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勇者が世界を滅ぼす日  作者: みくりや
第七部 勇者が世界を滅ぼす日
169/202

カルド海戦 その1

あらすじ

 情報を集める中、王国は最新の戦艦を建造し、海洋進出するという情報を得た。すでに準備は完了しいつ攻めてきてもおかしくない状態だった。



「カルド海七時方向から、駆動式艦がこちらに向かっています!! 数十五!!」



 さっそく敵艦のお出ましだ。

 まだ作戦本部にいるが、士気を高めるためにアシュリーゼに変化する。この姿の方が彼らを鼓舞するにはちょうどいい。

 作戦歩武会議室から出て、南にある(ふね)が停泊している港へとやって来た。準備を終えた船員たちは整列していた。



「皆の物! このアシュリーゼ殿がいる限り、勝利以外の文字はない!」

「「「おおぉおおおおおおおお!!」」」



 船団長が号令をかけると怒号が響き渡った。

 さすがは海の男たちだ。ものすごい熱気と圧。

 一人一人はさほど強くないそれも、これだけの人数が揃えば相乗効果でボク一人を凌駕する。

 それに当てられながらもボクも前に出る。



「みんな! 全滅させる! 一隻たりとも逃がすな!」

「「「おおぉおおおおおおおお!!」」」



「乗り込め野郎ども!!!!!!!!」

「「「おおぉおおおおおおおお!!」」」



 とても国軍の様子ではなく、まるで海賊のようだったけれど、それぐらいの方が奴らに立ち向かうには頼もしい。

 ボクは急いで各船に魔法陣を設置していく。話していた通り、魔法陣の空間を開けておいてもらったので、さほど時間はかからずに終わった。



「二番から二十二番まで出航!! 二十三番から四十八番まで左舷右舷、扇に展開!!」

了解しました(サー)!!」



 ボクは一番の指令艦……ではない特攻艦に乗り込んでいる。今回の番号付けに意味はないのだけれど、司令艦は最後の五十二番艦。

 途中まで特攻艦で突っ込み、ボクが飛び込んだら退避。巻き込まない位置まできたら『勇者の剣技(ブレイド)』で殲滅。

 気を付けるつもりだが、恐らく衝撃波が津波になる可能性があるので、もし発生したら、砲弾とボクがもどってもう一度『勇者の剣技(ブレイド)』で打ち消す予定になっている。討ち漏らしは砲弾の雨で終わらせる。



