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勇者が世界を滅ぼす日  作者: みくりや
第二部 想い
30/202

目的

7/19 アイリスの行動の整合性を修正。エルランティーヌの初恋のエピソードを追加。



 帝国の騎士に連れてこられたのは、勇者パーティーにいた女魔導師のレイラだった。



(な!?王宮魔導師ってレイラ!?)

(しりあいなのだわ?)

(元勇者パーティーの魔導師だよ。ボクの追い出された)



 王国の王宮魔導師だということは、レイラとエルランティーヌで国を動かしていたということだ。たしかに勇者パーティーでも彼女は聡明だった。勇者であるボクに常に助言してくれていたことを思い出した。



(ほ~ぅ。殺すのだわ?)

(や、やめてよ)



 女王様とレイラは女王と王宮魔術師という立場以上に親しい間柄にみえる。レイラは焦がれるような顔をした後、つらそうに視線をそらした。

 察するに、何かしらのやむにやまれぬ事情があって苦渋の決断をしたということなのだろう。将軍の言い分はあながち間違いではないけれど、すべては語っていないと言うことだ。



「陛下……わたしは帝国へ向かいます。お許しください」

「レイラ……」

「王国のため、あの人のためにはそれが良いと判断いたしました」

「……ふん」



 将軍は、二人の友情をバカにするような目で見て愉悦感に浸っている。

 アイリスがいて、レイラがいる。それぞれの思惑で行動しているようだけれど、ボクは事態を把握しきれない。あの人とは誰の事だ。


 いや、本当は見当が付いている。

 だがあのひどい思い出が、それをなかなか認めようとしてくれない。


 ボクはいまこの場をぶち壊して、アイリスとレイラを掻っ攫いたい衝動に駆られている。ただそれをしてしまえば二国を敵に回すことになる。魔王領のみんなの命を危険に晒すことなんてできない。

 なんてボクは不甲斐ないんだ。



(……アーシュ)



 シルフィはそんなボクをみて心配してくれている。いつもそばにいてくれるシルフィには感謝だ。彼女がいなければ今頃この砦ごと、ねこそぎ(・・・・)やっている。



 会合ではその他の国の交易、折衝も行われた。王女と将軍はお互い牽制しあっているだけで実務の話はしない。

 その中で取り決められるものがあれば、署名が行われる。


 そのやり取りの中、エルランティーヌとレイラの間で秘密のやり取りが行われていることに気が付いた。



(将軍の目を盗んでなにかやっている)

(二人だけの暗号みたいなのだわ)

(会話できているってこと?シルフィわかる?)

(二人だけのサインなのだからわかるわけがないのだわ!あちを何だと思ってるのだわ……)



 その話し合いが終わると、将軍はニヤニヤと笑っている。完全勝利だと言わんばかりだ。ただ、戦争だけは回避できたと、王国側は安堵していた。しかしいつの間にかアイリスがいない。いつ去ったのかまるで気が付かなった。



(アイリスがいない!どこへいった?追いかけよう!)

(まつのだわ。女王との接触も必要だし、すでに砦周辺にアイリスの気配がないのだわ)

(……ぐっ!!くそぅうううう!!!ボクは何をやっているんだ!!)

(アーシュ……むしろよく我慢したのだわ……)



 従者として来ている彼女が、女王より先に席を外すと言うのは不自然だ。わかっていたがやはり何かの目的のための偽装。彼女はもう目的は達したのだろう。

 それも女王に聞いてみるしか無さそうだ。



 会合が終わり、帝国側は宿泊するわけでもなく、早々に砦から退散していった。レイラを連れたまま。残された王国側の人間がいそいそと書類の片づけや宿泊準備を始めている中、女王は憔悴して椅子から動けないでいた。



「……レイラ……」



 ボクは隠匿状態のまま、エルランティーヌ女王の後ろに回ってささやいた。



(ケインを討った者です。お時間をいただけませんか?)



 女王は何も言葉を発しないまま、うなづく。指で合図して、ボク達について来いと指示する。女王の宿泊する部屋へと案内してくれるようだ。


 女王が使用する部屋は、使用人の部屋とは比べ物にならないぐらい広いし豪華な家具やアンティークが並んでいる。噴水のようなオブジェがあり、ずっと水音がしている。その水音が多少の会話をかき消してくれるように配慮されている。

 部屋につくと、女王は一人になりたいと人払いをする。




「さぁ、姿をお見せいただけませんか?英雄殿」



 ナナに隠匿を解除してもらう。ボクたち、いやボクの姿を見ておどろいているようだ。彼女はボクのことを覚えているだろうか?



