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勇者が世界を滅ぼす日  作者: みくりや
第七部 勇者が世界を滅ぼす日
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滅亡行進曲 その2

あらすじ

 王都へ向かっている最中に攫われたアシュティ。中継の町で魔獣の暴走を引き起こされた隙に別の勢力に攫われてしまった。そして鉄牢に閉じ込められてカスターヌへと運ばれ来た。



 女王が新教設立を総意として認めなかった。

 事実上の棄却。

 この宣誓の儀を催したのはアルフィールドだ。そもそも催しの有無にかかわる話をこの場で決定すること自体がおかしい。

 つまり総意というのは名ばかりで、女王陛下の強権を発動している。


 それに異を唱えるには、極刑になる覚悟が必要だ。むろん誰も逆らえず、しかし期待があった分、どよめきが起きている。



『女神さまは既に降臨なされているのですよ!!』



 この場で反論できるとしたら、ミザリだけだろう。彼女はすでに壇上に立っているようだ。エルの演説に対して反論している。

いくら教皇といえど大国の女王に、軽々しくは反論できない。それなりの覚悟と根拠が必要だ。



 それにしてもエルにはしては、事前に対処できていたものができていない。付け焼刃で焦っているともとれる強引な方法だ。

 女神に関しては特にそう言える。


 彼女は復権から間もないこともあり、帝国と繋がっているアルフィールドに振り回されている。奴隷制度に関してもそうだ。

 レイラはしっかり彼女の元についているはずなのに、いつもできていたことができてない。



 ……エル……レイラ……。



 強権を発動する意図としては、魔王アシュリーゼと人類の構図を変えさせないためだろう。

 誤算は、思った以上にアルバトロスが欲望に忠実であった事か。


 その構図を作ったボクの為でもあるのだろうけれど、そのために今ボクが殺されるかもしれないと言う状態に陥っている。



「出ろ」



 騎士に引っ張りされ、十字架のような大きな石碑のようなものの前に立たされる。



「……あぅ……」



 魔力拘束が発動し、両手両足が石碑に吸い付き磔にされてしまった。そしてせっかく蓄積してきた魔力がずわりとまた奪われる。恐らくは空間転移(ゲート)封じか。

 拘束に余念がない。



 そのまま石碑の台座の下には丸太が敷かれ、徐々に会場へと移動できるようになっていた。両脇には騎士団。先頭に騎士団長のミケランジェロがいた。



「こいつを差し出せば……レイラは僕に頭が上がらないだろう……くくく! 兄上もコイツに溺れて地位を明け渡すとか、馬鹿だろう! あーっはっはっは!!!! 勝った!!」