「……一番、行けぇい!!」

了解しました(サー)!!」



 弧状に展開された海の中央を一隻が突っ込む。帆船でも今日は風が乗っていて速度は出ている。しかし相手の速度は遥かに速かった。

 まだ予定の位置まで到達していないが、ボクが出たほうが早い。敵艦は目前まで迫っているし、これ以上島に近づけたくない。



「……くっ!! おもったより敵艦が速い!! 右舷旋回!! いってくれぇ!」

「わかった!! 行きますっ!!」



 艦が旋回し反転できた段階で、拳圧で押し出す。反発する力で艦は島の方向へ、ボクは敵艦の方へ打ち出された。

 味方艦が十分な距離を取った事を確認したら、前に目を向けると、すでに目の前だ。



「魔王だ!! 魔王が前方に現れた!! 大砲で撃ち落とせぇ!!」

「全戦艦、目標は魔王アシュリーゼ!! ()-!!」

「もう遅い!! 勇者の壁(ウォール)!!――」



 一拍置いて……



「――勇者の剣技(ブレイド)!!」



 飛んできた慣性の動きを無視して拳圧で方向転換する。

 するとボクの身体は砲弾の雨を掻い潜り、かくんと海へ突っ込む。そして海面に勇者の壁(ウォール)を展開した。

 続けて、その勇者の壁(ウォール)勇者の剣技(ブレイド)を叩きこむ。



――一気に広がる轟音と風圧。


 闘気が周囲に爆散、視界にみえる前方超広範囲の艦下半分を掻っ攫う。一番遠くの艦は横転した。高速で移動する艦の数隻は突破されたが十分だろう。

 それと同時に左右に展開した味方艦が大砲をこちらに放った。



空間転移(ゲート)!!」



 予定通りに進み戦艦に戻ると、討ち漏らした戦艦がこちらに向かってきていた。それでもほとんどは減らせていたようだ。

 残りの戦艦は二隻。もう十分だろうと思っていた。



「ニ十四番艦 十六番艦 四十七番艦 沈没!!」

「な⁉」

「アシュリーゼ殿!! やべぇ!! 討ち漏らした二隻につぇえ奴が乗り込んでいるらしい!!」



 まだボクの出番が終わっていなかった。二隻は砲弾の雨を受けながらもすべてを打ち落としたらしい。

 現代技術の大砲が大砲の弾を打ち落とすなんて不可能だ。だとするなら魔法か何かの飛び道具を持っている人間が乗り込んでいる。

 だったらつぎに報告のあった艦に転移して直接殲滅だ。



「十九番艦が迎撃中」

「たのむぜ!!」

「行きます!! 空間転移(ゲート)!!」



 十九番艦に着くと、攻撃を受けている真っ最中だった。飛んできているのは魔法だ。炎系、雷系、氷系が縦横無尽に飛んできている。

 艦はあちこちがボロボロに傷ついて、もう航行は不可能だ。



「みんなは退避して、別の艦に拾ってもらって!! わたし(・・・)が迎撃する!!」

「おおおぉ!! 女神!! アシュリーゼ様!!」

「たすかったぁ!! 諦めなくてよかったぜ!!」



 女神ではなくて魔王なんだけれど、彼らが希望を取り戻したのなら何でもよかった。

 甲板にはすでに数名の人間が乗り込んできていた。



「いた!! 魔王アシュリーゼ!! ぶっ殺してやるぅ!! 氷槍(アイススピア)!!」

「いいえ!! 奴の首はあたしの物よ! 炎弾(ファイヤーショット)!!」



 女性だ。それも無詠唱で魔法を連発してくるという腕前の子が十人ほどいる。つまりこの子たちは魔女だ。

 しかし使っている魔法は弱い。手で払いのけられる程度のものだ。



「な⁉ 手で払った? こぉんの! ちょっとばかり奇麗だからってぇ!!」

「ぶち殺す!! あんたの所為で彼氏が骨抜きになったのよ!!」



 それはボクの所為ではないだろうし、完全な私怨だろう。今は王国と帝国が国を挙げて海洋進出を目論んだ作戦のはずだ。

 すこし情報を引き出したいから、戦いを引っ張ることにした。

 魔女の十人ぐらいは軽くあしらえるだろう。



「あんた! 世界を滅ぼす気⁉ 雷鳴(サンダー)!!」

「あら……?魔女の癖にあれぐらいあしらえないの?」

「なぜ魔女とわかった!!」



 思った以上に馬鹿だった。

 それより魔女は基本的に中立のはずだ。それがこれだけの数の魔女が王国帝国の連合軍に参加しているということは、それを崩したか、あるいはそれだけ人数を雇ったか。

 クリスティアーネやシルフィに声がかかっていないことを考えれば、後者の方かもしれない。



「あの紅蓮の魔女(変態)みたいに蹴散らしてやろうか?」

「な⁉ 紅蓮の魔女(パドマ・ウィッチ)ねぇ様を変態扱い……ぶち殺してやる!!!!!!」

「だぁれが変態だって⁉」




 ……なんだ⁉

 轟音と共に突然もう一隻の艦が目の前に現れ、こちらの艦に体当たりしてきた。

 初撃を抜けたのは二隻だったはずだ。魔女たちが乗っていた艦と、いま味方艦が沈めた艦以外にもう一隻突然、何もないところから出現した……これは……。



炎獄・(インフェルノ・)絶対零度付与アブソリュートゼロ・バインド!!」

「おねぇさま!!」

「……またそれかっ!!!! 勇者の壁(ウォール)!!」



