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勇者が世界を滅ぼす日  作者: みくりや
第七部 勇者が世界を滅ぼす日
181/202

あらすじ

 アシュティ教設立の向けて動き出した。ジオルドの為とは言え、女性化して利用されるのにすこし疲れて来たアシュインだった。



 おめかしを強制されて、ふわふわとした衣装で面会のために設けられた部屋へ行くことになった。

 やっと動けるようになったので、ルシェ並んで歩きながら面会の説明を受ける。



「教会設立に協力してくれる方が、アシュティ様を一目見たいって。降臨しているのは一時的と伝えてあるよ」



 ミザリは格の高い聖女のようで、魔力も多く持つ。彼女の言葉は信頼に値するものだったが、それでも今回の神降臨による教会新設は信じがたい出来事のようだ。

 だからボクが下手なことをすれば、教会新設自体がなくなり、ジオルドの立場もさらに悪くなる可能性がある。失敗は許されない。



 でもあれからさほど経っていないのに、行動が早すぎる。馬車でくるのなら一週間はかかるのではないだろうか。

 聞けば彼女も空間転移(ゲート)の魔法を使えるのだとか。ただし彼女の魔力では一回、片道だけなので帰りはこっち頼みだったらしい。

 打算的なユリアとは違い、かなり無茶をする聖女様のようだ。



 そんな話をしながら歩いていたが、だんだん疲れて来た。

 ルシェも合せてもらう側だったはずだ。彼女と遊びに行ったときもボクが歩幅を合せていた。

 だからか、ちょっとそれに気がついてくれないようだ。



「はぁ……はぁ……ご、ごめんちょっと……つかれた」

「あ! ごめんね……気がつかなくて」



 到着した部屋の前で扉が開く前にへたり込んでしまった。まるでこれでは病弱なお嬢様の様で、恥ずかしい。周囲を歩いていた使用人が顔に手を当てて赤らめているのがその証拠だ。