 ……コイツ……ミケランジェロは女王側に寝返っていたと言うことらしい。引き渡し直前になって油断したのか、自分の企みが成功したことを自慢したかったようだ。

 こいつは兄が殺害対象になっていても平然としていたのだろうか。それが気になった。



「アルフィールド卿……貴方は兄上が殺害されたことをご存知ですか?」

「え……う、うそ……だ……」



 驚愕の表情を見れば分かる。謀る対象であっても、まさか殺害されるまでとは思っていなかったようだ。

 せいぜい兄弟のじゃれ合いといった感覚で、この政治競争に参加したのだろう。残念ながらコイツも女王に使われた駒だったと言う事か。

 アーノルドはコイツがレイラを懸想していたと言っていた。そこを付け込まれたのだろう。



「うそだ!! うそだ、うそだ、うそだ、うそだ、ど、どこのどいつだ!! ぼ……僕は……そんなつもりはなかった!!」

「感知できたのは、筋肉質の大男と小柄な女性。とても大きな魔力をお持ちでした。場所はアルフィールド領の中継した町……」

「……あそこかっ!! おい! すぐに調べろ!」



 もう入場間近の土壇場だった。こいつは、自分は頭がいいと思って謀るが覚悟が足りないのだ。

 こんな魑魅魍魎が渦巻く政治の中枢にいて、死人が出ないはずがない。

 ボクが見た中でもアルフィールド家で、一番のうつけである奴はアーノルドと違って簡単にぶれる。



「貴様だ! 貴様が来なければ、兄上は!! 兄上はぁああ!!」

「……あぐっ!!」



――いきなり抜剣し、その細い刀身の剣で腹を切りつける。おびただしい血飛沫があがった。



「何をするのですが団長!!」

「やばい!! 団長を止めろっ!!」



 くそっ!! 誤算だ!! ミケランジェロは予想以上に不安定で脆いやつだった。

 完全に見誤った。よくよく考えれば、人に騙さられることが多いのだから過信していたと言わざるを得ない。

 おそらく今までは彼女たちのおかげだったのだろう。間違えずにいられたのは。

 一人になってしまえば、こんなにも下手糞だ。




『さぁ……女神を語る罪人をこれに!』



 滴る血が、服を真っ赤に染めた状態で、入場してしまえば女神でも何でもなく犯罪者にしか見えない。

 最悪な登場だ。



「どうする!? 副隊長は⁉」

「詰め所で酒飲んで寝ているって!!」

「おい! 陛下に逆らったら俺たちも危ない! ここに居る第七班! 整列!」

「「「はっ!!!!」」」



 慌てふためいていた十名ほどの騎士は、磔の周囲に整列する。団長、副団長が使い物にならなくなった今は実質上の命令権は班長にある。もうこのまま入場させるつもりらしい。

 ゆっくりと磔台の台車が動き出し、前に進む。女王が偽女神と罵るも、参加者は期待し、大きな歓声をあげていた。

 降臨の噂が飛び交っていたのは周知の事実だからだ。


 しかし確認できたものの報告は、神々しい、美しいだと抽象的すぎて実際を見てないものは信じていなかったのだ。

 だから光っている髪も容姿を見る者は驚くだろう。そしておびただしい血にも。



「女神様の本物がついに!?」

「わしゃぁその神々しさを、この目で拝まないと死ねない!!」

「ぜひ我が国にも招きたい!! アシュティ教の支部に協力したい!!」



 ついにその姿が見えるが、急に静寂に包まれた。



「う……そ……」

「やっぱり本物……それなのに……磔に……!?」

「そ、それより血が……血が……」

「あんなに神々しい女神様を……まさか拷問!?」



 確かにこんな姿で、出れば当然の反応だ。大きなどよめきが起き、困惑を隠せないでいる。さすがにこの状態には拡声魔道具のある壇上の面々も絶句していた。


 この状態でもボクは死ぬことはないが、魔力を修復に当てる必要がある。それに磔台にすごく吸われているせいで治りが遅い。


 ゆっくりと壇上中央下に運ばれる。騎士団も一緒だ。騎士団の面々は苦渋の顔をしている。



「すまない……すまない……」

「ひっく……ご、ごめんなさい……ごめんなさい……」

「……だい……じょうぶ……気にしないで」



 運ぶ騎士たちがあまりにも真っ青な顔で泣きながら呟くものだから、血が減って気怠く頭を上げて、作り笑顔で否定する。

 するとそれがさらに彼らの罪悪感を助長してしまったようで、さらに涙を流してしまう。

 隊列を乱して真っ青で頭を抱え、その場でうずくまる者も出た。


 宗教断罪は歴史的に繰り返してきたが、今の世代は起きていなかったのだろう。ほとんどの人間が拒絶反応を示していた。そして畏怖が生まれる。



