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勇者が世界を滅ぼす日  作者: みくりや
第三部 成長
44/202

女王との会合

お待たせしました!



 今日はやっと女王との会合の日。


 仰々しいわけではないけれど、今回は魔王領代表と、王国領代表の会合という形になるので、やはり政治的な動きもある。


 魔王領で参加するのはボクとシルフィ、ルシェだけだ。この後、王国を拠点にしてアイリスの探索をする予定でいるから、大人数では邪魔になってしまう。

 それに探索に入れば、ルシェに魔王領を任せる予定なのでここで解散することになる。



 来賓室へやってくると、女王陛下は立ち上がってこちらまで来て出迎えてくれる。女王はボクたちをみて少し驚いている。



「本日はようこそ王国へ。長旅――ではなかったようですが、お疲れではないでしょうか?」

「お招きいただきありがとうございます。エルランティーヌ女王陛下」

「アシュインが来たということは、貴方がいまの魔王領の代表なのですね。お人が悪い」

「ははは……」



 前回、ボクは魔王領で暮らしているとだけしか彼女に伝えていない。そのころはまだ女王にも警戒が必要だったからだ。


 今回はもうすでに交易という面では支えてもらっているし、これからもその話が主題だ。ともなれば必要以上に警戒することもないし、誠意を見せるべきだろう。



「さて、まずは交易に関してですわ」


 現在魔王領、王国領南方にあるライズ村とトムブ村のみにとどまっている。ほかの村や町で行うなら道の整備が必要だ。予定では王都に近い町と魔王領のA地区へと結ぶ街道を整備して交易しようと提案されている。



「マインドブレイクに相乗効果を乗せる魔術をレイラが開発しておりましたので、こちらも利用しようかと思っております」

「かの王宮魔術師は本当に優秀ですね。いまは帝国側に取られてしまっているのがじつに惜しい」


 レイラの話題になると、エルランティーヌはすこし顔をしかめる。気持ちはわかるけれど、いちいち反応しているようではいけない。



「その件につきましても、今回の交易と演劇、マインドブレイクなど数々の支援の代わりに、ご助力いただきたいと存じておりますが、いかがでしょうか?」

「魔王領全体というのは、戦争や小競り合いに発展しかねませんので、難しいのですが、少数の軍力をお貸しできます」

「たとえば、アシュイン様がついてきていただけると……」

「ええ、もちろん」



 そう、彼女は王国の戦争回避のために亡命せざるを得なくなった。それだけじゃなく福音の身代わりとなっている。ボクの為に。でももう一人の福音が確保出来れば、彼の返事次第でそれも解決する。アイリスの捜索がいまの最優先だけれど、猶予があれば手伝うのはやぶさかではない。



