シルフィ VS ベルチームその1
お待たせしてすみません。データが消えたので遅くなりました。
高等部が課外授業をしている競技場へやって来た。
競技場は広大な敷地をつかって、自由に戦闘訓練ができるようになっている。学園の周囲は森になっているけれど、火系の魔法が漏れると大火事になってしまうため、魔法防壁が張ってある。
外周には観客席のようなものも設置されている。まだ設立して間もないため、観戦するような催し物はおこなっていない。
ボク達が到着すると、講師をしていたベルフェゴールが気づく。
「よう!来たか魔王代理、いやアシュイン!」
「やぁ授業を見学に来たよ!」
「ボクだよボクボク」
ルシェがベルフェゴールにつめよって、例のやり取りを始めた。
「あぁん?ルシファー?あっ!おめーこの前のメス?おめぇメスだったのかよっ!」
「ベルフェゴールも知らなかったんだね」
ぱんぱんっ!
「まぁ茶番はこの辺にして!話を進めてくれ!」
ルシェとベルフェゴールがじゃれ合っていると、オロバスが合図して、号令をかける。オロバスはさすが校長で、声を掛けられた高等部の子はぴしっと緊張感をもって行動する。
「みんな、今日は魔王代理のアシュインがみにきてくれたぞ!気合い入れろぉ!」
「「はい!!!!」」
随分統率が取れていると思う。高等部ともなれば、そういうものなのか、ベルフェゴールの教育のたまものなのか。ただ、すぐに緊張はほぐれ、ひそひそと話し声が聞こえてきた。
「魔王代理だって!」
「オレらとそんなに歳はかわらねーじゃん!」
「……かっこい~」
「ふん……わたくしより目立つなんて気に食わないですわ!」
それぞれ楽しそうに噂している。ボクは学生時代がないから、そんな様子もとても羨ましい。ボクに対抗意識を燃やしている子もいる。頼もしい限りだ。
「おう!いつもは技術や勉強を教えてるが、おれぁ腕っぷしもつえぇからこいつらに戦闘について教えているんだぜ!」
「有望な子はいる?」
「いるぜえ!ここにいるシャルロッテだ!」
ベルフェゴールが彼女を紹介すると、ずいっと前にでてきて腕を組んでいる。すこしボクを卑下した目でみているのが気になる。
「ベル様?この下賤な輩は何でございましょう?」
「キミが将来有望な若者か?」
「あなた将来有望とおっしゃいますが、貴方のほうが年下じゃないです事?それにここで一番強いのはベル様。そのべる様に馴れ馴れしいんじゃございません事?」
「お、おい……」
シャルロッテはお嬢様といわんばかりの美しいブロンドが艶やかで清楚なイメージだ。ただすこし目がきつくて、性格もキツイ。ボクやシルフィは特に年下に見られがちだ。
ただ、相手の強さをみれないのは少々いただけないな。
「ほほぉ?なかなか威勢のいいガキなのだわ」
「ガ、ガキ?ふざけないでくださらない?こんのおちびちゃん!わたくしはもう大人の女性ですわよ!それにいずれベル様と……」
「文句があるならちょっと手ほどきをしてやるのだわ?」
「な、なんですってぇえええ!」
あのシャルロッテという子は大丈夫だろうか?まだ戦闘もまともにやったことのないような子が、シルフィにやられたら跡形もなくなりそうだ。
「……あーあ」
「ついでに!あち文句のあるやつが7幹部にもいるなのだわ?だからあちがまとめて黙らせてやるのだわ。そこの2人?」
たしかにボクのことは認めてくれているけれど、シルフィについては別だ。事情を知らないオロバスやベルフェゴールなんかは、ただのおつきぐらいにしか見ていない。
でもたぶんボクを除いたこの場の全員で戦ってもシルフィには勝てないと思う。
「やや!!!これは面白い!!!そういう熱い展開は好物だ!!!」
「こんのちびがオレ様とぉ?」
「いいや、そこのおべべと学生もついでにまとめてみてやるのだわ」
本気で全員とやるようだ。シルフィってすごく勝負好きだと思う。それも勝てない勝負をやらないタイプじゃない。わざと自分の不利な状況をつくってでも、勝負を楽しむタイプ。
そんなシルフィの腹の内をまったく読もうとしないこの人たちは、ちょっとちょろいのではないだろうか?
「えーあのちびとやるの?」
「え?全員と?それも先生や校長もいっしょに?」
「わーおもしろそう?でもあの小さいの死んじゃうんじゃ……」
「……っ」
お……一人だけ、シルフィの強さに気づいた子がいる。女の子か。
すこしぼさぼさの薄い青みがかった銀色の髪で肌が浅黒い。顔立ちは奇麗で可愛らしい子だ。あの子に注目してみよう。
「ケケケッ。準備はいいのだわ」
「……こちらもいいぞぉ!!でもまずはシャルロッテ一人でやりたいそうだ。」
「いいのだわ?すきあらばいつでも加勢してよいのだわ」
「な、なめやがってぇええええ!!」
あのベルフェゴールが有望っていってたシャルロッテって子は、はっきり言って期待外れだ。シルフィの簡単な挑発に冷静さを失っている。
「じゃあボクが開始の合図をするね~」
ルシェが立って大声で声をかける。
ほかの生徒もやや殺気立っているようだ。先ほどの子はじっと見ているだけなのだけれど、しっかりシルフィを見極めようとしている。
ここの競技場の校舎側には医療室もある。多少の怪我ならそこで治せるからと、生徒達は歯止めが聞かなくて大怪我をすることがあるらしい。
対戦ルールも何でもありの戦闘だ。怪我だけはしないようにみていないと。
なんでもありでも、シルフィは魔法は控えるだろう。ただたんに倒すだけならそれでもいいけれど、これは一応授業の一環だから……。
……忘れていないよね?