「はぁ……も、もう大丈夫。いこう」



 中に入ると、すでに教会の人間が来ていた。こちら側の人間はゴルドバと数名の騎士、魔導師たちだけだからすこし心細い。

 出来るだけ淑やかに努めるようにみんなに言われているので、しずしずと歩いて行く。思ったより多くの者が待っていることに、驚いたけれど顔にはださないようにしないと。



「ああ、またお会いできました、アシュティ様!」



 ミザリと呼ぼうとすると、ルシェとミザリ本人にも止められた。この場に来ているのは、アシュティ教に賛同してくれる教会の支部長たち。

 教会内部でも強い権限を持っているため、一人一人は怖くなくともこれだけ揃えば、ミザリの立場をも脅かす。失敗はできない。

 玉座につき、ふぅっと周囲に聞こえない程度の息を吐く。



「……よくぞ集まった我が徒よ」


「「「おぉおおおお……」」」

「女神だ……本当に実在したとは……」

「あの髪の輝き……神々しい……!!」



 みなの驚きと賛美をきいて、ミザリは満足したように頷いている。これで正解だった様だ。あとは勝手に話を進めてくれるだろう。

 何かわからなかったら、頬に手をあてて微笑む……だったかな。



「皆様方。見まごう事なき女神であらせられます。アシュティ教、設立に今一度ご賛同いただけますか?」



 あとはミザリが進めてくれるから、ボクのすることはなさそうだ。意外に楽な仕事で助かった。もっと長く話すことになったら、絶対にボロがでてしまう。

 そんなボクの顔は物憂げな表情になっていたのか、一挙手一投足を見られては感嘆の声が上がる。


 すごく居辛い。完全に会議ではお飾りなのに、ちらちらと見られている。



 ひとまずここに集まった人間は、全員賛同を得られた。というのもスカラディア教を裏切るとか、対立関係が生まれるわけでもない。

 スカラディア教から派生した宗教としてのアシュティ教という位置づけになることで、当面の資金はスカラディア教から保証される。

 これにより仮に王国の意向が強くなろうとも、体制維持、教典の改ざん防止、保存が可能となる。



 いまは場所の確保と教典や書庫の複製保存とその場所、礼拝堂の建設など様々な実務が話し合われている。

 魔法を駆使して建設されるので、さほど時間はかからないと言っても巨大な建造物。少なくとも二、三か月は最低でもかかる。

 ただ単に勝手に開教したところで誰も認めないのだけれど、その後ろ盾はスカラディア教会とジオルド帝国、それから昨日話した通り、アイマ卿も賛同することが決まっている。

 開教時にはお披露目と宣言が必要になるので、その会場や信者の招集までと、大掛かりな準備になりそうだ。


 その時はすでにボクの女性化が解けているはずなので、再度降臨させるための策が必要になる。

 そこですでにルシェがクリスティアーネに、いつでも変身できる魔法陣の開発を依頼していた。この魔法は細胞から変質させているため大量の魔力を要して存在そのものを変えている。

 変化の魔法ではそれが不可能なので、新しい魔法が必要になるのだ。






 みんなは満ち足りた顔で話し合い、仕事をしている。ルシェも大忙しで指示をだしているし、ゴルドバ将軍も防衛計画など抜かり無さそうだ。

 クリスティアーネもリーゼちゃんの相手をしつつ魔法陣の開発。メフィストも魔道具の量産や調整。シルフィはマニたちの帰還と支援。

 ボクだけぽつんと座って仕事が無い。何か手伝おうとすると、象徴としているのが仕事だと言われてしまって手持ち無沙汰だ。



「ぽつーん」

「はは……ぽつーんて口で言うやつ、始めてみたぜ」

「暇なんだよ。ゴルドバ将軍こそ、忙しいんじゃないの?」



 公では女神と将軍なので、かしこまった口調が必要だけれど、すでにお互いわかり合って自然と崩した言葉で話している。


 やつは指示と共に、ボクの護衛も兼ねているそうだ。基本的に部屋ではシルフィやクリスティアーネという世界最強の魔女が揃っているので必要ないが、外に出れば女神であり魔王のボクは狙われる。

 城内の人間なら、いままでも世話になっているし信用できると思っているけれど、いつ忍び込まれるかわかった者でもないらしい。


 ボクに女神が降臨したという情報は、教会の新設話とセットで広がっている。ただ魔力がなくなっている情報は遅れて広がるので、これから徐々に危険度が増すので警戒しているのだとか。



