閑話 ひとりぼっちの魔女
クリスティアーネの視点です。
あああ、あたしクリスティアーネ。まま、魔女だよぉ……。
あたし……とと、友達いない……。
あたしは生まれつき目が血走っていて、気持ち悪い忌み子だと言われて捨てられた。物心がついたら、物乞いする孤児だった。
変な魔法をつかえたおかげで、餓死することはない。でも何もやる気がおきなくて、ずっと物乞いをしてた。
ある時、暇を飽かして薬草を魔法で加工すると、呪いの草人形ができた。人間の髪の毛を入れて、刃物で突き刺すと苦しませることが出来る。死ぬ場合もあった。
「……うへへ……あの男の子。……いじめた」
あたしが貰ったパンを、あの男の子に取られちゃった。だから腹いせに呪いの草人形に彼の髪の毛を仕込んで、落ちていたさびた釘で何度も刺した。
ゴリゴリ!ザックザク!
「ぎゃあああああああぁ!!」
その様子を見ていた、商人さんはこれを欲しいと言う。あたしはリンゴ一個と交換した。
すると領主の城から、毎日悲鳴が聞こえるようになったと噂になる。
それから何人もの人がこれを欲しがった。あたしはパンや果物、それから洋服なんかも交換してもらう。
やがてあたしの身なりが浮浪児から、普通の町の娘程度にまでまともになっていた。
服のセンスがないのか、あたしが魔女ではないかと噂されるようになって、町にいられなくなった。
森に住処を移すと、老婆がやってきた。
老婆は怪しいローブにとんがりボウシ。まるで物語の魔女のようだ。
「こいつをやるよ」
「……ほほ、本?と瓶?……ぐひ……いい、いらない……」
あたしがそう言っても、魔女の才能があるからと飲んで、読んでおけと強引に渡される。
瓶の中身を飲み干すと、満足したようで老婆はすぐにあたしの住処から去っていった。すごく美味しくない水だ。
本をゆっくりと開いて読んでみる。
お友達の作り方はないかと探したが、当然なかった。そのかわりあたしの魔法についての項目を見つけた。
本によれば魔力を呪詛に変えて、さまざまなことが出来ると記されている。
呪いの草人形は魔法だったみたいだ。
さらに読み進めると、この呪詛の力は死霊を作ったり操れるという。あたしはこれに魅了された。
遺体から死霊を作れば、話し相手になってくれるお友達ができる……ぐへへへ。
その日の夜、町の墓場へ行く。
今日は葬儀があり、棺桶が埋葬されたばかりだ。それを掘り起こし、蓋を開ける。
新鮮な遺体だ。この遺体から死霊を取り出すことにした。
死霊を肉体に戻すと生ける屍が出来る。いまは話せる友達が欲しいので、死霊の状態で十分だ。
生ける屍は腐食が止まるわけではない。それに時間が経つと意思がなくなって、マスターがいないと徘徊してしまう。
死霊の彼が話し出した。
「あ、あれ?ボクは死んだはず……」
「うぇへへ……や、やったぁ……できた」
「キミは?」
「あたし……クリスティアーネ……と、友達ほしい……」
「ボクは……死んだはずなのに……キミが?」
「……う、うん……だめだった?」
「……いいよ。友達になるよ」
やはり新鮮な遺体だけあって、明確な意思がある。時間が経っている遺体だと、虚ろになり、こうはいかないのだ。
あたしはうれしくて、ずっと話をした。
そのうちに疲れて、墓場で寝てしまう。
……
……
……
「ぎゃあああああ!魔女だ!魔女が死体を漁っている!!」
「……うそぉ!!うわあああ!」
町の住人の大きな叫び声で目を覚ます。
墓場を掘り起こしたまま。
棺桶もあけっぱなし。遺体もそのまま。
そこへもたれかかって寝ているあたし。
完全に異常者あつかいだ。あたしは逃げるようにその場を後にした。
あたしは友達はずっとできなかったので、その行為をずっと続けた。
そうしているうちに、周囲からは『深淵の死霊魔女』なんてグロい名前を付けられてしまう。
あたしにはクリスティアーネって名前があるのに。
そして長い年月が経った。
ある時、また老婆がやって来た。
この老婆は混沌の魔女という上位の魔女だそうだ。
魔女として名が通るようになって魔力も増えたので、魔女としての矜持を学ぶように言われる。
そして強引に大森林の奥地にある施設へと連れてこられた。
施設には20名程度の魔女候補がいた。
もしかして初めて友達ができるかと期待した。けれど魔女同士でもやはりあたしは気持ち悪がられた。
それにみんなは『暁の』とか『不死鳥の』などカッコいい通り名がつけられていた。あたしだけ『深淵の死霊魔女』という気持ち悪い通り名だ。この名前はすごく嫌い。
とにかく気持ち悪がられて、みんなに避けられる。あたしから声をかければイジメられた。
二人一組の演習訓練をするときも、あたしと組んでくれる子なんていない。
お友達ほしいな……。
そんな時に一人だけ声をかけてくれた。
「おまえ、あちが相手してやるのだわ」
「!」
声をかけてくれたのは『白銀の精霊魔女』なんてすごくカッコいい名前で、みんなからも人気の子だった。
精霊とのハーフだっていうだけあって、ちっちゃくてすごくかわいくて、魔女としても優秀な子だ。
「うへへ……い、いい、いいのぉ?」
「ほら、早く構えるのだわ」
「……うぇ……う、ううれしぃいぃいい」
嬉しすぎて、つい本気でやってしまった。そうしたら周囲の木々が枯れ、大地が汚染されそうになった。
「きゃー!!木が枯れちゃう!!」
「おばばーやばいヨォ!」
ヤバいと思った瞬間――
「アビスドレイン!、ピュリフィケーション!」
なんとその子が闇の吸収と聖の浄化の同時発動で、難なくあたしの暴走をとめて、枯れた木々や汚染された台地を元通りにしてしまう。
「……すすす、すごいぃ!」
なんてかわいくてちっちゃくて、すごい子なんだと思った。それにあたしを気味わるがらずに接してくれる。
「ふん……これくらいわけないのだわ」
「ぐひひ……あああ、あのお、お友達に……」
「おー、それぐらいなら構わないのだわ。そのかわりあちの練習相手になれ。他の魔女では相手にならないのだわ」
「……う、うそ……はは、初めて、ともだち……と、友達出来たぁ……うわ~ん……」
うれしくて、うれしくて、その場でへたり込んで大泣きした。
あたしはここに来た時点ですでに100歳を超えていた。でも彼女はまだ10歳だという。本当に天才がいるのだと思った。
この子には敵わない。憧れた。
そしてあたしにも90歳差の友達が――
……ついにできたのだ!
