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勇者が世界を滅ぼす日  作者: みくりや
第七部 勇者が世界を滅ぼす日
175/202

スカラディア神 降臨

あらすじ

 ミザリと交渉し、懐柔するためにスカラディア教会本部へとやって来た。




「クローディアはあちらで、接待を受けると良いですよ?」

「恐れ入ります猊下(げいか)



 そういってクローディアは、女性神官たちが向かった宴の部屋へと向かって行った。

 彼女が出ていくまでじっと待つ。



「行ったようですね……さて、お久しぶりですアシュイン殿」

「ええ……ごきげんようミザリ教皇、こちらは白銀の精霊魔女シルバー・オブ・スピリットウィッチのシルフィです」

「シルフィと言うのだわ。よろしくたのむのだわ」

「まぁ! 貴方がかの有名な白銀の精霊魔女シルバー・オブ・スピリットウィッチですか、こちらこそよろしくお願いいたします」



 かつては魔女の中でも天才と謳われた魔女だ。王国での事や、封印さえなければ有名で敬われる存在だ。

 ミザリはボクに対して恐怖を感じている様子はない。王位継承の儀の時もそうだったが、ロゼルタの死を間近で見たにもかかわらずきっちりと対応していた。

 そう言う意味でも彼女はとても強い。



「以前は失礼をいたしましたアシュイン殿」

「いいえ。誤解される自分が悪いから。それよりミザリ……教皇はいいの? 接待を受けなくて」

「ふん……わたくしがそんなことをするわけがないでしょう?」

「え?……」

「なんですの?(ジロッ) ……アシュイン(強姦魔)殿?」



 聞いていた情報とは違う事に驚いたら、睨まれてしまった。

 確かに今の彼女の様子を見れば、色狂いであるなんて思うはずがない。それは良いのだけれど、ボクの強姦魔扱いはまだ解けていなかった。



「なんだと?」

「……う……」



 おそらく彼女の皮肉ではあるのだろうけど、以前教会を滅ぼした原因であることを思い出したようだ。シルフィがジロリと睨むと恐怖という感情を見せた。

 貴族や教会というのは基本的に下賤な輩の話は聞かないものだ。今更訂正する気も起きない。



「……いいよ、シルフィ。 教会でボクの扱いなんてそんなものだ」

「あ……うぁ……」



 ボクが彼女との扱いに諦めた顔をしていると。教皇らしい清楚な顔が崩れる。



「あの……も、申し訳……ありませんでした……」



 急に態度を崩し、泣き崩れる彼女。

 クリスティアーネという立場があってこその教会との関係だ。ボクと彼女たちは、ただの強姦魔と教会という関係でしかない。



「貴方に……そんな顔をさせるために言ったわけではありません……」

「どういう事なのだわ?」



 これについて彼女はずっと気がかりでいた。

 王位継承の儀でもずっとボクの方を見ている視線はあったが、あの場では声を掛ければたちまち世界の敵の仲間入りだ。


 それから世界の敵となったボクがジオルドにいついていることは知っていたそうだが、同様に交渉すれば教会ごと世界の敵の仲間入りしてしまう。


 あえて先ぶれを一度断ったのは、そんな条件下で招き入れるための大義名分が必要だった。

 そこで利用されたのが、教会本部の女性神官で流行っていた美少年を愛する好色趣味。

 主に先ほどのクローディア枢機卿とその周辺が、貴族と軍部に太いつながりを持っていることから、一番の美少年好きの彼女を堕とすことを考えた。

 さらに彼女自身はそんな趣味はないのだけれど、諜報員に探られていることは知っていたので、あえてそれに興じることにした。


 つまり国内を押えつつジオルドを招き入れる理由を作り、尚且つ彼女が興じてこちらを招き入れると言う一手で三つの利を得ると言う離れ業をやってのけた。




 結果ジオルド諜報部はその情報を持ち帰り、嗜好の品を用意する。相手がルシェであることを読んでいたわけでないが、ジオルドをそう仕向けたのは確かだ。

 そして上位魔女の従者なるものが来ることも。