「わるい。世話になるよ」

「任せとけ。 貴様は気に喰わないが、恩がある。 世界最強の魔王もたまにゃぁ守られとけ」



 やはりコイツは口が悪いし嫌味だが、見どころのある男だ。ボクは変に気のいい奴よりこういう奴のほうが、気が合うと思う。今度酒にでもさそってみるか。


 将軍は指示を出しながらも側を離れないので、ついでに魔力の伸ばし方を教えてみた。とにかく暇で仕方ないから。

 そもそも人間の多くは魔法使いの勉強をしていない限り、魔力を持っていても使い方をあまり知らない。


 ボクはほぼ狩りで死ぬ思いをして身に着けたが、学問形態がしっかり確立しているのだから、その方法に習った方が早く身につく。

 それでもこの方法は魔女が教える高等なものだ。

 以前シルフィが教えていた方法だから、むやみやたらやらせると霊魂が損傷してしまう。やり過ぎないように注意が必要だけれど、こちらの方がやっぱり伸びが良い。



「ちょっとやっただけで増えた気がするね。 ゴルドバは才能がありそうだ」

「基本魔法も使えねぇのにか?」



 昨日計測した時は二千五百ほどだった。近くにいたメフィストに計測してもらうと、すでに二千九百まで増えていた。

 いまほんの三十分ほどやっただけで。

 広いとは言え、さすがにみんなが書類を広げている場所で魔法は使いたくないので、あとで軍を見に行ったときに教えることにした。



「おめぇ、教えるのが上手いな。あとで軍を見に来るんだろ? 皆に教えてやってくれ」

「ああ、そのつもりだよ。 一回は一緒に戦った仲だしね」



 今日も喧騒の会議室の中、例のミランダはあまり仕事をしていない。さすがに注意するやつが何人もいたけれど、改善するようでもなかった。

 彼女は中央騎士団の第一騎士団に所属している。この国の魔導師はとにかく数が少ないので優遇されているが兵団に一人か二人いるだけだ。

 それゆえに魔導師の優遇にあやかりたい騎士が、彼女を慕って派閥ができていた。


 ゴルドバ将軍がその頂点にいるのだけれど、直接の部下ではないため一度騎士団長を通さないと、さすがに不味い。しかし騎士団内では騎士団長より彼女たちの方が発言力は強く、物申せないらしい。

 騎士団から将軍に上がる意見も、騎士団長からではなく魔導師連中でミランダは特に多い。



「それ愚痴?」

「気をつけろよ?」

「守ってくれるんでしょ? ゴルドバ将軍」

「ふん……やっぱ貴様は嫌いだ」



 にやりと笑いあい、それに反応するように彼女はいら立ちを隠さない。でもボクは彼女が気になっている。魔導師としての才能が有りそうだからだ。

 どことなくレイラを彷彿とさせる。どうせ暇なので、手招きをする。



「おい……やめとけ」

「まぁ……別に泳がせているわけでもないだろ? 暇つぶしだよ」



 彼女は近づいてきて、ボクの座っている席の目の前まで来て跪く。さすがに立場上それをやらなければ周囲が怪しむ。事を荒立てる気もなさそうだ。



「ジオルド中央第二騎士団所属、魔導師ミランダでございます。以後お見知りおきを。何か御用でしょうか?」



 彼女はすこし苦々しい顔をしていた。冷や汗をかいているのもわかった。自分が働いていないことを咎められるのかと思っていたのかもしれない。けれどボクはそんな理由では呼ばない。

 呼んでしまって少し後悔した。彼女は耐えているが、かなり震えていたからだ。



「……魔力が奇麗で、有望そうですね」

「……え?」



 ミランダはあっけに取られてみている。いままで結構な嫌悪感を丸出しにしていたようだったのに、憑き物が落ちたようだ。

 話を聞いてくれたので、同じように魔力を伸ばす練習方法を教えた。魔力に関しては魔導を勉強してきただけあって、彼女の方が優れている。

 昨日の数値は基準に達していたかったから、千五百以下だったはずだ。でもまた計測してもらうと、三千まで伸びていた。

 ゴルドバと競争をさせればどんどん伸びるだろう。



「うそ……あれほど頑張って伸びなかったのに……」

「ははは……女神様様だなぁミランダよ」

「え? ゴルドバ様が……あたしに話しかけてくれるなんて……」



 彼女はゴルドバと何かしらの隔たりがあったようで、彼と話をすることも憚られていたようだ。それがいまきっかけを得て久しぶりに話したことに歓喜余って涙をこぼしている。

 ここまでくれば、鈍いボクでもさすがにわかる。ミランダはゴルドバの事が好きなんだろう。それに付き合いも長そうなのに、何かしら話すこともできない立場になってしまったのだ。


 だとすると……こちらに嫌悪の視線を送っていたのは……嫉妬か? ……ゴルドバはおっさんだし、ボクは男だ。できればそれは勘弁してほしい!

