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勇者が世界を滅ぼす日  作者: みくりや
第四部 誰がために……
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いいわけ



 至急知らせたい事があるとエルランティーヌ女王からの伝達。

 ルシェは手紙を渡してくれる。手紙といえどゲートを使用しているから時間差はさほどない。

 魔王領はルシェとアイリスに任せて、ボクはシルフィと急いでグランディオル王国へと飛ぶことにした。



「ごきげんようエルランティーヌ女王」

「わざわざ申し訳ございません」



 ボクたちが来るときは来賓室で出迎えてくれる。公の場である謁見の間では、親しく話すことができないからだ。

 丁重にもてなしてくれているのがわかる。

 お茶を淹れてくれた侍女や護衛は下がらせて、今は以前もいた女騎士と女王、それとボクとシルフィだけだ。



「騎士の方もまたお世話になります」

「紹介しておきます。彼女はベアトリーチェ。以前も一緒に図書室を調べたから顔を知っているでしょう」

「前回はお世話になりました。ベアトリーチェです。姫様の専属護衛騎士を任されおります」

「よろしくね。ベアトリーチェ」

「あ……よ、よろしくおねがいします」



 ボクが握手を求めると、照れ臭そうに握手してくれる。もう前回お世話になっていたから、信用たる人物であることは知っている。



「改めて、シルフィなのだわ」

「そ、尊敬しております!白銀の精霊魔女のシルフィ殿!」


「わぁ!……びっくりしたぁ!」



 いきなり声を張り上げる。普段から騎士団でも声を上げる役目だったのか、ものすごく大きな声で驚いてしまった。

 なんでも彼女はシルフィに憧れていてたが、以前は我慢させられていた。エルが抑えきれなくなって、紹介することとなったそうだ



「ケケケ。崇め敬うといいのだわ!」

「わ~!か、感激です!」

「こほん。ベアトリーチェ?」

「はっ!し、失礼いたしました!」



 女王の護衛という高度な任務を拝命する人物だから、謀り事が得意な人物が就いていると思ったが、この人はそういう人ではなさそうでよかった。



「演劇はもうじきですわね」

「ええ、こちらの準備もいよいよ大詰めです」

「会場の設営も問題はございませんわ」



 演劇の公演日はもうすでに決まっていて、会場の設営もほぼ終わっているようだ。それを聞きつけた露天商も、もう所狭しと並んでいると言う。

 それから、初公演日はメインメンバーがやることになっているが、その後は別の役者が就くことになる。

 ミルやナナはそのままやりたがるかもしれない。その時はできるだけやらせてあげたいと思う。


 それから人間と交易がこれ以上盛んになった時のために、通貨が必要になる。独自通貨は発行する気がないが、王国通貨が流通することが多くなるので知識が必要になる。


 学園の教育に通貨について取り入れている。しかし大人の悪魔への周知があまり進んでいないのが課題だ。



「魔王領は建国する予定はないのかしら?」

「今は悪魔がすくないからね」

「人間が魔王領に遊びに行けるようになればよいなと」

「それはいい考えだね」

「ケケケ。なかなか良いことを言うのだわ」

「ふふふ……白銀の精霊魔女にお褒めいただけるとは、嬉しいですわ」



 知性のない魔物は一時的に制御はできるけれど、人間が自由に移動できるようにするためには恒常的に制御しなくてはならない。

 それから人間側の偏見も正すのが先だ。そうしないと頻繁に諍いが起きる可能性がある。ゼロにする必要はないが、頻繁に起きていると治安が維持できない。


 しかし未来の希望としては、夢のある悪くない提案だ。








 そして本題に入る。

 至急の要件というのは『福音の勇者』とレイラの交換取引の件だ。


 砦の会合でも顔を見せていたエルダート将軍と連絡が取れなくなってしまった。帝国に打診しても音信不通だそうだ。


 帝国との親密な外交パイプもそのエルダート将軍だったという。彼の派閥の人間が積極的に連絡を取り合っていたから、あの砦での会合も実現した。


 いやらしい顔をして、女王の二枚も三枚も上手だった嫌な男のように見えたが、利害が一致すればしっかりと交渉のテーブルにつく人物だったようだ。

 狡猾であり厳正な人間。それがエルダート将軍だという。あの物の側にいる分にはレイラの身元も保証されているとエルランティーヌは言う。しかし現状は……



「ではレイラは……」

「同じくレイラの消息もわかりません……」

「ユリアとキョウスケは?」

「監視付きですが自由にさせています。彼らの気持ちが変わって逃亡されると手間ですからね」



 帝国の内部の様子を現在調査中だ。しかしレイラの捜索と帝国内部の調査は王国暗部だけでは手に余る。


 それに加えて、女王には演劇への取り計らいをお願いしていたのだから、とても処理しきれないだろう。



「そこで、魔王領の協力を得られないでしょうか?」

「すこしだけ待ってもらえれば。すぐにいい返事を出せると思う」



 アイリスがいないときには、個人的なことや平和的な事だけだったから独断でやっていたが、これからはそんなことは許されない。


 ましてや調査とはいえ、魔王軍を動かしたり、軍の連携をするとなると紛争の危険だってありえる。


 少なくともアイリスとルシェ、それからベリアルには了承を得てからじゃないと返事ができない。



「それから、耳に入れておきたいことがある。極秘だとおもって」

「ええ……なにかしら?」

「かしこまりました!」



 ベアトリーチェの声がでかい……大丈夫だろうか?



