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勇者が世界を滅ぼす日  作者: みくりや
第一部 魔王代理
17/202

白銀の精霊魔女

あらすじ


ライズ村で村長の息子に毛嫌いされた人間の子共。同じく人間であるアシュインも一緒にその場を離れる。代わりにアイリスとルシェが村長とその息子の話を聞くことになった。

 落ち合うと二人はその話を聞かせてくれる。



 ルシェがライズ村の村長の家で話したことを、報告してくれる。

 村長宅での出来事は偏見ではなく警戒だから誤解しないでほしいということだった。


 そして交易について相談があった。

 王国のトムブ村から行商人はくるが、ライズ村から物を売りに行くことはない。しかし最近魔王領は急激に豊作となったため、今の交易方法では食材をさばききれない。

 そこで村長はトムブ村へ出向いて提供できるよう、取り計らってほしいそうだ。


 直接ライズ村へやってくる行商人に偏見はないけど、悪魔が直接取引に行けば、やはり偏見で商品を見られてしまう。

 ひとまずトムブ村だけでも払拭できれば、今後の為にもなるだろう。



「今度はボクたちが頑張る番だ。いってくるね」

「アーシュ……気を付けてね!」



 まずはトムブ村に視察へ行くことにした。

 いきなり上位悪魔がいけば大混乱に陥ってしまうため、アイリスたちは待っていてもらう。

 行くのは人間であるボクとアミ、それから必死にしがみついているシルフィだ。

 どうしても放してくれない。

 子供連れは警戒されにくいという打算もあって、連れていくことにした。









 今は行商人の帰りの馬車に乗せてもらっている。

 魔王領側は整備されていない山道だから、馬車はものすごく時間がかかる。走った方が早いのだけれど、二人を抱えて走っていたら悪目立ちしてしまう。



「二人とも付き合わせてごめんね?」

「……(こくん)」

「う、ううん! あの……あたしが来たかったし……」

「ん?」

「……ア、アシュインさんのこと、教えてほしい」



 アミは引っ込み思案な性格のようだけれど、魔王領に来てからは少し積極的になったと言っていた。

 彼女にとって魔王領は良い環境なのかもしれない。そうであるなら嬉しい事だ。



 ……ボクももっと仲良くなりたいと自然に思えた。



「アーシュって呼んでよ。親しい人はそう呼ぶんだ」

「あっ……うん、アーシュ!」



 ぱぁっと花が咲いたような笑顔。黒色に光が当たると栗色のように輝く肩まである髪が、ふわりと揺れてすごく可愛らしい。

 男性から言い寄られる事も多そうだ。



 到着するまでかなり時間があるから、アミの世界の話をした。


 召喚された勇者は、この世界に浮かれていた。

 『ゲーム』や『ラノベ』のようだと、はしゃいでいる。

 ボクらにとって生きる世界(・・・・・)は、彼女たちにとっては遊びの世界(・・・・・)なのだと言う。

 だから倫理観が外れてしまったものが多くいた。ボクが殺してしまったあのオピニオンリーダーも元は品行方正な人物だったそうだ。


 アミにとってもいじめられていた相手の一人で、すでに死んでいるやつの名誉など弁解する必要はない。それでもそうしてしまうのは、アミらしくもあり素敵な考え方だ。

 ボクはそんなすごい考え方はできないけれど。


 アミの話は聞けば聞くほど、かなり進んだ文明の世界だったように思う。

 だとすれば不便だと思うことも多いはずだ。慣れていない環境は思った以上に精神的に疲れる。

 保護すると決めたのだから、そう言った気遣いもしてあげたい。



「出会いは強烈だったけど……たのしいよ。それにほら!」



 そういって手を広げて、着ている服を見せる。シンプルだけれど、所々リボンやフリルがあしらってある服は、以前の服より可愛い。



「うん。すごくかわいいね」

「……あ、あははは、……うれし」



 素直に感想を言ってみると、真っ赤にして恥ずかしそうに、それを笑ってごまかしている。

 あまり言われ慣れていないのだろう。

 そんな光景が可愛らしくて面白くて、つられてボクも微笑んでしまう。


 前の世界ではいじめられ家庭環境も悪かった。そのせいもあってここでの生活は、とても心地よくて満足しているそうだ。







 馬車の旅はまだ続く。

 やはり道が整備されていないから、かなり揺れる。せめて馬車の通る道だけでも整備しよう。


