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勇者が世界を滅ぼす日  作者: みくりや
第二部 想い
20/202

アシュイン vs シルフィ

あらすじ


 魔力スカウターが開発された。みんなの魔力値を順番にみて、アシュインの番。勇者を隠しているから魔力値を見られたくなかったが……。



――――

アシュイン

魔力値11、273,300

――――



「わっ! すごい!」

「さすがアーシュ!」

「……」



 ……まずい。



 表示された数値はルシェやシルフィのさらに二桁上だった。

 ボクも普段から魔力を抑えている。ウソがばれてしまうからだ。でもそのウソもこの道具には通用しないようだ。



「間違いかもしれないね?」

「そうだね。いくら何でもこれはね」

「……この魔道具がおかしいのかなぁ?」

「あはは、そうかもね」

「じゃあメフィストに文句を言っとくよ!」

「……」



 シルフィがさっきから思い悩んだ顔をしている。

 彼女には魔力を大量にとられたりしているから、その量、質を把握されてしまっているのだろう。そして実数値で表示されたのであれば、確信にかわる。

 ……ここは触れないでおこう。





 次にアイリスの消息についての報告だ。

 既に二人は一緒にいない可能性がある。王国のラディアという町の近くで佇んでいたアイリスらしき人物の目撃情報があった。

 自力で脱出したのか、操られていたスキルの効果が切れたのかもしれない。



 もしそうなら、すぐ帰ってきてくれないのは……。



 その後の彼女の消息は一切つかめていない。

一方ケインは相変わらずあちこちの街で、女性を誑かしている。であるならケインに会って聞き出すのが手っ取り早いだろう。



「すでに手配したから安心して?」

「さすがだね。ルシェ」

「えへへ~」



 ボクが考えていることはわかっているとでも言わんばかりに、先回りしてほとんどの事をやってくれている。本当に優秀だ。









 今日の報告と執務は終わったので、午後はシルフィ先生の魔法講座。

 シルフィ先生がアミに教えることがメインだから、ボクとミルも見学させてもらうことにした。

 お城でも広い空間がある裏手の演習場で行うようだ。



「さて、今日はアミへの魔法講座なのだわ」

「よ、よろしくおねがいします~」

「ボクもよろしく~」

「よろしくおねがいします!」



 ボクも魔法はそれほど詳しいわけではないから楽しみだ。



 基本魔法は火、水、土、風の物質を作るだけだ。

だが活用範囲は広く、生活のありとあらゆる場面で使える。アミはどれくらいできるか、見せるために基本魔法をシルフィに見せる。



「こ、こんな感じ」

「うーむ。……あまり出来ていないのだわ? これじゃぁ初級魔法も威力がよわかったはずなのだわ」

「……う、うん。魔物もあんまり倒せなかった」



 アミはこちらの世界に召喚されたときに、王国騎士団の訓練を受けている。ただあまり良い講師には恵まれなかったようだ。

 資質はあるように感じるけれど、使えるのはおぼつかない基本魔法と初級魔法だけ。


 実践を重視してパーティーで遠征させていたが、そもそもアミは生き物を殺す行為にかなりの抵抗があった。

 その感情にはとても深く共感できるけれど、最低限の自衛できる力は必要だ。




「じゃあ丁寧に基礎からなのだわ。まず――


 魔力操作。

 魔力を効率よく使えるように体内にある魔力を練る。必要量を正確に練り上げることができるようになるのが目標だ。

 シルフィは感覚を伝えるために、アミと手を繋いで何度も練り上げる。



「わかるのだわ?正確に、丁寧に、そして美しく練り上げるのだわ」

「ひゃ! ……すごい……!」



 アミは目を閉じて、一生懸命魔力の動きを確かめながら感じている。こちらから見てもアミの魔力が目まぐるしく動いていることが感じられた。