「レディー!ファアイイイイ!!!!」
<シルフィ> VS <ベルフェゴールチーム>
「さぁ来るのだわ!!」
シャルロッテは細剣を抜き、詠唱する。
「天雷の力よ、わが剣に宿い給え!ライトニングバイン!!」
ピギイイイ!!バリバリバリ!
シャルロッテの細剣に雷がエンチャントされたようだ。ただ派手だけれど、これはあまりシルフィには有効ではない。せいぜい威力が二割り増し程度だ。
「ふっ行きますわよ?」
シュ!ぱしっ!シュ!ぱしっ!
「なっ!?素手で?付与したのに?」
「おまえ。それじゃぁダメなのだわ」
「なっ!?なんですってぇええ!!」
シュ!キン!
当たり前だけれど、まったく相手にならない。でもちゃんと講釈もしてくれるようだ。
「雷は風の派生した属性なのだわ?だから風属性の強いあちには、まったく聞かないのだわ」
「おまえ、シャロロンテ?あちの弱点属性を見極めてみるのだわ」
「シャ、シャルロッテですわ!!!えーと、火が苦手そうにみえますわ」
「正解!じゃあ火をエンチャントするのだわ」
「わ、わたくしは雷だけしかできませんわっ!」
「じゃあまねするのだわ?」
「大気と大地に宿る熱よ。われに従いこの剣に集え!フレイムノバイン!」
グゴワアアア!
それを一回消し、シャルロッテにも唱えさせる。するとシルフィよりは小さいけれど、苦手な炎系の強い付与が出来てしまう。
「わかるのだわ?さっきの雷も無駄が多すぎて弱いのだわ。詠唱と魔法陣も最終的にはいらないけれど、慣れるまで今のをおぼえるのだわ」
「は、はい!」
シャルロッテはいつの間にかシルフィのいうことを素直に聞いている。
「『ピットゴーレム』」
シルフィは小さい自身に模したゴーレムを作る。ピコピコと走っていき、少し離れたところで手を振っている。
「か、かんわいいぃ!」
「あのゴーレムほっしい!!」
ボクがほしいんだけれど。まぁ本物がいるからいいか。
「あのゴーレムに剣を振り下ろしてみるのだわ」
「は、はい!」
シュ!ズドゥウウウウン!
「うわ……消し炭になっちゃった……かわいそう」
「シャルロッテ!かわいそうだよ!!!」
「うるさいですわ外野!それにしても……これをわたくしが?……す、すごい」
雷のときよりはるかに効果的な付与剣になっているようだ。シルフィや他の子たちにもわかりやすいように、詠唱と魔法陣を綺麗に書き換えている。
もちろんシルフィには必要のない工程だけれど、その魔法陣をみれば、効率的でまったく無駄のない簡潔な式になっているのがわかる。
「さて、次は剣術もしょっぼいのだわ。付与なんていらないから、がんがん切りかかって来るのだわ」
「は、はい!!」
ガン、キン!、ザッ!、シュ!!!
切りかかるシャルロッテに対して、シルフィは素手でそれをいなす。シャルロッテにはさっきの怒りはなくなって、学ぶ姿勢になっている。
「ほい、少しは見栄えがよくなったのだわ。じゃあ全員でかかってくるのだわ?」
「いやしかし……」
「なんなのだわ?ベルフェゴールやオロバス程度、素手で十分なのだわ」
「けっ!いくらなんでも舐めすぎじゃねぇか?」
「そうだ!ここは戦略的な集団戦術を使わせてもらおう!」
「なんでもよいのだわ?」
やっと本腰入れて全員で陣形を組んでシルフィに対峙するようだ。さっきのシャルロットとの訓練の様子をみて、なめるやつはあまりいないようだ。
(おいシルフィ)
(なぁに?アーシュ?)
(わぁ!いきなり甘い声でささやくなよ。びっくりした)
(ちぇっ!わかったのだわ。それで?)
(あの銀髪浅黒い肌の小さい子、気にならない?)
(気づいていたのだわ?)
(あの子、シルフィの強さに気が付いた)
(来有望な子ってところなのだわ)
(まぁ様子を見ておくさ)
あの子もしっかり参戦する。長剣を構えているけれど、あの子にはちょっと使いづらそう。それと周りの子とうまく連携ができていないというか……除け者にされているかもしれない。まるでボクを見ているようで、身につまされる。
そうこうしているうちに、対シルフィ戦が始まった。
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