修練が終わると、それぞれがバラバラに帰っていく。一緒に帰ることは禁じられていたから、『白銀』ともお別れだ。
お別れに一番のお礼をしたくて、秘蔵にしていた最高の死体をプレゼントしたら、「あほーー!友達なんてなるか!」と嫌われてしまった。
それから白銀とは何度も会うたびに、やっぱり友達になってくれたり、嫌われたりを繰り返している。
嫌いだと言われても、ちゃんとお話ししてくれる。『白銀』はちっちゃくてかわいくて、そしてとてもやさしい魔女だ。
他の友達はやっぱりできなかった。
でもやがて魔女としては有名になり、あちこちの国や貴族から依頼されるようにまでなった。
グランディオル戦争のときもそうだ。あたしは敵対国に雇われていて、「白銀」と戦う事になった。
彼女はやっぱり天才だった。それに魔法だけに頼らず、格闘術も何百年と研究していた。
あたしの所属していた国家には格闘のプロや暗殺集団がいたのに、楽しむように肉弾戦をして、何千人も倒している。
どんな戦略でも彼女の壁を破れないからと、あたしの出番がやってきた。
「は、白銀の……ぐひひ……おおお、おひさしぶり」
「おいばばぁ!そっちにつくとはいい度胸なのだわ!」
「ぐひいぃいい!……いい、いじめないでぇ!」
「ケケケ、あちたちお友達だったのだわ?」
「!……う、うん!うれしいぃよぉ!だだ、だから……いい、生きのいい子をあげるね?」
ヴィン!
そういって、戦争で死んでそこら中に転がっている子でリビングデッドを作った。
いっぱい転がっていた生きのいい子ばかり1000体ほどできた。
「あほーーー!!!!いらんのだわ!!!サンクチュアリー!!」
やっぱり天才……。あんな聖属性範囲魔法なんて、聖女でも使えない。リビングデッドになった死体は一瞬でばたばたと倒れ死霊は浄化されていった。
「ケケケ……魔力がごっそり減ったのだわ……その死霊魔法だけは超一流なのだわ」
「……ううう、うれしいぃいい!」
「でもぉ、おしおきなのだわ!!!!」
バチイイン!
「……いたいぃいい!……でもうれしいょおお」
このビンタでグランディオル戦争は幕を閉じたのだった。
ずっと魔女をやっているけれど、あたしのことをちゃんと正面をむいて接してくれるのは、やっぱり白銀だけだ。
ででで、でもなんと!
つつ、ついにあたしにもぉ!!ここ、恋人が出来ました!!!
あ、あたしのこと、クリスティアーネなんて……ぐひひ!
そそ、それに……自分が死んだら、死体をくれるってぇ!!!ぐへへ!これはもう結婚?婚約?うへへへへ……うれしいぃ。
で、でも彼は白銀ともちゅっちゅして、アア、アイリスちゃんともちゅっちゅする、浮気者なんだぁ
でで、でもあたしに死体をくれるって言うから、セッ〇ス程度ゆるしちゃうぅ!
そそ、それに彼、とっても……や、やさしいぃ!
ああ、あたしに怒らないんだ!うれしぃ!
ささ、さらになんと!あたしの研究にも興味があるって!
こここ、これはもう一心同体?一緒の棺桶に入る?
うへえへ……。
は、白銀に欲情するロロ、ロリコンなのが……す、少したまに傷だけれど、だだ、誰しも変な性癖ぐらいあるよね?
……げへへ……あたしの性癖は正常だけれど。
その日の夕飯は、200年ぶりにあたしが作ることにした。うれしくて、未来の旦那様に食べてもらうのだ。
なぜか鍋から悲鳴のようなものが聞こえてくるけど、きっと近くの死霊を間違えて入れちゃっただけだ。大丈夫。
「ぐひぃ。ぐひひひぃ。きょうは、ひとおおい~♪うぇへへ……りり、りょうりぃたのしい」
「ヴゥオオオオオオオオオオオオオ……ダズゲデェ……」
ふたりが戻ってくると、なぜか止められた。
あたしの腕をみせるチャンスだったけれど、彼がつくらせてほしいと懇願するものだから、お願いすることにした。
あたしに気を使って、美味しいものを作ってくれるなんて!
恋人や友達と食べるお料理は、すごく楽しくて美味しかった……。
あと何か忘れている気が……。
「ウボォオオ……ダズゲデェ……」
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