 それはアミが魔力操作の資質がある証拠だ。


 それを見ていたミルは、うずうずもじもじとやりたそうにしている。

 彼女は鬼人の血を強く引いているため、魔力が少ないし操作も不得手だと思う。魔力の訓練をすればするほど、実感してしまうだろう。

 代わりに肉体的な優位性が高いのが鬼人種の特徴だ。

 ただこのまま見ているだけなのもつまらないだろう。



「ボクたちもやってみようか?」

「ほんと? あたし魔力ないし苦手……」

「だめだったらその時だよ」



 ボク自身は魔法に詳しくないけれど、魔力は勇者スキルで常に使用していた。練りも変換も息をするがごとくしみついている。


 うんと頷き、真剣なまなざしでこちらをじっと見ているミル。シルフィたちを真似るように、手を繋いで魔力を動かしてみる。



「あっ……あっ……んぁっ……なにこれぇ……」

「あっ⁉ ……ちょっと多かったかな?」

「ちょ⁉ アーシュ⁉ あーあ……」



 やりすぎてしまったのか、ミルは酔っぱらったみたいになってしまった。ぽーっとして涎をたらして目を回している。



「ミルはどうなっちゃったの? だ、大丈夫なの?」

「ケケケ。気持ちよくなっているだけだから気にしなくていいのだわ」

「あ~しゅ、しゅきぃ~」


「「……アーシュのえっち~」」

「……ええ⁉」



 シルフィとアミが口を押えてニヨニヨしている。いつの間にそんなに仲が良くなったのだろう。

 ボクが魔力操作に長けていないのが原因のようだ。



「例えるなら大波に包まれるアリンコなのだわ」

「うわ~……」

「まぁ好きな相手で良かったのだわ……」

「ご、ごめんミル」

「んひひ~あ~しゅ」



 ごろごろと猫のようになってしまったミル。もうほっといて授業を進めてもらうよう促す。ボクはミルに膝を貸して、大人しく見学だ。



「アーシュはちゃんと大人しく見ているのだわ」

「はーい」

「……ふふ。おもしろい」



 気を取り直して、つぎは魔力変換。

 魔力変換で実際の物理現象へと昇華させる。魔力変換のイメージと、魔力操作で練り上げた魔力の量の差異が少なければ少ない程、変換効率が上がっていく。

 子供っぽい絵を地面に描いて説明してくれるシルフィ。なかなか上手で可愛らしい。



「これくらいをイメージして、イメージと同じ分だけ練り上げるのだわ」

「ん……こう?」

「まだまだ。アミの世界にある道具でイメージしてもいいのだわ?」

「ん……それなら……こう?」

「お~! いきなりできたのだわ!! かなり変換効率が上がったのだわ」



 シルフィのアドバイスで、どんどん吸収していくアミ。もともといい素質を持っていたのだ。それをうまく使えてなかっただけだった。




 そして魔法陣、詠唱の有無について。


 魔法陣は主に安定化の為に使用される。難しい呪術や、操作系の魔法など技術が必要な魔法には欠かせない。

通常の攻撃魔法にも安定化のための魔法陣はもちろん使えるが、戦闘中に余裕があるわけないので普通は必要ない。


 詠唱については先の『魔力操作』『魔力変換』の補助のために用いる。これを使うのは未熟な魔法使いだけだ。『魔力操作』『魔力変換』がしっかりできている魔導師以上のクラスでは使うことはない。

 ただどういう構造で魔法が放たれるのかを、教えることには役に立つ。



「まずは詠唱と魔法陣を使って、要素を分解して見やすくするのだわ」



魔法陣が空中に描かれる。簡単な文様だ。



「熱よ、大気よ、その力をもって炎と成せ。火球(ファイヤボール)!」



シュバ!ボオオオオ……ドゥーーーーン!



 端っこにある標的どころか、地面まで大きくえぐれた。



「こんなものだわ」

「す、すごいね……あ、あたしにできるかなぁ?」

「まぁ格好だけでも真似するのだわ」

「う、うん……熱よ、大気よ、その力をもって炎と成せ。火球(ファイヤボール)!」



シュバ!ボン!