「貴方は……以前どこかで……え……まさか?」

「私をご存知ですか?エルランティーヌ女王陛下」


 福音の揺り返しの効果だ。思い返せばボクと関わり合いが深いほど、覚えている傾向にあったけれど、代わりに嫌悪感を抱いていたはずだ。



「覚えてないなら結構です。私は……そうディアボロと申します」

「え?……いえ……あ……そんなはずは……お、おまちになって」



 女王の様子がおかしい。まるで混乱して、自分の中の何かと戦っているようだ。

 まさか……福音効果と?



「……貴方もしかして……アシュインという名ではなくて?」

「……思い出されたのですか……?」


「いえ残念ながら……ただわたくしも教会の祈祷師から『勇者の福音』の揺り返しについて聞かされていましたから……この嫌悪感を疑っております。……それにレイラだって」

「レイラはなんと?」

「ケインの誘惑から溶けてからは、貴方の話ばかりですわ……。いまもおそらく貴方のために動いている」



 そうだ……レイラが言っていたときにボクは気が付いた。レイラが誘惑で操られていた可能性だ。それに全く気が付かなったまぬけ(・・・)なボクはレイラを……奪われてしまったということだ……。


 あの時、レイラをちゃんと受け入れていればそんなことにはならなかったはずだ!

 レイラにつらい選択をさせている今も、ケインに誑かされてしまって絶望したレイラも想像にたやすい。それでもなお、ボクの為に動いてくれているなんて聞かされたら黙ってはいられない。



「アーシュ……」

「レイラ……ごめんな……」

「……あなたが心配していたとレイラが聞いたら喜びますよ」



 まだボクにそんな資格があるのかはわからないけれど、ボクの為に彼女が苦しんでいるのは許せない。



「……レイラを取り戻す方法はありますか?」

「……今は戦争回避が第一義でしたからね……それから勇者の福音にあてがございます。今しばらくお待ちください」



 今すぐボクが乗り込んでも取り戻せるだろうけれど、それでは戦争回避の目的もあったレイラの行動が無駄になってしまう。有効な取引カードを作るべきなのだろう。



「それから……なぜアイリスが陛下の従者として参加したのですか?」

「アイリスをご存知ですの?」

「ええ……縁あって共に行動していました。彼女を探していたんです」

「そう……彼女が悪魔族であることは?」



 彼女は悪魔族である事を明かして女王に近づいていたようだ。



「もちろん。ボクも悪魔領に住んでいますから」

「なっ!?……貴方……悪魔領にいたのですね……通りで国力が落ちるわけですわ……その……父と母……王国がしたこと、お詫びいたします……」



 ボクが王国の所為で追放されたことを今更謝罪されても、むなしいだけだ。それにケインを討った時点でもう大きな復讐心は霧散している。

 でも女王と話したことで、絡まった糸が少し解れた気がする。



「謝罪は受けます。ですがその報いは既に揺り返しで受けているのですから、ボクはもう気にしません」

「そう……いっていただけると、助かります」

「それで、アイリスは今どこへ?ボクは一番にそれが知りたい!」

「わかりません……必要なことが済むと、すでに居ませんでした」



 彼女は単独で魔王領との交易や情報を餌に女王に接触して、レイラが知るある魔女(・・・・)の情報を聞き出したかったそうだ。

 しかしアイリスが女王と会った時にはすでにレイラは亡命後だった。悪魔族であることで、いざとなったら戦ってもらうことを条件にこの会合の参加を許されたそうだ。



「しかし、よく信用しましたね。悪魔族なのに」

「わたくしには偏見はございません。等しく疑いますわよ?」

「ではなぜ?」

「貴方の名前を出されたからです。失礼ですが福音の所為かもしれませんが、わたくしは貴方の顔をおもいだせません。ですがレイラから耳がタコになるほど貴方の名前を聞かされていましたから」



(ケケケ……愛されておるのだわ~)

(今大事なところだから、ちゃかさないでくれよ……)



「アイリスが求めていた情報は分かりますか?」

「ええ、魔女の名前と居場所を聞いておりました。魔女の名前はクリスティアーネ。レイラの魔導のお師匠様だそうです」



(ゲェ……)

(しってる?)