 このミザリという教皇派はあのルシェすら、手のひらで操って見せた。相当の政治家のようだ。



「こんなに早くお会いできるとは思っても見ませんでしたが……よかった……」

「ふん……」



 シルフィは彼女の様子がとても気に喰わないようだ。でもボクとしては彼女がかなりキレる女性であることがわかっただけでも収穫だ。



「……あの、アシュイン殿……わたくしは……その……世界が敵になろうとも……貴方の味方でいたいです……」

「な……それは言ってはいけないんじゃないか?」

「むぅ……」



 彼女は何故か恥ずかしそうにボクの手を握ってそう言う。そしてさらに何故かシルフィの不機嫌さが増した。



「もちろん表向きは教皇という立場がございますが、その心の内までは誰にも分らないでしょう?」

「……ふふ。そっか。ありがとう」



 そういってミザリの手を握り返すと、あれからずっと喉に仕えていたものが取れたようで、ほろほろと涙をこぼしている。

 彼女は突然押し付けられた教皇という立場でがんばって来たんだと思えば、褒めてあげたいと純粋に思えた。



 今回は上位魔女の従者と名乗る物が、教会への献上品を持ってやって来たという体になっているので、疑う者はいれど、魔王との蜜月があろうことは分かるはずもない。



「……教会が魔王という人物を天の使いとして、崇めなおしジオルド側に着くというのは、いささか無理があるかと……」

「確かにそれだけでは、無理がありますよね」


 もとよりルシェの考えでは、半ば強制的に力でねじ伏せるつもりだった。

 彼女を含め本部の幹部であれば簡単に懐柔できるとは思っていたが、しかしすでにルシェの上をいく彼女にそれは難しい。

 それが難しければ奥の手としてクリスティアーネの新しい変化の魔法を使う事だ。

 今では彼女が話を聞いてくれるにしても、幹部やヴェスタル共和国の貴族や軍部を納得させられる材料が無いので、尻つぼみしてしまう。



(アーシュ。 あれを使うのだわ)

(試してないから、何になるかわからないよ?)

(折角の機会で何も得られないよりましなのだわ)



「……じゃ、じゃあ、ちょっと奥の手を使いますね」

「奥の手……ですか?」



 まだ頭の中に記憶していないから、紙に書かれた魔法陣を取り出して魔力を注いでいく。初めてなので丁寧になぞり、発動もゆっくり行う。

 ボクの身体は徐々に光に包まれて、周囲が白くなる。ただ視界が別世界へと誘われたわけではなく、ただ眩しさで包まれている。

 次の瞬間――




 ふわぁっと先ほど注いだ魔力が頭上に光の弾が昇っていく。その塊はまるで太陽の様に光り輝いていて眩しい。

 未だ昼間だというのにいきなり窓の外が暗くなって、ボクが発している光だけが、輝いている状態になった。

 初めてのせいか、それともこの魔法のせいか、いつもの変化の魔法とは違い、周囲への影響が著しい。



「ア、アーシュ!?」

「アシュイン殿!!」



 あまりの事態に二人とも驚いている。

 しかし外が暗くなるという事態と、礼拝堂から強烈な光が漏れているということは外にも伝わってしまい、ばたばたと騎士や神官たちがなだれ込んできた。



「何事ですか‼」

猊下(げいか)‼ 無事ですか⁉」

「眩しい‼ な、なんだ⁉ 何が起こっているのだ!」



 これはクリスティアーネのやり過ぎだろう。演出なのかもしれないが、もう途中で止めようがない。止め方もわからないし、魔法陣にどんどんと魔力が吸われている。

 それどころか、霊魂にまとわりつくようなぞわりとした感覚に襲われた。

 衣装の変化かと思ったけれど、まだそう言った兆候ではない。



「おぉおおおおお……」

「ま、まさか……主の降臨!?」

「ばかな! まさかそんなことが……いや猊下(げいか)であれば……?」



 口ぶちに色々な評価をしているが、この長い演出にすこし疲れて来た。演出というより魔力をずっと吸われているからとにかくキツイ。それもリーゼちゃんが吸うというレベルではなく、霊魂から引き千切られるような勢いで、まるで生命を千切った時のような痛みまで出始めている。



