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勇者が世界を滅ぼす日  作者: みくりや
第七部 勇者が世界を滅ぼす日
174/202

ミザリという人物

あらすじ

 世界大戦を回避するために、教会を懐柔するという方針になった。



 先ぶれを出したがジオルド経由だったためか、半年先まで会うことができないとのこと。

 予想していた以上に塩対応だったという。当然と言えば当然なのだけれど。


 ジオルドということ、そして依頼者が魔王だということ。断られる理由は沢山ある。押し通すにはそれなりに相手に利が無ければならないだろう。

 脅してしまうのが手っ取り早いけれど、それではいつ謀られるかわかったものではない。



「奴らの弱点は何だと思う?」

「んーと、新教皇は思った以上に完璧な人物のようだよ。求心力もある。しいて言えば、女性であるがゆえに政治で苦労しているみたい」

「権力的にはアシュリーゼが着くと言えば強化される。それよりまずきっかけを何とかしないと取り付く島がなさそうだ」



 それに相手は女性だ。

 男のそれとは違い、利を与えるのは難しい。もう少し情報が必要だった。


 タケオとジンにはスカラディア教会の諜報活動も行ってもらっていた。

 ジオルドの諜報員だけでは、人間の調査できる範囲に限られてしまうからだ。かれらはすっかりアイマ領の顔となっており、その能力を生かして役に立っていると言う。


 小鳥を呼び出すと、リーゼちゃんはきゃっきゃと喜んでいる。子供だと無邪気に握り潰してしまう可能性があったから、ちょっと怖かった。

 でもリーゼちゃんはお水を飲んでいるところをじっと見ているだけだ。



「んひひ!あぁいい、あぁいぃ!」



 最近クリスティアーネといる機会が多くて、なんだか笑い方が似てきている気がする。シルフィは嫌がると思いきや、それを面白がっている。


 その小鳥からはダミ声が聞こえて来た。



「うぉ~い オォレのこと忘れてねぇか?」

「そ、そんなことはないよ」



 実は忘れていた。奴はあれからずっとアイマ領で与えてもらっていた研究室に籠っていたそうだ。

 シャオリンとは親子さながらに仲良くやっているようだ。


 タケオとジンでは直接話すには魔力が足りないが、メフィストならば会話に足る魔力があった。



「えれぇことになってんなぁ? いぃいもん出来たから、そっちに行こうかと思ってたところだ」

「ああ……二人は戻ってきなよ。ジョウウが喜ぶよ」



 メフィストを経由してタケオに新たな情報が無いか聞いてみると、ミザリの周囲について調査した報告があるそうだ。


 ミザリは突発的に教皇になった。女性の神官長を務めると言う職務を優秀にこなしていたこともあり、素養は十分だ。

 それにはじめはボクを毛嫌いしていたが、最後は少しだけ信用してくれていたように思う。


 たださすがに近くにいたからという理由で、クリスティアーネが指名しただけあって彼女の私生活までは全く知らなかった。


 王位継承の儀ではその役目や政治的背景を配慮した所作であったから、あまり興味がなかった。いわゆるそつなく何でもこなす、お堅く、融通の利かない人物。それがミザリの印象だ。


 しかし彼女には変わった嗜好を持っているという。彼女は美少年好きの好色家であったという。



「ケケケ、おめぇもきぃつけろぉ~よ?」

「ボクもう十七だよ? 少年という年齢じゃないし、毛嫌いされていたよ?」

「ケッケッケ、だぁといいんだがなぁ?」



 以前会った時には、クリスティアーネが本部のほとんどの幹部を生ける屍(リビングデッド)にして大混乱になったので、ほとんど話す機会はなかった。

彼女の趣味何て気にするどころではなかった。

 なかなか使える情報ではないだろうか。



 メフィストとはそこで連絡が切れ、こちらに空間転移(ゲート)で帰って来るそうだ。

 その話を聞いたルシェは、さっそく職業奴隷から了承を得た物心ついた少年を集めた。







 数日が経ち、ルシェに呼ばれて軍の会議室へ行くと、ずらりと並ぶ美少年たちがいた。

 様々な容姿と性格をしていて、ベリアルとかは喜びそうだ。中にはミミくんに似た印象の子もいる。



「……うまくいけば、食うに困らない生活はできるだろうし、もどっても報酬を得られるから、参加したい子は多いかもしれないね」

「いや、食うに困る子は入れてないよ?」

「え?」

「接待する訓練を積んだ子を厳選したんだ。もちろん彼らはそれを専門にしているから、襲われても避ける術も持っている」



 別に倫理的な問題は気にしていないが、そこは抜かりが無いルシェ。集められた美少年たちをみると、洗練されているのがわかった。

 ボクが一人一人を見て歩くと、少年たちは赤らめているか顔をそむけてしまう。



 ……なんだこれ?むずむずするぞ?



