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勇者が世界を滅ぼす日  作者: みくりや
第七部 勇者が世界を滅ぼす日
188/202

閑話 魔女集会

上位魔女たちの集会話。




――上位魔女、共用亜空間書庫、会議室。



 ここは上位魔女の亜空間書庫。

 およそ三千年ぶりに上位魔女が集まって、この異常事態に意見交換を行う事となった。

 幹事はオババこと、混沌の魔女(カオス・ウィッチ)。現時点で最古の魔女である。



 この世界では珍しい円卓を囲み、均等に四名が座っている。女性たちはその容姿とは違い、とても恐ろしいほどの威圧感を放っている。


 参加者は……



 紅蓮の魔女(パドマウィッチ)。炎と氷の合せた超上級魔法の使い手。研究より剣技を重視。女の子好き。剣技も魔法発動速度も一級品。魔力値285,535MPs



 猛毒の魔女(ヴェノム・ウィッチ)。あらゆる毒に精通し、研究、薬品の製造に主眼を置く。環境汚染ガール。好きな研究をしてはすぐ飽きる。魔力値255,535MPs



 真理の魔女(ヴェリタス・ウィッチ)。御淑やか、美麗な所作の上に、真理眼は権力者に人気が高い。それゆえに強か。感情はあまり見せない。魔力値305,535MPs



 そして死霊の魔女(ネクロ・ウィッチ)。近年上位魔女へと昇格した有望株。死霊、魔法に長け、研究者としても群を抜く。ギョロヌとした目の所為で、常に畏怖の対象。魔力値が急上昇。

