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勇者が世界を滅ぼす日  作者: みくりや
第七部 勇者が世界を滅ぼす日
179/202

戦えない

あらすじ

 女神のような容姿になったアシュイン。理を覆すためにしばらく魔力が使えなくなった。



 それから数日は魔力が回復しないので、シルフィに空間転移(ゲート)で送ってもらい、ジオルドに戻って来た。

 魔法陣の前にはクリスティアーネが心配して待機していた。



「ぐぃひひいいい!! アーシュちゃあん‼」

「むぐぅ……」



 身長が足りないので、彼女の旨に顔がすっぽりとおさまってしまった。いつもはボクの胸元に彼女の顔があるのだから、その身長差を実感せざるを得なかった。

 比較対象がシルフィだけだったから、さほど小さくなっていないと思っていたが、もしかしてかなり小さくなっているのではないだろうか。



「……ご、ごご、ごめんなさぁああい!」

「ううん。ありがと……何か大事になったけれど、おかげで子供たちの心配もなくなったし」

「ほんとぉ?」



 それに彼女のギョロヌとした目が思った以上に大きく感じられる。それがまた愛くるしいなんて思うのはボクぐらいかもしれないが。

 彼女を落ち着かせるために撫でてあげたいがちょっと届かないので、頭を抱き寄せてから撫でる。



「うぇへへ……かぁいいのにアーシュちゃんだぁ……」



 可愛いって言われるのは思った以上に恥ずかしい。それに容姿をボクはまだ見ていないことに気がついた。



 部屋に戻ると、乳母に抱き上げられたリーゼちゃんが待っていた。容姿が変わってしまったので、しばらくは慣れるのに時間がかかるかもしれない。



「ぱぁぱ! ぱぁぱ!」

「ううぅ……やっぱりパパを探しているね……ボクを認めてくれていない……」

「し、しばらくの辛抱なのだわ……」

「ど、どれくらい?」

「ぐひぃひ……い、一週間ぐらいぃ……」

「なななななな⁉」



 がくりとベッドにうなだれるボクにリーゼちゃんが近寄ってきて手の匂いを嗅いでいる。

 もしかしたら魔力の匂いを嗅いでいるのかもしれない。嗅ぎ分けられるとしたら、それは一種のスキルではないだろうか。



「あっ! 指を吸っているのだわ」

「リーゼちゃぁん。 ボクだよ。 ぱぁぱだよ」

「ふぎゅ!」

「いてっ」



 顔を近づけたら、ぱちんとぶたれた。

 魔力は認めたけれど、顔は認めてくれないらしい。彼女のその能力は本当にどうなっているのか。



「リーゼちゃぁん……でも指を吸うのはやめないね」

「ケケケッ! 神様もリーゼちゃんには形無しなのだわ」

「……だ、大丈夫? ほ、ほとんど魔力ない……」

「だ、大丈夫……じゃないかも」



 リーゼちゃんに少し回復していた魔力をほとんど吸われてしまった。また眩暈がして動けなくなってしまう。

 長い髪が顔にばさりとかかって前が見えない。ここで初めて金髪であることに気がついた。

 それもちょっと心なしか輝いているように見える。



「はぁ……自分の髪なのに、不思議だ……一体どうなっているんだろう?」



 どうやら魔法の影響で元の霊魂に対して、器が小さいのではみ出ているのではないかという。

 たしかに髪に触られても感覚がある。撫でられる分には気持ちいいのだけれど、結んだり切ったりしたら、痛くて耐えられそうにない。


 かわりに生命力が溢れているところなので、梳かさなくても奇麗な状態を維持できるそうだ。



「とりあえず……もう限界だからちょっと休むね……」

「ぐひぃ……お、思ったより……ふ、負担が大きい……」



 ボクのぐったりした様子にリーゼちゃんも吸うのを諦めたようだ。不満なのか、心配しているのかはよくわからない。



 休んでいると、ふとルシェに教会での出来事を報告していないことに気がつき、呼んでもらった。

 なにか忙しいらしく、慌ただしい様子で戻って来た。



「ごめんね! ちょっと大変なことが起きたから……って誰? その娘」

「ボクだよ、ボクボク」

「ってアーシュ!?」



 ボクボク詐欺かって言われるかと思ったのに、一発でバレた。さすがに彼女には通用しないようだ。

 事のあらましを報告がてらに話した。



「教会が分裂!? すごい話になったね……それで新しい宗教の神様がアーシュ……アシュティ様? ……ぶっとんでいるね!」



 それを親指立てて、面白そうに笑うルシェ。彼女はわりとこういうノリが好きなようだ。

 わりと面倒くさい話で、今後も安全とは程遠いかもしれないのに。



 ルシェが忙しそうにしていたのは、アシュリーゼがジオルドに居ないという情報を得た輩が、何回も訪ねてきて対応に追われたからだった。

 つまりアシュリーゼが居なければ、世界の敵を与する敵国、ジオルドの首をあげられると踏んだハイエナどもだ。



「それは大変だったんじゃ! ……あっ」

「うぇへへ」



 焦って起き上がろうとして力が入らず、顔から前側に倒れる。前にいたクリスティアーネの太ももに突っ込んでしまった。



「アーシュのほうが大変じゃない! ……防衛に関しては大丈夫だよ」

「そ、そっか……」

「先の海戦のアシュリーゼに、ジオルド軍は感化されたみたい」



 ジオルド軍はあれから、とにかく血気盛んに訓練にいそしんでいるという。そして武技においては、ジョウウが協力しているという。

 シルフィの技の多くは使えると言っていい。


 多くがその武技を使うことができれば、ほぼ人間の軍隊には負けることは無くなる。

 問題は召喚勇者、魔女が来られるとどうなるか。



「そういえば、メフィストが帰ってきているよ。なんかすごいお土産を――」

「よぉ、アシュインい~るかぁ?」



