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勇者が世界を滅ぼす日  作者: みくりや
第七部 勇者が世界を滅ぼす日
173/202

諮問会議

あらすじ

 カルド海の短期決戦が幕を閉じ、不安がよぎりみんなのいる部屋に急いで帰って来た。攻め込まれたようだったが、自衛していた。この事態に危機感を覚え、策を考えることになる。



――ジオルド城、大会議室。



 このままでは世界大戦に発展してしまう。

 現代文明の中で行われた世界の戦争は九回。つまり第十次世界大戦勃発間近ということだ。前回のグランディオル王国とヴェントル帝国の戦争は二国間だった。

 今度は全世界VSジオルド帝国ということになる。


 思った以上に深刻な事態に、皇帝を交えて軍事専門家や諜報員など、末端の長をあつめて諮問会議が行われている。

 広い会議室の中央には大きなテーブルがあり、多くの貴族、騎士が並んでいる。主要な人物の前には拡声魔道具がおかれ、それ以外は必要な時だけ使われる。



「さて、皆の屈託のない意見を聞かせていただきたい」



 ゴルドバ将軍が進行をし、皇帝は横で頷いている。


 会議にはボクとルシェが参加している。

 さすがにこんな空気が重いところに、妊婦であるクリスティアーネを参加させるわけにはいかないし、シルフィは未だヒュプトゥナ村に通いながら子育てもしているので忙しい。


 世界中から孤立している現状では流通が滞り、国が疲弊していく。幸いジオルドは海洋国家で領域のほとんどが海の為、食糧に困ることはない。

 しいて言えば加工食品が入ってこないので、甘いもの好きからは不満が上がっている程度だ。

 農作物を育てる領土はほとんどないので、野菜や穀物が手に入りにくい。



「今後の我が国の方針を決定するに判断する材料がほしい」

「不満は既に上がっています……何を悠長なことを!!」

「そうだ! こっちも突き上げを喰らっている!!」



 こちらとしてはお世話になっている居候の身だ。特に不満はないどころか、かなり好待遇を受けていると言っていい。それに皆良い人で、慕ってくれている。

 しかし切羽詰まって来たときに、人は変わるものだ。



「……そろそろ。限界なのでは? 抑止力ではなく、標的になっているではありませんか!」



……ボクの事だ。

 そう受け入れてくれた時のジオルド側の当てが外れていたと言うことを指摘されている。それについてはボクも大いに誤算があった。

 思った以上にグランディオル王国が、エルランティーヌ路線を取っていなかったことだ。



「いや!! 彼女は先の海洋戦で十五隻艦をほとんど一人で撃沈させたほどの力を持っている!! 思惑が外れたのは政治側である我々の責任だ」

「……では、いったいどうすれば」



 ボクのところには魔道具が置かれていないから、よほどのことがなければ発現するなという意味のようだ。

 ルシェは先ほどから文官の方で作業を手伝っている。相変わらずああいったことが得意で、ここに来た頃より生き生きとしていた。



「ルシファー殿。何か方策はないか?」



 諮問会議と称しているにも関わらず、意見が全く上がってこない。それに多くの文官や騎士たちは、優秀な諜報が軍にいるにもかかわらず、有効活用できていないようだ。

 正確な情報を持ち合わせていない。



「……はい。まず正確な敵、それと動きを認識しましょう」



 皆が囲んでいる大きなテーブルに、大きな世界地図を広げる。いくつかの木の駒を並べ現状を説明していく。



「連合軍の動きの背景には、影の支配者であるアバトロス・アルフィールドの存在があります」



 アルフィールド領の領主城に位置する場所に駒を置く。



「奴は悪魔領の代表アイリスに固執していましたが、魔王アシュリーゼの登場により標的を魔王へ変更したようです」



 アシュリーゼを精巧に似せた人形を一度カスターヌ公演場に置いて、それからジオルドの位置へ移動させる。

 そしてルシェはこちらをちらりと見る。

 その視線に合わせて皆もこちらを注目する。ここにいる人間はボクがアシュリーゼであることを伝えてある。軍や皇帝に近しい人物はみな見たことがあるが、まだの人間もいるので変化しろと言っている。