 魔力値11,435,232MPs




「次元のヤツは?」

「ふん……やつぁやりやがったよ。死んださね」

「な⁉ 造物主にでもなったというの?」



 皆驚きの声を隠せない。ただそれより気になっていることがあるようだ。

 ちらちらと上位魔女の威厳もそっちのけで視線を配らせる。



「それより……気になっている事があるんだが……」

「同意~」

「ご説明願いましょう。死霊の」

「ぐひぃ……」



 彼女はこんな会議に初参加で、しっかりしり込みしていた。まさか呼ばれることになるとは思っていなかったし、魔女としての号令もいくつも無視していた。

 そのことが負い目になっているが、通常であればそんなものを気にしない彼女も今は身重。子供に何かあっては事なので強気には出られない。



「子供……う、生まれるぅ……」

「いや、そりゃ見れば分かるさね」

「そもそも魔女って子供を産めるの?」



 生体機能的には産むことができる。ただ因果律による細胞死(ネクロトーシス)が起きるから敬遠されるだけだ。

 彼女はそれを知ってか知らずか、禁忌を破ったのだ。ただ最初に破ったのは彼女ではなくシルフィだった。



「……は、白銀は、産んだよぉ……」

「あぁ……あんな雑魚のこたぁ知らねぇ。いまはお前だ、キモ娘」



 ジロリと睨みつける紅蓮。

 死霊はどうにも彼女に苦手意識を持っているようだ。震えて下を向いてしまう。



「死霊や。いまやお主が筆頭。いい加減、劣等意識は棄てな」

「ぐぇへぇ……あ、あたし……つ、強くない……」

「コイツ……ぶったぎれるのなら、ぶった斬りたい!! くそ!! あの時、殺しておけばよかった!」



 本当は彼女自身も認識していた。この強くなれた要因が何なのかを。

 でもそれを明かすつもりはなかった。



「みんなあんたに嫉妬しているのさ。理由はわかるがね」



 オババも理解していたが、すべてを語らない。言えばおそらくそれが標的になることは、わかっていた。

 ただでさえあれは世界にとって危険な因子。できるならば魔女は関わってほしくないのだ。



「色々聞きたいのだけれど、何故上位魔女で集まったのかしら?」



 透き通る声の主は真理の魔女(ヴェリタス・ウィッチ)。ぶつぶつと呟いていたかとおもうと、突然知性的なことを言う。

 彼女は権力者からは人気があるため、こういう場を嫌う。早く終わらせて帰りたいという態度が出ていた。



「異常事態だ。女神が降臨なされた……」

「カカカ! 知っているよ。 依頼で掻っ攫ったからな」

「よく攫えたな……」

「なんか弱っていたし、最新の呪具で拘束できていたからなぁ」



 死霊は内心、この情報を待っていた。

 サボるつもりでいたこの集会は、女神の情報を得るためだ。


 彼女が知っていたのはヴェスタル共和国に連れ去られたところまで。身重でなければ滅ぼす気でいた。

 紅蓮の話では既にアルフィールドへ引き渡したという。その後さらにどこかに移動したと。



「争奪戦になっているが、うちらも参加か?」

「いいや、女神降臨の魔法を使ったやつがいる。いくら何でもむちゃがすぎるってもんさね! ……心当たりを聞きたい」



 ここにいた。

 そうその主犯は死霊だった。彼女はたしかにあの人(・・・)の為ならばと、ここ数年は禁忌を犯しまくっている。

 いまさら女神を召喚したぐらいで、どうってことないと思っていたが、予想外に事が大きくなっていたことに戦々恐々としていた。


 しかしこれは必要なことだった。

 本人には軽い感じで謝っていたが、彼女とその子、そしてシルフィ親子、そして何より本人が同じ時を生きるための最終手段を最初に使っただけの話。

 だからためらいはない。


 そのことが彼女を冷静にさせた。気取られることはないだろう。それにそれが中途半端に阻止されることになれば、揺り返しがおきて彼も彼女も危ないのだ。



「まぁわからなければいい。それから不老長寿薬(エリクサー)が三本ほど、数が合わないのだが?」

「それは私が一本使いました。一人連れていく予定です」

「カカカ、こっちも一本ある。ナナって子に使う予定だ」

「ぐひぃ……使ったけど……し、死んじゃった」



 もちろん嘘だった。

 不老長寿薬(エリクサー)が合わなくて、飲んですぐに死んでしまう子もいる。だから疑われずに済んだ。

 選択眼がないと資質を疑われることは否めない。それでもそれをあの人(・・・)に飲ませたことに比べれば軽いことだ。



「死霊はなったばかりだからねぇ……間違えても仕方ないか……次はうまくやりな」

「ぐひぃ……」



 うまく避けることができたと安堵する死霊。ただ話題はまだこれだけではなかった。



「その女神はどうする気?」

「新教設立を大々的にやるみたいだねぇ……新しい教皇ちゃんはやり手だ」

「我々は中立さね。世界の危機以外では手をださない」



 だが依頼はひっきりなしに来る。いま魔女の依頼の八割方、女神関連だ。

 すでに魔王を追っているのはアルフィールドの依頼のみ。世界の目は女神に絞られた。



「その新教設立で依頼を受けているのは?」



 オババがそう言うと、全員手を上げた。依頼主はバラバラだったが、方々から全員依頼を受けている状態だった。

 下手をすれば当日に対立する可能性がある。



「ここで、ある程度口裏を合せときな。魔女同士殺し合いなんて馬鹿げている」



 みんなが自分の手の内を明かしたくない。そんなことを言うなんてオババも焼きが回ったのかと、全員が思っているだろう。

 でも死霊だけは違った。すっと手を上げ、手の内を明かす。



「うへへ……と、当然ジオルドの人たちは……う、動くぅ。……で、でもあたしはもう生まれるまで……う、動けない」

