混沌の魔女(カオスウィッチ)が会うことを拒んでいる。


 彼女たちが危惧するものと言えば『勇者の血』だ。


 これがオババに知られると魔女全体の監視対象になるからだろう。命を狙われるぐらいなら、狙ってもらっても構わない。

 ただ周囲の人間を、特にボクの愛する子を狙われたら正気でいられなくなる。

 二人もそれを恐れているのだろう。






 シルフィは二人のための食事も用意してくれていた。


「その男にはパン粥を。女にはスープを摂らせるのだわ」

「ありがとうシルフィ。エル手伝ってくれる?」

「あ、はい。これくらいしかできませんので」



 エルダートの頬を叩いて、起きてもらい少し無理にでも食べてもらう。スプーンを口に運べばしっかり食べてくれるようだ。

 ほんとうに食事が久しぶりのようで、彼の目から涙がこぼれている。



 一方レイラは意識がない。滋養剤も飲めない状態なので、食事に混ぜてボクが口移しで飲ませることにした。

 舌で押し込むと、無意識に反応してくれて嚥下してくれるようだ。



「まぁ……起きてたら泣いて喜びますよ?」

「いや、いまはそんな情緒的なこといってられないんだけど……」

「ですが、彼女の気持ちもご存知でしょ?起きたら少し気にかけてあげてくださいな」

「ああ……ありがとエル」



 レイラはボクの顔を久し振りにみたらなんていうだろう。

 エルの言うように、歓迎してくれるだろうか?

 それとも気持ちに築いてあげられなかった挙句に酷い目にあいつづけたことを恨まれるだろうか?



 少しスープを食べることができたようだ。頬も血の気が戻ってすこし赤くなって幸せそうな顔をしている気がする。


 怪我の出血や、衰弱死する可能性はほぼなくなったけれど、毒が解消されていない。

 すぐに死ぬわけではないから、落ち着いて食事しながら考えることにした。



「ん~おいしい」

「ケケケ、よかったのだわ」

「……うぇへへ……お、おいしぃぃ」

「外で材料も少ないのに……お城で食べるより美味しいですわ」

「ケケケ。王国の料理人になど負けるわけがないのだわ!」



 思ったより早く目的の二人を確保できたので、落ち着いて食事することができた。



「さて、ボクがオババに会わないならクリスティアーネと二人で行ってもらうことになっちゃうけれど……」

「……い、いいよぉ」


「あほ!だめにきまっておるのだわ」

「ど、どうして?」

「負傷者を抱えていけるほど楽な場所ではないのだわ」

「薬だけもらってくるとか?」

「日持ちしないのだわ……」



 甘く見ていたようだ。魔女の二人がいればすんなり入れるかとおもっていたが、環境自体が普通ではなかった。

 それに薬が日持ちしないから、結局本人を近くまで連れていくしかない。



「つまりみんなで行ってその険しい道を乗り越える必要があるってこと?」

「オババがいれば回避できるけど、本末転倒なのだわ」

「本人へ会いに行くわけだからね」


「ただアーシュが行けばそんなに険しいというほどでもないのだわ」

「そうか」



「つまり……みんなで行くか、諦めるかの二択なのだわ」

「シ、シルフィ……」

「……うぇへ……レ、レイラも心配だけど、ア、アーシュちゃんも心配」

「あ……ごめん。心配してくれてありがとう……」



 シルフィはあえて厳しく、ボクが間違わないように言ってくれている。そしてボクがどう選択するかも、ちゃんとわかってくれているのがとても嬉しい。



「でもボクは行くよ!それに多少強引でも押し通すよ」



 そういってボクは拳を前にだす。



「ケケケ!そう言うと思ったのだわ!さすがはアーシュ!あちの惚れた男なのだわ!」

「うぇへへ……あ、あたしも~」


 二人もボクの手に合わせてくれた。

 なんだか気恥ずかしいが、方針は固まった。

 後先考えてないなんていわれても、あれだけボクのことを考えて行動してくれたレイラに少しでも報いないでどうする。



「わ……わたくしもぉ~」



 おくれながらエルもボクの拳に手を合わせてくれる。エルは自業自得とは言え、危険な旅に巻き込んでしまった。

 自分の命をまもれない彼女はしっかり守ってやらないと。

 戦力にはならないけれど、いまはボクについてきてくれる人がいるということがとても心強かった。




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