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勇者が世界を滅ぼす日  作者: みくりや
第三部 成長
47/202

駆け引き

お待たせいたしました!



 教会とはエルニーニ教を信仰する教団のことだ。エルニーニ教は世界各地に教会支部があり、その直下に教会が配置され管理監視されている。

 そして国の中枢にも人を派遣し、政治的にも掌握されている国が多い。グランディオル王国もそのうちの一つだ。

 グランディオル王国は人間の国の中では一番大きく、覇権を握っている。それでも教会には逆らえないという。


 そんなエルニーニ教のグランディオル支部の大司教と司教数名が、本日の会合相手だ。彼らは政治的にも長けている人間だそうだ。

 女王も何度も手玉に取られ、苦い経験をしていると言う。



「お気を付けてくださいまし……」

「わかった、ありがとう」



 対するボクたちのメンツは、ボクとシルフィ、それから女王だ。シルフィにも出てほしくなかったけれど、『白銀の精霊魔女』としての知名度はそれなりに牽制になるからと、参加を申し出てくれた。

 そしてスキルを『隠匿』するためにナナが隠れている。


 アミに関してはこれ以上いると危険が増すだけなので、ルシェに迎えに来てもらった。




 しばらくすると、教会の人間がやって来た。

 ゆったりとした動きで、いかにも仰々しい。大司教は恰幅が良く、背が低いわりに貫禄のある高齢の男性だ。白い司教服を身に着けており、典礼でもないのにミトラをかぶって荘厳さを演出している。

 あくまで交渉を有利に進めようと言う腹積もりであることは、察しがついた。



「お久しゅうございますタバハーン様。ようこそおいでくださいました」

「これはこれは……エルランティーヌ女王陛下。ずいぶんとお美しくなられた」


 女王にタバハーンと呼ばれた男性が大司教だ。目を細めているが、決してにこやかにしているようではない。周囲を観察し、利用できるものはすべて利用し、食えるものはしゃぶりつくす。そういう目だ。



「それで……こちらは?」

「ええ……魔王領の現在代表をされているアシュイン様でございます」

「アシュインと申します。以後お見知りおきを」


 ボクはへりくだり男性が目上にするように、手を胸に置いて傅いて礼を尽くす。貴族流の挨拶であるが、要らぬいざこざを起こさないための最低限の礼儀はこなす。



「ほぉ……魔王領を?しかし彼は人間だ」

「何か問題でも?」

「いえいえ……人間が統治する土地であるなら、教会が入って無いのは少々いびつな形と言わざるを得ませんのでね」



 できるなら魔王領まで教会を潜らせたいという。そんなことボクが許すわけもない。悪魔が神を崇めるなんて、冗談でも笑えない。



「なにをおかしなことをおっしゃいますか?魔王領の主たる生物は知能の持たない魔物でございます。知能が無いものに説法は不要でしょう?」

「……ちっ」


 教会側の面々は、嫌な顔をしつつテーブルについた。





 ここは先手を取れたようだ。

 交渉を優位にするために、はじめから牽制することは予想していた。

 でもこの程度で降りるならば、この司教はほとんど魔王領についての知識を持っていないということにほかならない。


 彼はすこし悔しそうにしている。

 しかし深追いしてこないところは、さすがに老練だ。



「それと……そちらのガ――お子様は?」



(ガキって言おうとしたよ?このおやじ)

(ケケケッ、惜しい!言いきっていたら、消し炭だったのだわ)

(惜しくはないだろう)



「我は『白銀の精霊魔女』本日はこのアシュインの要望で傍聴者として参加しているのだわ。我のことは気にせず、とくと話すが良いのだわ」



 シルフィは少しいつもと違う口調で、声を張って答える。その様子は彼女の容姿でありながらも、魔女の威厳を保っている。

 司教たちは驚いているようだった。やはり『白銀の精霊魔女』と聞けば、冷静でいられるものはいない伝説だ。




「なっ!?『白銀の精霊魔女』……実在したとは。たしかにその容姿は言い伝えられたものと一致します。まぁよいでしょう」




「さて、そろそろ本題に入りましょうか」

「ええ……そうですね。してそちらの魔王領代表が、元聖女ユリアを買い受けたいともうされている……とか」



 司教はすこし言葉を濁している、覗き込むようにいやらしい視線をこちらに向ける。



「はい、その通りでございます」

「我々といたしましては、借金奴隷として行方を追っていたので、身柄をご存知ならば戻していただきたいのですが?」



 今はキョウスケと逃亡中ということになっている。魔力拘束はされているが、教会側は行方が分からないのでは何もしようがない。

 維持経費が掛からない分、厄介払いはできているから良しとしていたようだ。

 ただここに来て信者が黙っているわけではない。教会は聖女に騙されたようなものだ。お金で変えられない怒り、嫉み、殺意などがたまって制御不能になるかもしれない。

 つまり教会がユリアを欲すると理由はおそらく――



「戻したところで、魔女裁判にかけ磔にするのでしょう?」

「ええ……それが信者の総意でございますゆえ」



「しかし、それでは教会の利益にはならないでしょう?」

「そうですねぇ……彼女には白金貨5枚の借金がございまして、回収不能となっております」

「その分はわたくしでもちましょう」

「しかし身請けとなるとさらに同等の値段が必要になります」



 やはり乗せてきた。でもそれで収まる教会ではないと思う。この司教はもっと強かなはず。



「それだけではなく……彼女は教会から借り受けた魔道具を損傷しておりまして、弁償代金としてさらに白金貨5枚。つまり彼女の借金は白金貨10枚になります」

「……」

「つまり彼女を身請けするのであれば、白金貨20枚のご用意が必要でございます」



 こいつ……ぼくがかならず買うと思って、思いっきり吹っ掛けてきた。しかし白金貨20枚はさすがに予算を大きくオーバーしている。それにそこまで出しても、帝国の交渉カードにしか使えないなら利益に見合わあない。