「……な、なんか、すごいね」

「演技です」



 美少年たちの赤らめていた顔が、急に真顔になって怖い。



「うそぉ?」

「ケケケケ! なかなか面白いのだわ!」



 すっかり騙されたボクにシルフィが大笑いしている。

 確かに騙された。それほどまでに彼らの様子は完璧な仕草だった。魔力が強いわけではないから、彼らの魔力の揺れ動きもほとんどないからすっかり騙された。



「わ、笑いすぎだよ」

「あはは……アーシュが騙されるんだからなかなかの練度でしょ?」



 そういって胸を張るルシェ。

 彼らを厳選したこともすごいけれど、それを生業にする職業奴隷がいること自体にも驚きだ。


 スカラディア教会にはすでに先ぶれをだすと、すぐに食いついてきたそうだ。巨大組織の頂点である本部にもかかわらずその素早い対応は、もしかするとミザリの私物化されているのではないだろうか。








――予定日、スカラディア教会敷地内。



 空間転移(ゲート)で行き着いた先はスカラディア教会本部だ。以前クリスティアーネが設置したものを利用しているので、いまかと到着を待ち構えていたようだ。

 その周囲を固めているのは、女性神官ばかりだ。


 彼女たちも、お目当てはミザリと同じ美少年の様だ。連れて来た職業奴隷の子たちはさっそく恥ずかしそう(・・・・・・)にしている。

その様子に黄色い声が上がり、周囲を固めていたヴィスタル共和国所属の兵士が嫌な顔をしている。

 以前来た時は、警護の騎士はほとんど教会所属だった気がするが、代わったのだろうか。



「あ⁉ ちょっとそこの神官の方! 連れ去り厳禁ですよ!」



 そう言って女性神官から美少年を、するりと取り上げる。

 早速連れ去ろうとしている女性がいた。さすがにまだミザリとも会っていないのに問題が起きたら、会うことを優先させざるを得ない。彼らの身の安全を確保できないうちは、ある程度こちらで守ってやらないと不味い。



(それにしても教会何て言っても、色欲の塊じゃないか)

(ケケケ! 女性神官は処女じゃないとダメだから、欲求不満なのだわ)

(もしかして獣の群れに肉を与えた?)



 その中で一際荒い息をあげている女性がいたので止めに入ると、なんとその女性は新しい枢機卿で、今回の案内役を任されたそうだ。



「はぁ……はぁ……ぐひひひ……はっ⁉ し、失礼した」



 ボクとシルフィがジト目で彼女を見ていると、やっと気がついたようだ。垂らしていた涎を拭き、こちらに向き直る。



「こほん……スカラディア教会本部の枢機卿、クローディアと申します。以後お見知りおきを。お話は伺っておりますわ」

「上位魔女『死霊の魔女(ネクロ・ウィッチ)の従者アシュインです。今日はよろしくお願いいたします」



 やはりアシュインという名を聞いて、先ほどまで美少年に見惚れて涎を垂らしていた他の神官達もびくりと身体を硬直させる。

 もはや誰もが知る魔王の元の人間である。

 一般人にあまりアシュインの名はしられていないが、各国の貴族や主要人物であればみんなが知っている事実だ。



「で、ではご案内いたしますね」

「お願いします」

「…………」



 ボクは殊更丁寧に挨拶をすると、周囲は何も反応示さない。まるで値踏みしているかのようにじっと見られていると思いきや、単に目を丸くしているだけだ。



(あいかわらず、辛気臭いところなのだわ)

(まだ暴れないでね?)

(あちをなんだと思っているのだわ!)



 クローディアの後をついて行き、礼拝堂へと通される。かつてクリスティアーネが大量に生ける屍(リビングデッド)を作った場所だ。

 今日はここで話を聞き、後ほど接待の機会を与えられる。美少年たちは女性神官に連れていかれ宴の準備をしている。


 礼拝堂は正面のステントグラスから光が差し込み、様々な色に変わって床を照らしている。正面には巨大なスカラディア神の女神像が祀られている。

 礼拝堂は以前の時よりはるかに奇麗で荘厳さを醸し出していた。


 礼拝堂の奥、女神像のすぐ前に佇む一人の女性。



「ようこそいらっしゃいました。スカラディア教会へ」



 そこには以前より、遥かに威厳のある姿の……ミザリがいた。


 その姿は、とても色欲に狂った女性とはかけ離れていた。美少年を好むというのは間違いではないだろうか。

 そう思ってしまうほどに、彼女は清廉さを保っている。


 聞いていた情報とは違うようで、やはり以前の別れ際の彼女が本当の彼女のような気がしてならない。








読んでいただきありがとうございます。

広告下の★★★★★のご評価をいただけると嬉しいです。

よろしくお願いします。

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