禁書の書庫
8/15 クリスティアーネの本を修正。進化と花について。
司書に案内されてお城の図書室にやってきた。
ルシェはナナを迎えに行かせたので、来たのはシルフィとボク、それから女王と女騎士。
お城の図書室は広くて蔵書数も多い。
奥へ進むとキャレルがあって、窓から自然の光が差し込む。
さらに奥へ進むと、対照的に薄暗い通路の行き止まりの小さい部屋に着いた。
鍵を開けて中に入ると、床には魔法陣が敷かれている。
ゲートに使われているものとほぼ同等の魔法陣。魔力的に隔絶された空間へ転送するという仕組みだ。
女王がさっと合図をすると、女騎士以外は部屋の外へ下がって行った。
そして小さな針を指にさし、血を一滴、魔法陣へと垂らすと――
……一瞬で光は視界を奪い、転送が完了する。
目に飛び込んできたのは、古い本が収められている書庫だ。
中央には大きな水晶が台座に置かれている。
蔵書数は少ないが、全部調べるのはむずかしい。
「さぁ、つきましたよ。ここで魔女の資料を探しましょう」
「この中から? 結構あるよ?」
「……王国はいいものを持っているのだわぁ」
そう言って、ジロジロと水晶を見ているシルフィ。
水晶は調べたい本を検索できる魔道具だという。
「え?シルフィはこれも知ってるの?」
「ケケケ。褒めて良いぞ褒めて良いぞ?さぁ崇めてあばばばばばばば」
今日もほっぺが柔らかい。
「後で褒めてあげるから、調べようよ」
「ちぇ、いいのだわ。じゃあ『深淵の死霊魔女』」
ヴィン!
静かにその水晶には該当する書籍が示される。
「そこのおつきの。右から三番目の棚の二段目から『魔女図鑑』を」
「女王は中央の棚の下の段から『悪魔の進化と魔臓解剖理論』をとってくるのだわ」
女王とその護衛騎士を顎でつかうシルフィは肝が据わっている。
本は大きいので書見台へと運んでもらい、シルフィを膝にのせて閲覧する。
運んだ二人は、その題名に腰が引けてへたり込んでいる。
「女王とおつきの方は大丈夫? 真っ青な顔しているけど……」
「だだだだ、大丈夫でしゅ……」
「はははいぃい」
まずは『魔女図鑑』から。
魔女ナンバー10078:深淵の死霊魔女
xxxx年に魔女登録。呪詛・死霊が専門の魔女。
現在は薬学、悪魔の研究をしている。『グランディオル戦争』では帝国側に雇われ、二千の軍勢を単機で撃ち落とす。
白銀の精霊魔女と台頭し、戦争では対決し敗北している。
小さな村で身を潜め、弟子を取っていた形跡あり。その後失踪。現在行方不明。
「ふむ。知っていることだけなのだわ。はずれなのだわ」
「いやボクは知らない事だらけだけどね」
シルフィは魔女図鑑を閉じ、もう一冊をよこせと女王に指示する。
「魔女って登録制なの?」
純粋な疑問をぶつける。
「いえ、王国側が察知した人物を独自に登録していってます。本人の了承は得ておりません。ゆえに禁書扱いなのです」
おつきの女騎士が答えてくれる。
ここへは王族しか入れないので、魔力を帯びた登録用紙へと記述するとこちらへ自動で転記される。近年登録された魔女の名前もすでに記載されていると言う。
……探せばシルフィも載っているかも。
次は『悪魔の進化と魔臓解剖理論』。
人間が猿人の進化であるように、悪魔は魔物からの進化ではないかという仮定に基づく研究。
解剖学的に見て、人間と悪魔の決定的な違いは『魔臓』の有無である。
『魔臓』は悪魔の心臓付近にある臓器で、魔力回路、魔力の遺伝子とも呼べるその悪魔を形作る核である。
被検体を解剖していると、魔物は悪魔と同じ魔臓を持っていた。
魔物の魔蔵は死ぬと魔石に変化するが、生きたまま解剖されたことがないので、気がつかれなかったと思われる。
これが分かった時点で、仮定ほぼ確信に変わった。
次に人間の容姿に変化した理由だ。
人間は猿人から大きく外れた進化はしていない。しかし魔物から悪魔へは明らかに別の生き物になっていると言える。遺伝子情報が書き換わったと言ってもいい。
ゴブリンやオークは人間の女を攫い、孕ませる。しかし生まれてくるのは同種だけだ。人間の血が混じっているにもかかわらず、遺伝子が負けてしまう。
他のいくつかの魔物でも実験したが、そのサイズ違いから胎が壊れるか死産した。
ただの性交によって魔物と人間のハーフを作ることは不可能であった。
そして魔臓を調べ幾重の実験で、ニンファーという花からとれる蜜が遺伝子情報へのアクセスができることを発見する。