「ほほぅ?してその魔道具はどちらに?我が直してやるのだわ?」

「い、いえ……そ、それは――


「それに聖女が傷者になったのも教会側の監督不行き届き。それをアシュインが正規の値段で買ってやろうと申しておるのだわ?」

「……ぐっ」



 ここでシルフィが助け舟を出してくれた。相手の瑕疵をつき、まくし立てることで黙らせる。

 やはりシルフィのほうが一枚も二枚も上手だ。



「……しかしですなぁ。我々が諫めようとも、信者が黙っておりませぬ。それ相応の対価をいただいて処理しませんと……」



 あくまで信者は聖女ユリアの斬殺ショーがみたいと。エルニーニ教は世界中で信仰されているらしいけれど、狂信者ばかりなのだろうか?



「ケケケ。聖女が無残に殺される様がみたいのだわ?」

「……そうはっきりと申されると、いささか語弊がございますが」

「この場では気にせずともよいのだわ」

「ありていに言えばその通りでございます」



 シルフィが口をはさむと、もう交渉にならないと踏んだ司教は素直に事情を話す。



(あちがゴーレムを用意して処刑してもらうのだわ)

(何から何までありがとう!)

(じゃあアーシュ?あとでご褒美なのだわ!)

(はいはい)



「では正規の値段白金貨10枚と、変り身ゴーレムをこちらで用意する。それを魔女裁判にかけるといいだろう」

「おお、そこまでしていただけるのでしたら、あの薄汚い聖女なぞいりませぬ!ぜひ!」


 これが本音だ。こういう欲のある人間ほど扱いやすいものはないと思う。急にそわそわとした司教はゴーレムのことが気になっているようだ。



「取引成立ですわね!では内容をご確認の上、魔術契約書にサインをお願いいたします」

「して……そのゴーレムは?」

「ほい『ピットゴーレム』」



「「おおおおぉ!」」


司教たちから、素晴らしいと感嘆の声があがる。



「これはこれは!まごうことなき聖女……こんな簡単に!?」

「金を払うからもう2~3体をお願いをできないだろうか!?」


「ケケケッ!言っておくが、元は岩のゴーレムなのだわ?いかがわしいことに使おうとおもっても、硬くて何もできないのだわ?」



コンコン



 そういってシルフィは、ゴーレムユリアを小突くと、岩で中が空洞のような音が小気味よい音がした。



「そ、そうですか……それは残念です」



 思いっきり自分の性癖を晒しておいて、残念ですとは図太い神経をしているようだ。



「それと稼働時間は一週間。早めに裁判をするのだわ」

「わかりました。ご配慮ありがとうございます」



 教会の面々は用意してあった白金貨10枚を受け取り、ゴーレムユリアを連れて退散していった。相手も魔王領をどう扱っていいのか分からなかったようだ。おかげであとくされない取引が出来た。



 奴隷契約書も司教からもらっているので、こちらの主人をボクへ書き換えてユリアの拘束具へ魔力を流せば手続き完了だ。



「じゃあ、いくよ?」

「え、ええ……アシュイン」


 ボクが彼女の拘束具へと魔力を流すと、紋様が光はじめる。



「……ん……んぁっ」



 苦しいのか、すこし喘いでいるが、そこまで強い魔力拘束ではないと思う。しばらくすると光が消え、完了したことを示す。


「以上で、完了ですわ。これをもってユリアはアシュイン様の奴隷となります」

「……んはぁ……はぁ……はぁ」

「そんなにつらかった?」

「い、いえ……だ、大丈夫よ……ありがとう」



 そういってボクの手を握って、目を潤ませている。頬が赤くなって少し色っぽい。つい癖で頭を撫でてやると、嬉しそうにしている。



「さてユリア。命令する。キョウスケと共にくらし、彼を助けるんだ」

「は、はい……アシュイン様」



 そういうと少し残念そうにキョウスケのもとへと向かう。キョウスケは少し複雑そうな顔をしているが、まるくおさまったといっていいだろう。その気持ちを持ち続けられると困るので、ボクはシルフィにあらかじめ用意しておいてもらった魔道具をキョウスケに渡した。


「これは……?」

「それは守護の指輪。シルフィが作ったものだから、シルフィ以上の魔力で攻撃されない限り、守ってくれるよ」

「こ、この子が?大丈夫なのか?」

「ばかにするななのだわ!!」



 シルフィはだんだんと子供っぽく怒りをあらわにする。



「まぁまぁ……魔王幹部並みだから、人間にはまず破られないよ」

「なっ!?そんなにすごいのか……」

「あとは帝国へ行ったときに処遇もしっかりするように交渉するけれど、不都合があれば手紙でもくれれば対処するよ」

「アシュイン……ありがとう!!」

「いろいろすまない……あんなにキツク当たったのに」



 ユリアはまだ目を潤ませてボクを見つめ、キョウスケも完全にボクを信用しきっている。これはちょっと悪い気がしている。

 この取引や支援は、自分とレイラ、それから魔王領のためにやっているのであって、決して二人のためではない。



(ケケケ、気にしたら負けなのだわ?)

(シルフィはなんでもお見通しだ)



 帝国の交渉材料はそろった。あとの段取りは王国に任せる。ボクたちはやっと、アイリスの捜索に専念することが出来そうだ。











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― 新着の感想 ―
[一言] ここまで読んだ。。まだ先は長そう(苦笑) アシュインを酷い目に遭わせた女性二人はどうなるんでしょうかね。レイラは操られてたけど、ユリアはどう扱うか。 正直、レイラは正気に戻ったこと、ユリアは…
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