「な、なんてこと……エルランティーヌ女王を信じていたのに……」

「暴君だ……悪魔の暴君が……っ!!」

「……世界は終わりだ……」



 さすがにこれは不味い。それぞれの思惑が入り乱れすぎて、混迷を極めた。

 脱出の事ばかりを考えていた所為で、余裕がなかった。エルの思考を読み切れなかった。

 これでエルが立場を失えば、ジオルドを……彼女たちを守れなくなってしまう。



 ……考えろ!! 最善はなんだ⁉




 すると観客席のほうで爆発音が発生する。それはさらに状況が悪化する狼煙だった。

 けたたましい怒号が響く。



「女神様を暴君からお救いしろ!! そして我がサラサハへ!!」

「「「うぉおおおおお!!」」」



 なんとサラサハ国の騎士が突然乱入してきた。一個小隊程度の規模だが、王国がこれを簡単に許すはずがない。

ここは王国でも中腹、まさに大規模な空間転移(ゲート)がなければ無理だ。騎士の他に、可愛い女の子たちが入って来た。

 まだ十歳から十五歳程度に見える女の子たちは、騎士たちを翻弄し、貴族を捕縛している。



『は!! 侵入者! さっさと排除なさい!! それからナギ! タクト! スズネ!』


「くくく……ようこそ地獄へ《Welcome to the hell》」

「ふんぬ!!!! 姫!! いくぞ!」

「参ります!!」



 エルは三人の召喚勇者を呼びつけると、殲滅を命令する。ナギはたしか熊同盟にいた子だ。見覚えも確かにあった。

そしてこの子と大柄の男が……アーノルドを殺害してボクを拉致した人物であることがすぐにわかった。



 ……くそ!! せめて片手でも動けば……!!



 しかしこのまま混戦が続けば混乱に乗じて、他勢力も攻めてきそうで怖い。それに取引予定のジオルドのみんなが動いていないのが気になる。

 いまが好機じゃないのか。できれば枷を外しに来てほしい。



 さすがに召喚勇者相手では、普通の魔女や騎士では相手にするのは難しい。サラサハの騎士や魔女たちはどんどんと数を減らしていった。



「くくく……来なさい(Come On)! 迷える子羊たち(babys)!」


ナギはわりと人懐っこい猫のような性格だと思っていたが、一回あっただけだ。本性は傍若無人に暴れる破天荒な性格のようだ。猫の様に飛び跳ね、暗器のようなもので急所だけを仕留める。

まさに暗殺者向きの能力のようだ。



「ふんぬ!!!!」


 ボクを担いでいたタクトと呼ばれた筋骨隆々の巨躯は、容姿に似合わず魔法使いだ。その巨躯の所為で杖が小さく見える。魔力量もそれなりに多いが、魔法自体はアミには到底届いていない。それでも多くの騎士を殲滅する技術はあるようだ。



「胡蝶の斬舞こちょうのざんぶ!!」


 紺色と白の特殊な衣装で身を包むスズネという女性は、これまた特殊な弧を描く刀身の剣を使っている。その切れ味はまるで包丁の様だ。魔力的には強い力を帯びていないのに、物理の力と技術だけで滑らかな切断面を実現している。

 ぶっ叩く剣ではなく、引いた摩擦で斬りつける剣。初めて見た。



 召喚勇者の中では、始めに殺したオピニオンリーダーの女性とヒビキというキメラが一番強いと聞いていたが、この三人も思った以上に手練れだ。

 それどころか、武技に関してはヒビキよりはるかに強い。




 駆けつけた中央騎士団も応戦しているせいで、会場は大混戦だった。ただこの場で戦っているのは人間と、大きな魔力を持たないもの。それに白兵戦で個別撃破している召喚勇者なので、一般人への被害はほとんどないと言っていい。

 騎士団は避難誘導も洗練されている。


そんな中、新たな火種が叫びをあげていた。

 ヴェントル帝国だ。そしてエルダート将軍が見えた。ただ懐かしんでいる余裕はない。ヤツも必死に場の対処、要人の護衛を全うしている。連れて来た召喚勇者に何か指示を出しているようだ。彼らも参戦つもりだろう。



「いくぞ!! 女神は我らのものだ!! 王国やジオルドになんて渡してやるものか!!」

「女神がいればきっと帰れる!!!!」

「ぜったい帰るんだから!!」



ヴェントル帝国はヒビキを中心とした召喚勇者を数名こちらへ向かわせたようだ。女王側の召喚勇者とぶつかりそう。


 これではまるで戦争だ。それも世界大戦に発展しかねない。それだけは避けたい。

 これから生まれてくる子に、戦争の世界なんて絶対に見せたくないのだ。





読んでいただきありがとうございます。

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