たまたま手に入れた香料の原料だ。調べると現在は高山にのみ、生息していると言う。
遥か太古に魔王領から高山にかけて、急激に繁殖した記録が残っている。
見つかった骨の年代とも一致することから、進化の要因はこの花であると結論付けた。
最後に……。
さらに悪魔の進化はもう一段階ある可能性を発見した。
何らかの要因で遺伝子が変異を来たし、魔臓の変異体が生まれる。生まれた魔臓は実験段階でも通常の十倍の魔力があり、理論上は上位種の百倍程度の魔力になる。
もしこれが生まれれば、まさに『魔王』である。
そして続ければいずれ『魔王生成』にたどり着いてしまうだろう。
これ以上は別の研究になるため、別途記述する。
「……魔王生成の研究なんて初耳なのだわ」
「それって、人工的に魔王を?」
シルフィでも絶句した様子だ。それほど危険な内容なのだろう。
「……たぶん、まだ研究途中なのだわ」
「もし簡単に生成できるようになったら……」
さらに難しい顔をして答える。
「……そう。魔王の量産ができるのだわ」
「えええ!?それこそ世界の滅亡ですわ!!」
その言葉に驚いた女王が声を上げる。
「んにゃ、より強く優れたものが増えると、どうなるのだわ?」
「え……?」
「……既存の弱いものが駆逐される……?」
「……そう、それがまさに進化なのだわ」
「……うそ」
「人間の進化も同じなのだわ」
「こんな事を研究している人物がレイラのお師匠様?」
「まぁ……魔法は超一流。でもばばぁは頭がおかしいのだわ!!」
ダンッ!!
そう言って書見台を叩くシルフィ。
よほど性格が合わない相手なのだろうか。しかしシルフィが魔法の腕を認めるとは、ほんとうに凄い魔女のようだ。
魔王の研究をしているならば、魔王の娘であるアイリスはいいように実験体にされてしまうのではないだろうか。
さらにアイリスが心配になってきた。
「しかしヒントはあったのだわ?」
「え?どこに?」
「ケケケ~にぶいのだわぁばばあばばば」
魔女の異常性に焦りを感じて、ついシルフィにちょっと強めのほっぺクローをくらわせてしまう。
「まじめに!」
「ちぇ!アイリスのこととなると冗談が通じないのが玉に傷なのだわ」
「ご、ごめん。頼むよ」
「おほん。手がかりはニンファーという花なのだわ」
太古では魔王領と高山に大量繁殖したというが、現在は高山に生息している。
花の状態では日持ちしない。香料の状態では大量にとれないし香料自体希少。つまり研究をするなら、群生地である高山に籠るしかない。
「高山には村や生息している種族はいないの?」
「たしか、ドワーフが暮らしているはずなのだわ」
「じゃあそこへ先遣隊を……」
「ドワーフは臆病なのだわ?結界を張っていあるはずなのだわ」
一定以上の魔力を持っているか、許可がなければ発見すらできないそうだ。伝手を使うか、魔力の多いものが行かないと無理だ。
「……どおりで、さんざん捜索してもらったのに見つからないわけだ」
「手がかりが見つかってよかったのだわ」
「うん、ありがとう……明日の用事が終わったら、さっそく探索に行こう」
やっとアイリス捜索に目星がついたようだ。
ずっと気を張っていたから、一気に気が抜けて、ふーっと背もたれに寄り掛かる。
……そして思い出した。
女王のおつきの女騎士に、再び魔女図鑑を取ってもらう。
そうだ。シルフィについて調べるのだ。
それに感づいたシルフィがボクの膝の上で焦りだした。
「わ~~!!!やめるのだわ!みちゃだめなのだわ!!」
『魔女図鑑』
魔女ナンバー10378:白銀の精霊魔女
xxxx年に魔女登録。精霊と人間のハーフ。
戦闘能力が非常に高く、肉弾戦において随一である。精霊としては魔力操作が非常に優れている。
『グランディオル戦争』では『深淵の死霊魔女』と戦い、勝利を収める。その戦いがきっかけで終戦することになった。
一時期、小国に魔力拘束を受け逃亡し行方不明となっていた。がグランディオル王国にて目撃情報アリ。
アシュインなる人物と精霊の契約を交わした。
精霊の契約は生涯に一人だけ、その魂が愛するものに限る。
「「……」」
女王と女騎士がこっちを見ている。
口元をおさえてニヨニヨするのはやめてほしい。
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