「そうかよ……私はアルフィールドに雇われているからな」



 死霊、紅蓮はすでにみんなが知っている情報だけを公開する。そのことで他は何も公開しないと言うわけにもいかなくなった。



「私はサラサハ王国からだ。 同時に魔女が二十人ほど雇われている」

「随分多いけど、小国じゃねぇか。報酬は払えるのかね」



 サラサハ王国は悪魔領のさらに西に位置する、領土の九割が砂漠に覆われた国だ。

 化石燃料が排出されることと人口が少なく若い世代が多いので、大きな経済力を生み出している。



「お、いいねぇ……グランディオル王国は欲まみれで荒れすぎだ。次はそこだな!」

「これだから言いたくなかったのです」

「でも実際、女神を奪取したらひっくり返るさねぇ」



 真理があまり悪魔や一番大きな国であるグランディオルに手を出さずにいたのは、それがあったからだった。

 おかげで王国の依頼は全て断り続けているのだとか。



「ずっるい!わたしはヴェントル帝国。皇帝直々にね」



 猛毒はいつも通り、どこかはぐらかしたように言う。彼女のその様子は慣れているので、余り相手にするものはいなかった。

 普段の性格はそれを狙ってやっているのだけれど、いまだに誰も気がつかれていない。



「次元を失ったんだ。これ以上減ることは許さないよ」



 女神に関してはこれ以上有用な情報が得られない。そう思って死霊は帰っていいかと問うが、止められる。

 女神の話題で呼びつけたのだからもう十分だろうと誰もが思ったが、そうではなかった。



「次の上位魔女候補だが……」

「なんだと⁉ キモ娘がなったばかりじゃないか!!」

「おい……紅蓮の……お前さんの目は節穴か……」



 急にオババの声のトーンが落ちる。いたって真剣に次を考えているのだ。しかし少々焦り過ぎであることも誰もが認識していた。

 そしてその候補が誰なのか、誰も確証を得ていなかったことが不安にさせた。



「紅蓮のとこの、かわいこちゃんいたろ……あの子さね」

「アミか⁉ なぜだ……」

「本人は隠しているのだろうて。……魔力核(あれ)はヤバい代物だ」



 たしかに間近で見ていた紅蓮にはわかっていた。その威力や精度、そして何よりあれは理を無視している。

 突然あるモノが消えるのだ。そんなことをできるのはこの世界において彼女一人。


 そしてオババが最も懸念したのが……



「彼女は中立性を欠く癖がある。あの魔法を持つ魔女がそれでは危険だ」



 それは死霊も同じだった。

 ただそれは変異体という奇異の為であり、『勇者の血(ブラッド)』を発動させないためだという建前上許された。

 魔女であるうちはその制限はきつくない。しかし力を持つ上位魔女になれば、簡単に国が滅びてしまうので強い制限を設けられる。

 オババはアミに対してそれを掛けたいと思っているようだ。



「詳細をください。検討いたします」



 そう言うと、オババが全員にアミの詳細が書かれた羊皮紙を手渡していく。


――――――――

アミ18歳

 召喚勇者。四大属性魔法の使い手。白銀のもつ資料と手ほどきにより魔力核(リバース・コア)を会得。そのほかに簡易治癒や空間転移(ゲート)、そして彼女独自の組織空間転移(チェーン・ゲート)を所持。

 さらには基本魔法を同時に八個使えることが確認されている。

 二年で魔力値を二十四万ほど増やしたこと、そしてその魔法技術を考えれば、成長率は死霊に匹敵する。

 魔力値:254,893MPs


 白兵戦は苦手と思われる。正義感が強く、弱いものを放っておけない。『熊同盟』というレジスタンスを率いた経験をもちリーダーシップもあり。また魔女の依頼をこなしながら異世界のお菓子のレシピを広めていることから考えて、世界への影響力が高まっている。

――――――――



「いい子じゃん! お菓子! いいね! いいね!」

「猛毒! うるさい!」

「ぐひひぃ……ア、アミちゃん……じょ、上位魔女になるべき」

「その反魔核(リバース・コア)の危険ってなにかしら?」



 反魔核(リバース・コア)自体は過去の魔女が使っていた記録が残っていてさほど危険性を感じない。

 その書類は白銀がもつ資料にもあるように、それほど秘匿されている物でもない。

 ただ反魔核(リバース・コア)というものは、とても汎用性が高く使い方が洗練されてくると、それは別物に化ける。

 組織空間転移(チェーン・ゲート)という彼女固有の魔法もおそらく反魔核(リバース・コア)の応用として使われているのだとか。



「紅蓮の剣を消すなんて生易しいものじゃない。死霊に一つ言っておくが、霊魂について教えるんじゃないよ!」

「ぐひぃ……」



 死霊のもつ魔法技術を教え込めば、おそらく霊魂だけ輪廻の輪から外すことも可能になるという。

 それはおそらく何千年と研究してたどり着く境地だ。彼女が苦労せずに手軽にそれを体得してしまえば、簡単に世界が滅ぶ。



「新教のごたごたが終わった後か?」

「いや、魔女の教典(バイブル)にすぐ送るさね。あぶなっかしいからねぇ」

「女神は殺し合いしなければ、奪い合っていいよね?」

「勝手にしな!! この暴れ馬どもが」

「カカカ! そいつぁ僥倖!」



 魔女同士が殺し合う事だけは禁じられたが、奪い合いは止まらない。しかし彼女たちは気がつかなかった。強力な競争相手を作ってしまったことに。







読んでいただきありがとうございます。

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[良い点]  閑話とはいえ、物語の進行上重要な回でした。  更新どうもありがとうございます。
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