 この合成魔法剣はもう見飽きた。今のボクの魔力であれば、勇者の壁(ウォール)つかって、素手で十分弾ける。

 むしろ素手以外には通用しない。


 聖剣は奪われてしまったから長剣を借りてきているが、奴の合成魔法剣を普通の剣で受けたら捻じ切れてしまう。

 それを払いのけると、どこからか気配がした。



「アーシュ!!」

「その声は……アミ⁉ ということは突然艦が現れたのはナナか⁉」

「ご明察~!」

「何しているんだ⁉ 二人とも」

「き、聞かないで……」


 半目で目を逸らす。彼女たちの意図しない同行のようだけれど、拘束されている様子どころか、作戦の手助けをしている。



「カカカッ! その子たちはもうわたしのもんさ! くやしいだろ! お前の大切なにゃんにゃんを、奪ってやったぞ!!」



 ……にゃんにゃんってなんだ⁉

 それより奪われた⁉

 王位継承の儀から帰っていなかった彼女たちがなぜそんなことになっているのか。手配を恐れずしっかり彼女たちを探していればこんなことになっていなかったかもしれない。

 そんな後悔がよぎる。



 そしてすっと熱が冷める。





















 ……もうやつは殺そう。
















「……っ!?」

「ひ、ひいいぃいいいいい‼」

「いやぁあああああああ!!」



 熱が冷めて奴に視線を向けると、殺気が周囲に広がり他の魔女たちに当たった。一定の膂力の持ち主ではないと明確な死がみえる。

 魔女たちは腰が抜け、だらしなく涎を垂らしている。弱い者は泡を吹いて気絶した。



「……こいつ……っ!!!! これが魔王⁉」



 紅蓮の魔女(パドマ・ウィッチ)はさすがに膝をつくも、これぐらいではどうにもならない。しかし奴のほかに動ける人間がいた。



「ごめんね、アーシュ!! 反魔核・斬リバース・コア・スラッシュ!!」



 それを払いのけようと右手を出す――



「……ぐぁは!! ……な、なにを……」



 ――右腕が吹き飛んだ。



「アーシュ!! ご、ごめんなさい……まさかこんなに……」



 その瞬間、振りまいていた殺気が解けると、他の魔女たちはその場にへたり込み、紅蓮の魔女(パドマ・ウィッチ)は立ち上がった。


 アミの魔法の威力は異常だ。

 二種の上級魔法の合成すら払いのける状態のボクの腕を、一発の魔法で吹き飛ばすとは。

 彼女はすでに上位魔女並みの力を身に着けているのではないだろうか。はっきり言って紅蓮の魔女(パドマ・ウィッチ)なんかよりはるかに強い。



「……ひ、人――」

「おおっと、それ以上は許さないよ!! でもアミちゃん素敵!! あの魔王に傷を負わせることができるなんて!!」

「……こいつ……」



 吹っ飛ばされた右手を拾い上げ、治癒・修復する。あの反魔核(リバース・コア)という魔法はかなり厄介だ。

 アミ自身もこれほどの威力であることを、認識していなかったようだ。それになにやら事情がありそうだ。



「ナナ……同行者は他に?」

「あたしたちだけだよ?」

空間転移(ゲート)を使えるのなら逃げろ!!」



 ここでまともに戦えば、彼女たちを巻き込んでしまう。



「あら? なめられたものだわ!」



 なめているのはそっちだろう。奴は特に勢力を持たない依頼した仕事をこなす中立の立場だからと、気にせずにほっておいた。

 でも今回はかなりやり口の毛色が違った。明らかに私情か政治的意図(イデオロギー)を持って行動しているように見える。



「あら? もう遅いよ?」



 皮肉めいてやつを真似した台詞を言う。唯一違うのは、こいつの利き腕である左をもぎった後だということだけだ。



「ぐぅううううう!!」

「え?……いつ⁉ まったく見えないんだけど!!」

「うそ……アーシュって……そ、そんなに強いの⁉」



 どのくらいというのは自らが強くならないと見えないものだ。そう言う意味ではアミはもう理解できるほどに強くなったのだろう。

 今まで人間の世界では頂上とされていた上位魔女。それが息をつく間に千切れているのだから。

 彼女たちはたった三人で、ボクを押える気でいたようだ。たしかにアミにはその力を使いこなせれば可能性はあったが。



「……」



 彼女たちは驚いているが、そのうちボクを見る目が恐怖に変わるだろう。

 本気を出したのは前魔王戦くらいだ。あれ以来一回も本気なんて出したこともない。本気を見たらきっと恐怖でいられなくなる。

 そう思うと、すごく悲しかった。










読んでいただきありがとうございます。

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よろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
[良い点]  勇者の本気を見せてくれ。  その凄まじさを見たい。おそらくその反動は悲しくて辛いのでしょうが……
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