「して、もう一人の福音の持ち主は確保できましたか?」

「確保までは至っておりませんが、現在交渉中でございます」


 エルランティーヌ女王はこれに関しても、顔に出してしまっている。よほど落胆しているようだ。レイラがいないのが影響していると思う。




「あまり芳しくなさそうですね」

「ええ……王国の落ち度を晒すようでお恥ずかしいのですが、奴隷落ちした聖女ユリアがその福音持ちの勇者キョウスケと一緒におりまして……」

「……なっ!?」



 あのユリアが奴隷落ち?いったい何をしたんだろう?たしかにユリアは奇麗な女性だから、ごねているとしたらキョウスケという勇者が惚れていると考えるのが自然だ。



「そのキョウスケがユリアにご執心ということでしょうか?」

「お察しがよろしいようで……ええ……そのとおりでございます」


 ユリアの奴隷としての立場を強権を発動するなりして帳消しにすればよいと思うのだけれど、それはできないと言う。

 奴隷落ちのきっかけが、教会への裏切りだったからだ。

 教会の違約金が原因で借金奴隷に落ちたので、解放、もしくは王国が購入となると教会の了承が必要だ。

 しかし教会はこの国をすでに見限っており、手を引く寸前だそうだ。王国が購入することを拒んでいるという。

 それに彼女は教会から多大な恨みを買っているので、購入して解放するなどとなれば魔女裁判を起こすと脅されている状態のようだ。

 奴隷落ちの時も、エルランティーヌが気を利かせなければ、奴隷どころか拷問ののち死刑にする予定だった。



「配慮されたんですね」

「ええぇ……一時は勇者パーティーとして王国の為に戦っていただいた方ですから」



 じゃあボクは?というだだをこねたりはしないけれど、少し納得がいかない。



「でしたら帝国に取られる前に、魔王領として彼女を買い受けるのはいかがでしょう?それを彼個人に貸し付ける」


 貸し付けることまで言うこともないけれど、悪魔に飼われるという罰であるなら、教会側も納得するのではないだろうか?その上借金を帳消しにしたうえで身請け金も手に入る。



「……よろしいんですの?かなりの高額ですが……」

「ええ、いくらで買えるのでしょう?」

「買い付けるとなると白金貨10枚は必要ですのよ?」

「ブーーー!!」



 ええぇ……たかい!!



 あまりの金額に、お茶を噴き出してしまった。すでに会合の体を成していないほど親しげに話しているが、一応王国と魔王領の代表の話し合いだというのに。



「いえ彼女の契約違反で彼女自身が白金貨5枚の借金奴隷でございます。しかし教会側からの身請けをするので、それと同等の金額がさらに必要になります。ですので最低金額として白金貨10枚、うち5枚は教会への借金返済ですわ」



 はっきりいって、彼女にそんな価値はない。生き物に価値をつけるなんてやりたくはないけれど、政治的に言っても物理的な能力をとっても、彼女の奴隷としての価値としても、どれをとっても彼女に価値を見出せない。ましてやボクを裏切った人物だ。

 そう、彼女はケインの誘惑の直接的な被害者ではない。にもかかわらずケインの先導にひっかかった体で、自分の利益を優先してボクを追い出したのだ。


 しかし、福音でレイラが取り戻せるならありなのだろうか?一度あって交渉してみるのも悪くはない。ボクがそう言うと、教会の人間と彼らを城へ召喚してくれるそうだ。彼らは近い町に滞在しているので、1日も待てば来る。



 福音の勇者は、交渉するカードはごろごろ転がっているからよいとして、うまく教会をしのがなければ、教会のほうが逆に彼を欲しがってしまう……。



「では福音の勇者様に関しては、お話していただけたら嬉しいです。ユリアが奴隷解放できるかもとちらつかせれば、話のテーブルにはのって来るでしょう。教会は……どう判断されるかわかりません」

「わかりました。ご助言ありがとうございます」

「いえこちらこそレイラの為に、ありがとうございます」



(アーシュ?もし教会の人間に会うならナナを呼ぶのだわ)

(なんで?)

(福音持ちがバレるのだわ?するとアーシュか、その福音持ちの勇者のどちらかを交換条件に出してくる可能性があるのだわ。ナナの『隠匿』が成長しているからスキルだけでも隠せるのだわ)

(それは面倒だね。わかった後で連れてこよう)






 多くの政の話は終わったので、アイリスの話になった。王国側では探索自体をおこなってはいない。高山は人間では到底探索不能であるから。

 その代わり町や村などの情報は常に集めてもらうよう協力してもらっている。ただゲートの魔法陣を見つけた以外は成果が何もない。


「それからアイリス様の行方はわかりましたか?」

「いえ、芳しくありません……」

「そのレイラの師匠であるクリスティアーネという魔女についてですが……わが王家に伝わる禁書書庫に何か残っていないか調べてみませんか?」

「よろしいのですか?」

「もちろん!レイラが慕う貴方ですからね。それに……」

「それに?」

「い、いえいえ!なんでもありませんよ!ではよろしければ、参りましょう」


 エルはすこし赤らめて慌てている。その様子は女王になった今でも、一人の少女のようだった。ボクはその様子をみて苦笑した。








読んでいただき、ありがとうございます!


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