「ぉおおおお……う、美しい……これは狙われるわけだ」



 ボクが変化をすると、ほうほうといやらしい目でこちらを注目している。話が進まないのでルシェに先を促す。

 ぱんぱんと手を叩き、ルシェは視線を集める。



「ロゼルタ姫が死亡したことにより、グランディオル王国はエルランティーヌ女王が再び実権を握りました。

 これにより影の支配者であるアルフィールドの勢力が弱まると思っていた。それを踏まえた上での、『魔王アシュリーゼ』という抑止力でした」



 ルシェにはボクやクリスティアーネ、シルフィの情報をすべて教えてある。総合すればすぐに現状を正確に把握した。

 ここまで把握している貴族がいなかったため、何を話しても結論の出ない会議になっていたそうだ。



「しかし国民の支持が厚く、教会という後ろ盾がある彼女も、思った以上に自由がきかなかった。むしろ悪いと言っていい」

「それでアルフィールドの意向であるアシュリーゼ殿の奪取に舵が切られたということかな?」

「単純にそうとも言えません。アシュリーゼ奪取だけでは、はっきり言って一部の人間の個人的嗜好でしかないからです」



 つまり世界各国がアシュリーゼ奪取に向かわせているのは、それぞれ別の利があるということだ。

 まずそのアシュリーゼを狙う勢力は、アルフィールドとヴェントル帝国という前悪魔の奴隷計画を企てていた勢力。

 いまだ悪魔の奴隷が欲しいと多くの国が望んでいる。


 しかしエルランティーヌにそれは押さえつけられている状態。

 それを合法的に行うには、一般の奴隷制度を改変して利用する形をとるのだと言う。それが押し付けられた奴隷制度。


 悪魔全般が奴隷になることはない。しかし人間の常識が浸透すれば、悪魔領でも格差が生じる。そこで落ちぶれた物を合法的奴隷化する、それが他の国々が賛同する理由。



「どおりで、職業奴隷が無くなって困るはずの同盟国が寝返ったわけですな」

「で、その奴隷制度の内容はエルランティーヌ女王の意図に沿ってある物だったので、彼女も賛同して進められているのです」



 最近のエルの動向だ。つまりアシュリーゼ奪取はそれに付随する奴隷制度の改正という目玉を吊り下げられて、エルランティーヌ同意で行われていると言う事だった。



「さて、この現状で抑えるべきは何でしょう?」

「ふむ……アルフィールド……いや、エルランティーヌ?」



 ゴルドバ将軍は答えを出せずに呟く。

 ルシェはあえて周囲に答えを求めるが、元は彼女が問われた問だ。だから少し待ってから答えを言う。



「答えは、スカラディア教会です」

「な……なぜ?」



 最近は新教皇に変わって、あまり表立って意思表示をしてこなかった。しかしもともと世界を牛耳っている勢力を持っているのは教会だ。

 悪魔領を除くすべての国に教会があり、政治の中枢にかかわっている場合も少なくない。ただグランディオル帝国、ヴェントル帝国では中枢の実権が巨大すぎたため、強くは出られないだけだった。



「肝心のグランディオル王国、ヴェントル帝国を動かせないじゃないか」

「その二国は切り捨てます。どのみち敵です。……これは現状の国力を数値化したものです」



 そう言って、新しい書類を配る。ボクのもとにもそれは配られた。

 確かに戦力差、国力差を把握しておきたいとは思っていたが、なかなか差を数値化するものが無かった。しかしジオルド帝国の情報網、蓄積はすさまじかったため、それが可能になったそうだ。

