報告のはずが……
7/19 アイリスの動きにあわせて帰宅後の対応を修正
ボクたちはゲートで砦から直接魔王城へと戻って来た。
魔力を感知したのか、みんなが魔法陣へと駆け寄って来た。
「やっと帰って来た!!アーシュ!」
「アーシュすき~!」
「おかえりなさ……え?奈々!?」
「亜美!!亜美~~!!!ごめん!ごめんね……」
ナナとアミは抱き合って再会を分かち合っている。複雑な関係だったことは聞いているけれど、この世界の事情に巻き込まれてしまった。それぞれ死線を切り抜けてきた今は、ただ再会だけを心から喜んでいる。
「それよりルシェ!アイリスを王国で見つけた!」
「え!?そっか、こちらでも調査探索はしているけれど、アーシュの情報のほうが新しいようだね」
ボクはエルランティーヌから得た情報まで、ルシェに話した。見ることはできたけれど、連れ戻す前に消えてしまったこと。ボクは報告してて改めてふがいなさを噛み締めた。
「これから、北の高山へいって、魔女のクリスティアーネに会ってみようと思う」
「いや、アーシュ行きたい気持ちはわかるよ……でもいま魔王領の長がいない状態なのはまずいんだ」
「……でも……」
「ごめんね……でも精鋭部隊で探索させるから……」
「ああ……いつもありがとな……ルシェ」
「アーシュ……」
「あ……みんなごめん」
すごくへんな顔をしていたようだ。みんなが心配そうにボクを見ている。アイリスがいない今、ボクが長として魔王領にいないと、領民が不安がる。
そうなれば様々な実害が生じ始める。福音のメリット効果も薄まってしまう可能性がある。ただでさえデメリットが多いスキルなのに。
その流れでルシェは魔王領の現状を報告してくれた。
食料は供給過多になっているそうだ。ただ悪魔族の絶対数が増えてない。当面はそちらが問題となる。
「悪魔族の繁殖力って弱いの?」
「そ、それはそんなことはないよ」
ルシェがもじもじと恥ずかしそうにしている。
「あのねアーシュ。悪魔族は相手を選ぶんだよ」
もじもじしてポンコツになってしまったルシェの代わりにミルが答えてくれた。ミルももうこういう話題に敏感なお年頃なのだろう。
「それは人間だって一緒だろ?」
「うーん?人間は『なんとなく雰囲気』でメスが受け入れちゃうでしょ?」
「ボ、ボクはよくわからない」
これはボクが一番不利な話題になってしまったようだ。まわりは女性ばかりだ。恥ずかしいと感じながらもみんなどこかそわそわして楽しそうだ。
「あの……あたしは経験がないけどね、クラスのみんなは、突き詰めると『いい雰囲気と流れだから』って理由だった。それに一目ぼれっていう人も少なくて、何となく好きから入って、その……してから本格的に好きになるって」
アミは引っ込み思案だけれど、こういう話は好きなのかもしれない。結構饒舌だ。
アミは結局、経験がないのか。ケインに誘惑で慰み者になっていたら、初体験がひどいものになっていただろう。それはいくら何でも可哀そうだ。助けられて本当によかった。
ただナナは……。
「アシュインさん。あたしは平気。気にしないで?あれが初めてではなかったから。でも性交にはいい思い出がないから、嫌いだなぁ。あたしはまさに『いい雰囲気』に流されて失敗した口」
「そうだったんだ……ごめん」
「気にしなくってもいいよ!でもアミは素敵な相手を見つけたみたいだし~ニヨニヨ」
「あ、あははは……」
アミは好きな人が出来たみたいだ。引っ込み思案なアミには頑張ってもらいたい。
「それで悪魔族は違うんだ?」
「うん、悪魔はね。本当に好きにならないと絶対に性交渉しないんだよ。寿命が長いからかもしれないけれどね。それに好きになるのも直感を信じる感じ。なんとなくなんてないよ」
そうだったのか……。アイリスは本当に深く愛してくれているのだと思う。それにお互い好きになったのも、あの一瞬の時間だ。
「寿命でいえば、精霊もそうだよね」
「そうなのだわ。それから繁殖本能だけじゃなくて、エネルギー補給の意味もあるのだわ」
「じゃあ、逆に人間より軽い?」
「なっ!?失礼な!その逆なのだわ!一度補給した相手以外は、不味くって食えなくなるから、悪魔族より重いと言えるのだわ」
「悪魔族は『好き』があれば、長い寿命の中では何人か縁があるよ」
「そう、でも精霊は本当に一人だけ。つがいが死ねば、自分も死ぬ。本当に重いんだよ」
ルシェがやっと復活してきた。こういう話題はダメなのか。それにしても精霊はさらに愛し合っている人としかしないのだ。そうなのか……。
そう思うと、急にシルフィのことが今まで以上に愛おしく感じるのだから不思議だ。ボクはシルフィも大切に思っている。
アイリスの時のように直感で魅了されたわけじゃないけれど、いつもそばにいてくれて支えてくれる彼女をアイリスと同じぐらい愛していると思う。
「そういう意味では、本当に悪魔は高尚な生き物なのかもしれないね」
「そうなのだわ。はっきり言って悪魔や精霊からみれば、人間は下等なゴブリンと同等の価値観なのだわ。だからアーシュみたいな人間はありえない存在なのだわ」
「えー?あたしゴブリン?」
「あたしも?」
アミとナナがぶーっと頬を膨らませて怒っている。本気じゃないにしても下等なっていうのはちょっとかわいそうだ。
「だとするならトムブ村もライズ村ってすごく奇跡のようじゃないか?」
「いまさらなにいってるのアーシュ」
あの村同士の交易はすごくうまくいってるそうだ。女王からの支援もされていて、いざこざにはもちゃんと対処できている。
「悪魔は基本的に高潔であるから、温厚なんだよ。人間側がちゃんと対応してくれればうまくいくのは当たり前」
それはボク自身が実感していた。魔王領の村に立ち寄った時にも、事情を話して敵であったにもかかわらず受け入れてくれた。
今もみんなが信頼してくれている。
それから悪魔の数が増えにくい事に関係して、軍事力の復興はあまり芳しくないようだ。一人一人の強さは十分、訓練もされているし組織戦闘もできるようになった。はっきりいって、いまの王国軍には負けないぐらいの防衛力はある。
ただ不測の事態や、勇者の特殊性、それから帝国軍が絡んでくると今のままでは不安だという。
「そういえば、ベリアルは悪魔の性に関係なく色気を振りまいているよね?」
「あーうん。ベリアルはいわゆるオネショタ?っていう性癖なんだ」
「オネショタ?」
「あたしは知ってる!!少年好きなんでしょ?」
「あ……あたしも知ってる……漫画でみたから」
「ベリアルは博愛主義なんだよ。それはすごく良い事なんだけどね。その中でとくに少年が好きってこと。悪魔ではベリアルだけだよ」
博愛主義でおねしょた?ベリアルはボクより、一枚も二枚も上手だと思っていたけれど、さらに上手だったようだ。初めて会った時からボクにも優しく友好的だったのはそういうことなのか。
報告が雑談のようになってしまった。
女子たちの性癖や好きな人の話で盛り上がってしまい、ボクは真ん中で縮こまっていることしかできなかった。
いつも読んでいただきありがとうございます。
ブックマークか、★のご評価いただけると特にうれしいです!
もしレビューをいただけたら最上級の幸せです!
よろしくお願いします!