「……っ」



 かなり痛い。

 どれくらい痛いかと言えば、歯を短剣で削り取られるぐらい……いややめておこう。



「アーシュ!!!!」

「アシュインさま!!」



 その魔力の渦がやがてうねりとなって周囲の空気をかき混ぜる。貴族が持っていた書類が吹き飛び周囲に散乱、うねりに巻き上げられてまさに礼拝堂は台風が来たようになってしまった。

 痛みが引いて行くと、身体の中の魔力も落ち着いていく。


 しかし変化の様子とは違い。魔力が元に戻るわけではなかった。光が徐々におさまり、収束するとともに衣装が整えられて容姿が変わっていくのがわかる。


 これはもしや変化の魔法と同時に何か別の魔法が仕掛けられていたのではないだろうか。

 そう思うと自分の容姿がどうなってしまうのか少し心配だった。



「おぉおおお……主よ……」

「め、女神様……!!」

「……神々しい……」



 どんな容姿をしているかわからないけど、この魔法はキツイ……とにかく魔力の消費がどんな魔法より多くて、とてもじゃないけれど、一度使ったらもうしばらくは使え無さそうだ。

 それに勝手に魔力渦が止められずに噴出するせいで、浮いてしまっている。ふわふわして気持ち悪い。

 そしてボクの目の前まで来たミザリとシルフィがうなずき合って、跪く。



「降臨にお喜びを。主よ。新たなる導き、その慈悲を伝えるものなり」



 澄んでいながらも繊細、透明感あるその神への賛美は集まって来た神官や騎士たちをも跪かせる。

 ある者は畏怖し、ある者は恍惚とした表情を浮かべ、ある者は涙し、ある者は、魔力渦に耐え切れずに気を失った。

 そんな混乱にもかかわらず、礼拝堂は静寂に包まれている。

 魔力渦の音は台風と違いほとんど音がせず、紙が舞う音が無くなれば無音になる。

 いまは喧騒が無くなり、彼女の声だたひとつのみだ。



「高々と天に崇められたるは、永遠の主。その啓示を持って、安寧を与え給え」



 何言っているのは全くわからない。

 しかしほとんどの者は彼女の声とボクが放っている光と魔力の渦に、生命の一体感を感じているかのようだ。


 ……えーと?



(シルフィ! タ、タスケテ!)

(あほー! 神がなに情けない事を言っているのだわ!)

(むりむり!)

(要するに新教皇は神のお墨付きが欲しいのだわ。そうすれば名実ともに神の代弁者となることができるから、好き勝手出来るよってことなのだわ)



 これを理解できる人はそれほどいないだろう。あえて神への賛美の言葉に混ぜ込んでいるのだから、そんな意味がなくともボクでまったく意味が分からない。

 ここはシルフィを連れてきて正解だった様だ。


(じゃあ台詞を作ったので、復唱するのだわ)

(たのむよ!)



『汝に……行ける者の(しるべ)の資格を与えん。さして愛するすべての嬰兒みどりこに歓びを』



 シルフィの声を聞きながら復唱するが、何を言っているか理解できていない。

 でも発する声は礼拝堂に響く。まるで自分の声とは程遠く、まるで本当に神が宿ったかのような美しくも煌びやかな音が自分の中から発せられている。

 多くは空気の振動から反響音を経てそれを聞くことになるが、ボク自身は骨伝導から直接響くので、自分の声が脳を刺激してぞくぞくと寒気が走る。


 その後もシルフィに言われた通りの言葉を発し、言い終えたあたりには記憶がなかった。









読んでいただきありがとうございます。

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よろしくお願いします。

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