(……しってるのだわ。はっきり言って、会いたくないのだわ……)

(シルフィがそういうなんてよっぽどなんだね……)

(『深淵の死霊魔女アビス・オブ・ネクロウィッチ』という通り名の変態なのだわ)

(すごそうだね……)

(女は平気だけど、アーシュみたいな可愛い子は、生きる屍(リビングデッド)にされて使役されるのだわ)

(……うへぇ)



「ば、場所は?わかりますか?」

「いえ、はるか北の高山の奥とだけレイラから言付かっております」

「そんな場所に一人で向かったのか?大丈夫かな……」

「……もしかして、アシュイン様はアイリスのことを……いえ、野暮ですわね」


 ボクが心底心配している様子で分かってしまったのだろう。でもわざわざそれは口にしない。アイリスの目標地が明確になっただけでも収穫だ。



「高山は広大ですわ……それに険しくて、通常の人間では探索は不可能です。レイラが師事していたころは、農村にいたそうですわ」

「そうか……それはこちらで何とか探してみるよ。ありがとう」




「あ、忘れてはいけません……ケインの討伐、ありがとうございました!」



 握りこぶしを上げて、勝どきをあげているようなポーズをとる。心から嬉しかったことが伝わって来た。王国ではかなりケインに手を焼いていたのがうかがえる。



「あ、いえ。そこで捕らえられていたナナを救助しました。ナナ」

「あ……はい!アシュインさんに助けてもらいました!」



 ナナは後ろに控えていたが、ボクの横に来て女王に挨拶をする。ナナは数多くいる召喚勇者の一人だから、女王と深い関係性はないようだ。



「重ね重ね、ありがとうございます。そ、それにしても元気ですわね」

「いろいろ……アシュインさんのおかげで、自分を取り戻しました!」

「そう……よかったわね」

「はい!それでお願いがあります!あたしアシュインさんについていきたいです!」

「……っ!そ、そう……わかりましたわ。アシュイン様、ナナをお願いいたします」



 それは交易のカードにする予定だったけれど、ナナが自ら来たいというならそれもいいでしょう。女王がなぜかすごい顔をしてひきつっている。ボクは素直に了承することにした。ナナも嬉しそうだ。



「それから、魔王領との今後の関係についてお話したいのですが」

「うん。ボクはある程度任されているから話を聞くよ」



 さすがに魔王代理とは言わない。いくら女王が帝国に手玉に取られる程度だとしても、レイラと共に王国の復興をこなしている人物だ。

 今度はボクが手玉に取られるとも限らない。自分の権限を明かすのは、愚策だ。


 すでに交易のある魔王領のライズ村と王国側のトムブ村をテストサンプルとして、王国からも手厚い支援をもらえることを約束で来た。

 まだまだ悪魔族の偏見が人間にあるようなので、そこの矯正は行わなければならない。

 王国ではボクがいなくなった穴を埋めるために、勇者をつかったマインドブレイクをおこなったそうだ。確かに王国の復興には必要だったが、その所為で悪魔族への偏見が促進されてしまっている。


 女王はこれに謝罪をし、レイラの方策で、すでに新たな刷り込みの促進を行っているそうだ。そう考えるとレイラがすごく先見の明があって優秀と言える。


 大体の話が済むと、エルランティーヌ女王はお茶を飲み、緊張をといて息をはく。



「ねぇ……アシュイン……わたくしの、昔話をきいてくださらない?」

「え?……ああ、いいよ」



 それはエルランティーヌの初恋の物語だった。

 幼い頃に出会った少年への恋。でも親友も好きだった相手。ある使命のもと、親友といっしょに旅立ってしまった。

 かなわぬ恋だったけれど、大切にしたいとおもっていたけれど、その思い出は手から砂が零れ落ちるように、儚く忘れ去られてしまった。

 人間の脳の脆さか、因果律か。その呪いをエルランティーヌは呪った。

 だからこの呪いを解いてくれる王子様を永遠と待っているのだと……。




 ボクは親近感がわくその話に、胸が締め付けられるような思いだ。女性の恋話なんてボクが語れる話ではないが、なんとも心がえぐられた。

 隣で聞いていた、ナナとシルフィも何故か涙している。


 その美しくも儚い物語は、ボクに何か言いたい事があるのだろうとは思うけれど、彼女は立場上できない。本当に彼女の気持ちなのだろう。



「ふふ……ただの余興ですわ……ありがとう聞いてくれて。最後に名前でよんでくださらない?」

「……ああ、最後じゃないしね。よろしくね……エル」

「……っ!」



 そう、ボクも忘れていたことがある。昔、一度だけ彼女と話したことがあった。短い時間だったけれど、長い名前だからとボクが親しみを込めて『エル』と呼んだんだ。

 福音のせいで、彼女から消え去った記憶は彼女のものだ。

 福音は何て残酷なスキルだろうと、あらためて痛感した。


 ボクたちは『隠匿』でそのまま部屋を後にした。

 部屋からは、子供のような大きな彼女の鳴き声が響いていた。






読んでいただきありがとうございます。


あの人はレイラちゃんでした!



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