 記されている国力数値は――


――――――――――――

グランディオル王国38

ヴェントル帝国30

ヴィスタル共和国15

ジオルド帝国8

悪魔領4

その他の小国5

――――――――――――



「そして教会を落とし、連合軍を築いた場合です」



――――――――――――

グランディオル王国30

ヴェントル帝国25

スカラディア連合45

――――――――――――



「まだ若干負けていますが、これにアシュリーゼを加えれば――」



 一拍置いて、息を吸うルシェ。



「……勝てると思いませんか?」



「おぉおおお……こ、これは……」

「こんなことが可能なのか?」



 参加している者は希望を満ちた顔をしているが、これに何の根拠もない。まだ材料が足りないのだ。ボクも聞かされていなかったルシェの策に、その物足りなさが気になっていた。

 誰か突っ込むものが居なければ、ボクが質問するつもりでいる。しかしルシェはこちらを見て、指を唇に当てている。

 可愛らしいが、「黙っていて」の合図だ。



「ふむ……その取り纏める手段は?」

「崇めてもらうのです。……魔王アシュリーゼを……神の使いとして」

「え⁉」



 思わずボクが声をあげてしまった。

 世界中の敵になったボクがそれを覆すのは、不可能じゃないかとおもった。しかしスカラディア教会は実質クリスティアーネの支配下にあると言っていい。

 であるのなら多少強引でも、布教活動をさせてしまえば浸透する。


 まずは新教皇であるミザリとの交渉だ。



「海を防衛しつつ、教会を落とすまでは様子見でよろしいかと」

「ふむ……子細は後で打ち合わせしよう。この方針……我は賛同する。他に異論はあるか?」



 周囲を見渡してもそれに異を唱える者は一人もいなかった。でもボクが異を唱えたい。神の使いにされるのなんて、ちょっと嫌だった。

 ただボクが考えていた政治干渉はあの王位継承の儀までだ。その先は関わる気が無かったからあまり考えていなかった。

 気になる悪魔領はとても弱い立場だ。

 アイリスを守る意味でもこちらが勝てる算段になったところで引き入れる。そう考えれば案外悪い案でもなさそうだ。








 部屋に戻ると、リーゼちゃんが吸い付く。

 いつもの動作にくすりと笑いながら、抱き上げると嬉しそうにしている。すっかり父親気取りの様子に、二人の魔女はほっこりとしていた。



「アーシュ……勝手に決めてごめんね。悪魔領の時の癖でつい……」

「いや……大丈夫だよ。 他にいい案はなかったしね」



 クリスティアーネとシルフィに報告した。すべてが良いとは言えないけれど、打って出るのは悪くないと言う。



「うひひ……きょ、教会を懐柔する……い、いい案」

「ケケケ、行く前に教会についている魔女を調べるのだわ」

「ボク、調べておくよ!」



 教会を相手にするのならクリスティアーネをお願いするのがいい。

 でも彼女のお腹はもうすっかり大きくなって、お腹をさするとぴくりと反応がある。空間転移(ゲート)で移動するにしても、できれば遠出をしたくない。



「あちが行くのだわ。クリスティアーネはいま空間転移(ゲート)をするのはやめたほうが良いのだわ」



 空間転移(ゲート)はまったく負担が無いわけではない。魔力の揺らぎがあるし、それによる代謝、体液の流動など影響は受ける。

 子を宿しているのなら回避すべきだとシルフィは言う。



「わかった、シルフィにお願いするよ」

「ぐひぃ……ご、ごめんね……か、代わりに……い、変化改良」

「ううん、今は子供に集中して?」



 そう言ってお腹を撫でると、うっとりしている。すっかり母親の顔だなと思ってしまう。シルフィも産むときはこんな顔だったのかもしれない。

 そして教会に行くにあたって変化の改良をしてくれるという。



「それって……?」

「ぐひぃひ……あ、後のお楽しみ……ミ、ミザリが侮ったら……つ、使ってぇ」

「うん。期待している」



 何となく予想もつくけれど、どれくらいなのかはわからない。いそいそと魔法陣を書きかえている。

 今更だけれど変化の魔法は、彼女の趣味が入っているのではないだろうか。






読んでいただきありがとうございます。

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よろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
[良い点]  ルシェが味方になってくれて心強い。  教会対策うまく行くといいけど……  更新ありがとうございました。
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