 ふとシルフィを見る。

 ボクの膝の上でぐっすりと寝ている。とても幸せそうな寝顔だ。

 それに少し涙が零れている。


 浮浪児であった彼女は身体や髪は汚れていた。それに少し臭う。

 それでも撫でている髪は奇麗な銀色で、ふさふさとしていて気持ちいい。

 それに顔立ちも子供らしいのに、大人の女性らしい艶やかさを含んでいた。

 まるでアイリスのように人ならざる美しさをも感じて不思議な気分だ。


 ……向こうに付いたらアミに頼んですぐに洗ってもらおう。






「……そろそろつくよ」



 乗せてくれた行商人のおじさんがそろそろ到着することを教えてくれる。

 少し離れたところをみると、村がもう見えていた。思っていたより賑わっている。むしろ行商人が多くて、村の許容量を超えている。

 村の周囲にテントをはって拠点としているようだ。



「さて、二人とも準備しておいてね」

「……(こくん)」

「……う、うん!」



 馬車が停止すると、周囲は行商人たちの喧騒でとても賑わっていた。

 王国と魔王領を繋ぐ拠点になっているようだ。

 潤っているようで、ライズ村と同様に建ち並ぶ家々は良い素材で建てられている。



 周囲を見ていると入口の門番をしている少年が気づいて話しかけきた。



「いらっしゃい! ようこそトムブ村へ! 何かお探しですか?」

「村長さんと話をしたいんだ」



 ライズ村の名前をだすと少年は、すぐにぴんときたようだ。ぽんと手を叩き、村長さんの居場所を教えてくれる。



「村長さんは中央広場にいるよ!」

「あぁ、ありがとう! 行ってみるよ」



 言われた通りに中央広場まで歩いていく。見渡すと、本当に賑やかな村で村人も人がよさそうだ。



「ふふ……いろんなものが売ってる!……っ」



 アミは少し先に進んで露店を見ている。物珍しいのか、とても楽しそうだ。



「? 欲しい物でもあった?」

「……あ、だ、大丈夫」

「……このトロリエアルジュースを三つくれる?」

「まいどっ」



 目の前に売っていたジュースを買うことにした。ピンク色をしたジュースで、可愛らしい女の子向けだ。



「あ、ありがと……アーシュ」

「気にしないで、欲しいものがあったら言ってね」



 二人はくぴくぴと美味しそうに飲んで、にんまりと笑いあっている。シルフィは言葉が喋れないけれど、表情豊かで何となく会話ができているようだ。

 仲良くなったみたいで良かった。






 中央広場ではくたびれたおじさんが長椅子に一人で座っていた。

 逞しい髭もじゃは愛嬌がある。 



「おお、いらっしゃい。見ない顔だね」

「アシュインと言います。ここだけの話、魔王領の代表をしている人間(・・)です」

「あんたが魔王代理? 人間がやっていたのか⁉ そいつぁ面白い」

「声がでかい!」



 魔王が討たれたことは伝わっていたそうだ。方針が変わった影響で、この村も恩恵を受けていたからだ。



「活気があっていいところですね」

「カカカッ! お前さんのおかげだよ! 急に行商人が増えたんだ」



 ルシェやアイリスのおかげだ。

 はじめのきっかけはボクだったかもしれないが、そのあとは何もしていない。

 それはある意味良い傾向だ。ボクが尻を叩くのではなく、自ら成し遂げていくのだから。



「今年は魔王領が豊作だから、来たがっていたよ」

「そいつぁいいね。王国は干上がってらぁ」



 王国はいま飢饉が訪れていると言う。ボクがいた時はすごく栄えていたはずだ。そんなに変化するほど時間は経っていないはず。

 つまり急激に悪化したと言うことだ。何かあったのだろうか。



 ただそれはチャンスだ。

 お互いの需要が一致しているのだから、逃す手はない。



「悪魔たちがこっちへ来るのは、偏見があって難しいだろうなぁ……」

「じゃあこういうのはどう?」



 すかさず交流会の提案をした。

 定期的に飲み食いするだけの繁栄を祈願したお祭りだ。

 名産の出し合い、腕自慢、特技の見せあい。楽しめるならなんだっていい。



「いいね! やってみようじゃないか!」

「乗り気だね!」

「わははっ! 王国が止めたって俺は止まらんぞ!」

「村長が話せる人で助かったよ」

「へへっ! 魔王代理なんて偉そうな奴かとおもったけど、お前イイ(・・)な! ヤリ手だ!」

「ははは! 村長さんこそ!」



 お互い笑いあってがっちりと握手をする。