「わっ! こわ!」



 放つことができずに、目の前の床で爆ぜてしまった。先ほど習ったおかげで威力がちゃんとしている分、失敗すると危険だ。



「アミ! 大丈夫?」

「う、うん……練りと変換を教えてもらったら、当たった時の威力がすごく大きくておどろいちゃった」

「うむ。練りと変換のおかげなのだわ。これから魔力量も伸びていくからさらに威力が上がるはずなのだわ」

「あ、あたしなんかが……」

「あほー!!」



ごちん!



「いたっ! シ、シルフィちゃん痛い!」

「『あたしなんか』は禁止。あちはそれが嫌いなのだわ」

「……う、うん!」



 意外と厳しいシルフィ先生。

 でも長い人生の先輩でもある彼女は良い先生だと思う。ボクも結構『ボクなんかが』と言ってしまうから気を付けよう。



「ケケケ。まぁ今は『練る』、『変える』をひたすらやるのだわ」

「あの……あたし、もっと強くなりたい」

「ふむ……アミはたしか四属性魔法がつかえるのだわ?」

「う、うん……」

「それならとっておきのがあるのだわ。魔力値が一万を越えたら教えるのだわ」

「ほ、ほんと? わ~ありがと!シルフィ先生!」



 きゃっきゃとアミがシルフィに抱き着いている様子は、仲睦まじくて可愛い二人なので絵にもなる。見ているこちらも幸せな気分になってくるから不思議だ。






 それから体捌き、運動能力も見ることになった。いくら魔法使いの素質があって慣れたとしても、動きが悪ければすぐに死んでしまう。


 確かに魔導師のレイラも洗練されていて、パーティーでも唯一ボクについてこられていた。

 動けないやつは魔法で補う者もいる。全く動けない、手段もないという魔法使いはいくら上級魔法を連発できても、真っ先に死ぬらしい。



「えいっ! やっ!」

「おそいのだわ!! そんなんじゃすぐ死ぬのだわ!!」



訓練はアミが杖をもってシルフィに殴りかかっている。お姉さんが小さい子共をいじめているようにしか見えない。

ただ一発も当てられていない。一歩も動かずに紙一重で避けている。

 シルフィはこちらも得意なようだ。かなり……いやむしろボク以上に洗練されているのではないだろうか。



「シルフィちゃんすごいね?」

「ミル? もう大丈夫?」

「……うん。すごかった……」



 何がどう凄かったのかは聞くのをやめておこう。

 まだ膝枕から起きようとしないので、そのままシルフィとアミの様子を見る。しばらくそんな様子で訓練を続けていると、アミの息が上がって来た。

 もう三十分も動き続けているのだから当然だ。



「よしアミ。休憩なのだわ」

「はぁはぁ……ま、まだ……はぁはぁ……あ、あたし……やれる……あっ」



「アミ⁉」



 アミは力尽きて、倒れてしまう。今までろくに動いてこなかったのだから、無理すれば倒れるのは当たり前だ。

 シルフィがアミを持ち上げて、こっちまで抱えてきた。シルフィの身体が小さいから、アミの身体しか見えない。



「治癒をかけて、少し寝かせておくよ」



 専門ではないけれど、多少の治癒魔法の心得はある。サリエルとは違い軽減させることしかできないけれど、アミの症状ならそれで十分だ。



「アミちゃんね。魔王領にきて楽しくて仕方ないんだって。だから頑張りすぎちゃったかも」

「ミルはいっしょにいるからよく知っているのか」

「うん! 仲いいからね! ところで~」



 急にニマニマと表情を変える。ミルはとても表情豊かで可愛らしいけれど、この表情の時は嫌な予感がする。



「シルフィちゃんとアーシュってどっちが強い?」

「ケケケケ! 当然!! あちに決まっているのだわ!」



 ……予感的中。



「……え~と、仕方ないな……その勝負のろうか!!」