 話をしたときに丁度訪ねてきたようだ。でもボクはまだシーツ一枚なんだけど。

 そんなことをぼんやり考えていたら、本物の女性陣がわぁわぁと騒いで、堰き止めている。

 使用人達も急に入って来た彼らを、外で待つように騒いでいて大混乱だ。

 ベッドの天幕の中に残ったのはボク、リーゼちゃんとクリスティアーネだけ。



「ははは……なんかすごいことになってる」

「ぐひぃひ……さ、さぁアーシュちゃん……お、お着替えしよ?」

「……う、うん……ん?」



 クリスティアーネのわきわきとした手と、ギョロヌと歪んだ眼が迫る。怖くはない。怖くはないが……。






 うう……屈辱だ。



 あのままクリスティアーネにシーツを剥かれ、動けないままにリーゼちゃんの横で、リーゼちゃんのおむつを交換するように下着をつけられた。足すら動かないからリーゼちゃんより酷い。

 さらにリーゼちゃんがボクの様子を見て、大笑いされた上に、頭を撫でられた。



 うぅう……これでは介護されているおじいちゃん。いやいまはおばあちゃんか。




――ジオルド帝国、会議室。



 すでに会議は始まっているどころか、ずっと開いているままだ。そして書類が散乱している。むせかえるような男臭。

 男の時は全く気がつかなかったけれど……臭い。数名の女性の文官はいるけれど、我慢しているようだ。



「「おおぉおお……」」



 ボクはみっともなく、ルシェに抱っこされている。彼女の中性的な容姿がまるで美男美女のそれに見えるらしく、数すくない女性が奇声を上げる。彼らはアシュインがアシュリーゼである事を知っているが、女神アシュティは初披露なのでとても驚いていた。

 皇帝の為の席にちょこんと座らされる。



「皆の者! 待たせたな! ここにおられるのが、魔王アシュリーゼにして、女神アシュティ!」

「「おおぉおおおおおお‼」



 書類や作戦、今後の方策に追われて、何日も帰っていない疲弊した様子。その中で現れた女神という救いは、彼らに希望を与えたようだ。

 むしろそれほど状況は良くないと言う事らしい。



「みんな……よく頑張ったね。 もう大丈夫だ」



 ボクがそう言うと、文官たちは高揚し、騎士たちは泣き出してしまった。アシュリーゼがいないと言う情報が洩れ、攻め込まれた。

 ルシェは大丈夫と言ったけれど、この様子を見れば甚大な被害が出たことは分かる。





「被害を正確に教えてください」



 普通に話したつもりが、それが会議室に思った以上に通った。そしてすすり泣く声、羨望の声、高揚した話声がぴたりと止まる。

 ルシェはゴルドバ将軍に視線を向けて促す。



「敵は召喚勇者と思しき者が一名。しかし被害は海軍の四割が死傷しました……民間人も……五十二名が……殺害されました」



 ……これも……ボクを狙ったが故に巻き込まれたのだろうか。ボクが不在を狙うところも姑息だ。


 彼らの中にはきっと、家族もいたのだろうか。悲しみに絶望に明け暮れている者がいた。

 その彼のところまで、ボクをルシェに運んでもらう。



「ごめん……ボクの所為だ。 ……だから……だからその恨みは引き受けるよ」

「うあぁああああああ‼」



 男は泣き崩れ、ボクは彼の頭に手をおいた。

 恨んでくれていい。ボクが背負ったのが始まりだから、敵の狙いがジオルドだったとしてもボクの所為だ。

 でも彼はそうしない。

 純粋に女神の誕生に希望を見出しているかと思ったが、傍らにいたゴルドバ将軍はそうではないと言う。一緒に戦った者はすでに同士だからだと。



「これはおめぇの戦争じゃねぇ。おめぇも含めたオレたちの戦争だ」



 そう言って小さくなったボクの頭を撫でる。


 ……この男は思ったよりカッコいいじゃないか。

 いつもはボクに向けて否定的なことばかり言うし、皇帝には警戒するように言う。それは立場を考えれば当たり前なのだ。

 けれど彼の内側は、いたって男気溢れたやつだった。







 席に戻り会議は再開された。

 アシュティ教について、これから打診がある事を伝える。自分で言うのは憚られたので、それはシルフィに任せた。

 一緒に行って話を聞いていた彼女なら全て、誇大して説明してくれるだろう。



「なぜ魔王アシュリーゼに女神が降臨したのか! これは一時的な降臨であるが我らが正義であり、崇拝する対象である事を物語っているのだわ」



 何っているかわからない。

 ただ崇めろって言っているだけの気がする。でもそれを止めるような野暮なことをしない。

 ようはこのジオルドがアシュティ教の拠点にすること、求められているということだ。

 そして世界中に散らばっている支部の三割はすでに、アシュティ教に鞍替えすることが決まっていると。


 はっきりってあの場でミザリが行ったことをそのまま言っているだけで、まだ確定したわけでもない。

 でもジオルドを動かすにはそれぐらいの誇張が必要だろう。


 それから一週間ほどボクは戦えそうにない。つぎの戦力と言えばクリスティアーネだけれど、妊婦の彼女を戦わせるわけにもいかない。

 きっとこの情報もすでに割れている可能性は否定できない。これからしばらくは厳しい防衛になりそうだ。








読んでいただきありがとうございます。

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よろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
[良い点]  最近は、すっかり女性化してしまいましたね。  金髪にまで変わってしまい……  ビジュアルで見てみたいですね。  更新どうもありがとうございました。
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