 でもこれで蟠りが少しでも無くなれば、ボクがとやかく言われることもないだろう。



「ほらほら、恋人同士あっちで話してくるといいよ」

「な⁉ てめぇ!」

「まぁ! こ、恋人……!!」



 しっしと手を払うような仕草をする。

 ゴルドバの怒った様子と対照的にミネルバは紅潮させて浮かれていた。恋人扱いされたことがよほどうれしかったようだ。

 その様子に頬を掻いて、仕方なさそうに離れていった。ボクの護衛があるから見える位置にはいるようだ。

 あの様子だと原因はゴルドバの方にありそうだけれど、それはボクが立ち入る話ではないだろう。でも大分年齢差がありそうだ。

 離れてみた彼女は年上に見えたけれど、近くでみるとボクと同じ年齢ぐらいだった。対してゴルドバは二十代中から三十ごろ。


 まぁ、歳の差は関係ないか……。



 それしても面白いものが見られて、暇つぶしになった。少し経つと、教会との会合はおわり、ジオルド側の文官以外は解散となった。

 それぞれが昼食の席を設けられたが、ボクは女神という設定なので人前で食べることができない。別室に一人だけ用意されてそこで食べることになった。

 騎士団やゴルドバたちも昼食に行ってしまい、周囲には使用人、扉の内と外に護衛騎士が立っている。



「ぽつーん。 一人の食事は美味しくないな」

「ふふ……いつも可愛い子たちに囲まれていますものね」



 そういって使用人が話しかけて来た。普段は食事を邪魔するからと、一切話しかけてこないし使用人の作法として禁じられているはずだ。

 すこしそれが変に感じたけれど、何となく嬉しくなって給仕してくれる女性と話しながら食べた。


 この給仕はイザベラというらしい。二十代後半の大人の女性で、あまり関りのある世代ではなかったので話は新鮮だった。

 話し方が上手なのだろう。



「……そうれすか……はれ?」

「あらあら……どうなさいましたか?」



 ……これは……まさか毒?

 身体が痺れてきて、舌も回らない。スプーンも持っていられなくなり、床に落としてしまう。腕がだらりと落ちて、口を閉じてられなくなり涎がでてしまっていた。

 ……まずい。こいつ……。ボクに効く毒を盛れるのは……いや……今は魔力のすくないアシュティだ。抵抗力もあまりないのだろう。

 目の前の侍女は少し震えている。



「……」

「……そ、そろそろ良いかしら……ごめんね。 こうしないと息子が殺されちゃうの……」



 そうか、脅されて毒を持ったと言う事か。しかしイザベラの息子さんは、おそらくもうすでに殺害されている可能性が高い。

 それにこの女性もおそらく……。


 しかし今は身体がピクリとも動かすことができないし、伝えようにも声がまともに出せない。



「あえぇ……」

「……ごめんなさい……ごめんなさい!!」



 あまり酷い顔をしていたら、この女性を怖がらせてしまうと思い。できる精一杯の抵抗として、笑って見せた。平気だよと。



「……!!」



 するとそれに驚いたのか、涙がボクの顔にぼたぼたと落ちてきた。抱えて走っていたイザベラの足が遅くなりやがて止まる。考え直したのかもしれない。

 そう思っているのもつかの間、次の担当がボクの身体を力強く引く。



「さっさとしろ!! お前は何食わぬ顔をして、そのまま働いているんだ」

「む、息子は⁉ 息子はいつ……!?」

「あん? 知らねぇよ」



 そう言ってボクを抱えた男はイザベラを蹴り上げ走り出した。彼女の泣き叫ぶ声がだんだんと離れていく。

 ボクに巻き込まれただけだが、きっと極刑は免れない。ボクという得体のしれないものがジオルドに来てしまったばかりに彼女とその息子には悪いことをしてしまった。

 もし戻れたら、もし彼女がまだ生きていたら、その恨みは受け止めよう。

 男に担がれながらそんなことを考えていると、麻袋に詰められた。いよいよもって発見が難しくなるだろう。

 無駄に目立って世界の恨みを全部引き受けるなんて、啖呵きっておいてこのざまだ。前に島流しになった時と何も変わってやしない。


 あの時に帰るのが一年以上もかかったことを考えると、また子供の出産に立ち会えないのか。それだけが心残りだ……。





読んでいただきありがとうございます。

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