 どうやらうまくいきそうだ。王国の人には嫌われ続けていたから、すごくうれしいし、達成感があった。





 それから村人や行商人の様子、偏見、考え方などを見たいから、二~三日は滞在する予定。

 それを伝えると、急にもかかわらず立派なログハウスの宿泊施設を用意してくれた。ここは行商人がよく宿泊するので、常に準備されているという。


 いまは早くシルフィを洗ってあげたいから、夕飯よりお風呂を優先させる。

 しかしアミにお願いしようとしたが、拒否されてしまう。



「あたしがやるよ?」

「……(ふるふる)」

「ははは……ボクをご所望らしい」



 シルフィと入るお風呂は、親子みたいで楽しい。洗ってやると気持ちよさそうに目を細めてデロンとしている。

 洗っていて気がついたが、お腹に魔法陣のような紋様の痣がある。

 聞いても答えてくれないし、すこし恥ずかしそうだ。



 お風呂から上がって拭いてあげると、すっかり綺麗になった。


 ……これは奇麗(・・)になりすぎだ……。



 しっとりとした彼女はまだ小さい子なのに、女性らしい艶美な雰囲気だった。

 さっきまで、ぱっさぱさでがじがじだった髪はしっとりと艶やかで、薄みがかったブルーシルバーが彼女の雰囲気にとても良く似合っている。

 ボクはロリコンではないはずなのに、彼女に見惚れてしまった。



 しばらく裸のままの彼女にぼーっと見惚れていると、恥ずかしくなってアミのいる方へ走って行ってしまった。


 って! 裸のまま!



 ボクは手ぬぐいを持ったまま追いかける。



「ア、アーシュ!? ま、まえ……まえぇ!」




 にぎやかに騒いだあと、食事をとってから寝る。

 三人で川の字になって寝られるほど、ベッドは大きくてのびのびとしていた。

 お風呂であったまったから、すぐに眠りに就くことができた。




……


……


……


……


……



……ガサ……とっとっと……カチャパタン。




 あれ? アミが出ていった?



 もう深夜なのに、様子がおかしい。

 シルフィを一人、置いていくわけにもいかないから抱きかかえて後を追った。


 ……まるで人さらいみたいだ。




 アミはふらふらと外に出て、二軒となりの同じ作りのログハウスに入って行った。



 中の様子を探る。

 魔道具のランプが付いているのが見える。ここの主はアミを待っているようだった。

 窓の小さい部屋に主はいるようだ。そっと覗き込む。



「よく来たね。アミさん」

「……ぁ……」

「……」



 相手は男女のペアだ。男が座っていて、その横に女が立っている。

 男の方は顔が見えないが、聞き覚えのある声だ。



「ボクはケイン。真の勇者さ」

「勇者……しゃま?……しょれに……」



 やはりアミの様子がおかしい。ずっと虚ろだし呂律もあまり回っていない。

 女の方も顔が見えないが、あれは……









「アイリシュ……しゃん?」









「彼女はボクの愛人――


バキッ!


……ブヘ!」



 ……アイリスだ!



 何故かケインと共にアイリスがそこにいた。しかしどうも様子がおかしい。




「いや彼女はボクのどれ――


バキッ!


……ガハ!」



 なんだ、あれ……? ケインがそのうち死ぬぞ?



「いや彼女は……知人です」



 ケインの顔がすでにボロボロだ……。



 アイリスは目が虚ろで明らかに操られている。しかしケインが命令しようとしても、ほとんど言うことを聞いていない様子。



「キミにはボクに付いてきて貰おう」


パチン!


「……はい……ケイン様」



 ケインが指を鳴らすと、アミの様子が一気におかしくなった。半分虚ろだった目は、今は完全に生気がない。




 ……これは催眠スキルか!?



 このままでは二人とも連れていかれてしまう。もう様子を見る必要もない。


 ……突入だ!!



 わざと大きな音を立てて入る。


 大きな音程度では、催眠は解けないようだ。二人ともこちらを向いたものの、目は虚ろなまま。


 シルフィも同時に起きたようで、ボクにしがみつく。



「おいケイン!! 何をしている!!」



 やはりアイリスも操られている。アイリスの魔力で操られるとは、ケインのスキルがそれほど強力なのだろうか。



「これはアシュインじゃないか。キミの恋人と愛人……もらうよ」

「そんなことさせるか!!」



 ……スッ!