「ケケケ! よくいったのだわ! さすがはアーシュ!」



 二人で模擬戦をすることになった。純粋な体術勝負だ。

これはどうするのが正解か……。



「おいアーシュ。手加減したら怒るのだわ」

「ははは……見透かされていたか」

「ふんっ! あちは手加減されるのが一番大嫌いなのだわ!!」



 二人は中央で、一定距離を保って構える。

 シルフィの闘気を見ればすぐにわかる。本気だ。



「ケケケ、いつでも良いのだわ」

「じゃあボクから行くよ?」



と言った次の瞬間に――



ズドゥゥウウン!



突然、演習場に劈くような爆発音と爆風が起きる。

 十メートル近く離れていた距離が、瞬きする間もなく縮まり衝突した。



「ケケケ! さすがは魔王代理! いい拳なのだわ!!」

「……ボクの拳を受けられた人間なんて初めてだ!」



 最初はシルフィを傷つけてしまうんじゃないかと思った。それが怖くて、小手調べをしたのだけれど、簡単に受けられてしまった。

 これなら……



 ……シュッ! ズドゥウン!



 さっきより強めに打ち込んでも、



……シュッ! ズガンッ!



 ――あっさり返される。



 ほぼ同等の体捌き……いやボクより高い技術を持っている。

 すこしでも気を抜けば、打ち込まれるし投げ飛ばされる。


 初めて会った時は、小さくて甘えん坊の孤児の女の子だった。

しかし今、目の前に立っている『白銀の精霊魔女シルバー・オブ・スピリットウィッチ』は、まさに巨大な壁に見えた。


 ……しかも少し押され始めている。



ガツッ!!



 アミたちとは離れた場所で、組み合う。

 刹那、シルフィが耳元で囁く――





「アーシュ? おまえ、勇者(・・)なのだわ?」


 ゾワリ……とした。




 まるで時が止まったように一瞬が永遠に感じられた。


 耳元に響くその声は、心の底へと語りかける。

 嘘はつくな。わかっているぞ。そう言わしめる冷気を感じた。


――それと同時に、美麗で絹のように繊細な声色に身体が一気に火照る。



「なっ……⁉ あ」



ドガッ!! ズドゥゥウウウン!!



「か~~っ!! かったいのだわ!!」



 思わずシルフィに見惚れてしまい、まともに蹴りを食らってしまった。結構吹っ飛ばされて、森の木を何本か巻き込んだ。

 それでもボクは無傷だ。ただ蹴った方のシルフィは……。



「わっ⁉ すごい!! アーシュに勝っちゃった!!」

「シルフィちゃんすごい!!」



 視線を戻すと、うずくまっているのが見えた。

 心配になって、慌てて駆け寄る。



「シ、シルフィ‼」

「ケケケ。ちょっと熱くなりすぎたのだわ」


「だ、大丈夫なの?」

「い、痛そう……」

「いや、ちょっと骨までいっているな、これ……治癒をかけるね」



 しばらく治癒し続けると、苦しそうな顔は落ち着いてきた。痛みは引いてきたのだろう。

念のため、僕の短剣を添え木にして、シャツを破いて結ぶ。



「アーシュ……ごめんなのだわ」

「いいさ。 ボクは自分を異常だと思っていたから、シルフィがボクより強いことに安心したくらいだ……だからうれしかった」


「ふふふ……」

「あはは」


「……ケケケ」

「くくくく」



 そんな様子を見ていたミルとアミが安心したかのように笑いだして、ボクたちも苦笑した。

 もしかして魔力スカウターで異常な数値をたたき出したボクの顔色をみて、これをみんなして仕組んだのかもしれない。



 ……ははは、騙されたよ。



 でもすごく清々しくて、吹っ切れた。









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