マニの両親
7/20 マニが切りつけるシーンはカットしました。
魔王城に戻ると、ミミくんをみんなが歓迎してくれた。かわいいかわいいと、もみくちゃにされている。可愛いけれど、なんだか慕ってくれるボクのポジションを取られたようで少し寂しい。シルフィだけは相変わらずボクから引っ付いて離れない。
アミたちはミミくんにいろいろ話を聞きながら、今のストーリーをまとめている。もうすぐ話の骨組みはできるそうだ。思った以上に早い。
その概要がこれだ。
――英雄オロバスとハーフの子――
とある村に人間と悪魔の間に生まれたマーニィという子がいました。
その村は悪魔、人間、獣人が共存する小さな村です。
マーニィは村のためになるからと、一生懸命お手伝いをしたり働いています。
ですがハーフであるからとみんなにいじめられていました。
ある時期に雨がたくさんふり、食べ物が減ってしまいました。
それが原因で、なんと悪魔、人間、獣人の国が戦いを始めてしまいました!
それを悲しんだマーニィは戦いの中心へ飛び込みます!
「……みんな……仲良くしようよ!」
いじめられていた彼女の言うことを誰も聞いてくれません!
彼女は深い傷を負ってしまいます。
――しかぁし!そのとき!!
颯爽と現れたのは、英雄オロバス!!
オロバスは誰一人、殺めることなく戦いをしずめました!
そして大きな声でこう言いました。
「隣人を愛せ!そして彼女の勇気を讃えよ!」
これに歓喜した両軍は武器を捨てたのです。英雄オロバスによって、マーニィの想いが届くのでした。
しかし時はすでに遅し。
マーニィは傷ついて、倒れてしまった。
最初の一歩を踏み出したのは、ハーフで生まれて両種族から蔑まれていたマーニィだった。彼女の勇気に感銘をうけたすべての者たちが、誓う。
――種族に関係なく手を取り合って生きようと。
おしまい。
物語には詳しくないけれど、とても良い話にまとまっているんじゃないのか?後はこれが子供たちに受け入れられるかどうか。
「……ぐす……あたし……しぬの?」
「いやお芝居だから、泣かないで!!」
主人公のマーニィが死んでしまう物語だから、マニは泣いてしまった。命をとして守るなんて子供には重い話なのかもしれない。
「ボクはとても良い話だと思うよ!」
「アシュインさん!ほんと?」
「お芝居として完成する前に、子供たちに意見を聞けないかな?」
「簡単に紙芝居をつくってみようよ!」
「紙芝居ってなに?」
アミが紙芝居について教えてくれた。
お話に簡単な絵を付けて読み聞かせるものをいう。それはそれであたらしい娯楽になりそうだ。アミは運動が苦手な分、こういった分野は特に強いという。
すぐにできるそうだから、作って学園の初等部で読み聞かせてみることになった。
初公演の配役もある程度決まってきている。マーニィ役はミルにお願いすることになった。人間側にはナナ。獣人側にはミミ。悪魔側にはシャルロッテ。そして英雄は当然オロバス本人だ。これに脇役が何人か追加される予定。
ミルは一万年の恋をみてから、劇が大好きになった。自分でもやりたくてやりたくてしかたがなかったようだ。
「んふふ!アーシュみててね!」
「うん、期待してるよ!」
お芝居の物語づくりはいったんこれでお開きになった。
この後は約束どおりにシャルロッテとマニの訓練だ。二人はこれがメインイベントとばかりに嬉しそうにしている。魔王城の裏手の庭には学園ほどではないけれど、多少訓練ができそうな広いスペースがある。ボクそこに移動した。
「さぁ、おねがいしますわ!」
「……やろ……やろ」
「じゃあ、動きを見るから魔法なしでボクにかかってきて。武器は何を使ってもいいよ」
「あちはこっちで、アドバイスするのだわ」
「うん。よろしく」
まずはシャルロッテからだ。シャルロッテの剣は生徒の中では群を抜いているけれど、まだまだ甘い。はじめはボクは受けるだけにしてみる。
キン!シュ!カン!シュ!
「うん。剣は苦手?」
「これでも学内でトップですわ――よ!!」
シュ!カーン!
「じゃあ、ボクが1回だけゆっくり攻撃するから、よく見て捌いてね」
「へ?……ええ」
「あっ!全力で受けに集中するのだわ!!!」
「へ?」
シュ!キイィイイイ!!!!