「ア、アイリス!!」

「……っ」



 ケインに詰め寄る動作を見せると、アイリスが阻む。

 刹那で終わらせることはできたはずだが、アイリスに阻まれると攻撃の手が止まってしまう。




 うそだ……。




 大好きなアイリスの剣はこちらを向いたまま。それだけで胸が苦しくて身体が動かなくなる。



 ……なにが勇者だ。



「アイリス。その男を殺せ!」

「……っ」



 やはりアイリスは抗っている。それに殺気がない。

 ……それだけは救いだ。



「くそっ!! 言うことを聞かねぇな!!」



 アイリスに悪態をつくケイン。

 最悪な事態は避けられているようだ。しかしアミの方をむいて、ニタリと薄気味悪い笑みを浮かべる。



「そ~うだ。いいこと思いついたぞ」



 ……こいつ、まさか。



「こいつには屈辱を味合わせてやる!! アイリス!! この女を殺せ!!」

「くっ!! アミ!! 逃げろ!!」

「……ぁ」



 アミは反応があるけれど動けない。半分催眠にかかった状態のようだ。



 ――剣を振り上げるアイリス。



「さぁ、やれ !! まずはお前の愛人だ!!」




シュ! ザクッ!!



「……ぐっ!!」

「……!」



 ――咄嗟にアミをかばう。



 アイリスの巨大な魔力乗って一撃が重い。ガードも間に合わず、まともに斬りつけられてしまった。


 膝をつくと、ケインは満足気に高笑いを上げる。



「くははは!! バカめ!! そんな女を庇うとはな!!」

「……このっ!!」



 ケインを直接狙おうとしても、アイリスの速度で立ちふさがられては、避けることができない。



シュ! ザクッ! ザシュ!



「……っ!!!!」


「……ぐぅううう!!」



 ケインに詰め寄ろうとして、その勢いで無防備にアイリスに斬り刻まれる。



 ……アイリスを攻撃できるわけがないじゃないか。



 ボクを再び斬ってしまったことで焦燥の色を見せるアイリス。だけど抗うことができない。



「クハハハハ!! いいぞ!! もっとやれ!! アイリス!!」



 斬られたところが熱い。

 かなり傷が深い証拠だ。血がだらだらと滴っている。床にボタボタとシミを作っているのがわかる。


 ――すると急に近くが明るくなった。



 見渡すが光源が見当たらない。ケインたちも眩しそうにしてこちらを見ている。

 その視線の先、ボクの胸元を見ると……。






「ケケケケ!! あちのアーシュがやられる理由(わけ)がないのだわ!!」



え?……シルフィ?



「おい!! なんだ!! そのガキは!!」

白銀の精霊魔女シルバーオブスピリットウィッチといえば、わかるのだわ?」


「な!? で、でで、伝説の魔女ぉ!?」


「女は返してもらうのだわ!!」



バチン!



 シルフィが指を鳴らすと、アミの催眠は解けて倒れ込む。術が解けて眠った状態へと戻った。

 つぎにアイリスも解呪しようと、シルフィが向く――



「まずい!! 撤退だ!!」



 ガシャン!!



「なっ!! アイリス!! アイリスッ!! アイリィィィス!!」



 撤退の命令は有効。ケインを抱え天井を突き破って逃走したアイリス。

 その速度たるや、ボクは見失ってしまった。



「ちっ、にげられちったのだわ」

「アイリス……うぁぁぁああ!! クソォオォォ!!」



ドォォオン!!




 アイリスを奪われた絶望感で、ボクは泣き叫び地面に八つ当たりてしまう。それしかできなかった。



「アーシュ……きっと大丈夫……」

「シ、シルフィ……」



 優しく抱きしめてくれるシルフィ。

 その小さい身体からはありえないような、包み込む優しい魔力。もしボクに母親がいたらこういう感じなのかもしれない。


 悲しくて、辛くて、絶望しているのに、うれしくて、恥ずかしくて、温かくて。

 それが初めて母親に抱きしめられる経験で。


 彼女に甘えて、また泣いた。





シルフィが覚醒しました。ここで第一部は終了です。

次回、別キャラ視点が入ってから、次の部へ入ります!



これからもよろしくお願いします!

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 急展開すぎてついていけない。率直に言うとつまらん。 なぜこの場にケインがいるのか。いたアイリスと一緒になったのか分からないことが多すぎて作者の都合の良いように動かしてるようにしか見えな…
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