「えーと静粛に。ある重要な研究物をもって逃げ回っている人物がいる。ボクたちはそいつを追っているんだ」

「魔王領幹部の一人、メフィストフェレスというぼさぼさの銀髪、やせこけた髭面の中年男性なのだわ」

「気に留めておいてくれるだけでいいよ」

「そう……その研究物は……」


「世界を滅ぼすことができる物」


「「!?」」



 ふたりが息をのむ。

 誇張しているが、仮に魔王のキメラ生成が可能になれば複製だってできる。そうなれば『魔王の量産』の可能性が見えてくる。

 世界の破滅だ。


 彼女は現状でも手一杯だから、最低限の情報だけ開示する。

 これ以上の情報を与えて、積極的にうごかれると余計に追い詰めてしまう。



「そう……わかったわ」

「王国……いやエルは手がいっぱいだろ?だから知っておいてもらうだけでいいんだ」



 そうして話は終わり、雑談の時間。

 空気を読んでいたベアトリーチェが、ここぞとばかりにシルフィに質問攻めだ。



「グランディオル戦争であの深淵の死霊魔女アビス・オブ・ネクロウィッチ、『笑う混沌』を倒したってお聞きしました!本当凄い!」

「ケケケ!なんのなんの!やつも魔法のやり手だったが、あちにかかれば、一発で撃破できたのだわ!」

「す、すごい……その強さの秘訣は?」

「ばしっとやってドカーン!と決めるのだわばばばばばあ」



 だいぶ調子に乗っているシルフィを、いつものようにほっぺクローで止める。ベアトリーチェが尊敬しすぎて目を潤ませて泣いている。そんなに尊敬する要素があっただろうか?



「そのへんにしときなって」

「あ……あの白銀の精霊魔女シルバーオブスピリットウィッチのほっぺを鷲づかみ!?」

「ふふふ……おもしろい人」


「あ……新たな伝説が、いまわたしの目の前で起きているぅうう!」



――ぶぶぶぶぱーっ!今日は長いのだわ!」



 ちょっと離すのが遅かったようだ。



「ふふ……たのしいっ。なんだかあの時に昔に戻ったみたい」

「はは……でもエル……すこし無理しすぎだよ?」



 王国の内政はかなり苦労しているようだ。参謀のレイラがいなくなって優秀な代わりの人材が見つからないのだろうか。

 エルランティーヌ女王は少し疲れている様子だ。何かねぎらってあげたい。



「なにか……ボクにできることはある?」

「あ……あの……でしたらお城の庭園へ、ご一緒してくださらない?」

「庭園があるんだ?……初めて知ったよ。いいよ、行こう!」



 それぐらいのことで、彼女の労をねぎらえるなら。

 エルはボクが魔王領の代表を務めていることを知ってから、ものすごく積極的に協力をしてくれる。そのせいで今忙しくなっているのだけれど。


 そう思えば、すでに『勇者の福音』の揺り返しは効果が切れているのかもしれない。そのことを確認するのは彼女にとって酷だろうか。


 彼女についていくと、見事な薔薇の園があった。

 とてもいい匂いがして、色とりどりの品種の薔薇が咲き乱れている。もちろん薔薇だけではなく、一緒に添えて見栄えのする花も一緒に植えられている。



「ほぉ~~これは見事なのだわ!」

「す、すごいね……きれいだ」

「そういっていただけると嬉しいですわ……すこし二人で歩きませんか?」


(前も言ったように繋がりは作っておくのだわ?)

(わかったありがとシルフィ)

(ケケケ)


 そう言うと、ニシシといやらしい笑顔をボクとエルに向けてからベアトリーチェの隣へ行く。二人で離れてついてくるようだ。



「彼女……小さい子に見えるけど……」

「うん。でも千年以上も生きているお姉さんだよ」

「魔女ってすごいですわね……ど、どんな関係?」



 すごく言いづらそうにしてたが、これが聞きたかったのだろうか。



「うん。ボクはシルフィを愛している。精霊の契約者でもあるんだ」

「……っ!」



 ボクは変に気を遣ったりせず、正直に答えた。これはアイリスにも魔王城のみんなにも言っていることだし、それでもみんな慕ってくれる。それも男性としてだ。



「……そ、そう……ですか……」

「それにアイリスも愛している。それから――」

「……へ?」



 エルはぽかんと口を開けてしまった。それはそうだ。これではまるであの好色家のケインと同じではないか。



「……彼女たちは嫉妬ぐらいはするけれど、同じぐらい愛してくれるなら、その一人に人生を捧げるんだって」

「……つ、つまり……」


「一夫多妻みたいな考え方らしい。ボクは当然、同じぐらい愛しているから受け入れているよ。決して遊びや身体目的なんかじゃない」



 ボクの説明はなんだか言い訳がましい。けれどそれを聞いたエルの目の色が明らかに変わっていくのがわかる。



「まぁそうでしたの……ふふ……それではケインのことを文句言えませんわね?」

「……う……痛いところを……」

「……でも他にも理由がありそうでしたけど」



 そうだ……本当はある。シルフィとくに薦めてくる理由がそれだ。

 ボクとシルフィのやり取りだけで、エルはそれに気が付いたのかもしれない。

 女性のカンなのか、それともエルが特別なのかはわからない。でもすべてを語るつもりはない。



 ボクは少し難しい顔をしていたけれど、エルは打って変わって元気が出たようだ。

 なぜかよし!よし!とガッツポーズをしている。とても女王様らしくない。


 よくわからないけれど、元気が出たなら良しとしよう。






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