ブオンブオン……ザク!!
ボクがゆっくりと剣を撫でるように振って、彼女の剣に当たった瞬間。彼女の剣は広場の端のほうまで飛んでいき、地面に突き刺さった。
ゆっくり振ったのは、二人にも目で追えるように、剣の柄から伝わる力点を知ってもらいたいがためだ。
「ひぃい!なんですのそれ!!」
「剣の基礎。シャルロッテは力の入れ方を間違えてる。すでに癖になっているから、矯正がさきだね」
「……これ。直せば、わたくしにもできますの?」
「できるよ。ベルフェゴールはなんて教わったの?」
「シューっとやってガっと振り下ろすそうですわ?」
ひどい。
ベルフェゴールは弱くないはずだけれど、教えることにはまったくむいていないんじゃないだろうか。
「ケケケ。それじゃダメなのだわ。おいシャルルンテ、見てやるからこっちで素振り1万回」
「シャルロッテですわ!お姉さま!」
シャルロッテは自分の剣を取りに行って、シルフィにみてもらう。やり方を一生懸命聞いている。シャルロッテは態度は大きいけれど、まじめな性格だ。驕らなければ、ちゃんと伸びるとおもう。
次はマニの番だ。
「マニはその剣でいいの?」
「……いつも……これ」
マニは身長がひくいのに、やり難そうに長剣を使っている。さすがに見ていられなかったので、武器倉庫にあった少し短めのショートソードを渡して振らせてみる。
「ふん……ふん……やりやすい」
「じゃあそれでやろうか。うってきていいよ」
「……うん」
シュ!カン!シュシュ!カカカーン!
「おお、いいね。剣の力の入れ方もしっかりしている」
シャルロッテと違い、マニはちゃんと剣の正しい使い方を理解していた。当てにならないベルフェゴールじゃなくて、別の人物から習っているはずだ。
手を止めずに打ち合いながら聞いてみることにした。
シュ!カン!シュシュ!
「学園以外でだれかに習ったことがあった?」
「……おとうさん」
「お父さんは、凄腕だったのかもしれないね」
シュ!カン!シュシュ!カン!カン!!
「……ほんと?……うれしい」
「お父さんとお母さんはいまは?」
シュ!カン……
そのまま、マニは足を止めて俯く……。
「……しん……じゃった」
ボクは嫌な予感がしていた。
勇者パーティーが魔王討伐をしなければ、魔王領ははっきり言って平和だったはずだ。すくなくとも数十年は戦争が起きていないし、攻め入る人間もいなかったはずだ。
つまり……。
「……ゆうしゃ……に……」
「そうか……」
やはり……。
彼女の両親はボクが殺していた誰かだ。しかも名前すら憶えていないなんて、ボクは最低だ。この子に真実を話すべきかどうか……。
いや。今更偽善者ぶっても、悪は悪だ。
ここで話すようなら、はじめから嘘などついていない。それにボクの進む暗黒道はまだ道半ばだ。
いつか話したときには、ボクを酷いやつと罵ってほしい……。
「マニ、全力で打ってきていいよ?少しは気が晴れるだろう?」
「……うん」
ギャン!!ガキンン!!ガズウウウン!
マニの攻撃はさっきとは比べ物にならないくらい重くなった。荒々しく、かつ正確な剣。ボクでも受けきるのは骨が折れるほどだ。
「もっと!もっとだよ!」
「やぁああああああああああ!!!」
ギャギイイイイイイイイイ!バキンッ!!
マニのもっていたショートソードが、折れてしまった。まったく手入れをされていなかったわけじゃないけれど、マニの剣の威力に耐え切れなくなったようだ。
マニははぁはぁと肩で息を切らせている。なかなか全力を出す機会もないだろうから、すこしは気がまぎれただろうか?
「はぁ……はぁ……あり……あとアーシュ」
「……マニはきっともっと強くなれるよ」
「……はひ」
気の抜けた返事とは反対に、目は自信に満ち溢れているようだ。彼女の心の中で何か思うところがあったのかもしれない。その何かを手にした彼女を讃えて撫でてやる。
その彼女の成長のきっかけをボクが作ることが出来たなら、うれしい。
そして、心の中で謝っておく。
……ごめんね。
読んでいただき、ありがとうございます!
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